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第187話『極点対極点』

 クォークオブフェイト対正義の炎。

 選抜戦の中でも最高峰の激戦と言っても、過言ではない試合であったが、此処にそれを凌駕するレベルのぶつかり合いがある。

 世界大会、決勝と言われてもおかしくない組み合わせ。

 2組が突破するブロック戦だからこその妙であろうか。

 奇跡的に組み合わさったチーム同士が鎬を削り合う。

 最上級には及ばなくとも、知る人が知る、夢の組み合わせの1つが此処にあった。


「ふッッ!!」


 大地を両断するかのような光の刃。

 の輝きに彩られた魔力光が天地に君臨する。

 世界ランク第1位。

 不滅の太陽、九条桜香。

 最強・・の魔導師の斬撃が空を切り裂く。

 弱敵ならばこの一撃で終わるほどの小手調べ。

 大地を進撃する圧倒的な魔力を前にして、1人の男は不敵に哂う。


「――なるほど、これは確かに桁違いだ。認めよう。単純な強さでは、俺が知る中でも一等だよ」


 戦場に響く快活な声。

 絶対の自信を滲ませる声は、男の自身への自負を示している。

 無防備な姿で、特に何もすることもなく、正面から桜香の斬撃をニヤケながら見守る姿は一見すれば、棒立ちのようにも見えなくもない。


「だが、俺を倒すにはまだ足りんな。様子見などするな。本気で来いよ、不滅の太陽」


 進撃の太陽の前に立ち塞がる壁。

 小手調べといえ、桜香の攻撃をいとも容易く受け止めた男がいる。

 前歴を鑑みれば、不思議でもないのだろう。

 むしろ、この男が弱いとなると、『皇帝』の名が軽くなってしまいかねない。

 ある意味では、予想通りであり、大きな衝撃でもない事実。

 1度は世界を牛耳った魔導師が、ただの小手先でやられるなどあり得ない話である。


「……まさか、こんなところでぶつかるとは思ってもみませんでした。勝手ながら、あなたレベルとの戦いは、もっと先だと盲信していたようです。私も、やはり未熟ですね」

「それはこっちのセリフだな。この年で、運命の悪戯とやらに会うとは思わなかった」


 白人らしい白人と表現すべきか。

 幾分若い容貌は魔導師としては標準であり、特出すべきほどの魔力の強さはない。

 平均的であり、威圧感を感じさせない程度のものであった。

 しかし、桜香の瞳に油断はない。

 自らが警戒しなければならないだと認識していた。


「ある意味では僥倖。私の強さを知るのに、あなたは良い基準になる」

「はっ、なんとも傲慢なことだ。しかし、大言ではないな。俺が率いるチームならばともかくとして、の立場では止められんな」


 『皇帝』と同じく絶対の自信を滲ませる声。

 違いがあるとすれば、この声の持ち主は『皇帝』と比べて、なお傲慢である点にあるだろうか。

 あの桜香に対しても、上から目線をやめることはない。

 自らが上で、他は下。

 この意識を絶対のものとして、揺るがぬ意思を携えている。

 クリストファーの在り方が質実剛健で孤高の王者だとすれば、こちらは君臨することを日常とする王者と言うべきだろう。

 慢心と紙一重の在り方。

 この男以外がやれば、失笑されるだけで終わるであろう在り方である。


「聞きしに勝る傲慢。好かれないのもわかります」

「ほう、雑魚の囀りに共感でもしたか? 別に構わんぞ。お前ほどの女は俺もほとんど見たことがない。嫌悪するのも当然だ。わかってやっている」

「ええ、端的に言って、好みではない人柄です」

「ふははははっははははッ! ――同族嫌悪か、才能の化身」


 大笑からの冷たい一声。

 急激な落差に普通ならば気圧される面もあるだろうに、桜香の返答はとてもわかりやすかった。

 轟音を伴い、空を駆ける斬撃。

 気に入らぬ相手で、この場が試合中である。

 よって、躊躇なし。

 渾身の斬撃が一切の容赦なしに放たれた。

 小手調べではない、全力の攻撃。

 並みどころかランカーも消し飛ぶ攻撃を受けて、男は平然とのたまう。


「ふん、俺も俺でまだまだ未熟か。この領域には、勝てると断言はできん」

「よく回る口ですね。軽々と防いでおいて、言うことでもないでしょうに」

「事実は事実として言っているだけだ。誇れよ。単純な戦闘能力でお前を超えると、断言できない程度には、貴様は強いぞ」


 不可視の壁で桜香の斬撃を完璧に防ぐ。

 一切のダメージを受けず、慌てた様子も見せない。

 桜香の攻撃を一切、脅威と思っていないのだ。

 健輔が見ても、信じたくなるほどの光景であろう。

 しかし、彼にとっては造作もないことであった。

 絶対の自信に相応しいだけの『勝利』を男は背負っている。


「ああ、一切、虚飾はない。お前は、間違いなく優秀だ。俺も見たことがないほどの才能の塊。素晴らしいかな、我が後輩よ」


 絶賛。

 自らが最高にして、至高という考えを変えることはなくとも、現実が見えない愚かものでないのだ。

 最初に語った通り、彼――『魔導大帝』と呼ばれた男であっても、出来ることと出来ないことがある。

 出来ないことがあるからこそ、異なる者へは賞賛を。

 傲慢なりに筋の通った理屈。

 これこそが王者の系譜にして、始まりの頂点の在り方なのだ。


「端的に、忌々しいぞ。俺と相性が良すぎるだろう、小娘」

「笑止。私は、健輔・・さんと相性がいいんです。あなたみたいな、おじさんは及びじゃないですよ」

「はっ――。言うじゃないか。こちらとしても、小娘にそういった意味での用などないんだがな」

「興味を持たれても、気持ち悪いだけですよ」

 

 黙れ、と言わんばかりに放たれる攻撃は相手の口上を飲み込む。

 必殺の斬撃。

 行動自体は始まりの焼き直しだが、籠められた威力は桁違いである。

 並みの魔導師ならば、魔力が生成不能になるであろう程の量と、誰も辿り付けていない究極の質を体現した魔力。

 この魔力を巨大な斬撃として放ち続ける。

 近接格闘戦も交えた本格攻勢。

 桜香の猛攻を受けて、耐えられるモノなどそうは存在しない――はずだった。


「また、ですか。やはり、厄介ですね」


 甲高い音と共に、桜香の近接戦闘を不可視の壁が全て防ぐ。

 舌戦の脇で続く本当の戦い。

 2人の激突が始まってから、光景には一切の変化がない。

 桜香が魔力を放ち、見えない壁が立ちはだかる。

 攻撃を封じられているからこその、妨害に特化した在り方。

 不可視の壁は防御として用いられているが、桜香が大帝の前から逃げようとすれば、すぐさま脱出不能の迷宮と化すであろう。

 進路妨害にも使える万能の能力。 

 防御において、これほど使い勝手が良いものはそうはない。

 つい先日、似たような光景がクォークオブフェイト対正義の炎でもあった。

 演じる役者は異なれど、用意された脚本をなぞるかのように、彼女たちは似たような行動を移す。

 封じられた自らの行動を前にして、女神と太陽がやろうとしたことは奇しくも一致していた。


「……破壊しようにも」


 全力の魔力斬撃は霧散させられ、物理的な一撃は効果がない。

 一切の変化がない、と言う意味では『美姫』の能力と非常によく似ていた。

 まるで、桜香と戦うために誂えたかのように、的確に彼女を阻む。


「――ふむ、そういうこと、ですか」


 桜香は一切、疲労していない。

 現時点でパフォーマンスは最高稼働で、手抜きもしていなかった。

 全力全開、油断なし。

 しかし、正しく力を使えているか、と問われると否、と返すことになるだろう。

 相手の思惑に完璧に嵌っている。

 このまま、この場で無双を誇ったところで、試合的には何も意味がない。

 いけ好かない大人であるが、強さは本物であった。

 桜香を試合的に完封できる、というだけで只者ではない。


「ふ、ふふふふ」


 相手の思惑は簡単に読める。

 桜香さえ封じてしまえば、後に残るのは雑魚。

 魔導大帝が居るチームには、一昨年のランカーがいる。

 ガンナー。

 バトルスタイルへ、局所的ではあるが、大きな影響を与えた人物。

 直接的にぶつかった記憶はないが、弱い相手ではないだろう。

 桜香が抜きで止められるとは思えない。


「危機的状況。なるほど、ピンチとはこういう事を言うのでしょうね」


 香奈子は全霊を尽くしてくれるであろうが、コーチでは試合を決められない。

 エースをコーチで封じた敵に対して、桜香たちが抱えるハンデはあまりにも大きいものであった。

 コーチの理想的な使い方。

 桜香ほどの相手すらも完封するならば、事実上、あらゆる魔導師を完封することができる。

 見事な必勝の方程式。

 仮に描いたのが眼前の王者とするならば――非常に腹が立つので、正面から堂々と叩き潰すことにしよう。

 特殊な能力を用いて、不滅の太陽を封じる。

 こんなことが許されるのは、この世に1人しかいないのだ。


「笑わせます。苦境を覆すからこそのエース。舐めないでください。のアマテラスに、逆転を信じない者はいない」


 相手は何やら妙な能力を持っている。


「……正気とは思えんが、お前ならば遣り切りそうだな。俺の能力を、魔力を高めただけで突破する。こんなバカなことを実行しようとな」

「理屈は理解できますよ。固有能力は強い。ええ、多少の制限はあっても、自由に能力を組み替えられるあなたは、正しく能力使いの頂点なのでしょう」


 歴代の皇帝の中でも最強の能力にして、後に続く皇帝たちの方向性を決めた力。

 『全能の権威』。

 固有能力を総べる『固有能力』。

 始まりにして、究極に至った能力者の在り方。

 不動の頂点とも称された、疑いようもない至上の固有能力であった。

 

「ですが」


 気に入らない、などと言う言葉では済まされない。

 何が気に入らないのか、と言えば全て、と答えるしかないが、中でも決定的なものは1つであろう。

 能力の格こそ異なるが、やっていることが非常に良く似ている。

 違いと言えば、健輔が能力だけでは足りない部分を戦闘能力で補っているのに対して、大帝は更に能力の向上を心掛けていることであろうか。

 別の可能性を、気に入らない男が魅せてくる。

 ましてや、自らの最強・・を脅かしにくるのだ。

 余人には理解できないだろうが、桜香にとっては何よりも許し難いことであった。

 許し難いゆえに、正面から勝利を掴む必要がある。

 

「あなたが、能力の頂点ならば、私は魔導師の頂点だ。最強とは、誰よりも強いことを示さないといけない」

「……これは、怪物だな。……ふむ、若い世代には、とんでもないやつがいるな」


 多くの魔導師を倒し、時代を築いた男。

 如何に桜香が気に入らずとも、『魔導大帝』も1つの頂点である。

 頂点同士、感じ入るモノはあった。

 

「俺が知る中でも、貴様は最上位の魔導師だろうよ。ああ、正直なところ、驚いている。現役の中に、これほどの逸材がいるとはな」

「――これより、言葉は無粋。力と、力で語り合いましょう。あなたに、という時代を刻んであげます」

「やってみせろよ、小娘」

 

 宣言通り、最後の会話とするつもりなのか、九条桜香はアンドレイに対して特攻を仕掛ける。

 魔力を纏って、ただ前に出たようにしか見えない行動。

 訝しがりながらも、アンドレイの能力は十全に稼働する。

 コーチとして枷が付くのならば、最適な能力で相手を封殺してしまえばいい。

 ある意味ではアメリアの上位互換とも言える究極的な対応能力。

 健輔にも通ずる万能の強者の在り方であった。

 どんな物事にも相性というものがある以上、隙をつける大帝の能力の強さは語るまでもないだろう。

 健輔という万能が示した強さを、この男も確かに持っているのだ。


「いくぞ。俺の差配を、突破できるかな?」

「この程度、苦境とは言えなません――! 必ず、乗り越えてみせる」


 極点と極点の衝突。

 早すぎる頂上決戦。

 選抜戦は後半戦へ、世界に至る選りすぐりを決めるための戦いは、大きなうねりになろうとしていた。


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