レミリアと従者
【図書館隠し部屋】
レミリアとパチュリーは小悪魔がメイド長を迎えに行った後、その後について話していた。
そう・・・課題は美鈴だった。
『パチェ?あいつは此方に来るとして。美鈴?てのはどうするの?』
『そうね・・。主様だけならこの三人で申し分ないけど、他にも美鈴を含め兵達もいるし、まだ明らかに戦力不足ね・・・。』
『・・駒が足りない。か・・・。となると、やっぱ美鈴てのに賭けるしかなさそうね。』
『時間があるのなら、美鈴と会う機会もあるだろうし、説き伏せることも出来るかもしれない・・・ごめんなさいレミィ。私のせいで・・』
『何言ってんのよ?時間は余るて言ったでしょ?私達二人に不可能はないわ。いざとなれば、そいつもろとも私が兵も纏めて瞬殺よ!?』
・・・強がりだ。レミリアも現状では勝てる気など全くしてなかった。
パチュリーもそれは解っていた。だが、パチュリーは敢えてその強がりに乗った。
『そうね。私の魔法とレミィの力があれば、最悪メイド長がいなくてもどうにでもなるわ』
・・・しかし、逆にその気遣いが二人の不安を更に増長させる。沈黙が流れた。
・・・。
ガチャッ!
・・・ッ!?
図書館の扉が開いた。小悪魔にしては早すぎる。
・・不安が高まっていた脳裏に最悪な事態が過る。
(小悪魔が見つかり、私の存在がばれた?私達の成す事を事前に潰しに・・・。)
二人で戦う。・・・本当にそうなったのかも知れない。二人に緊張が走る。
「誰か来たみたいね・・。」
パチュリーも、最悪を想定していた。だが、二人でいきなり出るのはまずい。
パチュリーは冷静を装いレミリアに言った。
『来客予定もないし、こあでもない・・誰かは分からないけど、大した事じゃないかもしれないわ。・・レミィはここにいて?』
『・・でも!』
『お願い。何かあればすぐに呼ぶわ?』
パチュリーは、レミリアを宥め、部屋から慌てて出て行った。
・・・・・・・・
(パチェ・・大丈夫かしら。いつでも戦える準備をして・・)
(・・・ッ!?)
(またあの頭痛!?)
(・・・ん?今回はそんなにひどくな・・・・・て、あれ?パチェ???)
レミリアの目にはパチェがここへ誰かを連れて来ている光景が写る。
・・・二人・・。
『早いわね?パチェ?誰を・・・。』
(ハッ・・・!?)
『・・・パチェ??あれ??』
目の前には誰もいなく。周りも見渡してもなにも変わりはなかった。
(???・・・疲れてるのかしら?)
・・・ガチャ!
『レミィ!?吉報よ!』
普段走ることなどないパチュリーが息を切らしながら慌てて入って来た。
そこには。
・・・!!?
レミリアが、先程見た幻覚とまったく同じ状態でパチュリーが誰かを連れてきていた。
変な違和感に驚きながらも、その連れてきた者を見てみるとボロボロ泣いている女と、傷だらけの女がいた。レミリアは泣いてる女を見て、それが誰かはすぐに分かった。
「・・貴女だったのね。丁度久しぶりに会いたかった所よ?・・・で?隣の傷だらけの人はだ・」
「お嬢様ーーー!!!」
レミリアの質問よりも真っ先にメイドが飛びついてきた。
「お嬢様だ!お嬢様だ!生きている!うわああああん」
ボロボロ泣きながらレミリアに抱きつくメイド。
「ちょっ、ちょっと、わかったから離れなさい!・・・あーー!もう汚いわね!」
レミリアの服が、メイドの涙と鼻水で、グチャグチャになっていた。
「嫌です!!まだこのまま居させて下さい!」
・・・レミリアがいくら離しても離してもくっついてきてキリがない・・・・。
そして・・・。
・・・レミリアは諦めた・・・・。
・・・。
「あのー?」
???
もう一人の傷だらけの女が手を挙げながらレミリアに話かけてきた。
(あ、忘れてた・・)
『あなたがフラン様のお姉様のレミリア様で間違いないんですよね?』
『見たら分かるでしょ?』
レミリアは呆れた顔をし、未だに胸に顔をグリグリしてくるメイドを指差しながら応えた。
傷だらけの女はソレを見て苦笑いをした。
『・・その前に人にもの尋ねるより先に名乗ってはどうなの?』
『も、申し訳ございません!!私は紅・美鈴!美鈴とお呼び下さい!』
・・・ッ!!?
(えっ!?・・美鈴!?美鈴て、あの!?)
レミリアは驚き、パチュリーを見て目で確認した。
パチュリーは、親指をたて笑顔でこちらを見ていた。
(確かに吉報ね。こちらの探してた人材が二人同時になんて・・・しかも片方は半分諦めていた。ここで説き伏せれば。駒は・・・揃う!)
レミリアは、どう説得するか、考えた。
・・・主を恨む理由も討つ理由もない。
どうすれば、力を借りれるか。
頭を悩ます。・・その時。
『美鈴。今まであったことをレミィに説明してあげてちょうだい』
パチュリーが美鈴を促した。
『はい。実は・・』
美鈴は今までの経緯をレミリアに全て話した。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・。
『・・・そんな事が。貴女がフランと関わってるのにも驚いたけど、よくお父様と闘い、生きてられたわね。』
『まあ色々、私もなんで生きてるかイマイチ分からないんですけどね?』
『じゃあ、二人共こちら側につきお父様の敵になる、ということで問題ないのね?』
『そりゃ、殺されかけましたし、未だに私狙われてますからね・・・それにフラン様を殺そうとする奴は私の敵です。』
(・・・・さっきの話といい、美鈴のフランへの忠誠心は確かね・・裏切りはないか・・後は・・)
「・・・で?変態メイドはどうなの?」
レミリアは、落ち着いてきたメイドを引き離して距離を置き、すぐ逃げれる体勢をとりながら聞いた。
「あっ・・・。・・・愚問です。私は主様に恨みはあれど、忠誠はございません。それに・・」
(そうだった・・こいつは確かお母様の妹だった。なら当然か・・。)
「・・確かに愚問だったわね。謝るわ。」
「いえいえいえいえ!滅相もない!」
メイドはレミリアに謝られ動揺して慌てた。
「・・あのー?」
美鈴が申し訳なさそうに手を挙げながら聞いてきた。
「なにかしら?」
(・・・どうも、この子は相手に気を使いすぎる傾向にあるわね。)
「その・・メイドさんですけど、名前、・・ないらしいんですよね?ご存知でしたか?」
確かにここ紅魔館ではメイドはおろか一般兵にも名前は与えない、過去にあっても忘れさせている。
『知ってるわ?それが?』
『そのー。メイドさんて呼ぶのもなんですし、なんとかならないかと・・・』
(なんとかといわれても・・・ないものはないんだし、名前の記憶なんて魔法で消されてるし・・)
「いえ!私はこのままで結構です!・・美鈴!!」
困っていたレミリアを見てメイドが美鈴を睨みつけ怒鳴りつけた。僅かに殺気すら感じる。
(・・・昔からそうだった・・こいつはいつも私を気にして・・・・・あの時も・・)
【回想】
「うわあああああああん!」
「紅魔館の次期当主たる者がそんなことでどうする!・・・出来るようになるまでここにいろ!」
「うわああああああん!」
魔法の訓練をしていた私はうまくすることが出来ず、毎日の様に父に怒られてばかりだった。
でも、そんな時は必ず・・・。
父が出て行った後、一人泣きながら練習をしていたら・・・こいつは、急に目の前に出てきて。
「お嬢様?無理はしなくて良いのですよ?さあ、夕食を食べてからにしましょう?」
「でも、お父様が・・・」
「良いのです、私から言っておきますので」
いつもこのように甘やかし、私を救ってくれてた。
「・・・うん!」
何も知らない私はいつもそれに甘えてた。・・私は、こいつが大好きだった。
・・・・・。
「お嬢様?」
いつものように泣いてたら、いつものように出てきた。
でも・・・こいつはなぜか傷だらけだった。
まだ幼かった私はその傷を気にも留めず甘え続けていた。
日に日に、こいつの傷は増えていった。
そんなある日
「あなた!いい加減にしないとそのうち本当に死ぬわよ!?」
母があいつを叱っていた
・・・・・・・・
・・・・
どうやら、私をあそこから出す度に自分の体を瀕死状態になるまで傷つけるようにする、ということで父の了承を得ていたようだ。
傷が直る前に、次の傷、次の傷と。・・・私の代わりにと。・・あいつは毎日罰を受けていたんだ。
・・・自分から・・・私を守る為に。
しかも魔法により消えることのない傷として・・・・。
あいつの身体中は傷だらけだった。
もう何回目だろう?覚えていない・・初めは私に分からないところに負っていた。
背中。
胸。
腹。
肩。
が、今となっては一目でわかるほど身体中腕から足まで傷だらけだった。
・・・・・私は泣き、心で謝った・・・ごめんなさい。
私はいつものように居残りをさせられた。そしていつものようにこいつは来た。
「お嬢様」「・・・帰って!!」
「え?・・・」「いいから帰って!」
私はもうこいつを頼らないことにした。
頼って甘えてしまっては、また傷つけることになる。
大好きなこいつを傷つけたくない。殺したくない。そう思っていたからだ。
私は突き放す事でこいつを守ろうとした。
「・・・もうこないで!私の前に現れないで!・・命令よ!」
「・・ッ!?・・かしこまりました・・。」
・・初めての命令だった。・・初めて・・あいつの涙を見た・・・。
もう私に近づかないことで危険な目には合わない、私がうまく魔法を使えたら・・・
そう思い訓練を続けた・・・・私はいつもと違う涙を流していた・・・・。
・・・。
それから暫らく経ち。私はお父様の課題を全てクリアした。
『レミリア!やるじゃない!』
お母様が喜んでくれた。
・・・嬉しかった。
・・でも違う。
本当は・・・
あいつに褒められたかった。
『レミリアご褒美あげるわよ?なにが欲しい?』
私は・・・『あいつの傷を消して』・・・あいつの傷を消す事を望んだ。
しかし、あいつはそれを拒んだ。
『この傷は名誉ある傷。・・私の誇りを消さないでくれ。』と。
幼い私はそれの意味が分からず、あいつの為と思い、無理矢理腕から足までの傷を消すように頼んだ。
・・・あいつは号泣したらしい。
お母様が後は残して置いてやってくれと私に頼んだ。
私は、意味が分からず悔しかった。
あいつの為にやったことなのに。
あいつへの罪滅ぼしなのに。
私はいつからかあいつと距離を置くようになった。
あいつも私の命令を守り、顔を見せなくなった。
【回想終わり】
・・・・・。
・・・・・。
「レミィ?確かに名がないのは不便だわ、貴女がつけてあげたら?」
「え?私が!?」
「ここでは貴女がリーダーだし、メイドも貴女がつけるなら、喜ぶでしょう?」
メイドに目をやると頬を赤らめ俯き、モジモジしている。
・・・・。
(・・・気持ち悪い。・・・私の回想を返せ。)
・・・・。
(名前・・・うーん、いきなり言われてもなあ・・・)
(・・まってよ?確かお母様の妹、・・・なら、十六夜・・・・十六夜・・・・咲夜?咲夜なんてどうかな?)
「い、十六夜・・・・十六夜・咲夜・・・あなたは十六夜咲夜よ!」
・・・・・・・・・・
(うっ、変だったか?・・・)
チラッと気持ち悪い咲夜を見てみた。
・・・・・。
相変わらず俯いていて表情が見えない。
・・・ッ!?
「うわああああん!ありがとうございます!」
気持ち悪い咲夜が泣きながら抱きついてきた。
(・・・・・またかよ・・・)
「咲夜!咲夜でございます!・・私は十六夜咲夜ですううう!!!うわああああん」
またグシャグシャになっていく服を見て呆れた顔をし、パチュリーに助けを求める視線を送る。
「良かったわね。咲夜・・。いい名前ね。ちなみにレミィ?名前の由来は?」
(・・・。その前に助けて欲しい。・・・けど由来はある)
「十六夜は単純にお母様から。・・十六夜には躊躇いという意味があるわ。そんな誰もが躊躇う夜の中でも堂々と咲いている花。簡単に言えば、誰もが恐れる者に恐れず向かう者よ。」
(・・・・・・そう。あの時、誰もが恐れていたお父様を相手に自分を犠牲にしてまで私を救ってくれたように・・。)
ダダダダダダダダダダダダッ
バタン!!
小悪魔が慌てて入ってきた。顔が青ざめている。
良くない知らせなのは確実なようだ。場に緊張が走る。
「はあ、はあ、パチュリー様!大変です!!」
「どうしたの!?」
・・・・。
暫らくの沈黙。小悪魔が息を整えるのを待ちながら、恐らく来る悲報を固唾を飲んで待ち構える。
「・・・・メイドさんは美鈴て人に、もう、殺され、た、?みたい?です?」
・・・・・・。
顔をあげて美鈴と咲夜を見た小悪魔は・・・・・驚きか安堵か、卒倒した。
・・・・・・・・・。
「で、では人数も揃ったことだし、これからについて話しましょう?」
パチュリーが切り出した。
「あのー?」
「え?」
いつものように美鈴が申し訳なさそうに手を挙げる。
「・・・・治療・・してもらいながらでいいですか?」
「あっ。」
咲夜が、忘れてた!!・・・といわなくても分かるような顔をしていた。