第74話『私はあなたを認めている』
九条桜香は、天才である。
この言葉に異論を挟む者など存在せず、彼女の才能は事実として世界の頂点に立つ。
才能の怪物。
如何なる魔導師も、才能という分野で彼女には絶対に勝てない。
最強であり、怪物である桜香。
そんな彼女だが、他の強者と比べると明確に異なる点があった。
強さに反して、妙な脆さがあったのだ。
かつての王者『皇帝』クリストファー、そして『女神』のフィーネもそうだったが、自負と自尊で立っているため、彼らに精神的な脆さはない。
対する桜香は、才能だけは彼らすらも凌駕するが心に脆さがあった。
支えがないと、本当は立ち上がれないのだ。
圧倒的も生温い最強の魔導師の弱点がその部分――だった。
たった1つにして、ほぼ唯一に近かった弱点を埋めてしまったバカがいる。
おまけにその存在はご丁寧に強くなる方法まで伝授していた。
偉大なる伝説――アルメダが全く知りえない領域で敷き詰められた爆弾が最悪のタイミングで炸裂する。
アルメダが戦いで感じていた妙な脆さは幻の如くの掻き消え、2つ名の如く灼熱の意思を携えて桜香は舞う。
今の桜香には誰もが持ち得る普遍的な精神の輝きがある。
すなわち、恋する乙女は無敵――至極単純な道理が彼女を真実の最強へと引き上げていた。
「健輔さんへの手向けとして、あなたは必ず粉砕する! 何より、羨ましいので、絶対に許さない」
「け、健輔? いや、誰よ!」
当然の疑問だが、延々と嫉妬の対象を魅せ付けられた結果、鬱憤が溜まっている桜香は聞く耳を持たない。
返答と共に、魔力を叩き付けて勢いよく切りかかってくる有り様だった。
「あなたが、あの人の名前を口に出すな!」
「は、話を聞きなさいっ! ああ、もう、何よこの状況!? そして、何よその強さ!!」
歴戦の女神をして混乱するしかない。
桜香の強さが、精神の爆発に呼応して跳ね上がった。
今までは『騎士』の力で制御した白兵戦が通用していたのに、全く攻撃が効かなくなっている。
技量で捌ける範囲の差を飛び越えたのだ。
もはや脅威としか形容出来ない力であった。
「はぁあああああああああああああッ!」
「お、重い……! ど、どんな魔力をしているのよ」
上手く受け流したはずなのに、身体が後方に大きく弾き飛ばされる。
既に身体能力的にはアルメダが出来る限りのことはしていた。
技量についても、手を抜いた覚えはない。
これらの事実が示すことはたった1つである。
――九条桜香は力だけで4代目の女神であるアルメダを凌駕しようとしている、ということだった。
「あ、あり得ない……、まさか、このレベルでの、才能だと言うのっ」
唇を噛み締めるが、至った結論に変化はない。
いや、むしろ時間を置くほどに悪化していた。
黒い魔力がドンドンと力を上げて、アルメダの魔力を近寄らせもしない。
データだけは知っていたが、この『漆黒』の魔力にアルメダは苦い顔をするしか出来ることがない。
「統一系……話半分に聞いてたけど、予想よりもずっと――」
危険だ、と言おうした時に桜香の圧力が更に跳ね上がる。
限界を知らないと言わんばかりの力の上昇に、アルメダは自分までが投入される意味を知った。
確かに、これに学生をぶつけても意味はない。
あまりにも断絶し過ぎた才能の化身。
アルメダが自らの総力を結集してようやく勝負になる――これは、そういう存在だと認識を定めた。
「怪物……この表現でも生易しい!」
趨勢は既に桜香に傾いている。
何が切っ掛けなのかは皆目見当もつかないが、アルメダは目の前の少女の本質を理解していた。
たった1つ、何かのために全霊を注ぎ込めるのだ。
溢れんばかりの才能を、誰かへの献身に用いている。
仮にアルメダに優香と面識があれば、深い納得を得ることが出来ただろう。
彼女たち姉妹は、自分が尽くすべき対象を求めている。
中心に立つ輝きなのに、傍にいることを望むのだ。
女性魔導師の理想はハードルが高いものだが、その中でも間違いなくぶっちぎりの難易度だった。
恒星の熱量に素で耐えられないと、隣に置いてくれさえしない。
抱きしめるどころが殴り飛ばすような愛を求めている。
「なんて、面倒な女! あなたみたいのと、真剣に向き合うバカがいるなんて!」
魔境としか言いようがない。
無意味に高いハードルに付き合わされる一般生徒は溜まったものではない。
アルメダの叫びに籠められた意味を桜香の正確に読み取る。
苛立つ相手だが、評価は確かに正しかった。
「そんなこと、既に知ってます! でも、私は向き合ってくれる人がいる。だったら――」
アルメダの言葉に、桜香は満面の笑みで宣言する。
「――それだけあれば、他のことなどどうでもいいッ!」
「呆れた! 大した暴君じゃないの! 優等生なのは、飾りだったのかしら!」
脅威レベルを一気に跳ね上げる。
ただ強いだけの魔導師ならば、アルメダはどうとでも出来るが決して譲れぬラインがある魔導師は実力関係なく強敵だった。
「――私も、今の子を少し甘くみていたわ。なるほど、ゲスト気分ではダメなのね」
普通に相対するのは、最後だから、もしくはレジェンドとして現役の最強と戦う。
このような理由で相対しても、桜香の本質は引き出せないのだ。
幸いにもアルメダは彼女の矜持に触れる何かを持っていたからこそ、本当の最強と対峙することが出来ている。
見たことのない系統に、かつてないレベルの才能。
これほどの頂点に負けないと迫っているらしいランカーたち。
なるほど、かつての自分たちとは大きく異なっている。
桜香クラスの才能など、アルメダも見たことがない。
分野は違うが初代の女神たるマリアぐらいであろう。
「平均的に強くなっているらしいから、上の方は薄くなって少しレベルが落ちたのかと思っていたけど、大きな勘違いだったわ」
データだけでは掴めないものが見えた。
この戦いにコーチとして臨むなどという想いでは絶対に勝てない。
この若さに、青さに対抗するには大人としての矜持が必要である。
積み上げたものに対する自負、かつてへ対する憧憬。
譲れぬモノはアルメダも変わらずに持っている。
相手が晒した真心に負けないものをアルメダも見せる必要があった。
決意は素早く、行動は直ぐに行われた。
「とっておきを、見せてあげる。後、1つだけ言っておくわ」
「これは……」
アルメダは能力の都合上、様々な固有能力に触れ合う機会が多い。
桜香のものとも研究過程で触れているし、同様に彼女と同世代の力もよく知っていた。
彼女は汎用能力の大本だが、汎用能力そのものを持っている訳ではない。
「――羨ましくなんか、ないんだからねッ!!」
「ふん、負け惜しみですね!!」
自信満々の顔に、脅威よりも激しい怒りが湧き上がる。
このままでは絶対に終わらせない。
「絶対に、ここで落とすッ!」
「――これは、『魔導世界』!」
少しずつアルメダの数が増えていく。
イメージしたものを現実へと投射する最強の固有能力。
クリストファー・ビアスの『魔導世界』。
アルメダも創造系の能力を持っており、イメージを纏うという彼女の固有能力は『魔導世界』に近い。
クリストファーと直接接触したことはないが、概念の模倣程度は余裕だった。
現役時代にはなかった今の彼女だからこその切り札。
クリストファーのような自己の強化は出来ずに、想像の軍団を生み出すだけだが、アルメダにはこれだけあれば十分だった。
「この数は――まさかッ!」
「正解ですよ! この軍勢は、全て個別の能力を持っています!」
アルメダは他者の能力をコピーしている訳ではない。
正確には、相手の在り方を『イメージ』として保存しているのだ。
再生には自分の力量が必要であり、彼女は常に複数の自分がいるようなものである。
バックス系の基本技能、意識の分割が恐ろしいまでに上手いからこその技。
ここにクリストファーの能力を聞いて、彼女が模倣した『魔導世界』が組み合わさることで、彼女は無限の自分を作り出す。
クリストファーが究極の己を象徴する力ならば、アルメダは方向性が真逆にあった。
無限の己を象徴する力――蓄積してきた歴史がここに合わさり最強クラスの物量となる。
魔力を超えて、事象として顕現する無限の軍勢に桜香という個でも抗えるかはわからなかった。
量で圧殺してくる4代目の女神。
現役を超えて、研ぎ澄ましていた彼女の刃がこの力だった。
ある意味では、クリストファー以上に能力を使いこなしていると言えるだろう。
複数のイメージを維持するのはアルメダでも厳しいため、よくて100人ほどだが、上位ランカークラス100人が個別の能力で襲い掛かるとすれば十分な暴力だった。
「これで、終わりにさせていただきます!」
「女神っ!」
アルメダたちが、一斉に進撃を開始する。
被害を気にしない最高の軍勢が、不滅の太陽を沈めるに全力を賭す。
迫る軍勢を前にして、桜香は不思議な心境で過去を振り返るのだった。
失敗を知らなかった桜香の人生。
ただ1度の挫折が去年の戦いにあった。
クォークオブフェイトとの国内での戦い。
健輔との決戦が、彼女に齎したものは非常に多かった。
敗北により彼女の中からも消えてしまった自負。
言い方は悪いが、チームは負けても桜香が負けたことはなかったのだ。
想像もしたことのなかった結末。
彼女の生を脅かすものなど存在せず、そのまま育ってしまった桜香は確かに怪物だった。
初めて危機感を覚えたのは、クリストファーとの戦いである。
この存在は、自らを凌駕するかもしれない。
正当な評価であり、彼女の興味はあの時まで辛うじて『皇帝』に向いていた。
仮に、王者に敗れたのならば桜香はそこまで変わることはなかっただろう。
興味を持つ、ということは認めているということなのだ。
万が一、というものは考えていた。
そこで敗北を知ったのならば、桜香は強いが執念が足りない魔導師になって才能で君臨するだけだっただろう。
いつかは敗れる天才として、ありがちな展開を辿ったはずである。
だから――もし、世の中に奇跡があるというのならば桜香と健輔がぶつかりあったことは紛れもない奇跡であった。
視界にすら入っていなかった小さな小さな存在。
興味の大半は優香の付属物としての価値。
戦い始めた時も感嘆はあれど、それだけだった。
桜香の視界、健輔は移っていなかったのだ。
優香の付属物。
それ以上でもなく、それ以下でもない。
今の桜香ならば、恥ずかしくなる思考。
たった半年の間に、彼女の世界には様々な色が付いた。
ついこの間にも、新しいことを知ったばかりである。
頑張る妹の姿、奮起するチームメイトたち――そして、もっと強くなった想い人。
変わっていく周囲の光景に、今までない活力に溢れた世界に、桜香は感謝している。
無理矢理にでも世界を壊して、ここに連れてきてくれた健輔への想いは、多少は落ち着いても溢れて止まらないし、止めるつもりもない。
想い人が望んでいるからこそ、桜香は今日も王者を演じるのだ。
そこに無粋にも足を踏み入れた上に、間違いなく健輔の延長戦上にいる存在。
表面に溢れたのは、所詮が希釈されたものだ。
本質はもっと重い。
「私が――」
アルメダの力の尽くが癪に障る。
健輔の理想に似ているようで、遠いのが理解出来るから嫌なのだ。
あの人の可能性を、お前程度で留めるつもりか。
言葉にならない激情が彼女の中で膨れあがる。
落ち着いた大和撫子、に見える桜香の楚々とした容姿が今では立派な擬態となっていた。
本当の彼女は称号を象徴するかのように止まらない存在である。
内実は太陽のように燃え上がっていた。
苛烈、かつ傲慢。
どこかの誰かが、そのようにあることを望んでいるからこそ桜香の在り方は絶対に変わらない。
「――健輔さん以外に、負けるはずがない」
絶対の真理を胸に桜香の才能が、伝説に牙を剥く。
主の意思に呼応して、桜香の黒い魔力が一気に噴き出し始める。
展開された空間展開の中に、自己の領域を作り出す。
桜香だからこその力技。
制御を身に付けようが、桜香の本質には何も変化がない。
圧倒的な力押しこそが、不滅の太陽の在り方だった。
「固有能力、発動!」
展開された『魔導吸収』が進化する主に合わせて、以前よりも遥かに凶悪な姿を衆目に晒す。
アルメダの『魔導世界』はイメージを具現する力。
クリストファーは個を象徴するために、軍勢としての使い方が未熟だったが、アルメダは逆に軍勢としての扱いは遥かに巧みだった。
劣化していても本気を超えかねない完成度は能力の可能性とアルメダの強さを表している。
しかし、それも桜香の『魔導吸収』の前では無意味であった。
固有能力を用いて事象を固定した軍団が、一瞬で密度を減衰させていく。
「これは……まさか、私の能力そのものを、減衰させている」
薄く外に広がる力では、個に集約した力よりも抵抗力が落ちている。
『魔導』に繋がる力を『吸収』するのが、今の桜香の力。
概念的なものにもその力は及ぼうとしていた。
「お前が、本物ッ!」
周囲のアルメダたちを無視して、桜香が一直線に突っ込んでくる。
多くのアルメダが透けている中で、1人だけで平気な顔しているのだ。
バレてしまうのは当然だが、アルメダが驚くのも無理はない。
彼女の経験でもこのランクの強さでここまでハッキリと力が上下する相手は見たことがなかった。
普通はこの強さに至ってしまえば、どうしても完成域に近づいてしまう。
完成とはすなわち一種の停滞なのだ。
頂にいるものにとって、避けられないはずの末路。
しかし、桜香はそんな現実を全力で無視している。
「貰った!」
「なんて、怪物! この、頂が――通過点だと言うの!?」
アルメダは強い。
彼女だけではなくこの戦いを見守る全ての人間が肯定する。
レジェンドとして、魔導の時代を切り拓いた者として申し分ない力だった。
それでも――、
「最強は、私だッ!」
――桜香には届かない。
彼女の目には1人の男しか映っておらず、それ以外に負ける訳には絶対にいかないのだ。
男の強さの証明のためにも、桜香は1度の敗北以外は全てを拒絶する。
溢れんばかりの才能は歴代の魔導師の中でも最高。
足りないのは、熱意であり心だったのだが、今の彼女には譲れない理由がある。
レジェンドとはいえ、格下に負ける要素などなかった。
「――く、くくっはは! なるほど、これは強い。しかし、それでも――!」
対して、桜香の熱情に晒されるアルメダだが、彼女もあっさりと負けるほど諦めのよい存在ではない。
相手の格を認めても、簡単に引き下がるはずがなかった。
「まだ、抵抗しますか!」
「自分は最強、そんなこと私も思っている! 見下ろされるつもりはないッ! 倒れる時も、前のめりだ! 全霊を超えて届かないのならば、信念を賭すだけです!」
分身の数を絞り密度を上げる。
物量から質への変更だが、これは桜香には通用しない。
単体での質において、彼女に匹敵する存在など『皇帝』クリストファーの本気くらいである。
アルメダは確かに強いが、彼女の強さは万能性が通用する相手に限られてしまう。
健輔の前に立ち塞がる壁と同じで、純粋な力で負けてしまうと逆転が途端に厳しくなる。
万能性が足枷になってしまう。
健輔が辿り着く果てに近い場所にいるのがアルメダである。
桜香にも、彼女の停滞がハッキリと見えていた。
ここからの都合の良い展開はあり得ない。
「――でも、まだ向かってくる」
勝敗はハッキリとしているが、女神の瞳に負けはない。
ここも愛しい人と重なって更に苛立たせるが、同時に誇らしくもあった。
やはり、あの人は凄い。
何をするでもなく、この領域にいるのだ。
執念で、全てを飲み込もうとしている。
アルメダの頂も彼の前には通過点だと信じさせてくれる。
「礼儀です。私の今の全てで粉砕する」
「望む、ところッ!」
奇妙な拮抗が続く中、桜香が終幕へと物語を加速させる。
アルメダが拮抗出来ている理由は、言うまでもなく彼女の経験と意地だった。
数多の伝説たちの、かつての青春の蓄積を使って決死の抵抗を続ける。
空間封鎖、相手に対する強制的な能力の転写、最後には相手の能力のコピー。
彼女が現役の時に用いた技の数々、涙と汗の結晶だからこそ煌いている。
ここを折らないと、戦いは終らないのだ。
「集え、漆黒の魔力よ――」
ただ魔力を集めただけの攻撃。
術式など存在しない純粋な暴力を前にして、アルメダは呆れたように笑った。
「これが、今の魔導師だと言うの。ほんとに、なんてバカばかり」
アルメダの予想よりも遥かに酷い。
最新の研究には触れても、現在の強さまでは正確には理解出来ていなかった。
読み切ったと思うと直ぐに新しい部分が見えてくる。
彼女たちもそのように戦っていたが、これほどまでに頻発はしていなかった。
これが世界ランクの1位であり、このような存在に諦めずに食い下がる。
現在のランカーは既にマスタークラスにいると聞いていたが、過小評価もいいところだ。
「若さ、それだけで説明は出来ません。――これは、私たちも変わる必要がある。そういうこと、ですか」
魔導に長く触れ合っていた自負があるからこそ、この変化に気付けなかった。
彼女たちのそれよりも魔導へ深く傾倒している。
強い想いという、ある意味で正しく魔導を扱う術を心得ていた。
「今は……認めましょう」
「はぁぁああああああああああああああああああッ!」
特殊な能力をただ前進するだけで粉砕する。
自分の固有能力が通用しなかったことに戦慄を隠せないが、事実は事実として受け止めるだけの度量がアルメダにはあった。
コーチという存在の意味。
教え導く、これだけでは足りない。
自らの変革が必要だと、強く理解出来た。
「学園長たちは、これが目的ですか。食えない奴らです」
「ごちゃごちゃと、うるさい!」
桜香の一閃がアルメダの胴を薙ぎ払い、ライフは一気に半分を下回る。
体勢を立て直そうにも、ここから逆転するだけの方法が彼女も思いつかない。
選択肢の豊富さと反比例する切り札の不在。
健輔が悩むのと同じ問題によって、アルメダは天から追放されることになる。
「今度は、負けませんよ!」
「いつでもどうぞ。私は、最強ですから。逃げも、隠れもしません」
憎たらしいほどに澄みきった表情で、最強の魔導師は断言する。
アルメダは笑い、その笑顔を胸に刻んだ。
雪辱は、必ず行う。
教え、導くという客観的な立場から負けられない魔導師の1人として、彼女は新たな戦いに臨む覚悟を決めた。
「九条、桜香。確かに、その名前を覚えました!」
「そうですか。アルメダ・クディール。私は、早くあなたのことは忘れたいです。本当に、優秀過ぎて困った頭ですよ。嫌なことも忘れられない」
「よく、言いました。必ず、必ず、私のチームがあなたの太陽を滅します」
女神の呪詛が響き、太陽は笑顔で受け止める。
勝者と敗者。
わかりやすい構図の2人の戦いは、見えている光景の通りに収束する。
「頑張ってください。努力は否定しませんよ。――無理でしょうけど」
絶対の自信と共に、桜香が斬り捨てて終わりに向かう。
空を奔った黒き剣閃が、女神を吹き飛ばして、不滅の太陽はまた1つ新しい『伝説』となった。
この敗戦は浮足立っていたレジェンドとウィザードに衝撃を与えることになる。
これからの戦いに第3者など不要――コーチでも当事者として立ち向かえ、という現役のこれ以上ないメッセージとして、確かに宣戦は布告されたのだった――。