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第4話『総力戦』

 相対する魔導師たち、先に動いたのは新入生たちであった。

 溢れる自信と怒りを胸に、目立つ3人を核として一気に攻勢に移る。


「魔力、全開! 絶対にぶっ潰す!」

「ま、前に出ます! 私、一応前衛ですから!」

「それなりに援護はするさ。後衛の端くれなんでね」


 連携のための速やかな情報共有。

 未熟なれど、彼女たちに出来る精いっぱいがそこにある。

 初めて出会ったメンバー、おまけにいきなりの戦闘だが随分と動きがよかった。

 明らかに1年前の健輔よりもレベルが高い。

 戦場に持ち込むには無粋な感情だが、健輔は素直に感心していた。


「いろいろと施策が変わったのは意味がある、ってことか。だがな――」


 外部生でも早期の診断によって回路の選択が出来るようになったりと、たった1年でも違いはそれなりに生まれていた。

 健輔たちは事前にある程度の情報は貰っていたが系統の本格的な確定自体は6月だったのだ。

 2ヶ月程度の差とはいえ、やる気があるものはドンドンと自分の意思で伸ばせるように制度が整えられている。

 しかし、早く行動に移すことが良い事ばかりではない。

 自らの非力さを感じる前に超人になってしまった。

 つまるところ、弱さ故に臆病さがそこには存在していない。

 どれほど早くとも直線的すぎる彼らの動きは、歴戦の魔導師である健輔には拙いものでしかなかった。


「――甘くないんだよ。魔導ってのは」

「え……」


 補助に動いていた前衛の1人に正面から近づく。

 見て取ったところ系統は身体・収束系辺りであろう。

 葵と似た系統であるため、その身体能力は確かに脅威なのだが世界で1番強い奴と殴り合った健輔から見ると普通、と言うレベルに過ぎない。

 如何なる身体能力も黄金の輝きには劣る。


「動作が早くても起点が普通のままだ。工夫しろ。ただ数値だけ上げても意味がない」


 直線的に過ぎる動きを読み切って健輔は懐に侵入する。

 密着した状態、0距離から相手の魔力に干渉を行い、


「術式展開『シールドブレイカ―』」


 身体を覆っていた魔力の膜を消し飛ばす。

 流れるような動作に周囲の面々は何もすることが出来ず、


「――これで、1つだ」


 開始早々に1人が撃墜されてしまうのだった。

 悪くはなかったが、よくもなかった相手を見せしめに仕留める。

 人が撃墜される瞬間というのはそれなりに衝撃的な光景となっていた。

 だからこそ、新人に見せ付けるのにこれ以上のものは存在しないだろう。

 勿論、形式上は試験なのだ。

 これから魔導に携わる新人を再起不能にすることが目的ではないため、恐怖から行動出来ない、などと言うレベルまで追い詰めるつもりもなかった。

 

「これで、どれくらい削れる――」


 かな、と言葉を続けようとした健輔の視界にあり得ないものが映る。

 固まっている前衛の新入生の後ろで、彼らごと吹き飛ばすかのような大型の砲撃を充填している姿がハッキリと見えた。

 1年生とは思えない魔力量。

 制御された強さではないが、圧倒的な暴力が顔を窺わせている。


「おいおい、まさか……」


 溢れんばかりの才能を持つ強気な少女――桐嶋朔夜は健輔がこの状況に気が付いたことを察すると歯を剥き出しにして笑った。

 同時に友人である栞里を含めて、前衛陣が対処どころか気付いていないにも関わらず極大の暴力を大地に顕現させる。

 放たれる2色の光には一切の遠慮がなく、当然ながら躊躇も存在していなかった。


「良い根性だな、この段階で味方ごとは俺でもやらなかったぞ!!」


 先輩に僅かたりとも臆した様子を見せない少女に好感を抱く。

 そのままそこに居るのなら、味方ごと吹き飛ばす。

 あれはそういうことを宣告した笑みである。

 健輔は建前上は試験官なのだ。

 なんでもする、全霊で戦う、と言っても当然ながら枷は存在している。

 本来ならばそういった枷を見抜いて、立ち回りなどを考えさせるのもこの試験の目的ではあった。

 同時にそんなものを考えずに健輔を倒すのもありである。

 倒してしまえば理屈などどうとでもなるのだ。


「来るかっ!」

「術式解放! 『マジックバスター』!」


 集った魔力が放たれて健輔に飛来する。

 発射体勢、練られた魔力、どれもが1年生とは思えないレベルの攻撃だった。

 

「なるほど、これが――」


 言葉を続けることは出来ない。

 健輔に向かってくる破壊の光。

 どこか懐かしさを感じる光景を前にして、健輔の身体は自然と前に出る。

 まだ前衛たちを撃墜される訳にはいかないのだ。

 彼らを潰すのは健輔であり、朔夜であってはならない。


「その選択、嫌いじゃないがな! 俺には通用しない!」

 

 真っ向勝負、健輔は正面から朔夜の挑戦を受け止める。

 佐藤健輔は強くなり、エースとなることを決意した。

 そんな彼がいつまでも自分の弱さを嘆くような在り方でいてはならない。

 世界ランク第6位。

 上位と下位の狭間――全ての魔導師にとっての境界に立つのが健輔の立ち位置なのだ。

 脳裏に描くのは戦い、勝利してきた魔導師たちの姿。

 彼らを負け犬にしないためにも、健輔は強くあらねばならない。


「見せてやる、これが世界の壁だッ!」


 立ち塞がる壁として、後輩の繰り出す全てを一切の容赦なく粉砕しよう。

 浮かぶ笑みは爽やかなものだったが、内心は物騒極まりない内容だった。

 迫る砲撃に健輔は一切怯むことなく、


「リミットスキル『回路掌握(サーキットコントロール)』発動」


 遥かな格上の技を以って、対峙することを選んだのだった。






 朔夜の渾身の砲撃。

 時期を考えれば十分な才能を感じさせる攻撃だったが、相手が悪かったとしか言いようがない。

 仮にこれが圭吾ならば撃墜とはいかずともダメージを与える可能性はあった。

 彼に限らず万全な状態の砲撃魔導師の砲撃を止められる人材は多くない。

 朔夜が砲撃魔導師となったのもそれが理由であるし、事実として彼女は強い部類だった。

 相手が対処能力において怪物である『万能系』でなければ、ダメージを与えられる可能性は十分にあったのだ。


「選ぶ魔力は『破壊』! 限定展開『黒の拳』!」


 杖型から拳を覆うように変化した魔導機に魔力を注ぎ込む。

 魔力に対して最高の対抗能力を持つ魔力キラー。

 それを纏っただけのおかしなところなど何もない普通の拳が朔夜の渾身が迎え撃ち、


「っ、栞里! 周囲も囲みなさいっ!」

「はっ、あっさりと防がれて直ぐに対処するかッ! 見所に溢れすぎだろうが!」


 あっけなく砕け散ってしまう。

 何が起きたのかを把握するよりも朔夜の檄が周囲に飛ぶ。

 相手は遥かな格上。

 圧倒的な自信と自負を持っていようと彼女はそれを認めることは出来る。

 1発で決着が付くなど微塵も思っていない。


「あなたは、あの近藤真由美の弟子でしょう! これくらいで、終わるとは思っていない!」

「よく言った! なら、期待に応えるとしようか!」


 そのまま徒手のまま健輔は朔夜に向かって攻める。

 味方ごと巻き込むような砲撃は悪くはないが、咄嗟に回避に動いた新入生と真っ直ぐに突っ込んできた健輔、どちらが先に朔夜へ辿り着くかなど火を見るよりも明らかだった。


「覚悟しろよ!」

「上等ッ! 私を、舐めるな!」


 短い言葉と視線が混じり合う。

 真っ直ぐと向かう健輔を朔夜が正面から受け止める。

 後衛の砲撃型魔導師が杖を頼りに健輔に抗おうとしていた。


「はっ、面白い!」

「はあああああああッ!」


 健輔の蹴りを突き出した杖が受け止める。

 交差する視線、そこに怯えはない。


「スフィアガード!」

「ほう、面白い! ここまで出来るのか」


 2人を囲むように魔力球が配置されて閉じ込めてしまう。

 自爆覚悟の包囲陣。

 此処に至って健輔は相手の狙いが読めた。


「お前、最初からこのつもりだったな!」

「勿論、私はあなたに五体満足で勝つ必要はないわ!」


 小気味のいい啖呵。

 少女の叫びに健輔は笑みを浮かべる。


「ああ、まったくその通りだな。――挑戦者は如何なる手段も尽くすのが、相手への礼儀だ」

「余裕を見せてっ! いいわ、ここで散りなさい! 発動『プリズンバースト』!」


 朔夜から大量の魔力が放出され、周囲に展開された檻の出口が閉じられる。

 殺到する魔弾は健輔と朔夜を埋め尽くしてしまい、栞里たちは中を窺うことは出来ない。

 四方から迫る大量の魔弾。

 仮にこれを防ぐことが出来ても目前で魔力を放とうとする少女は止められない。

 さらに、


「っ、これは……魔力干渉? バカな、遠距離でだと」

『ちょっと、俺たちを舐め過ぎですよ。俺は無名なんで、流石に系統まではわからないでしょう?』


 届く念話は健輔の気を逸らして朔夜の自爆を叩き込むためのものである。

 1秒にも満たない刹那。

 それでも向けられた念話から意識を背けることは出来ない。

 見事な連携、己を囮にする戦い方に、健輔は今度は苦笑を浮かべた。


「懐かしくも、同時に少々腹立たしいな。――未熟な俺を見てるみたいだ」


 閃光に消える刹那、健輔の声が響き激しい光が周囲の生き残りから視界を奪う。

 それは確かに新入生たちが全てを尽くして、健輔の予想を超えた瞬間だった。






「はぁっ、はぁぁ……や、やった?」


 光と煙の中から魔力を見せたのは朔夜であった。

 

「さ、さっちゃんっ! 大丈夫?」

「栞里、気を抜かないの! 私のあれはライフと引き換えの自爆じゃないわ。攻撃を避ける余地があるの!」

「う、うぅ、ごめんなさい……」


 友人を叱責してから朔夜は周囲へ意識を集中させる。

 栞里に語った通り『プリズンバースト』は自爆覚悟の技ではあるが自爆用の技ではなかった。

 健輔を確実に仕留めた自信など存在していない。


「あなた、確か探知は悪くなかったわよね? どう?」

「……感知範囲にはいない、と思うんだが……嫌な予感がする」

「……奇遇ね。私もよ」


 あれくらいで終わってくれるような相手が世界クラスと言えるのか。

 朔夜が目指した魔導があの程度なのか。

 渦巻く疑問と不安はある種、期待感と隣合わせのものだった。

 そして――、


「限定展開『鉄壁』。悪いな、俺もそれなりの修羅場は潜っている。命を賭けるつもりのない自爆じゃ、落とせないな。何より――」


 ――無傷で姿を見せた健輔に全員が驚きを隠せない。

 この時、健輔の行動に対応出来ただけでも朔夜は立派だった。

 ほとんど本能に従い杖を前に突き出す。

 それをあっけなく回避されて、慌てて引き戻すも、


「っ……間に合わな――」

「シルエットモード『破星の拳』」

「ガッ……!」


 クォークオブフェイト最強の拳を象った一撃が完璧に鳩尾に入る。

 飛びそうになる意識、それでも朔夜は健輔から目を逸らさなかった。


「私は……桐嶋、朔夜ッ! 頂点に立つ、魔導師だああああッ!」


 掌に直接魔力を集めて健輔の横合いから叩き付ける。

 予想以上の粘り、強靭なまでの精神力は素晴らしいまでの意地を見せていた。


「――その名前、確かに覚えた。歓迎しよう、盛大にな」


 フリーだった健輔の左手が朔夜の右手を叩き落す。

 行動力も志も悪くなくとも、敗れる時は敗れる。

 健輔の祈りが最強の想いに届かなかったように。

 朔夜はそんな当たり前をここで知ろうとしていた。

 

「ま、まだっ! わ、私はっ!」

「意気込みは認めるが――」


 今度は魔力を纏った杖が健輔に襲い掛かる。

 先ほどの攻防でもそうだったが、学年を考えれば標準を大きく超えていた。

 隠れた努力の痕跡が確かに窺える。

 それでも、健輔が本来は何処のポジションなのかを忘れてはいけないだろう。

 彼は前衛、相手とこのように戦うのが本職であり、あくまでも護身術の範囲を超えない朔夜の技では本来は相手にすらならない。

 ハンナほどに優れているのならばともかく恰好こそは様になっているが、それは様になっているだけだった。


「く、くそぉ!!」

「俺は前衛だぞ。――通じるかよ。ここが、お前の敗北だ。忘れるなよ。この悔しさをな」

「い、いやだ……ま――」


 最後まで言わせることはなく、鳩尾に健輔の肘打ちが完璧に入る。

 この一撃でで自分に絶対の自信を持っていた少女、桐嶋朔夜は敗北したのだ。

 リーダー格、そういっていいだけの原動力があった少女があっさりと粉砕された。

 動揺が走った1年生たちを責めるものはいないだろう。

 何より、その隙を見逃すような健輔ではなく。


「潰すか」


 殊更軽い感じの言葉と笑顔で健輔はそのまま次々と新入生を落としていく。

 統制を欠いた集団など烏合の衆でしかなく、なっけなく1人、また1人と撃墜される。

 クォークオブフェイトから見れば自然な淘汰。 

 わかり切っていた結末がそこには描かれていた。

 順当な結末へ向かって試験は加速していく。

 事実、この時、健輔だけでなく試合を見守っていた葵と和哉ですらもこのまま終わると思っていた。


「ちぃ、俺だけじゃどうにも出来ないなっ!」


 動けてはいたが、栞里はどう見てもリーダータイプではない。

 そして、残った男性生徒――白藤(しらふじ)嘉人(よしと)もまた、率いるタイプの人間ではなかった。

 彼の独力では健輔の跳梁は止められず、このまま試験は終わる。

 逆転の奇跡は起こらない。

 朔夜の撃墜にショックを受けたのか顔を伏せて浮かんでいるだけの栞里など論外であり、健輔も後回しにしていたほどだった。

 嘉人の気質を見抜き、周囲の戦力を削いで抵抗の手段を奪う。

 それで終わりだと、健輔は間違いなく判断していた。

 そこに、落とし穴があるなどと微塵も思っていなかったのだ。


「……さない」


 友人が落ちて気落ちしているように見える彼女。

 彼女が今、どんな状況でどんな魔導師なのかを知らなかったこと、それこそがこの試験における最大の危機を招くことになる。


「よくも、よくも……」


 可愛らしい顔には似合わない表情を浮かべて、川田栞里は咆哮する。

 鬼気としかいいようながない気迫は健輔でもほとんど感じたことのないものだった。

 ある意味で世界大会の決勝に匹敵するような悪寒を感じて、健輔は少女へと意識を向ける。 

 

「さっちゃんは、私のヒーローなのに、よくも、よくも!」

「え……ちょっ」


 何処から見ても大人しいだけの感じの少女だったものが、何故か笑顔の葵よりも恐ろしい気配を纏って自分に迫っていた。 

 

「は、へ!?」


 咄嗟に身体が動いたのは間違いなく日頃の練習のおかげだった。

 後は栞里以上に怖い女性を知っているからだろう。

 彼女との戦いの経験がなければ流石に対応出来たのかはわからない。

 真っ直ぐに拳を翳す栞里は既に健輔の射程圏内に入っていた。

 健輔側も徒手格闘で応戦する。

 基本的に格闘戦というものは経験が物を言う分野であり、才能だけでは勝てないのが常だった。

 昨年の健輔はあの手この手で敵の能力を削いだからこそ戦えたのであり、普通ならばああっさりとやられてしまう。

 普通、ならばそれは事実だった。


「ば……」

「やあああああああッ!」


 それは一瞬の攻防である。

 健輔が反射的に繰り出した拳を浸透系で魔力に干渉し、僅かに狙いを逸らしたのだ。

 そのまま栞里は流れるように手刀を健輔に向かって突き出した。

 

「やらせるかよ!」

「うるさいッ! 許さない、絶対に許さない!」


 手の部分だけを覆う形の手刀は健輔が思っていたよりも遥かに威力も自由度も高かった。

 腕全体を覆うように魔力が拡大し、栞里の小さな腕は名刀も斯くやと切れ味を持つことになる。

 健輔を両断するかのような肉で出来た太刀を魔力を全力で回してなんとか回避まで持ち込む。


「さっきまでと動きが!」

「はああああああッ!」


 健輔はなんとか体勢を立て直すも、相手はそれを許さないとばかりに連続で攻撃を放つ。

 左右から迫る連続攻撃に健輔から余裕が無くなる。

 何より栞里の手刀には障壁の効果が薄いのが辛かった。

 展開しようとする魔力が片っ端から干渉されてしまえば相手のメイン系統は想像が出来る。


「クソっ! お前、メインの系統は……!」

「落ちろ、落ちろ、落ちろおおおおおおおッ!」

「会話をしろよ!?」

 

 健輔と話すつもりなど微塵もなく、怒りと本能だけで栞里は的確に攻撃を詰みまで持っていこうとしていた。

 

「ええい、浸透系をメインとした肉弾スタイル! まさか、そんなバトルスタイルだとは思わなかったぞ! 顔に似合わな過ぎだろうが!」

 

 栞里の攻撃手段は基本肉体であり、浸透系で敵の魔力や周囲に漂っている魔力を使い防御や攻撃などの威力増加に利用する。

 最小限の魔力で最大の戦果を出すために魔力を一定の部分に集中させるだけの制御力もあった。

 外見からはまったく想像出来なかったが、相当なレベルの前衛魔導師である。


「うおおおおおッ!」

「うるさいッ!」


 突き出される手刀を受け流すが、紙一重な上に段々と突きが鋭くなっているのも感じていた。

 健輔も戦闘センスはある方だが、格闘に関しては明らかに眼前の少女に負けている。

 チーム内ならば長ずれば葵に匹敵する攻撃的な前衛に成れるだろう。


「末恐ろしい! 同時に頼もしいな! だが、今はまだ負けてやれんッ!」

「ごちゃごちゃとッ! 早く、落ちて――……え、剣?」


 怒りに囚われている栞里では気付けない絶妙なタイミングで健輔は背後に剣群を召喚する。

 剣を自在に操る戦闘スタイル。

 みっちりと学んだ戦い方は世界戦を経てようやく彼の血肉となっていた。

 陽炎抜きでも再現できる数少ないバトルスタイルである。


「終わりだッ!」

「さ、さっちゃん――!」


 栞里に剣の群れが迫るその瞬間、僅かに健輔の魔力が鈍る。

 蚊に刺された程度の不快感だが、不快なのは間違いない。


「――魔力干渉、またお前か!」

「俺らの希望、簡単にやらせるかよ!」


 健輔は本能の命ずるままに剣の進路を変更する。

 周囲に集まった魔力の気配は霧散するが、代わりに栞里の脱出を許してしまう。


「浸透・遠距離系! 相手の力を下げるタイプか、面倒臭い奴だな」

「ありがたい能力ですよ、先輩。おかげで格下でもやりようがある!」


 栞里を援護するかのように健輔の周囲に多数の魔力弾が現れる。

 勝負を決めに掛かったところを狙うなど抜け目がないのもポイントが高い。

 栞里の暴走を勝機と見た判断力も悪くなかった。


「まったく、本当に面白い奴らだな」


 既に存分に輝きは見せてもらったと思っていた。

 なのにまだやるというならば、健輔も手を抜くのは失礼だろう。


「せっかくだ。見せてやるよ、俺の戦い方。いくぞ、シルエットモード――」


 後輩たちの知恵と力を振り絞った戦いに健輔も興が乗って来ていた。

 見極めはもう十分と判断し次のステップに戦いを進める。

 世界ランカー、その言葉の意味を新入生たちは物理的に叩き込まれていく。

 頂点に立つ10人。

 その中では1番厄介な存在が全力を示そうとしていた。

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