SS リベル⑮
帰り道を塞がれ、逃げ場は無い。ここで戦うには皆の体調面が心配だがやるしかない。そう思って剣を構えるが、グランの手が震え、剣と防具が擦れカタカタを音を鳴らしていた。
「グラン、大丈夫だ。とりあえず適当に相手して通路に飛び込んで地上に…」
「無理だ」
力無く答えるグランに違和感を感じる。その答えは直ぐに分かった。
「どうして」
「さっき来た時には確かに反応が無かったはずなのに、今は道に魔物の気配で溢れていやがる」
「…あの蛇型の魔物を倒しても、帰り道も魔物がわんさか居るって訳か」
あの蛇が『嫉妬の魔王』かどうかは、相手の能力を見るタイプの鑑定を持っていないから分からない。
僕の『稀少性鑑定』はあくまでもそれが価値あるものかを見るだけの能力。魔物でも珍しいものだと反応するんだけど、目の前の蛇には反応が無い。ただ反応が無いから=魔王じゃないとは言えない。
魔王とは文字通り魔物の王を指す。魔物の中からより強い者が魔王になる為、魔王と言っても単一種族ではなく、同じ種族の魔物が多量にいる。
なので稀少性が無くとも魔王ではある場合がある。そしておそらく目の前のは『嫉妬の魔王』だろう。
光弾で照らされた時によく目を凝らし見た時、あの魔物から魔素が異常なほど放出されていたのが確認出来た。
魔物は体内から魔素が無くなっても、魔晶石に蓄えた魔素でしばらく生きていける。だが普通の魔物でも魔晶石すら無いものがいる。そういう奴が魔素を放出してしまえば、直ぐに生命維持に使う分を失い絶命してしまう。
となれば、奴は魔晶石を持っている。しかも、かなり巨大な。
身体の大きさもそうだが、魔物も意外と賢い。魔素が人間には毒になり得る事を知っている。つまり今魔素を放出しているのは、僕らが人間だと分かった上でやっているって事だ。
それを見てグランが動く。長期戦になるだけ魔素が濃くなっていくのは明白。だから短期決戦をと突進を試みる。
幸い、敵は帰り道がある通路側から動く気配は無く、その場で佇んでいる。そこに『月影』を連続で放つ。能力素と魔素の相性上、魔物には魔法よりも能力の方が効きやすい。幾ら相手が巨大であろうとも、それは変わらない事実、だったはずだ。
ガキィィンと甲高い音と共に全ての斬撃が弾かれるまでは。
「なっ、そんなっ」
能力素を一気に失った脱力感と、弾かれた風圧で体勢を崩すグランに敵の巨大過ぎる牙が迫る。口を大きく開け、そのまま飲み込まんばかりに。
僕は咄嗟に『意識収束』をグランの左隣の地面に掛けた、が敵は依然として変わらぬ速度で迫り、そして──
『大魔を祓う煌めき!!』
グランを覆うように四角柱の光の結界が身を守る。敵の牙はそれすら気にせずに、容赦なく結界に噛み付いてくる。
次第にフェリエの顔から一筋の汗が光るのが見えた。光の結界は静かに、だが着実に亀裂を走らせる。結界が歪曲し原型が分からないほどになるまでに20秒も経過していないだろう。
「もういいフェリエ!結界を解除しろ!」
「ダメよ!こんな…こんなんじゃ…」
二人を他所に、僕は『加速』と『意識収束』を自分へと掛け、敵の腹へと潜り迫る。蛇型というところから、おそらく鱗が全身を覆っているのだろう。魔物が動物と同じかと言われれば否だが、きっと目眩しも意味は無い。この真っ暗な中で正確に僕らの位置に向かって来られるのがいい証拠だ。
ならば腹ならば、弾力性はあるだろうけれど刃が通らない事は無いはずだ、そう思って二人が攻防を続けていて注意がそちらに向いている間に、僕は難なく蛇腹へとたどり着く。そして渾身の『加速』を用いて細剣を突き出し、そのまま刺し貫かん勢いで急迫する。
貰った!そう思った時だった。横から強烈な衝撃が身体の骨をミシミシと鳴らす。僕はその勢いのまま数十m離れた壁に叩きつけられる。肺の空気が無理矢理押し出され、吐血する。しかし固有能力『血癒』を発動させ傷を塞ぐ。吐いた血は戻ろないが、とりあえず動く事は出来る。
フェリエは未だ防御に徹しているがそろそろ持ちそうに無い。僕を攻撃した感触からして、何かが頭突きをしてきたように、腹の部分に生暖かい息が吹き掛けられたような感覚があった。
だけど、辺り一帯が暗闇に包まれているせいで一切何も見えない。それに蛇の存在感が大き過ぎて、相手の気配を感じようとしてもグランのようにはいかない。そのグランも結界内では『気配察知』がうまく機能しない。
僕の能力は殆どが支援系のもので、戦闘力はこのパーティーの中でも最低と言ってもいい。だから攻撃役である二人がああして止められてしまえば、僕に出来る事はほぼ何も無い。
だからと言って諦める訳にはいかない。僕は出来うる最善手を考えながら敵から距離を取りつつ動く。時折、蛇以外の何かが攻撃してくるが、風切り音を頼りに勘で躱していく。十中八九、敵は複数居るのは理解していた。
グランが震えるほど、通路には魔物が蠢いていると言っていたのだから、そのうちの何体かがここへ加勢に来ていてもおかしくはない。
だが時間の猶予は刻一刻と迫る。
フェリエの結界が牙の形に変形してしまっており、グランは意を決して剣撃を決める構えを取っている。だけど僕らは知っている。あの結界はグランでも傷一つ付けられない事を。そしてそれを変形させる顎の力。万に一つも受け止められる訳が無かった。
それを知ってるが為に、今も必死で耐えるフェリエ。涙を堪え、必死に唇を噛み締め、血を流してまで。
たった数時間一緒に居ただけの仲なのに、もう彼女は僕らのパーティーの一員となっていた。
僕は覚悟を決めなくてはいけない。今度は自分にでは無い、仲間を守る為の覚悟を。
僕は腕を少し切り『血癒』を、そして同時に『血の盟約』を発動させる。更に『意識収束』と能力を重ね掛けしていく。
勇者の名に恥じない、なんて言えない。けれど、仲間に恥じない戦いはしたい。
そして僕は、『血癒』と『意識収束』両方に『加速』を掛けた。
その瞬間、僕の世界は停止した。
何でこんなに番号長いのか、そりゃ一話一話の長さが短いからですね。
鬼:出番まだっスか?
狐:私は別にいい。
箱:主人公が主人公してない件。
杜邪:纏めて書ける時間が無くて…毎日投稿1万字とかやれる人の集中力だけ欲しい。あと休みが欲しい。
一部修正。




