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第3話『試験』

 始業式から数えて2日目。

 まだまだ学校には慣れていないだろうに、いきなりの呼び出しに集まった新入生たちはざわついている。

 自信ありげな者、へらへらとしている男子生徒など様々な反応を見せる魔導師の卵たち。

 集まった新入生たちの前で葵が細かい説明を行っている。

 その場に自分がいないのが不思議になるほど、その光景は健輔が覚えているものと重なっていた。

 健輔は懐かしい気持ちに自然と笑みが浮かび、記憶は1年前へと旅立つ。


「……俺もあんな感じだったのかな。いや、もうちょっとあれだろ、引き締まった表情をしていたはずだ、うん」


 基本的にチームへの加入試験は各チームの裁量に任されており、毎年同じことをするという訳ではない。

 クォークオブフェイトも内容自体は昨年と異なっている。

 しかし、葵があのように説明をしていたのは去年も同じだった。

 あそこから健輔の魔導が始まったのだと考えれば感慨深くなるのも仕方ないだろう。


「今度は見定められるんじゃなくて、見定める側か」


 これから行われるのは、新しいメンバーを決めるための戦い。

 健輔に求められるのはかつての葵と同じ選別眼だった。

 猛烈なパンチを腹にくれた女傑は何も参考にならないが、健輔は健輔なりにチームに必要な人材を考えてはいる。

 後はそれに見合うだけの後輩がいてくれることを祈るだけだった。


「はてさて、期待に応えてくれよ? 我が後輩たちよ。俺よりは恵まれた奴もいるだろうし、それなりのやる気は見せて貰わないと。葵さんもそれなりに焦れているみたいだし、ここらで良い感じの流れが欲しいし」


 学校が始まって即日こちら側からの自発的なアクションを行うなど、葵らしい拙速だと言えばそうなのだが、逸りすぎているという印象もあった。

 葵には似合わない話だが、どうやらそれなりに焦っているようである。

 焦り、と言っても切実なものではない。

 ちょっと気が急いている、そんなものではある。

 とはいえ、健輔の知っている藤田葵に似合わないのは疑う余地がない。


「もうちょっと腰を据えるかと思ったんだけど……」

「あいつにしては、まあ、確かに急いでるな。新メンバーの質に気を掛けるよりもリターンが大きいと考える何か、とかな」


 1人で悩む健輔に声を掛ける人物。

 眼鏡を装備した知的な男性がそこにはいた。


「和哉さん。観察ですか?」

「そんなところだな。藤田は放っておくと何処に行くかわからんからな。ストッパーは俺しか残っていないし、顔ぐらいは出しておくべきだろう?」

「お疲れ様です。頑張ってください。俺に被害が来る前に」

「暴走に巻き込まれるのが確定しているお前を救うのは不可能だな。お前がある日、突然に魔導をやめるくらいの奇跡が必要だ」

「そ、そこまでのものではないと思うんですけど……」


 最上級生となったチームの頭脳の1人は、雰囲気に違わず冷たく言い切る。

 常に冷静沈着。

 必要ならばチームへの苦言も行う男は昨年度よりもキレを増していた。

 増していたが、そんな和哉も少し浮き足だっているように見えるのは気のせいではないだろう。

 表向きは3月には真由美たちは一線を引いていた。

 しかし、表に立つ葵を支えるようにあの頃はまだその場にいてくれた。

 既にその笑顔は去り、今は自力で全てをこなさないといけない。

 それなりの気負いがあるのだろう。


「そんなことはどうでもいい。此処にいるのはもう1つ、我らの自走式核地雷に釘を刺しておこうと思ってな」

「そ、そんなこと……。というか、自走式核地雷って誰ですか? 葵さん?」

「あいつは蛇行する自然災害だ。お前だよ、お前」

「え……葵さんと俺ってカテゴリー一緒? え、ホントに?」


 衝撃を受ける健輔だが、和哉はそのままスルーする。

 まだ突っ込みを入れてくれるだけ美咲の方が優しい反応だろう。


「せ、セメントはこれだから……」

「それで、実際のところどうなんだ? いくつか縛りがあるんだろう?」

「余計な話を入れて俺をからかわないで、最初からそっちを聞いてくださいよ……」


 健輔は大きく溜息を吐き、


「こっちも成長してますよ。それに先輩になる訳ですし。いいところだけを見せたいじゃないですか。和哉さんたちもそんな感じだったんですよね?」

「先輩が完璧超人ではなく、等身大に見えてきたのなら、確かに成長だな。お前にも周りを見るだけの余裕が出来たか」

「……まあ、負けるといろいろとグサッ、と来ましたからね」


 なんでもないように言うのにそれなりに時間が掛かったが、健輔は既にあの出来事を過去にしていた。

 健輔に敗北を齎した女性はかつて彼が砕いた女性である。

 その因果は健輔が越えるべきものだった。

 後輩の頼もしい姿に和哉は、


「良い機会だったよ。あそこで勝つのも悪くないが、負けたのもそれはそれで問題ないさ。今のお前は良い感じに安定している」

「そんなものですかね?」

「ああ、常時あのテンションはな。今だから言えるが、空気に酔っていただろう? 自己を制御出来ないようでは、頂点は掴めんよ」


 世界大会中は空気もあったが、少々血の気が強かったことは健輔も自覚していた。

 己の衝動を完全に制御し、爆発させることに意味がある。

 流れに乗るのは重要だが、それだけではダメだとあの戦いは教えてくれた。

 『最強の太陽』のように流れすらも破壊するレベルの魔導師ではなければ、頂点には手が届かないのだ。

 

「そうですね。……今更ながらに皇帝の凄さを実感してますよ。ランカーになってプレッシャーが半端ない」

「負けにくい称号だからな。……負けられない、まではいってない分まだマシさ」


 無敗の王者が背負った重荷などそれこそ想像すらも出来ない。

 健輔もそれには素直に賛同できた。


「ですね。だからこそ、超えたいと思いますよ」

「ふっ、頼もしい後輩だな。ああ、お前ならやれるさ。そのためにも、卵程度に手傷を負うなよ」

『お~い。ボーイズトークをしてる御2人さん、時間ですよん。葵の説明が終わったから、そろそろ始めるよ』


 良い感じの空気を作る2人に割って入るように香奈の声が届く。

 視線を移せば、グラウンドでは既に戦闘用の準備が始まっていた。


「了解です。じゃあ、和哉さんまた後で」

「ああ、頼んだぞ。しっかりと卵どもを潰してやれ。現実を教える――大事な仕事だぞ」

 

 和哉の言葉に健輔は無言の笑みだけを返した。

 どんな戦いでも手を抜くつもりはないし、負けるつもりなどもっと存在しない。

 この1年、公式戦で負けないと誓ったのだ。

 ただの1度の敗北も自分には許されていない。

 何より、去年の自分になど負けてやるつもりはなかった。


「ご期待ください。殻は叩き割ってやりますよ。無理矢理にでもね」

「はっ、言うな。いや、そっちの方がらしいのか。しっかりと武器に出来るように、衝動を制御しろよ?」

「わかってます。じゃあ、今度こそ」

「行ってこい。――全力でな」


 和哉の言葉に今度は背中で返事を行う。

 それだけで伝わるとわかっていた。

 佐藤健輔はいつであろうと、なんであろうと全力である。

 それ以外の方法など知らないし、知るつもりもなかった。


「陽炎は抜き。今の俺だけでどこまでやれるかな」


 頼れる相棒はおらず、リミッターの解除も出来ない。

 縛りに縛りを重ねた身で健輔は戦場に臨む。

 公式戦――という訳ではないが、相手は真剣なはずだろう。

 去年の彼がそうだったように、自信と夢を携えて挑んでくるはずだ。


「っと、忘れないようにしないとな。俺も向こうの合格基準は教えてもらってないし」


 今回の戦いは一応採用試験なのだ。

 それと同時に敗北を知った健輔の復帰戦でもある。

 葵が健輔に合格の基準などを伝えていないのもその辺りが理由だとわかっていた。

 読み取ってみせろ、と言外に挑発されているのはわかっていたし、期待されているのも理解している。

 そして、期待されたのならば、それ以上の成果を出すのが健輔の誇りである。


「相手を倒して、かつダメージはなし。その上で、奥にあるものをひっぱり出す、か。中々に無茶ぶりだな。ああ、でも――」


 ――だからこそいいのだ。

 やはりこのチームは自分に良く合っている、と今更な感想を胸に健輔は赴く。

 健輔が予想した合格ラインは勝利、もしくは1撃入れる辺りだと踏んでいる。

 そのことを念頭に置きながら立ち回り方を確定させた。


「よっしゃ、やるか」


 殊更に軽く健輔は意識を戦闘用に切り替える。

 下級生たちにとっての悪魔が静かに戦場へ投入されるのだった。






 葵がわざわざこれほど早くに新メンバーを決めようとしたのは、それなりの理由が存在している。

 まず、人数的な問題が最低限は解決している、ということが大きい。

 残りは1人、もしくは2人ほどでいいのである。

 葵の考えとしては、これからチームについて調べるタイプの魔導師ではクォークオブフェイトについてこれないと思っていた。

 興味が薄い、悪いとは言わないが機会がないと動かない者は葵の好みではないのだ。

 生意気なくらいでいい、自分で機会を作ろうとするものに彼女は価値を見出していた。


「そう、理由はどうでもいいわ。モテたい、とかそれこそただ自分の凄さを誇示したいでも構わない。問題はそれを貫けるかどうか」


 葵は自分の直感を信じている。

 人それぞれ、魔導との関わり方は好きにすればいい。

 問題は葵たちクォークオブフェイトが理想としているのは、普通にやっていたら届かないレベルの話であるということだった。

 中途半端はいらないのだ。

 

「面白そうなのもいるし、今回のこれは成功かな?」

 

 こちらを睨みつけるような元気のある後輩は葵の好みである。

 小柄なショートカットの1年生を記憶に残して、彼女はその場を後にした。

 彼女が姿を消すことが開戦の合図。

 チームのジョーカーである存在が、何をするのかなどハッキリとしている。


「既にフィールドは展開済み。武装も完璧。呑気に立っていて大丈夫かしら? 私は、私がいなくなったら、試験開始って言ったわよ」


 白い閃光が天から降り注ぐ。

 開幕の1撃。

 挨拶代りの砲撃がこの戦いの始まりとなる。

 葵は天を見上げて、空に坐す後輩に視線を送った。


「そうそう、それでいいわよ。いい感じに追い詰めなさいな。運もまた1つの強さ。私は否定しないわ」


 尊敬する先輩とよく似た杖の構え方に微笑みを零して、葵は戦場を後にするのであった。






 警戒をしていなかったと問われば否と返す。

 桐嶋朔夜は間違いなく警戒していた。

 唐突に集められて、戦闘用の装備に身を包めて言われて、戦闘フィールドが展開されたグランドにいる。

 その状態で説明が終わったので、何もありませんなどと言う言葉を信用するものはほぼいないだろう。

 だからこそ、朔夜はしっかりと全方位に意識を集中させていたのだ。

 つまり、その白い閃光は朔夜の感知を完全に凌駕して叩き込まれたということになる。


「クソっ、こんな、いきなり!」


 集まっていた人数は20人ほどであり、チームのネームバリューを考えればそれほど多くない。

 中には朔夜も名前を知っているような存在もおり、それなりに対抗心を燃やしていたのだ。

 それが、僅か1撃で半数を割っている。


「さ、さっちゃん! どどど、どうしよう!」

「栞里、慌てる前に立て直しなさいッ!」


 情報は常に最新のものを集めるように気を使っていた。

 だからこそ、打倒目標のチームが早々に募集を行った時はチャンスだと思ったのだ。

 自分の力、才能を試すのにこれ以上ないほどに素晴らしいタイミングでの募集。

 ここで実力を見せて、1番強いであろうあの『妹』と戦う。

 彼女の目標、最強の魔導師を目指す上においてその経路は問題ないと思っていた。

 朔夜は最強の魔導師に勝ちたいからこそ、2番目に強いチームに入りに来たのだ。

 あくまでも見据える本命は『アマテラス』。

 天祥学園最強のチームであり、ここ『クォークオブフェイト』は通過点――のはずだった。


「もう一撃! チャージが早い……! それに、どこから撃ってるのよッ!」


 迫る攻撃を必死に回避しつつ、朔夜は必死に頭を回転させる。

 彼女とて万事順調に行く、と考えていた訳ではない。

 桜香の打倒など簡単にいくものでもなく、それなりの年月は覚悟していた。

 クォークオブフェイトに来たのも実際に体感することで何かが変わるかもしれないという期待があったからだ。

 世界第2位、という肩書を舐めてはいなかった。

 圧勝、などとは言わないし、簡単にいくとは思っていない。

 それでも自らの才覚ならば、敵も無碍には出来ないという想いがあった。

 砲撃を撃ちこまれるまでは、僅かながら憤りがあったのだ。

 どうして、自分が申し込んでいるのに試験などを行うのか、と。

 思い上がりも甚だしい思考回路。

 今更ながらに隔絶した技量を見て、朔夜は認識を大きく改めることになる。

 何故ならば、この攻撃を行った相手は1人しか存在していないからだ。


「魔力色が『白』、そしてこの砲撃精度……つまりっ!」

「く、来るよ! さっちゃん!」


 栞里の警告に従い、朔夜はその場から離脱する。

 迷いのない行動、それこそが彼女の身を守った。


「な、なんなんだよ!?」

「どうして……!? し、試験は一体……」

「バカ! そのまま突っ立ていたら、良い的でしかないでしょうが!」


 何も出来ずに光に飲み込まれる同輩に怒声を飛ばすが、意味はまったく存在していなかった。

 砂埃は舞う戦場で理由なくこの場に来た者たちが1人ずつ潰されていく。

 あらゆる戦場に適応する能力と驚異的な戦闘センス。

 万能系という希少な力を直接的な戦闘で最も上手く使いこなす者。


「これが、世界ランカー。第6位――『境界の白』佐藤健輔っ!」


 クォークオブフェイト、2年生――佐藤健輔。

 世界ランク第6位『境界の白』。

 単体でも下位ランカー最強の存在として、同時に上位ランカーすらも喰らう者として、絶対的な上位陣との『境界』を司る者。

 数多の魔導師にとって最悪の壁となる魔導師の技が朔夜を――否、新入生たちを容赦なく狙っている。

 

「さっちゃん、次は右! 魔力の流れがおかしい!」

「っ、了解!」


 戦慄を隠せない朔夜を他所に戦場は変化を続ける。

 大規模な魔力砲撃、されどどれだけ探しても砲手が見当たらない。

 まるで砲撃だけ何処からか飛んできているかのように突然現れるのだ。


「あり得ない! こんな見晴らしのいい場所で、どうして見失うのよ!?」


 戦闘フィールドはどこの学校にもあるグラウンドなのだ。

 障害物はなく、見えない場所など存在していない。


「どこから――」

「……焦りすぎじゃないの? あそこにいるじゃないか」

「な、何よ!」


 背後から声に朔夜が慌てて振り返ると、そこには1人の男子生徒の姿があった。

 ポケットに手を入れたリラックスした姿勢で佇む姿に朔夜は目を細める。


「あなた、相手がどこにいるのかわかるの?」

「……ま、まあ、多分だけどね」


 そう言って、男子生徒は指を天に向かって示す。

 

「そこは、もう探し――」


 た、と続けようとした朔夜の声を他ならぬ、敵手が肯定する声を放つ。


「正解だな。お前、良い目をしてるよ。1年生に見つかるとは、俺もまだまだだね」

「さ、さっちゃんっ……」

「う、嘘……」


 男子生徒が示した場所から健輔が姿を現す。

 それは簡単な手品である。

 周囲の魔力と一体化するフィールドを形成して、内部でチャージし、発射の瞬間だけ転移を発動させていたのだ。

 よく集中していれば、世界クラスの魔導師ならば不自然な空間に気付けただろう。


「ふむふむ、予想よりもいい感じだな」


 健輔による一連の行動で多くの新入生が既に篩に掛けられた。

 残っているものは既に数人。

 朔夜と栞里を入れて、両手の指の数に届かない。

 

「8人か。ま、それなりに残った方だな」

「これが、試験ってことですか? 先輩?」


 健輔の居場所を暴いた軽薄そうに見える男子生徒の1人が硬い表情で問いかける。

 いきなり空から砲撃をぶちかます相手に友好的な方が珍しいだろう。

 むしろ、目の前で戦意を高めている相手に問いかけられただけ彼は勇気があった。


「ああ、試験だな。一応、会話の裏を読む、っていうのもあったが……。細かいところは合格したらもう1度聞いてくれ」

「りょーかいです。……俺は美人が多いって言葉に釣られてきたんですけどね。中々にぶっ飛んでいる人みたいですね。あの美人さん」

「おっ、お前は運がいいな。そういう理由で生き残っている辺り、見どころがありそうだ」


 暢気な2人の会話を聞きながら、朔夜は体内の回路を起動させる。

 あのまま攻められていたら何も出来ずに負けていただろうが、男子生徒との会話のおかげで時間に余裕が生まれた。

 余裕が生まれると同時に彼女の中で強烈なまでの戦意が顔を出す。

 先ほどまでの想いは遥か彼方へ少女は怒りに胸を焦がし表情を歪める。


「その余裕、圧し折ってやる」


 驚きから戦意が消えていたが、いいようにされてしまったことを自覚すると途端に怒りが湧いてくる。

 わかりやすいまでの上昇精神。

 桐嶋朔夜は負けるのが我慢できない女だった。

 相手がなんであれ最終的に勝つのは自分だと信じている。

 頭に血の昇った彼女の中で先輩だの、相手の実力だのと言った理屈の部分が消えていく。

 衝動の赴くままに、力を蓄えて、爆発させようとしていた。

 そんな彼女の様子を見逃す健輔ではない。

 わざわざ姿を隠した上で、魔力を追跡もさせずに運とセンスのない者たちを撃墜したのにはそれなりに意味があるのだ。


「いいね、やる気だな。ああ、お前も時間稼ぎご苦労さん。結構ポイント高いぞ。本気で潰してやろう」

「はは……ちょいと洒落にならないっすね。――でも、簡単に潰せると思わないで欲しいっす」

「先輩だか、なんだか知らないけど私を舐めるような奴はここで潰す!」

「さ、さっちゃん……がやるなら、私もやるもんっ!」


 2色の魔力が朔夜を覆い、彼女の力を世に顕現する。

 赤と桃の2つの暴力が彼女の手に展開された魔導機に注ぎ込まれて、戦うための力へと洗練されていく。

 親友の臨戦態勢に栞里も呼応して、魔力を充溢させていった。

 灰色の輝きが小柄な少女を覆い、2人の美少女が最初に戦闘態勢に移る。

 彼女らに触発されるかのように他の生き残りたちも武器を展開し始めた。

 既に選別は終わっている。

 ここからが本試験だとばかりに、健輔は片手でかかってこいと挑発を行った。


「……さて、初手はくれてやる。精々、自分の能力を発揮できるように努力するといい」

「言われずとも! 器用貧乏如きが、私を舐めないでッ!」

「あぅ……! で、でもっ……さっちゃんを馬鹿にするのは許さないです! 先輩、覚悟してください!」

「女がやる気なのに、俺だけ引いたりとか出来ないっしょ。それに、先輩は殴った方がいいような気がするので、無難にやりますよ」


 後輩たちの思った以上に頼もしい言葉に健輔は満面の笑みを浮かべる。

 そして、同時に理解した。

 真由美や葵が啖呵を切る度に嬉しそうにしていた理由はこれだったのだ。


「こい、後輩。俺たちの夢について来れるのか。――俺が判断してやるよ」


 負けず嫌い対負けず嫌い。

 試験であるという建前を投げ捨てて、両者は全力でぶつかり合うのだった。

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