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第27話『2人だけの世界』

 雷光が空を駆ける。

 右手には魔導機、左手には魔力剣。

 左右非対称の武具を構えて、戦乙女が縦横無尽に戦場を駆ける。

 受け止めるのは、変幻自在の男。

 経験と勘のみで自然現象に等しい暴雨を凌ぎ切る。


「はああああああッ!」

「うおおおおおおッ!」


 剣が一閃する度に空に描いた軌跡から雷が迸る。

 予兆のない弩級の火力。

 発動を知った時には既に遅い。

 万能系であろうとも対処出来なければどうしようも出来ない自然の驚異。

 また単純な質の問題だけではない。

 変則的な2刀流によって攻撃頻度が著しく増加したクラウディアの猛攻、つまりは数の上での暴威も忘れてはならなかった。

 質と量、どちらも突き詰めているがあくまでも全てがクラウディアにとっては呼吸に等しいもの。

 基本通りの型に過ぎないのだが、それだけで凡百の魔導師を圧倒していた。

 そして、基本を突き詰めた技だからこそ奇策での突破を許さない。

 健輔にとっては最悪に近い解答、圧倒的な才能と努力によるゴリ押しがそこにはあった。


「ふ、ふ、ふはははっはは! いいな、流石だ!! それでこそ、クラウディア!」


 絶望的な差、普通ならば絶望する光景を前に健輔は喝采の笑い声を上げる。

 狂ったかのように見える振る舞いだが、これが平常運転でありむしろようやくエンジンが掛かってきたと言うべきだろうか。

 証拠として、恐ろしいことに予兆など完全に存在しない攻撃に迎撃し始めていた。


「なんという……!」


 状況だけならば健輔が圧倒されているのに、心情的には完全に逆転している。

 クラウディアが正しく導き出した答えを非常識で爆走して、斜めから破壊するのだ。

 健輔の彼女に対する対処方法は簡単である。

 経験上、健輔は魔力の流れには敏感であり、目には見えずとも肌でなんとなくだが変化の予兆を捉えることは不可能ではなかった。

 後は勘で適当に拳を叩きつける。

 破壊系を纏い拳以外の防御を完全に放棄した攻撃は掠れば即撃墜だった。

 しかし、健輔は既に10分を超えてこの綱渡りを続けている。


「恐ろしいを通り越して、感動すらしそうですよ! 私の技が、正面から覆されるなんて……!」


 声には喜色が浮かんでいた。

 もしかしたら、このまま勝てるのではないか。

 僅かな寂寥と確かな喜びがあったが、現実は想定を完全に凌駕していた。

 感動で瞳が潤むほどに、彼女は興奮している。


「やはり、この程度では足りない――!」

「ハッ! 当然だ――俺を誰だと思ってる!」

「なるほど、理解しました! しかし、私もクラウディア・ブルームだ!」


 急速に高まる戦意は相手が勝負に出る証。

 速度をそれまでから一気に引き上げて、雷光が白兵戦を挑んでくる。


「――来るか!」


 迎え撃つ男は口角を吊り上げる。

 逃げも隠れもせずに、正面からの相対をあえて選択した。


「受け止めてくれると――」


 それを見てクラウディアは満面の笑みを浮かべた。

 彼女にとっての必殺のパターン。

 ここで健輔を仕留めに掛かることに否はない。

 これすらも超えられるかと、心の片隅で期待しながらも冷徹な瞳は確かに男を射抜いていた。

 挑戦状に等しい視線を健輔は笑って受け止める。

 是非もない。

 相手がわざわざ最高の攻撃だと宣言して攻めに入っているのだ。

 掛かってやるのが男の甲斐性だと彼は信じて疑わない。


「信じていました!」

「当たり前だ!」


 ぶつかる剣と拳。

 クラウディアの攻撃を前にして健輔が防御を捨てる。

 障壁の自動展開、その他全ての防御機構をカットして系統を破壊系と身体系に絞った。

 破壊系は拳に集中展開、本来の破壊系ならば不可能な所業だが万能系たる健輔は1部だけを別の系統が覆うことが可能である。

 攻撃を行う部分だけに破壊系を集中させることで疑似的にだが香奈子の固有能力を保持しているのと同じ状況を再現した。

 

「見事!」


 健輔の覚悟を誰よりもクラウディアが賞賛する。

 雷撃の前に裸で飛び出す所業、掠れば終わる状況で受け止めてくれる器にクラウディアの瞳が輝く。

 これほど素晴らしい男性に彼女はまだお礼も出来ていなかった。

 よって、一切の余力を残さずに潰す。

 この結論に迷いはない。


「はっ――!」

「はあああッ!」


 無拍子の雷撃。

 放たれれば終わりの雷光の一閃を剣を交わせる距離で迎撃し続ける。

 敵であるクラウディアこそが最も見惚れたと言う他ないだろう。

 この状況で健輔に恐れも、躊躇もない。

 見据えるのはクラウディアの撃破だけ、極限の集中力は周囲の戦況も頭には入っていないのだろう。

 健輔の瞳を、今だけはクラウディアが独占している。

 そのことに少しだけの羞恥心を覚えつつ、クラウディアは決着を付けるために動く。


「ここです!」

「っ!」


 繰り返した剣戟の間隙を突く雷撃。

 健輔の技は驚異的だが、穴がない訳ではないし穴がないなら作り出すのがエースというものである。

 どれほど注意していようとも、繰り返された動きにレベルが高いからこそ咄嗟の判断は誤魔化せない。

 防がれつつ、おまけに動きを学習されながらも生み出した最後の好機。

 0距離からの雷撃は自爆覚悟での一撃である。


「舐めるなッ!」


 しかし、それすらも健輔は気合で防ぐ。

 咄嗟に破壊系の部位を移動させて膝で攻撃を掻き消す。

 最後の好機ですらも健輔を仕留められない。

 必殺を逃したタイミングは自然と仕切り直しの距離を健輔に与えてしまう。

 攻め切れなかった――、健輔すらも頭の片隅で判断したその瞬間に、


「――それを、待っていました!」


 確信に満ちた声、クラウディアの手に添えられた魔力剣が巨大な雷の槍となる。

 剣にして、大規模火力を圧縮した追尾型の術式。

 これこそが変則バトルスタイルの片割れ。

 1発限りの上に放てば再構築まで彼女は新しい戦い方を失う諸刃の刃だった。

 その分威力は絶大であり、健輔の意識は眼前の脅威に埋め尽くされる。

 この攻撃から目を逸らすなど不可能であろう。

 感じられる魔力の容量はフィーネのヴァルハラすらも上回っている。

 完璧なタイミング、最高の攻撃。

 大凡必殺に相応しいのだが、それでもまだ一手足りていない。

 相手は万能系、現在の健輔は破壊系を身に纏っている。

 どれほどの攻撃であろうが純魔力である以上は彼を倒せない。

 公式として間違っていない戦況の判断、仮に何も知らずにこの状況を見た者がいるとすれば、健輔の逆転を想像しただろう。


「まさか!」


 だからこそ、誰よりも焦っている男の態度が現状の齟齬を教えてくれる。

 破壊系は魔力による攻撃を恐れる必要はない。

 変換系であっても、この原則は変わることはないのだ。

 ならば、健輔が畏れを示す理由はたった1つであろう。


「リミットスキル――発動! 『魔力物質化(イマージュ・リアライズ)』」


 魔力を現実に降臨させる創造系のもう1つのリミットスキル。

 健輔が掴んでいなかった情報だが、変換系の変則的な練習を繰り返したクラウディアは極めて珍しい事例だが、新しく創造系を獲得していた。

 保持する系統が3つに増えたのである。

 全てを察して、健輔は高らかに笑った。


「ふ、ふふふははっははっ!」


 侮っていたつもりはないが、想像以上に強くなっていた。

 このままだと撃墜は避けられない。

 確定された未来に、健輔の魂が震え出す。

 『雷光の戦乙女』――自分の友人はなんてすごい奴なのかと心の底から感嘆した。

 基本的な部分は何1つとして変わっていない。

 物質化を使えた、それはただ破壊系に強くなっただけであり彼女の武器は今も昔も正当な在り方である。

 変則的な2刀流も変化の本質ではないのだ。

 徹底された基礎と計算された戦闘論理が彼女を此処に運んだ。

 才能だけでは絶対に至れない境地をまざまざと見せつける。

 才能と努力、そして運と気合を兼ね備えた最大クラスのライバルが全霊の一撃を振り下ろす。


「まったく、なんて奴だよ。凄いな、クラウディア!」

「お褒めにいただき光栄ですが――」


 満面の笑みの健輔に花が綻んだような優しい笑顔を見せて、彼女が無慈悲に結末を告げた。


「――堕ちてください。健輔さん」


 轟音が鳴り響き、閃光が世界を覆う。

 雷神の一撃は確かに、世界へと放たれたのだった。

 何もかも白く光り、色を失くしていく。

 会心の一撃、誰もが緩むであろうタイミングで、クラウディアは悲しそうに破顔する。


「ああ、やっぱり――」


 音が戻り、急速に現実感を取り戻していく中、クラウディアは脇目も振らずに中心部へと駆け抜ける。

 確信があった。

 混ざり合う感情の渦は彼女でも判別出来ないが、1つだけ確かなことがあるのだ。


「あなたは、生きている!」


 駆け抜けた先には、特殊な円陣でクラウディアの攻撃を完全に受け止めた姿。

 自慢げな表情で、今度は健輔が彼女に進歩を見せ付ける。

 変わったのは、お前だけではない。

 吊り上げた口角がそのことを主張している。


「さあ、いくぞ! 決戦術式『クォークオブフェイト』!」


 かつて皇帝すらも制した健輔の最強の術式が目覚める。

 チーム全員で成し遂げた技をクラウディアから受け止めた力だけで成し遂げる。

 飛躍的に向上した魔力の制御と切り札だった一撃を完全に吸収したからこそ、健輔は再び『不滅の太陽』に匹敵する魔人へと生まれ変わるのだ。

 純白を身に纏い原初の可能性を、雷光へと振り下ろす。


「可変しろ!」

「っ――!」


 力が足りなかった男に極大の力が宿る。

 この危険性をわからぬものは存在しないだろう。

 対してクラウディアは弱っているのだ。

 押し切られるのは目に見えていた。

 ただの魔力砲撃だったはずの攻撃が、雷撃へと変わるのを見て確かに劣勢を自覚する。


「ふふっ」

「お前……!」


 今度は健輔が驚く番だった。

 完全な逆襲、必殺を覆すジョーカーだったころの戦法とエースとしての矜持の融合。

 確かに健輔は成長していた。

 そして、クラウディアはそうだろうと信じていたのだ。

 

「あなたが、そうすると――信じていました!」


 叫びは恐怖からのように見えたが、喜色にも溢れていた。

 健輔の異常はこの瞬間に起こる。

 相手の魔力と急激に同調が始まっていく、共鳴のような状態に至った時、相手の狙いがわかった。


「おいおい、マジか!?」

「決戦術式、お借りします! リミットスキル――発動!!」


 完全に汎用性が皆無の健輔を撃ち滅ぼすだけの空間展開が発動する。

 効果はいたって単純。

 自分の魔力と同調する存在まで、自分を高める。

 健輔がクラウディアの力を逆用しなければ何も意味のない能力。

 しかし、ここでは最悪の意味を持つ。

 純白を纏う怪物が、ここにもう1人降臨するのだ。

 

「信じていましたよ! あなたがそうしてくれると!」

「最高にアホだな! だが、期待に沿えて嬉しいよッ!」

「言いましたねッ! だったら、全部受け止めてください!」


 元はクラウディアの魔力のため、同調には何も問題なかった。

 お互いがお互いを高め合い、刃を交えるという訳のわからない状況で2人は楽しそうにぶつかり合う。

 違いはお互いが築き上げた技しかない。

 強力な力を手渡しあいながら、決して決着のつかない果てへと2人は駆け上がるのだった。










 2人が自分たちの世界で楽しんでいる間に同時刻、劣らぬレベルの戦いが繰り広げられていた。

 2対1という状況で、1歩も引かぬ頂上決戦。

 流石の先代太陽――藤島紗希と言うべきだろうか。

 女神と夢幻を前にして、数的不利を抱えて対抗できる魔導師の数を考えれば、これがどれほどの偉業かは簡単に理解出来る。


「紗希さんッ!」

「優香ちゃんッ!」


 優香の虹色の双剣を3色の魔力糸が絡め取る。

 対人戦闘能力、特に白兵戦は紗希が最も得意とする戦場なのだ。

 相手が桜香に近しい能力を持っていても簡単には譲らない。

 魔力を分散させ、逆撃する。

 不敗の前に障壁など意味はない。

 優香が1人ならばこのまま決着がつくであろう確かな技量の差。

 ゆえに天秤を覆すのはもう1人の存在にあった。


「私がいるのを、忘れないでくださいッ!」

「っ、女神!」


 物質化した氷槍が上から、おまけとばかりに左からはフィーネの突撃。

 呼吸をするように使われるリミットスキル。

 クラウディアの切り札に等しい魔力を投げ売りするような戦場がここにあった。

 そして、もう1人忘れてはいけない者がいる。

 致命に陥ろうが彼女は夢幻、次の瞬間には姿を変えてしまう。


「魔力、全開ッ!」


 噴き上がる魔力で、紗希の干渉を強制的に弾いて優香が右手から迫る。

 機を見定めた反転攻勢。

 流石の紗希の表情にも余裕はない。

 どちらも火力においては彼女を圧倒している。

 1撃が致命傷となるのは避けられない以上、1発たりとも貰う訳にはいかなかった。


「流石に、これ以上は厳しいですか!」


 むしろここまで戦えている事の方が驚きである。

 仮に健輔がこの組み合わせと戦えば、3分持てば良い方なのだ。

 既にそのラインは超えようとしている時点で並みではない。

 紗希の技量と、敵の能力を削ぐという特性が組み合わさったからこその粘りである。

 フィーネは本領を発揮するには『ヴァルハラ』が必要なのだが、前段階である空間展開を封じられているため力が出せない。

 優香はそんな制限は存在しないが、紗希による能力干渉を恐れて過剰な出力を出せないという状態となっていた。

 物理的、心理的な違いはあれど両者に枷が嵌められており、同時に莉理子の防衛術式の宣言による火力押しがないからこその現状である。

 こうなるように行動を積み重ね、なんとか互角に持ち込んではいたが、同時にこの辺りが限界でもあった。


「それでも――!」


 自分の撃墜は認めない。

 不敗の名に誓って、紗希も引けないのだ。

 3方向からの同時攻撃をさらに増やした糸で対処する。

 完全に制御された魔力は隠密行動にも長けているのだ。

 周囲の空間と同化させておいた予備を一気にフィーネの背後へと動かした。


「チャンスとは、人が1番無防備になる瞬間ですよ!」

「知っていますよ! あなたが、用意周到だということくらい想定していますッ!」


 気にせずフィーネが真っ直ぐに突っ込んでくる。

 上空の氷槍には対処が出来たが、左右の2人という最大の問題が残っていた。

 顔を歪めて、紗希は決断する。


「だったら――これは、予想出来ましたか!」

「向かってくる!?」


 突撃する優香に向かって、紗希は進路を取る。

 突然の特攻に優香が一瞬だけ驚きを見せたが、すぐさま意識を切り替えて前進することを選んだ。


「来るなら、来なさい!」

「無論、私を誰だと思っているんですか! 簡単に倒せるなどと、思っていただきたくはないですね!」

「ならば、落とさせて貰いますッ!」


 正面対決、優香の双剣を紗希は糸を束ねた剣で迎え撃つ。

 いや、迎え撃つというのは正しくないだろう。

 突撃を仕掛けた相手に、逆突撃を仕掛けているのだ。

 端的に言って、アホな選択である。

 しかし、彼女は健輔や圭吾の幼馴染のお姉さんなのだ。

 この背景を理解していれば、納得がいく者も多いかもしれない。

 

「くっ!」

「っあ!?」


 紗希の決断は尊く、間違ってはいなかった。

 それでも相手が悪いとしか言えない。

 彼女がアマテラスを託した桜香の妹。

 現役における世界第2位の選手が前衛もこなせるといえ、本来は別のポジションである紗希に正面からの戦闘で負けるはずがないのだ。

 糸は両断されて、虹色の死神が剣を構える。

 戦場にいる誰もが勝利を確定する中、反対側にいた銀の女神が必死な形相で優香に向かって叫んだ。


「優香、離脱を!!」

「――了解ッ!」

「ここで気付きますかッ! まったく、厄介な人たちですね!」


 フィーネの言葉を優香が迷いなく行動に起こす。

 同じコーチという立場だからこそ、狙いが読めた。


「優香を道連れなんて、させませんよ!」


 優香へ追撃を仕掛ける紗希に向かって、レーザーで牽制を行う。

 フィーネの周囲に煌めくレンズのような物体が創造され、そこに輝きが集っていく。

 今代の女神の技を白兵戦用にフィーネがアレンジしたものが展開されていた。

 急ごしらえのためあまり出来はよくないが牽制は十分であろう。


「ここで優香を生かせば、問題はありません!」

「フィーネ・アルムスター! 元素の女神!」


 紗希の時間が削られていき、優香は自慢の機動力で離脱していた。

 残ったのは撃墜してもスコアにすら入らないコーチのフィーネの1人だけ。

 紗希の自由を封じるために2人掛かりでその場に足止めを行い、最後には離脱させて何もさせない。

 悪辣な女神の計略に先代太陽も顔を歪めるしかなかった。

 策謀、後は試合運びの上手さなども含めて3年間欧州を制した女神は伊達ではないのだ。

 皇帝のような圧倒的な強さを持ちながら、弱者の戦略を理解している。

 この恐ろしさを、紗希もようやく理解出来た。


「能力以前に、広い視野とその頭脳が最大の敵ですね!」

「勝つために、そこに勝機を見出すしかなかっただけですよ! 無冠、などと称された女の意地のようなものです!」

「見事です。魔導師としては私の負けですね。あなたほど、強さと弱さを理解している王者はいないでしょう」


 カウントダウンが始まる。

 紗希が戦場にいれるのはもはや後数秒。

 結局のところ、コーチ投入の成果はほとんどなかったと言ってよいだろう。

 フィーネと紗希の激突の間に、双方が相応に消耗したが、被害らしい被害はそれぐらいだった。

 お互いがお互いを潰し合うため、実力に大きな差か、相性の悪さでもないと泥試合になってしまうのは避けられない。

 

「――ですので、チームの一員として仕事をさせていただきます。プランB、という奴ですかね」

「っ、何を!」


 フィーネが止めに動くも、もう遅かった。

 紗希の魔力が大きく膨張を開始する。

 中央にいる両軍を覆うように展開される巨大な糸による包囲。

 空間展開は変わらず封じているが、創造される分まではどうにも出来ないところで紗希の――正確には莉理子の策が成就する。

 コーチがコーチと食い合うことなど事前に想定出来ているのだ。

 新しいルールはコーチを戦力として活用は出来るが、それにはクリアしないといけない課題が多い。

 ならば、いっそのことコーチを使い捨てることも視野に入れたのが今回の策である。

 相手も対抗にコーチを投入したからこそ、ここから大きな変化は起こりにくい。

 つまりは、予想し易いということになる。


「それでは、お先に失礼します」

「ま、待ちなさい!」


 槍を突き出すが、紗希は周囲に自分の魔力を飛散させて転移と共に消えてしまった。 

 それほど時を置かず、フィーネも時間切れとなる。

 転移の中で彼女が聞いたのは、莉理子の声であった。


『術式展開――『魔力封縛陣』』


 戦場に飛散した最上級の魔力――他人の魔力を扱うのは容易ではないが、干渉に特化した紗希の力を用いて莉理子だからこそ出来る術式が展開された。

 魔力の生成は阻害され、上手く回路は動かせなくなる。

 これこそが黄昏の盟約の本命。

 大きく能力が低下したクォークオブフェイトとは逆に力を上昇させた盟約のメンバーが猛攻を開始する。

 勝利を掴むべく、黄昏の戦士たちが運命の欠片へと牙を剥くのだった。


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