SS リベル⑬
「えっ?勇者…様?」
一時停止した思考がフェリエの言葉によって再起動してくる。それに伴ってどう話を纏めようか、どう言い訳しようかと考えが巡る僕を見て、グランがコツンと僕の頭を叩く。
「いつもいつも、お前は考えすぎなんだよ、色々。こんだけ魔物に囲まれた状態で目的も無く倒すだけってなら、国か騎士団やギルドが動くはずだ。俺達も冒険者で〜とか言えなくもないし、傭兵とか言い訳出来る。
けどよ、フェリエが理由も聞かず自分も戦うっつってんだ。命張って戦ってくれるんだぜ?なら少しは事情を話しても大丈夫だろ」
「いや、だけどそれじゃあ」
「いいんだよ。別に国王陛下は隠蔽してくれてるってだけで、話しちゃいけない訳じゃない。むしろ言いたいと思う。けど、リベルも心配しての事なんだろ?だったら、言うも言わないもお前次第、引いては護衛の俺次第ってこった」
「無茶苦茶だよぉ」
「うるせえ!ともかく今後ウダウダ考えるの禁止な!」
確かに僕はかなり後ろ向きな考え方をしていると思う。けれど思考しないと心が落ち着かな─
「痛っ」
考えがばれてるのか、グランは無言で僕を小突く。本当によく見ているよね。
「えっと…勇者様だったんですね」
「おう。最も俺は護衛だけどな、黙ってて悪かったな」
「い、いえ、そんな」
「まあ色々あってな、アイツもあんなのだけど悪気とかは全然無いんだ」
「みたいね」
二人して僕を見て笑っている。そんなに表情に出ているのかな。
「とりあえず経緯と目的を話すが、結構長いぞ?それに周りの魔物を倒しながらになるし」
「大丈夫です。だって勇者様が守って下さるんですよね?」
「勇者様ってのはホントやめて、それと敬語も大丈夫だって」
「ふふふっ、リベルって可愛いわよね」
「リベルカワイイー」
…全く、二人して。
そして話した。勇者として活動している事、黒い靄を纏う魔物の事、それらが魔王が関係しているのでは無いかという事、そしてそれを調査中魔物の侵攻があった事。
全てを話し終わると、フェリエは呻くように言葉を紡ぐ。
「なるほど、確かにタイミングが良過ぎるわね。まるで最初から魔王と戦闘させられるようにし向けたみたい」
「だよな。王国にも入れないし。ケルビンさんが言ってた通り、やっぱ国が怪しいのかな?」
「分からない。けれど人は良くも悪くも欲望に忠実だからね。それで周りを傷つけているとはきっと思ってない…ん?何か顔に付いてる?」
真面目に話す最中、ふと視線を感じてその方向を見ると、フェリエがじっと僕を見つめていた。
「何だか…そういう経験をした、みたいな言い方だなぁって」
「…ああ。僕は転生者だからね」
「知ってるわ。勇者は異世界の転生者しかなれないもの」
「前から思っていたんだけど、どうして『勇者』は異世界からしか生まれないんだ?それに王宮で聞いた話じゃ、勇者は必ず七人しかいないって」
王宮で護衛の任を命じられた後、僕らは最低限の知識を覚えたいと言って、特別に許可をもらい王宮内で勉強をさせてもらっていた。その中で勇者についての話を聞いた事があった。
曰く、『勇者』となり得る者は、『女神』の導きにより異世界から転生してきた者に限る。
女神…ってのはよく分からない。そもそもこの世界に神様はいないらしく、僕も会った事が無いから、きっと概念的、精神的に生みだされた空想上の神なんだと思う。
曰く、『勇者』は世界に七人しか存在しない。
但し例外で『原初の勇者』と呼ばれる者が居て、現在行方不明。しかし伝承では不死身と言われている為、例外として扱われる。
曰く、『魔王』も世界に七柱しか存在しない。
これを聞いた時、何故『勇者』と同数なのかと思ったが、そういうものなのだと教えられた。
曰く、『魔王』は『勇者』でしか倒せず、『勇者』は世界の秘密を知り、そして己の無力を知るだろう。
この最後の話だけよく分からなかったのを覚えている。
よくゲームや漫画なんかでは、魔王が帰還呪文を知っているだとか、異世界への扉が開かれるとかなら聞いた事はある。勿論ここは現実であってゲームなどでは無いのだから、同じ訳が無いのは不思議じゃない。
だけど嫌な予感はする。
まるで勇者は一人一人、魔王に立ち向かうように誘導されてて、そして最後に何かを知る。
まあ、王宮の神官や騎士達も、伝承される際には誇張して描かれたりするから元がこういう訳では無いんだろう、とは言っていた。言っていたが、気になるものは気になる。
グランが手刀の構えをし始めたので、僕はそこで思考を止めたけど。
「とりあえず、魔王を討伐するのが先だろうね」
「アテはあるの?」
「魔物が侵攻して来ているのは北東方面。あの辺りには魔族領があって、奥に行くほど魔素が濃くなる、異常なほどにな」
「魔王が居るなら納得出来るけれど、姿形を知っているの?」
「ああ。王宮の文官から聞いた。嫉妬の魔王、名を『レヴィアタン』。蛇の姿をしているって話だよ」
「蛇、ですか」
「この辺り、特にグラロマニカ大森林の方にはアウリスリザードっていうのが多いんだけど、その『嫉妬の魔王』っていうのは爬虫類を沢山配下に置いているそうだよ」
「確かに、あの森やたらトカゲ多いよな。あと美味い」
「グラン…。まあ知っているのはそこまでで、どういう能力を持っていて、どういう動きをするのかは分からない。本当に『嫉妬の魔王』なのかも分からないしね」
そこで僕は一旦話を切り、真っ直ぐとフェリエの瞳を見つめなおす。
「不躾なお願いだとは思ってる。君みたいな可愛い女の子を戦場へ駆り立てるのもどうかと思う。でも、今話を全て聞いた上で一緒には行けないと言うのであれば、それは正当な権利だと思う。だからよく考えて…」
「ええ、分かったわ。一緒に頑張りましょうね」
「ああ、やっぱり一緒には行け…え?」
あまりにも簡単に返事をされ、また自分ならもっと悩みウダウダ考えるだろう事を、こうもあっけらかんと言われて逆に聞き返してしまう。
「いや、だって魔王だよ?それに死ぬかも知れない。たどり着く事すら出来ないかも」
「く、くく、くふふふふ」
そう言って彼女が断る理由を探していると、彼女が大笑いを始めた。
「いや、本当にリベルは勇者っぽく無いなーと思って」
「だって、僕は君を心配して」
「一度、あの時救ってくれたじゃない」
「家族に会えなくなるかも知れないよ?」
「家族とはどのみち会えない。アタシは魔法が使えてしまうもの」
「魔王を討伐しても、国とか色々、利用される人生が訪れるかも知れない」
「じゃあ、その時にそれは考えよ?」
「どうして…どうして皆、そんな風に、簡単に」
「簡単じゃないよ」
「……」
「簡単じゃない。アタシがそう決めた。覚悟して決めた事だもん、やり遂げなきゃね!」
全く、僕の周りの人はどうしてこうも強いのだろう。
グランは前に進んでくれる。いつも、僕の手を引っ張って。
フェリエは後ろから背を押してくれる。僕が前に進めず立ち止まっていると、彼女は「今じゃない」とそっと背に手を置いてくれる。
まるで、何も考えずに居た頃の、リーダーとして皆を引っ張っていた自分と重なって…。
ああ、そっか。それだけの事だったのか。
有りもしない、起こりもしてない未来を空想して、幻滅して。周りの優しさを自分から振り払って。自分は一人なんだ、孤独なんだって、そう思っていた。
そうやって疑心暗鬼になって、誰とも関わろうとせずに。
本当は周りを気にしていたんじゃなかったんだ。僕は僕だけを見ていたのか。僕が望む『僕』を人に求めていたのか。
結局、僕は何でもかんでも頭の中で考えすぎて、何がしたかったのか見失ってきていたんだな。
あーあ、死ぬ前に気付きたかったなぁ。
でも、今気付けた。
未来の事は後で考えよう。今はただ、今しなきゃいけない事だけを。
僕は僕の頬を思い切り殴りつけた。
「ッ!」
「リベル!?」
「いや、悪い。そうだよね、簡単な事じゃない。とても難しい事だ」
「リベル?」
今はいい。うまい言い訳は考えなくていい。ただ一言、それだけを言いたかった。
「ごめん、君の命は僕が預かるね」
「ふふふっ、やっと勇者様っぽくなった気がするよ。じゃ、お願いします、リベル」
「ああ、任せてくれ」
『僕』は今、『勇者』になる。
ギリギーリ。
脱線幅が大きくて…いえ、こちらの話です。
風邪がやっと治ってきました。治りが昔より遅いのは歳のせいなのかなぁ。




