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第186話『岐路』

 吹き荒ぶ嵐。

 周囲の空間を覆い尽くす圧倒的な魔力量。

 自然を味方に付けた最強の女神が、槍を携えて天空に佇む。

 対峙するのは白銀の魔力。

 万能を超えて、真実に至った世界でただ1人の魔導師。


「相も変わらず、ふざけた能力だよ!」

『マスター、回避を推奨です。魔力・・を制限されてますから、出力が全然足りていません』

「わかってるよ! くそ、薄々、勘付いていたがこんな明確な弱点があるとは思わなかったぞ!」


 先の試合で手に入れた力。

 試運転と言うには強すぎる相手。

 今の強さを実感するために挑んだ強者であったが、折角の新能力は何の力も発揮しない内に潰されようとしていた。


「す、少し考えれば、わかることなのに、すっかりと見落としてたよ!」

『うっかりですね、マスター。てっきり、わかって挑んでいるのかと』

「止めろよ!! いや、せめて言えよ、懸念をさッ!」

『マスターはリスク込みでやっているのかと思いまして。合理を無視して、未知を切り拓く方ですから』


 魔導機の高すぎる信頼に何も言い返せない。

 普段の行動からすれば妥当で、健輔の言い分はいちゃもんでしかなかった。

 この程度のことはしっかりと認められる。


「俺はガキかよ。浮かれて、こうしてボコボコにされようとしている」

「無駄口を叩く暇があるんですか? 私、余所見は許しませんよ」

「やっべ……!」


 アメリアとの戦いのように、周囲の魔素を喚起し、己が魔力としようとしたところに、フィーネの力技を叩き付けられた。

 別段、圧倒的な超能力で押されたと言う訳ではない。

 ただ、空間展開を行っただけ。

 この程度で、健輔の新能力は機能不全を起こしていた。

 正確には、きちんと発動するのに、想定の数百倍の負荷が掛かるようになったと言うべきであろうか。


「ぬおおおおおおおおおおおお!」


 天を迸る雷撃を決死の形相で回避する。

 強くなった力が全く通用しない相手。

 わかってしまった事実に微妙に泣きそうだった。

 フィーネが無理となると、連鎖的に無理になる人物が幾人もいることが、悲しみに拍車を掛けてくる。


「この様子だと、皇帝も無理で、真由美さんも無理かよ! ああ、もう――! 空間展開とか、滅びればいい!」


 世の中は上手くいかない、と盛大に愚痴る。

 出力問題を解決できたと思ったら、すぐさまに次の問題が発生したのだ。

 永遠に付き纏う問題になるのかと思うと憂鬱にもなるだろう。


「流石、まだまだ余裕ですか?」

「嫌味ですか! 必死ですよ!」

「あらあら。そんな事を言って、手元ではいろいろと準備しているじゃないですか」

「ちょ、これがぐらいは見逃してくれませんか!?」


 無慈悲なフィーネの追撃に舌打ちをする。

 アメリアと戦った後だからこそ、余計に感じるのかもしれないが、持っている安定感に大きな差があった。

 叩いても、叩いても、何度も何度も挑戦しても弾かれる感覚。

 実際のところ、ダメージなどは皆無ではないし、健輔の技を警戒しているのも事実ではあるのだろう。

 しかし、戦っている健輔としては、アメリアと違い手応えが皆無なのが辛かった。

 

「やっぱり、俺はこっちとの相性が悪いな」

『マスターも能力で逆転を狙うタイプなのは間違いないですからね。フィーネのように隙が無く強い、というのが1番辛い相手でしょう』

「今更すぎる事実だが、何度も改めて痛感したよ」


 相手を引き摺り込もうにも普通に強い故に小細工が通用しない。

 正面から応対すれば終わりが待っている強者。

 肌がひりつく感覚は、先の試合にはない緊張感の証である。

 一撃が致命傷になるのは同じなのだが、なんとかする手段があるのと、根本的な解決方法がないのでは、掛かる圧力が別物であった。

 覚醒と言っても良い先の試合での恩恵。

 相性があるとはいえ、あの力強さすらも無効化する強さには羨望するしかない。


「折角の力も、手に入れてしまえば、現実が圧し掛かるか……!」


 進路を塞ぐかのように放たれる雷撃を回避しつつ、逆転の手段を組み上げる。

 新しい力を試すための場なのに結局は慣れた手段へと回帰・・していた。

 身体に染み付いた癖は中々に抜けきらないらしい。


「はっ、それも俺らしいか!」


 試合に劣らぬ気迫で健輔はフィーネに向かって突撃する。

 手段はいつも通り心許なく、勝率は半分もないぐらいであろうか。

 新しい力があろうがなかろうが、最後の最後には自分らしくなる。

 この事が確かめられただけでも意味はあるのだろう。

 晴れやかな表情を浮かべて、不敵な笑みと共に女神に向かう姿は、既に日常の一幕となった光景であった。


「――来ますか」


 新しい能力の試運転に付き合って欲しい。

 健輔からの依頼を渡りに船、と快諾したフィーネであるが、彼女なりにこの練習で掴みたいモノがあったりする。

 健輔がフィーネのような総合的な強さを持つ相手を脅威と感じるように、フィーネにも脅威と感じる存在たちがいた。

 個体名で言えば、それは桜香であったり、皇帝であったり――健輔であったり、とタイプはバラバラなのだが、共通点がない訳ではない。


「私にもまだまだ課題は累積している。あなたとの練習はお互いに、メリットが大きい。あなたが勝ちたい相手と私が勝ちたい相手は似たところがあるから」


 健輔がアメリアとの戦いで得た物があったように、フィーネもフィオナとの戦いで得た物があった。

 コーチとしてチームに所属し、一時とはいえ、メンバーとして試合に出た。

 主役ではないとはいえ、確かなメンバーの1人である。

 勝利のために尽力をする必要があり、かつて背負った名を思えば、多少の制限があろうとも、圧倒的な強さを魅せつけるべきであろう。

 傲慢な認識であるが、事実でもあった。

 相手が誰であれ、仕事をしなければならない立場である。

 好意的に表現すれば、相手のコーチを抑えたとなるが、相手の攻勢性能が高くなかったため、抑え込まれたと言う表現が正になってしまう。

 当然、フィーネからして満足のいく結果ではない。

 結果ではないのならば、やることはただ1つであろう。

 失敗を分析し、次へと繋げることであった。

 

「未熟者同士。精々、鍛錬に日々を費やしましょう」

「おう! 早くこの力をモノにするには、実戦あるのみだしな」

「私もまた、経験を積み、考えるべきラインにいる。いろいろと、協力してもらいますよ」


 妖しい流し目は色気を感じさせるが、含みを持たせた表現を相手は完璧にスルーする。

 どんな高等テクニックも気付かれもしなければ意味はなさず。

 魔導大好き野郎が注目するのは、他の部分だけであった。


「勿論、いくらでやり合おうか!」

「……いえ、それはそれでいいんですけど、何も反応されないのは、少し予想外でした」

「おっしゃあ! 燃えてきた。今日は、後、30試合はやろう!」

「えっ……お、お付き合いはしますが、その……ちょっと多くないですか?」


 どれほど強くなっても、基本は変わらず。

 好きなモノのために全力を尽くす姿勢に変化はなく、そんな男に付き合わされて才女たちは激しい鍛錬へと挑むのだった。






「魔素は、魔力だった――と言う認識でよろしいのですか?」

「そ。正確には極めてフラットで特性なんて欠片もない魔力、だけどね」

「物は言いようだね。特性がないとは」


 健輔がフィーネとイチャイチャしている頃、美咲たち2人はある話題について語り合っていた。

 主な話題は当然のように、健輔の新能力。

 真実の万能系についてである。


「裁きの天秤の能力がなければ永遠に気付かなかったかもしれないのに、本当に数奇な運命ってやつよ」

「魔素と魔力が原料と加工品と言う関係ではなく、性質を偏らせたものだった。この事が明らかになるとまた魔導が進むだろうね」


 健輔の万能系が解き明かしたのは、魔力が生まれる仕組みについてである。

 今まで考えられていたモデルでは、魔素を取り込み、原料として加工することで魔力を生み出しているとされていた。

 しかし、真実は少し異なっていたのだ。

 大本が魔素なのは同じであるが、加工――つまりは別のモノへと変えたのではなく、内部の数値のみを弄ったモノが魔力だったのだ。


「普段の魔素は等しく全ての系統の資質を持っている。普段は一切の効果を発揮しないのは、もっている性質が弱いことと、文字通り、全ての性質を持っているから」

「破壊系の特性もあるから、一切の特性を発揮できなくなっている?」

「そういうこと。そう言う意味では、破壊系も魔力を『破壊』するんじゃなくて、特性を無効化する。ようは、フラットに戻す効果なんでしょうね」

「本当に問答無用で魔力を破壊するものだったら、固有能力があっても、制御なんて不可能だもんね。いろいろと謎だった部分が解明されそう」


 魔素は取り込まれて、魔力になる過程で持っている性質を偏らせていく。

 他の性質が持っていた力を一点に凝縮する。

 10という数値を均等に割り振り、一切の力を発揮しないのが魔素。

 魔素が持っていた10の値をどれかの資質に集約させたものが魔力。

 魔力回路の錬度差とは、まずはこの集約率に表れる。


「リミットスキルの謎もこれで解けたわね」

「集約率が100%。つまりは、不純物がなくなった魔素ということだね」

「そして、そこがスタートでもある」

「魔力の固有化もつまりは、通常の魔素は不純物が多くて、力が発揮できないから、自分に合った形へと加工できるようになったってことなのよ、多分」


 今までのモデルも完全に間違っていると言う訳ではない。

 1つ前の段階を誤認していただけで、最終的には魔素を加工するようになるのは間違いないことであった。

 発展の段階は3つ存在していたのだ。

 まずは魔素を吸収可能になること。

 次に魔素の特性を偏らせて、特定の性質を発現させるようになること。

 最後に、その果て、自分にあった形へと加工していくこと。

 間の段階を1つ見誤っていたが、最後はあっていたために、ここまで発見が遅れたというのもあるだろう。


「万能系も全ての魔力に加工できる、なんていう代物じゃないわ。多分だけど、偏りを意図的に生み出せるのよ」

「本来の、だろう? 健輔のやつはどう見ても変質してると思うんだけど」

「ええ、万華鏡の影響もあるでしょうね。普通は使わない使い方をしていたから、健輔だけ別物になっているはずよ」


 まだまだ推論でしかないが、メアリーの見解が健輔には示されていた。

 本当の力が目覚めていない。

 真実であった彼女の指摘であるが、彼女も全てを見通していた訳ではない。

 万能系の真相には薄々勘付いていたが、健輔の変質までは完全に予期できていた訳ではなかった。

 予言者ではないため、別におかしくはないのだが、本人的には思うところがあったのだろう。

 死にそうな表情だったが、いくつかの貴重な情報を置いて、本国じごくへ帰っていった。今は1日の80%を仕事に使う日々を過ごしているだろう。

 

「通常の魔力回路が、一定の方向に偏りを持たせる。普通の万能系は、偏りの方向を操れる。でも、完全に不純物を失くすほどの精度がない」

「偏らせる力が弱いから、ですね」

「うん、そういうことだと思う。対して、健輔は回帰・・を行った段階で徐々に通常から外れたはずよ」

「魔素に近い、から性質を合わせやすい」

「偏りをやりやすくなったってところかしら」


 回帰で魔素と親和性が高くなる。

 原初に至り、高い親和性のまま、偏りを生めるようになった。

 そして、天昇で『強化』を行えるようになったのだ。


「普通の万能系は自分用の魔力を生み出すほどに至れない。だって、持てる力が弱いから」

「全てであるからこそ、1つ1つへの影響は小さかった」

「その理屈を飛び越えていたのが、健輔さんで」

「飛び越えていたからこそ、目覚めた時の効果も劇的だった。自分用に調整なんかしなくても、そこら辺にある魔素をそのまま強化できるようになるぐらいには」


 いろいろと別方向にぶっ飛んでいるため、通常では出来ないことまで出来るようになってしまっている。

 オンリーワンの系統の持ち主。

 もはや術式の補助すらもなしに別の領域へといってしまったのだ。


「まあ、逆に敵のヤバさも際立ってけどね」

「ああ」

「……そう、ですね。判明してことから考えると、あの人の系統は、頭がおかしいことになる」

「全ての性質を、同時に、一切の不純物なく、強化した」


 ゆえに発現するのは全てを備えた魔力。

 相手の特性を塗り潰すのも必然であろう。

 持っている質量が違い、次元が違っていた。

 天昇が発現させている力も、結局のところは偏りの複合であり、魔力の大本から抜け出ていなかったと考えると、ただの系統で成し遂げた偉業が際立つ。


「統一系。私たちが思っている以上に、あの系統はヤバイ」

「味方の強さを知って、敵の強大さを知る。流石は世界最強。一筋縄ではいかなさそうだよね。本当に」

「こっちが強くなるんだから、向こうもってだけよ。やることは変わらないわ」

「わかった事実を胸に、己を練磨する」


 魔力の仕組みが判別した意味は大きい。

 特に正式な発表に先駆けて、情報を手に入れる事が出来た。

 先んじることが出来る立場を浪費するようなバカはこの場にはいない。


「置いて行かれるのは癪だしね。精々、上手く使わせて貰おうかな」

「同意するわ。ええ、必ず役に立ててみせる」

「はい。必ず……」


 誓いを胸に、新たな試みが動き出す。

 次なる敵との戦いの前にして、クォークオブフェイトは大きな飛躍を果たそうとしていた。そして、直接的でなくとも、彼らの動きは他のチームにも衝撃を与える。

 動き出す最強のチーム。

 頂点に立つ太陽の輝きが、白日の下へと晒される。

 成長する最強。

 全てのチームに立ち塞がる頂。

 頂点の威容が姿を露わそうとしていた。


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