絶対絶命
・・・・。
通路の灯りは少なく、静寂しきった闇。雨音だけが聞こえる中、通路の影から何者かが出てきた。
ゴロゴロ、ガシャーン!
外に雷が落ちた。そのおかげで美鈴はその何者かをしっかりと視認出来た
。
・・・・ッ!??
美鈴の目に映ったのは、メイド姿、ショートの銀髪。華奢な綺麗な女の人だった。
「メ、メイド?」
余りにも美しく気品のある凛とした姿に,美鈴は一瞬目を奪われ、硬直した。
その瞬間。
シャッ!
殺意の籠もったナイフが美鈴の頭をめがけ飛んできた。
・・・ッ!?
美鈴は上体を横にずらし紙一重で躱す。
その後上体を戻そうとしたと同時にメイドは間合いを詰めて来た。
『ちょっ、ちょっと!いきなりなんですか!?』
美鈴の問いを無視し、ひたすら切り付けてくるメイド
(確実に急所だけを狙ってくる。この人・・・・強い。前近衛兵長なんか話にならないくらい・・)
「・・・・・・・・・・・・・」
無言でひたすら繰り出される攻撃に美鈴は反撃出来ないでいた。
(躱すので、手一杯だ・・でも・・)
バン!
美鈴は躱した状態からそのままの勢いで体当たりをしてメイドを吹き飛ばした
(躱しながらでも、ちょっとした攻撃は出来ます。・・この程度ならまだ私のほうが少し上ですね。仕方ない・・・少し痛い目見てもらってから話を聞かせてもらいましょう。)
「攻守逆転!さて、ではこちらもいかせてもらいますよ?」
「・・・」
飛ばされたことに意も介さず相変わらずの無表情。まるで人形の様だ。
しかし、此方を見つめるその目から殺意だけは、はっきりと感じた。
「でわ!いきます!」
・・カチッ
美鈴が仕掛けた。
・・・はずだった。
しかし、現実の光景は美鈴を取り囲む、5,6,7・・いや、10をゆうにこえるナイフ。
美鈴がそれに気付いた瞬間。そのナイフは一斉に飛んできた。
・・・・ッ!?
「うわ、うわ、、うわ!」
(まずい!避けきれない!)
持ち前の反射神経で躱すも2本躱しきれず左腕に当たってしまう
「ぐっ。一体なにが?」
『・・・。』
(なんだ?今のは?あいつは動いてすらなかった・・。なのにいきなり目の前に・・・。)
「・・・驚いたわ・・・・」
困惑する美鈴を見つめながら、初めてメイドが表情を変え喋りかけた。
(・・ッ!?驚いた!!しゃべったあ!!)
「これを躱したのって、貴女が初めてよ?」
メイドは驚き、美鈴を賛美しているようだが、殺気は確実に増していた。
「でも・・今の五倍の数のナイフならどうかしら」
そういいながらメイドはおもむろに懐中時計を手にし、ソレを見た。
(・・・時間なんか気にして余裕ですよ!って感じですかい?・・ん?五倍!?・・・・て何本だ?私、算数駄目なのよね・・て、そんな場合じゃない!五倍てことは、さっきより多いってことだよなあ・・それはまずい!!・・それにさっきから殺意以外に感じる感情も気になる。)
メイドが少し切なそうな顔をした。
「それではさようなら・・」
(駄目だ・・・やられる。それならせめて理由を)
『ちょ、ちょっとだけ待ってください!冥土の土産に一つだけ聞かせてください!その後に好きにしていい!』
『・・・一つだけ答えてあげるわ』
(お、おぉ・・・助かった。・・理由・・いや、それよりも私はあの感情の方が気になる)
『・・・貴女はなんでそんなに悲しそうなんですか?』
メイドの動きが止まった。
「・・悲しい?私が?・・・私は貴女への憎悪しかもう今は持ちあわせていないわ!」
あれだけ冷静、無表情だったメイドが感情的になっていく。
(・・・私への憎悪か・・・・・・・安心した。)
(こいつの標的がフラン様なら相打ち覚悟でいくとこだったが、標的が私なら手はある・・その前に・・)
「私、なんとなーくですけど相手の気というか喜怒哀楽?みたいなのわかるんですよね。・・・・貴女からは強い怒りと悲しみを同時に感じます。」
『なにが貴女をそうさせたかは分かりませんが、出来るなら私は貴女の力になります・・・』
ビクッ!
うつむいたメイドから今まで以上の、自分さえも壊してしまいそうな殺気がでている。
美鈴はその気迫に押されて体が硬直した。
「お前が・・・・。お前が・・・・おまえがそれをいうのかあああ!」
メイドの怒号からは、もう悲しみの感情なんかは感じられず、純粋な殺意だけになっていた。・・・ッ!?
(まずい!なんか失敗したみたいだ。・・・こうなりゃ最終手段!!)
・・・・。
「逃げるが勝ち!」
(単純にスピードなら私のほうが上!フラン様が狙いじゃない以上無理に戦う必要はない!)
全速力で逃げる美鈴に対し、メイドはなぜか追ってこなかった。
(???よく分からないけど、今のうちだ!)
美鈴は加速する。・・・。
「・・・私から逃げる?」
・・カチ
・・・ッ!!?
「・・うわあ!」
走っている美鈴の目の前に急にメイドが現れた。
美鈴は急ブレーキをし、慌てて逆を向いて逃げる。
・・・・・・しかし同じようにまた気が付くと目の前に彼女はいた。
(・・・なんなんだ?これ?瞬間移動?いや、それじゃナイフの説明が・・・。そんなんどうでもいい!今は逃げるんだ!)
ひたすら逃げ続ける美鈴を見てメイドはフルフルと震えていた。
「逃げるだけ・・?情けない。・・・こんなやつに・・こんなやつが・・・こんなやつのせいで!私は!」
・・・カチ
美鈴は確実になにもないとこへ逃げた・・・はずだった・・・なのに・・・・・。
美鈴の周りには前後左右隙間がないほどのナイフが囲んでいた・・・・・・。
確実に躱せる隙間はない。
(・・・終わった。これは無理だ・・ちくしょう!・・・私は・・私は!)
美鈴は死を覚悟した。
その走馬灯の様な物の中でフランのことを思い浮かべていた。
・・必ず守ると言った約束・・・守れない自分への怒り、後悔。
「ちくしょー!私は!フラン様をレミリア様に会わせると約束したのに!!!ちくしょーーー!」
美鈴は、つい声がでてしまった。しかし、彼女にはそんな事は些細なことだった。自分の腑甲斐なさで一杯一杯だった。そしてナイフが・・・
(・・・・・・ん?)
(生きてる?)
(ナイフが消えてる?)
(・・・メイドは!?)
美鈴は現実を疑いながら、メイドのほうを見てみた。
・・・なぜかメイドは口を開けたまま涙を流しながらその場に固まっていた。
・・・・・?。
(・・・なんかしらんがラッキーだ。・・・今のうちに逃げよう!)
腕の出血を押さえながら全速力で走る美鈴。その様をただ、ボーッとメイドは見つめていた。
・・・・・・・・・・。
「・・・お嬢様に・・・・会わす?」
(はぁ、はぁ)
「も、もう大丈夫かな?とりあえず部屋で手当てを」
美鈴は、なんとか逃げ出し、傷の手当てをする為自室に一旦戻った
・・・ッ!?
「あ、主様・・・。」
美鈴の部屋の中には主と他の近衛兵4人がいた。
逃げ切れたという安堵感から美鈴は部屋の中まで気を回していなかった。
「ど、どうしたんですか?こんな所までわざわざ・・」
(隠しているからか主からは殺気を感じないが他の四人が論外だ)
「おまえのほうこそ、どうした?メイドごときに苦戦でもしたのか?」
小馬鹿にしたように嘲笑いながら主は美鈴に聞いてくる
「やはり・・主様が・・」
「ふふふ、あれはレミリアのことが気に入っていたからな。レミリアの死を伝え、貴様が食うといえば一目散に貴様を追いかけにいったわ。・・嘘ではなかろう?」
・・・・・・・
「しかし、やはりあれでは貴様には勝てなんだか。」
(・・・逃げたんですけどね。・・・主はあの力知らないのか?)
「なぜそのようなことを?そしてなぜここへ?」
主の表情が変わった。と同時に殺意を感じた。
「2つ同時に答えてやろう・・・・・暇潰しと・・・罰だ」
(暇潰し?・・・罰。)
そういうと主は右手をあげた。美鈴は瞬く間に衛兵に抑え付けられた
・・・ッ!?
(しまった!主の威圧感に気を取られていた)
主が少しずつ近寄って来た。その威圧感に美鈴は恐怖を感じていた。
「主の娘を連れ出すという死罪の、な」
と同時に凄まじい殺気を感じた
(・・・・・これ、やばいやつだ。)
弁解する気も無くなる、ただ逃げたい、そう思うような圧倒的な力。気が読める美鈴だからこそ余計に感じとった。
(・・・・勝てない、やらなくてもわかる)
(・・・くっ、情けない!また逃げの一手か・・・しかし隙がない・まずは・・)
美鈴は覚悟を決めた。
右腕を押さえてた衛兵を力で持ち上げ、力の入らない左腕を抑えてた衛兵に叩き付けはずし、そのまま両足を押さえてたやつを一撃で沈めた・・・・。
「が、がは!」
しかし、その間に主の爪で腹部を刺され首を捕まれてしまう。美鈴はそのまま片手で持ち上げられた
「うーん、いかんなあ?この程度では長などつとまらんぞ?」
ギリッ・・・ギリッギリリッ。
だんだん首を絞める力が強くなる
(ま、まずい!お、おちる・・)
ぱっ。
・・・・ッ!?
バタン!
『ゴホッ!・・ゴホッゴホッ!』
主が突然手を放した。意識が朦朧としている美鈴を見て退屈そうな顔をしていた。
「これで終わってはつまらぬ。さあ、好きなだけ打ってくるが良い。」
両手を広げ余裕の笑みを浮かべて倒れている美鈴を見下している。
・・・・ブチン。
(・・もう切れちゃいました、負けようが死のうがこいつに一泡吹かせてやる)
『ウォォォー!』
美鈴は全力で殴り続けた。だが、主はびくともしない。
「・・はあ、はあ、はあ。・・・これなら!!」
最後に渾身の一撃を放つ
ガスッ!!!
・・・ッ!?
初めて主の体の軸が動いた。
ガシッ。その瞬間、美鈴は髪を掴まれ顔を上げさせられた。主は満足そうな顔をし
「ふむ、今のは合格だ。」
「・・・そりゃどーも。」
(・・化け物だ、こんなんどうすりゃいいんだよ・・)
主は美鈴の攻撃が止むと同時に与えた傷がみるみる回復し、今となっては無傷になっている
「では、褒美をとらす。」
・・・ッ!!
右がくる!
美鈴は咄嗟に両腕でガードした。
まにあっ・・・・・ボキボキボキグチャ。ドン!!
『ぎゃ嗚呼ああああああああああああ!!!!!!」
美鈴はガードした。だがガードした右腕半分がちぎれ骨が折れ、左腕も骨が折れた。
「ふふふ、それではバランス悪かろう、仕方ない。」
バキ!バキ!グチャ!
『うああああああああああああ!!」
主は美鈴の両足も腕とまったく同じように右をちぎり骨を折り、左を折った。
美鈴はもう動くことすら出来ない。どうすることも出来なくなっていた。逃げることすら・・・・。
・・・。
・・・・。
・・・・。
・・カチ
ドン!!
(・・・・・ここは?・・・外?・・・・なんで?)