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第一話  復讐の初陣

まだ戦ってないけどな

―――

一部加筆内容は一切変わってないです


春は嫌いだ。花の香りをのせた穏やかな風が鬱陶しい。

全てを柔らかく暖める日差しが憎らしい。

あの腹立たしいほど晴れ渡った日のことを思いだしてしまうから。


春の穏やかな気象は、母さんによく似ているのに、あの日のせいでどうしても好きになれない。


頭痛がする重い頭を抱えながらベッドから這い出て、床に放置され塔を作り上げた本の隙間を何とか崩さないように通りベッド脇のミニテーブルにたどり着くと、置かれている水差しから一口水を含む。

喉をつたう冷たい水の感触を追いながら、締め切られたカーテンに手をのばせば、あの日によく似た春の日差しに頭痛がより重くなった気がした。

痛みと日差しに苛立ちつつ、その勢いのまま乱雑に机の引き出しをかき回し痛み止めを見つける。粒上のそれを四粒口に放り込み、もう一度水差しから水を含んだ。


『……薬は一度に二粒じゃなかったかい』


呆れて非難するような声に、視線を下へずらせば、伏せったまま視線だけをあげて見せるワタアメの姿があった。

高さが僕の腰ほどもある大きな雪狼(スノウウルフ)のメスで、僕が物心ついた時にはすでに母さんの傍にいたメス狼だ。今は群れの長老であり、群長の母である誇り高き雪狼だ。

名前の由来である、雪のような真っ白でふわふわの毛は窓から差し込む光によってキラキラと光る。


「うるさいな。いいんだよ」


ハフゥとあきれ果てたような吐息と共に、ワタアメは目を伏せる。

僕はワタアメの反応に若干眉根を寄せて、ベッドへ腰掛ける。そばに出来ている本の塔の一番上の本を手に取ると、ぺらぺらと適当にページをめくる。


ワタアメが垂れていた三角に尖った耳をピンと立てて、顔をあげて扉を見る。

次いで、コンコンと二度静かにノックが響いた。

ノックの仕方で誰か分かる。ワタアメはまた、興味を失ったようにぽすんと顔を下ろした。


「どうぞ」

「失礼します」


無駄に装飾の凝った扉が開き、その女が姿を見せる。

動きやすいパンツスタイルのシンプルな服装。首からかけられた銀色の鍵に彫られた階級を表す七芒星が一つ。それは、この国の将軍の副官であるという証明に他ならない。

胸の前で踊る銀色の髪。同じ色の長い長い睫で縁取られた、顔の三分の一を占める大きな紫の一つ目。

姿かたちや能力はほとんど人族と大差ないが、しかし圧倒的に違う唯一の点。

それは、目が一つしかないということ。元々二つあった眼の一つがつぶれているとか、そういう理由ではなく、元からこの種族には目が一つしか存在しないのである。

単眼族。人にもっとも近くありながら人でない、人族から見下され差別されている種族の一つである。

そして彼女は、僕の唯一の部下だ。


「ノゾミ閣下。そろそろお時間です」


レレンの言葉にページをめくっていた手をとめる。

読み漁り、内容を記憶した本をまた塔の上に戻す。

立ち上がった僕に、タイミングよくレレンが黒いロングカーディガンを渡してくる。


羊龍(シープドラゴン)と呼ばれる魔物がいる。

龍族としては比較的弱い羊のような毛をまとったドラゴンだ。

その毛で編まれた服は防火性、防熱性に優れ、弱くとも龍族なだけあって単純な防御性にも優れる。へたな貴金属の類よりもずっと軽く丈夫なのだ。

僕のこのロングカーディガンは、羊龍の変異種である黒羊龍(ブラックシープドラゴン)の毛を使っている。

ただの羊龍の毛糸よりも、その質は格段に跳ね上がる。


膝裏まである長さの、羽毛並に軽いカーディガンに腕を通し、痛み止めの薬を取り出したのと同じ引き出しをあさり、チャームのついた金色の鍵を取り出す。

そこに刻まれるのは七芒星が一つ。色が違うだけで、デザインはレレンのものと一緒だ。

そして、これが示す意味は。


「緊張は、なさっておられないようですね」


温度のない作り物の無表情を浮かべていたレレンの顔にかすかな笑みが浮かぶ。

ひさしぶりに見た微笑は、草原を吹き抜ける夏の風のようだ。

――確かに、緊張はしていない。

かといって、興奮もしていない。


僕はこれから、一つの街を壊しに行くというのに。


寧ろ、何というのだろう。

そこまで気持ちが高ぶっているわけではない。

しかし、それでも普段よりは高揚しているのだろう。


やっと、本願への一歩を進むことができるのだから。


「ワタアメ、レレン。―――行こうか」



◇◆◇



その日はどうも風が騒がしかった。


普段は歌い、踊り、能天気に過ごす精霊たちが、妙に騒がしい。

怯えているようだ、戸惑っているようだ。

ロブール王国の末端に位置する街タタン。

魔族たちが多く住む、魔境谷との境界線暗黒の森に、最も近いこの街は、王都の次に厳戒な警備態勢が敷かれ、多くの上ランク冒険者たちがひしめき合っていた。

そんな街に住む一人の少年、トウムは生まれた時から精霊を見ることができた。

元々、高い塀に囲まれ自然から隔離されたこの街に精霊の数は少ない。しかし今日はやけにその数が少なく、飛び回る精霊も忙しなく落ち着きがない。

トウムは今日すでに何度も何度も精霊たちに、街から出るように促されていた。髪や服を引っ張られ、泣きそうな顔をして見せる精霊たちの様子にさすがに緊張感があおられる。


それでも、トウムは大丈夫だと思っていた。

上ランク冒険者の中でも精霊の声を聞ける者、精霊の姿を見えるものは確かに少ない。しかし、存在しないわけではないのだ。

精霊と関わることができるもの全員が今日はピリピリと警戒心を強くしている。その雰囲気は、精霊と関わることのできない冒険者も今日は異常だと察するに余りあるほどであり、その異様な雰囲気に、街の人々の空気に呑まれて家からあまり出てこない。

腕利きの冒険者たちはすでに、壁守の兵士たちと共に暗黒の森に警戒の糸を張り巡らせている。


これだけ、これだけ皆が皆警戒し、構えているのだ。

どんなに強い魔物が来ても、A級やS級さらにはSS級ランクの冒険者たちが在住するこの街がそれほどの脅威に侵されるとは、誰も思っていなかったに違いない。

警戒の中に、一寸の油断。

そして、攻めてくるのは所詮魔物だろうという先入観。



それが、命取りとも知らずに。


戦闘シーンとか書けないです。

期待しないでください

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