SS リベル⑭
僕達は北東を目指し侵攻を始めた。やはりこの方面から魔物が多くやってきていたのは間違いないようだ。
前からオーガが姿を現す。棍棒を振り下ろす、ただそれだけで衝撃波が発生するほどの巨体。
僕は『加速』で器用にオーガの身体に登り、飛び越える瞬間に肩を切りつける。すると、着地した僕にオーガは攻撃を加えようと棍棒を大きく振り上げる。だが、それが僕に到達する事は無い。
なぜなら──
「僕だけを見ているなんて、いけない子だ」
背中に放たれる『光弾』と貫き放たれる両剣の一撃が、オーガの身体に風穴を開ける。
地響きが発生するほどの巨体が倒れた時、二人から何故か突っ込みが入った。
「いきなり誰だよ気持ち悪いな」
「そうかな?前世ではこんな感じだったんだけど」
「そんなんなのかよ!狂気の世界だな!」
と震えるグランに対し、フェリエの反応は、
「何か、窮地から助けてくれるヒーローみたいでかっこよかったよ?」
「セリフだけな。結局俺らが倒してんじゃねーか」
「うん、二人のお陰だよ。ありがとう」
「やめろ、そのキラキラ笑顔。背筋が寒くなる」
努めて何も考えずに仲間に頼り支え合う。それを意識すると、何故か昔の自分が投影されて、それに近しい僕で対応してしまう。いや、むしろそれが本来の僕だったのかも知れない。グランには何故か評判受けが悪いようだけど。
もう一回笑顔で見つめると、逃げるように次の魔物へと向かって行った。そんな急いでも敵は逃げないと思うけれど。
今まで気付かなかったけれど、敵は真っ直ぐあの青い光の奔流にしか向かわず、散ったと思っていた魔物も、実際には取り囲むように布陣しているだけで、他の場所に向かう気配が無かった。
これも偶然なのかな?
考えもそこそこに魔物を捌き続けていると、あの三叉路が見えてきた。と、いきなり先行していたグランが進路を逸らし、木々の間を抜けていく。一体どうしたのかと跡を着いていくと次第に思い出す。そういえばこの近くに…。
「お、あったあった。やっぱりこの剣じゃなきゃなぁ」
そこは以前手負いのまま戦って逃げ出した場所から少しだけ離れた位置。そこにグランの両剣が放棄されていた。グランの両剣はかなりの重量があり、おそらくは魔物も持って行こうとしたのだろう。地面には引きずった跡が残っていたが結局置いてったか。
グランは何度か振り回し感触を確かめると、目線を送り頷く。
そうして駆け出しある地点まで走ると、急に空気が変わる。魔族領に入った証だ。
僕とグランには耐性があるがフェリエにはキツイかなと思って見つめたけれど、顔を赤くするばかりで倒れる様子も無い。だけど魔素中毒になったのかと心配したら、グランに両剣の腹を頭に落とされる。前の両剣もどきと違って重さがあるから少し手加減して欲しいんだけど…。
魔族領に入ってから感じたのは魔物の少なさだった。
まるで世界から音が消え去ったかのように、辺り一帯は静寂に包まれている。聞こえるのは僕らの足音、呼吸音、装備が擦れる音。
グランは『気配察知』を使っているが、魔物らしき反応はいない。ただフェリエの『千里眼』にあるものを捉える。
「ここから北に300m行った辺りに、大穴が見えます」
「洞窟…ってより巣穴っつー感じか。何か気になる点でもあるのか?」
「えっと…穴から青い煙が筋みたいに延びていて、それが王国の方面に向かっている感じかな」
「怪しいな、よっしゃ!そこに行こう。案内頼むぜ!」
「ええ、任せて下さい」
「ほらリベル、行くぞ!」
「…ああ」
僕は少し考えを巡らせたが、グランの声に思考を切る。
程なくして大穴が姿を現す。大穴とはよく言ったもので、まるで一切の光が届かないかの如く、周りの色鮮やかな風景の中に、そこだけ真っ黒な空間が広がっていた。
慎重に中に入る。入口の穴は直径20mぐらいで、深さはそれほどなく、縦5mもしないうちに立って歩けるようになる。
中は洞窟のようになっており、時折冷たい風が穴の奥深くから吹きつけてくる。
フェリエが『光弾』を使って明かりを確保すると、僕達は警戒しながら奥へ奥へと進んでいく。
魔族領自体人間が入るには相当な魔素耐性が必要だろうが、ここの洞窟はそれの比じゃない。魔素の濃さも相当なもので、沼を歩いているような粘性を感じるほどで、肌にピリピリとした痛みを走らせている。それはどうも僕だけじゃないらしく、グランはだるそうに、フェリエも『祝福の光』を使って自身を含む全員を交互に回復させてくれている。
洞窟自体は斜め下に徐々に下っているものの、脇道や横道は一切無く、一本道がただ永遠と続いている。
グランの『気配察知』は機能しているが、フェリエの『千里眼』は暗闇の中まで見れるほど万能では無く、地上よりも不安な面持ちをしている。
『光弾』もそこまで見通しがよくなる訳では無いものの、辺りに魔素が多量にある為、魔力が尽きる事は無さそうだ。
そうして何十分そうしていただろう。ただただひたすらに下り続け、何も遭遇しない洞窟を進んでいると、急に随分開けた場所に出た。同時に行き止まりでもあるらしく、辺りを見回すが何が居る訳でも、何かある訳でも無かった。
大きさは分からないが、光弾の光が届いてないのを見る辺り、奥行きも高さもかなりある事が窺える。
「なんだここ。魔物どころか物すら無いじゃねーか」
「みたいだね。でも魔素がこれだけ滞留しているのは気がかりだし、もう少し調査を」
──ホウ、ニンゲンガココニナンノヨウカナ?
僕達は直ぐに戦闘用布陣へと切り替え辺りを注視する。しかし、周りには何もいない。一体どこから…?そう思っていると、グランが震えた声で「何で…さっきまで居なかったのに…」と嘆き困惑している。もしここが充分に明るく、グランの顔が見れるぐらいであれば、彼の顔が真っ青になっている事にいち早く気付けただろう。だが、事態は悪化していく。
──ナニモシラズ、タダワルソウダカラ、マモノダカラトハイジョセントスルモノドモヨ
そして気付く、その視線に。
「皆!上だ!」
見上げ、『光弾』を『拡散光弾』へと変え、四つの光弾を作り、内一つを真上へと飛ばす。そこに居たのは、全長50mは優にある巨大な蛇型の魔物が天井に張り付くように這っていた。
──オロカナセカイノイシズエトナルカ、ワレトトモニホロビユクカ、エラベ、アワレナルウンメイヲタドルモノヨ
頭に強烈に響く声に意識が飛びそうになっていると、魔物はさっき来た道を塞ぐようにして地面へと降り立つ。
そうして、僕らの『不滅』としての最後の戦いが始まった。




