例えば、魔王城に近い村のあり方
思いつき投稿。短いです。
魔王城にほど近いこの村に訪れる客の多くは、英雄と呼ばれる人たちだ。
この村を作った人は一体何を考えていたのだろう。
人の往来がほとんどないが、英雄たちが魔王城へ向かう最後の休憩所として金を羽振りよく落としていく故に村は貧しくはない。だが、物があふれているわけでも裕福なわけでもない。娯楽は少なく、街までは遠い。
しかも、魔王城の近くゆえに非常に危険地帯でもある。
英雄の多くは戻らない旅に出る。
おそらくそのほとんどは魔王城にて散るのだろう。合掌。
だからと言って、ここの村人たちは引き止めるような真似をしない。ただ、見送るだけだ。
それは魔王討伐を夢見ているわけではなく、引き止めるだけ無駄な労力が使われるから。戻らぬ英雄を見送るのは、この村にとっては日常なのだ。
「ナターシャ、今日の英雄は生き残ると思う?」
従兄弟のコリンが今日の朝、出立した英雄のことを口にする。
私は「さぁねぇ」と気のない返事をした。
今日出て行った英雄はそこそこ強かった。
だが、魔王には及ばないだろう。運がよければ生き残れるが、魔王を倒すのは不可能だろう。
そもそも魔王は今は不在のはずだ。もっとも、魔王の部下の方が今日の英雄よりもずっと強いだろうけど。
人間の街よりも魔王城の方が近いこの村で生活している私たちは、人間としてはきっと異端なのだと思う。
村に頻繁に押し寄せる害獣は、王都では軍で対処に当たるほどの凶悪な魔物も多い。そんな魔物を少ない人数の村人で撃退している。
たまに魔王の側近が買い物に来ることもある。
というか、魔王本人がこっそり来ることさえある。
あれは見つかっていないと思っているんだろうか?
いやいや、無理があるだろう。
訪れる人の少ない村で、あんな風に来訪されたら気づくに決まっている。気づかないのは、初めて村に来る英雄たちくらいだ。
村人は分かっていて知らないフリを通す。
それは、こっそり魔王や魔王の側近がこの村に売買にくるために、村に害をなす魔物を倒して回っていることを知っているからでもある。
持ちつ持たれつ、案外いい隣人なのである。
英雄が嫌いなわけではない。
魔王が倒されればいいと思っているわけでもない。
ただ、どちらもこの村にとって良い客であり、どちらも失いたくはない存在なだけだ。
「次、街に買い物行く人って誰だっけ? そろそろ調味料類が切れそうなんだよね」
「あー、ダンさんだったかな? 私も服が欲しいんだよねー」
「今回の英雄は羽振り良かったから、結構儲けになったんだ。奮発しちゃおうかな。ナターシャも儲けたんでしょ?」
村事態はそれほど規模も大きくはない。
だが、村人個人はそこそこ資産を持っていることは珍しくはない。
なんせ、ここは魔王城への突撃最終拠点。売っているのは食料だけではない。コリンの家は武具の修繕を生業にしているし、私は旅に必要な雑貨などを作成、販売したりしている。
「ま、ね。今回の売り上げは上々」
この村は魔王城に程近いゆえか物作りの材料となる魔物の牙や毛皮の質がいい。
それと魔王達が売りに来る物も非常に希少なものであったりする。中には、うちが英雄に売ったものが混じっている。
結果的に、この村で販売されるものや提供されるものは王都などのものよりよほどいいものだ。
私たち村のあり方は、人から外れているようで実に人らしいと言わざるを得ないと勝手に思っている。
いつか天罰がくだるかもしれない。人の身で、人の世を救うために命をかける者たちで稼ぎ裏で魔王たちと取引をする私たちに。だが、この村がなければ休足をとることもできず、英雄たちは長い旅の先に魔王との決闘が待っていることになる。
いつか英雄が魔王を倒すのか、魔王が人の世を滅ぼすのか、未知なる未来は今はどうでもいい。
私たちは村人らしく、ただ目の前の今日明日を生き延びることだけを見て生きていくだけだ。
RPGにはよくある、中盤のボスがラストダンジョンでは雑魚敵になっていたり。中盤のレアアイテムが最終の町とかでは店で普通に購入できたり。ラスボス手前の町とかの一般人すげー強いんじゃ??? という疑惑から思いついた話。