SS 最果ての魔術師
最果ての地に住み着いて、早60年余り。
この不毛の地に足を踏み入れる者は私以外に誰も居ない。
過去、魔王と龍種の1体が三日三晩戦闘を行ったとされ、その影響で環境は狂い、生命は枯れ果て、吹雪で荒れる土地となった。
だが私には都合が良かった。
人も魔物も近寄らないこの地なら、私の研究も思う存分出来ると思ったからこそ、この地へと足を向けた。
以来、私はここでずっと魔術の研究をしている。
私には妻が居た。
とても可愛らしい容貌の彼女。
私は人間であったが、ある時訪れたエルフの街で、その彼女に惚れ込んでしまった。
私はただひたすらに彼女に全てを捧げ、彼女はそれを受け入れてくれた。
とても嬉しい。
魔道に捧げる人生に別の道が開いた瞬間だった。
だが、その幸せな日々も永くは続かなかった。
私の妻は何者かに殺された。
それを報されたのは私がアルストレア王国軍直轄魔導軍軍師などというものに任命された正にその時だった。
私は怒り狂った。
だが私は激情で我を忘れて、怒りを振り撒く程愚かでは無かった。
可笑しい。タイミングが良すぎる。
昇進の話は確かに前からあった。
周りもそれを認めていた。
私自身、それを賜る程の力量を物にしていたと言ってもいい。
だが可笑しい。違和感を感じる。
その違和感の先に居たのは1人の少年。
その少年は士官学校を卒業したばかりで、王直轄の騎士団で訓練を受けていた1人だと記憶している。
特に何が秀でている訳でも無い。
だが、私の直感が彼の違和感に警鐘を鳴らす。
私は咄嗟に魔素を張り巡らせ、強靱な防壁を展開する。
この防壁は精神攻撃への耐性が付与された、氷の防壁。
世界で唯一、私しか使う事が出来ない、オリジナルの魔法。
その名を《薄氷》。
私はこの時、まだ知り得なかった。
この少年、リベルタ=ルルベルという勇者の話を。




