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番外編『振り向くといつも優香』

 健輔は無茶をしない。

 一見すれば無茶でも健輔には厳しいという範疇に収まる程度のものなのだ。

 正確に言えば無茶なく続けられるように己の鍛え上げてきたと言ってもよいかもしれない。絶えずに変化を繰り返す生活のサイクル。

 徐々にレベルを引き上げて負荷も上げていく。

 目には映らない地道な努力こそが健輔の強さを支えている。

 彼が欲しいのは一時の勝利ではなく、恒常的な勝利なのだ。

 九条桜香に1度だけ勝てる力が欲しいのではなく、永遠に勝てる力を身に付けたい。

 そのために日々、体を虐めている。


「はっ、ほ! よっとっ!」


 地上で武術の型にも見えるようなものをこなす。

 我流が主体の男であるが、基礎になる部分には真由美によって築かれた確かなものがしっかりと出来ている。

 あくまでもそれらしい動き、程度であるが理に適った身体の動かし方ではあった。

 イメージの大切さ、心の強さも魔導では大事である。

 適していることよりも信じられることが大切なのだ。


『マスター、次の時間です』

「おう」


 身体の動きを止めると瞑想に入る。

 静かに身体に魔力を循環させて、内部での動きを掴む。

 この魔力はこういう動きをする――自らの実験体にして他の魔導師の癖を探るのだ。

 仮に系統固有ではなく個人に依存するものでもそうだとわかっていたら対処の仕方はいくらでもあった。1番怖いのは未知であること。

 メアリーという天敵によって刻まれたことでもあった。


『マスター、次は複数の系統制御に入りましょう』

「りょーかい」


 瞑想のポーズはそのままに健輔は複数の系統を起動していく。

 1つ、2つ、3つ、4つ。

 戦闘中ではまだまだ難しいが止まってさえいれば異なる4つの魔力を内部で生み出すのも容易いことだった。

 去年の健輔は系統の切り替えにも四苦八苦していたことを考えれば格段に成長している。

 日課の難易度も以前とは比べ物にならないほどにレベルアップしているのがその証であろう。それでも立ち止まることはない。

 速度を落とせば、自らは容易く転落する。

 己と言う器を見切っているからこその諦観であり、同時に絶対に認めないという不屈の決意でもあった。

 

『マスター』


 どれほどそうしていただろうか。

 健輔の体感時間では朝の鍛錬はいつも一瞬である。

 優香との模擬戦をする時も、美咲の実験に付き合う時も、そしてこうして1人で練習に励む時もあまりにも時間の流れは早かった。


「ああ、時間だよな。……くそ、1日が72時間ぐらい欲しくなる」


 一通りの鍛錬を終えて、荷物を片手に教室へと向かう。

 優香と共に登校してバトルから幕を開ける日も多かったが、最近は1人での鍛錬を増やすようにしていた。

 相棒との戦いは楽しいが、楽しすぎて本質を見失ってしまうことがある。

 1人になる時間も大切だと最近は感じるようになっていた。

 我武者羅に駆け抜ける段階は既に終わっている。

 最近、新しく生まれた師匠も似たようなことを言っていた。


「こういう時に優香がいると楽なんだけど……」


 先に行けと言ったのは自分だが、普段はいる存在がいないと少しの寂しさがあった。

 優香は健輔の鍛錬を見るのも好き、という奇特な存在なので結構意見を貰ったりしているのだ。

 美咲や優香の有難味を思い出すという意味でもこの1人での鍛錬は必要だと強く思う。

 しみじみと思い返していると、何故か背後から件の人物の声が聞こえる。

 

「健輔さん」

「ん? あれ、先に行ったんじゃないのか? 俺に付き合うと時間ギリギリになるから、待つなって言ったのに」

「いいえ、待ってませんよ。そんなことよりも、はい、どうぞ」

「お、おお。サンキュー」


 健輔は優香の妙な発言に引っ掛かりを覚えるも差し出されたスポーツドリンクは素直に受け取る。

 相変わらず準備はよい相棒はやはり素晴らしい存在だった。

 先ほどまでちょうとよく感謝の念を抱いていたからか、いつもよりも有り難く感じる差し入れであった。


「ぷはー! 魔導でも運動したは、こういうのは利くよな!」

「あまり激しくないようでしたが、疲労はそれなりですか?」

「内部に留めておく、って言う修行だからな。負荷はそれなり以上だと思うぞ。高出力を制御するのとはまた違った苦労がある」

「健輔さんの制御技術は大きく進歩していますがまだ足りませんか」


 優香のストレートな褒め言葉は健輔のやる気をいつも押し上げてくれる。

 純粋な思いであるからこそ、もっと見せてやろうという気分になるのだ。

 

「優香も知っていると思うが、俺にとって制御は生命線だ。ここだけはどんなコンディションでも最高のパフォーマンスが必要になるからな」

「術式からの活性。多様な戦術とそれを実行可能にする能力。優れたセンス――を全て活かすためには絶対に不可欠な部分ですものね」

「そういうこと。どんな時でもここだけはイメージ通りじゃないとダメだ」


 制御と一言で言っても範囲は広い。

 細かな出力の調整から、技の発動に必要な量の抽出などと多くの部分で必要になる力だからこそ誰もが基礎の中でも最も重要視している。

 健輔もその中の1人であるが、彼の場合は過剰な制御能力も不要なところがややこしい部分であろう。

 戦い方は野性的に見えるが実態としてはどちらかと言えば合理的なのがこの男である。

 自分のイメージを壊す程の力も扱い辛いのだ。

 昨年度の戦い中では準決勝と決勝の比較がわかりやすいだろうか。

 皇帝との単純な力比べというあり得ない状況に陥ったからこそ準決勝はギリギリで勝てたのである。

 逆に強くなってもテクニカルさを失わなかった桜香には敗れた。

 強くなりすぎた自分をイメージ出来なかったからこその敗北とも言えるだろう。


「理想だけでも、あなたは勝てない訳ですか」

「ああ、皇帝や優香みたいな固有能力は俺には発現しないだろうな。自分の理想を描いてもそれは自分で実現するものにしか見えない」

「健輔さんらしいですね」

「いやいや、意味のない頑固さだとは思ってるんだ。治せる気もしないけどな」


 自嘲の笑みは健輔の本音であることを示している。

 強くなるための努力を惜しまない。

 この事は逆に言えば、己を弱いと思っているということでもあった。

 桜香が自らの可能性を引き出す、というのに対して健輔は可能性を生み出すというのが正しい表現であろう。

 能力にもしっかりと彼の思想が出ている。


「……まあ、まだやれることがあるんだ。それだけで今はいいさ」

「はい。私も負けないように、頑張りますね?」


 微笑む優香に頷き返して、教室に戻ろうとする。

 今日の予定を思い浮かべながら、健輔は今更ながらの疑問が再度過った。

 常に一緒にいるからこその違和感。

 直ぐ傍で微笑む相棒はいつも通りに見えるのに何処か薄い。


「気のせいか……?」


 自分でもよくわからないモヤモヤを感じるも一端は置いておくことにする。

 小さな違和感よりも重要なことがあると流してしまうのだった。






「なんだ、この激しいモヤモヤは……!」

「いきなりどうしたんだい? いきなり叫んで」

「叫んではないだろうが……いや、いきなり意味不明なことを言ったとは思うけどさ」

「ふーん。それでモヤモヤ?っていうのはなんだい」


 男2人。

 学園にあるベンチに並んで座りながら雑談に興じる。

 圭吾が健輔の調べものに付き合った後のフリータイムの出来事だった。


「最近、優香から凄い違和感を感じる……」

「はい? いきなり何を言ってるんだい。意味がわからないんだけど」

「俺もわからんから悩んでいるんだろうが」

「いや、自信満々に言われても」


 初めて優香に違和感を感じてから1週間。

 あの日から当然のように優香とは何度も会っている。

 何度も会っているのだが妙なシチュエーションで出会うことが増えていた。

 1人で行動している時、周囲に誰もいないタイミングで背後から声を掛けられる。

 このタイミングで出会う優香に妙な違和感を感じるのだ。

 他のタイミング、普通に共にいる時には感じないからこそ大きな異物感を生み出す。

 大きな問題となるようなことではないが、奥歯に何かが詰まったような感覚を度々味わうことになるのは嬉しくない。


「何が原因なんだ……」

「とにかく理由を言って欲しいな。もしかしたら僕でもアドバイスぐらいは出来るかもしれないし」

「うーん。……そうだな。優香ってさ、偶になんというか、薄くないか?」

「薄い?」

「おう、薄いだな」


 感じる違和感を言葉にすればその程度であるが、健輔にとっては重要だった。

 

「気が付いたら、傍にいるっていうのか? 俺が1人の時にさ、そういうことが増えてるんだよ。1人で部室にいたらいつの間に隣に座ってたりとかさ」

「ん? ま、まあ、続けて」

「おう。でだ、1番多いのが1人で練習したりした時に、練習が終わると後ろから声を掛けられるんだ。お疲れ様ってな」

「ふむふむ……」

「そう言う時の優香はなんというか、薄いんだよ」


 話しながら健輔の中でも状況が整理されていく。

 健輔が1人で行動をしている時に限って、優香を薄いと感じる時は増えていた。

 気配も含めて、何もかもが薄いのだ。

 おかげで何度も背後を取られるという失態を犯していた。

 

「つまりは突然現れる九条さんがなんかいつもと違うってことかい?」

「おお、うんうん、そんな感じだわ」

「ふーん、なるほどね。毎日のように九条さんがいきなり現れるようになったのに気にするのは妙な違和感だけかよ、とか色々と言いたい事があるけど健輔の悩みは理解したよ」

「お前、紗希さんに抱き着いてから毒が増えたよな」


 健輔の発言を完璧に流して、圭吾は思考に沈む。

 親友の態度に微妙に怒りを感じるが、何も言わずに飲み込む。

 迂闊に進むと圭吾の中で最大級の地雷を踏んでしまう。

 流石の健輔もわざわざ自爆しにいく趣味はなかった。

 何より本題は別にある。


「僕はなんとなくわかったかな。……うーん、これ、普通の人にやったらドン引きだと思うなぁ……」

「俺を見つめながら普通の部分を強調した理由を言え」

「君が普通じゃないから」

「……そうだな」


 入学前はともかくとして、今の健輔は普通ではないだろう。

 普通の人間は素手で鉄板を貫通したりはしない。

 超人たる魔導師として自覚はあった。


「納得したような顔だけど、多分理由は間違ってると思うよ。ま、健輔の自分評価は今はどうでもいいし、ササッとアドバイスをしようか」

「前半部分は必要なかったよな。……まあ、いい。とりあえずヒントをくれ」

「はいはい。ヒントを授けましょう。勘だけど、やる気が出ると思うよ」

「ほう。期待しようか」

「じゃあ、簡潔にいくね」


 圭吾の勿体ぶった言い方に興味が湧く。

 気になっているが積極的に解決に向かうほどのことではないと思っている状態から変わるというのならば望むところだった。

 ワクワクした気持ちを表情にも隠さずに次の言葉を待ち、


「九条さんの術中に嵌ってるよ。このままだと2人の魔導の腕は差がついていくだろうね」


 そんな言葉を投げ掛けられる。

 予想外というか、煽るような言い方に一瞬だけ健輔の反応が遅れた。

 何を言われたのかを理解するのに時間が必要だったのだ。

 

「何……?」

「まあ、頑張って」

「ちょ、おいッ! どういうことだよ!」

「ヒントは出したよー」

「く、クソ! おい、教えろよ!!」


 慌てる健輔を圭吾は笑って流す。

 親友の態度を見て、これ以上は無理だと判断した後は必死に考え込むになった。

 考えるのだが、答えは出ない。

 結局、その日に疑問は解決しないままとなり、新たな問題が浮上しただけとなる。

 健輔は何とも言えないモヤモヤ感を抱えて日常へと戻っていく。

 そんな主の姿を、陽炎は静かに見つめているのだった。






 どんな心理状況でも日課は決して欠かさない。

 既に呼吸に等しい鍛錬は別のことを考えていてもノルマを速やかにこなす。

 分割思考を用いた見た目と地味さと反して高度な技。

 1年前の健輔が制御の中でも特に力を入れていた分野だった。


「ふっ、は、ほっ!」


 激しく身体を動かしながらの全周囲警戒。

 魔導の探知も用いた完全態勢で健輔は来る時を待つ。

 練習にも全力。

 優香の出現タイミングの特定にも全力であった。


(間違いなく、俺は1人だ)


 心の中で優香の姿は影も形もないことをしっかりと認識する。

 実は気が付いたらいたとか、隠れていた、などの事態は絶対にあり得ないと断言できるだけの確信を得ていた。

 つまり、ここから何らかの手段を用いて優香は現れていることになる。

 今日まで健輔の警戒網を何らかの手段で潜り抜けていたのだ。

 転移などの魔導に対しては一際敏感な健輔感知網をあっさりと突破してきたことに相棒の恐ろしさを再確認していた。


(しかし、次はない)


 口元を歪めて、その時を待つ。

 違和感を持つ薄い優香の登場タイミングは決まって、健輔が練習を終えた時である。

 全ての神経を集中させて背後を警戒すれば必ずカラクリを解き明かすことが出来るはずだった。

 日常においても気を抜かない、というのを方針にしていたにも関わらず1週間以上も気付けなかったのだ。

 必ず見抜き、汚名を返上するつもりである。

 メニューを消化し終わりが近づくと共に胸が高鳴り始めていく。

 いくら気が抜けていたとはいえ、健輔の警戒網はそれなり以上の精度がある。

 あっさりと突破してきた魔導の技が何なのか。

 健輔も気になっていた。

 純粋な知的好奇心と悪戯を暴く高揚感。

 2つが合わさって実に良い気分で拳を突き出す。

 イメージする敵も今日は優香である。

 想像の中とはいえ、優香に勝利してから現実でも1つ打ち勝つ。

 完璧すぎる計画に健輔に小さな笑みを浮かべて勝利を確信していた。


「よっしゃッ!」


 一通りの動きをやり切り、妄想の中での練習相手を倒す。

 まだ誰もいないことを確認しつつ、ゆっくりと地上に降りる。

 地面に足をつく感覚をトリガーとして最大の警戒を放った。

 

(警戒し過ぎたかな……?)


 魔力の感知網は変わらず健輔が1人であることを示している。

 早朝のフィールド。

 物凄く遠方で少しの学生がいるは確認できるが、半径1キロ程には人影も何もなかった。

 

「まあ、バカじゃないんだし、これだけ気を張っていたらこないか。普通は」


 笑みを浮かべて安堵の溜息を吐く。

 来ないならば来ないで勝利だ――そんな風に思っていた健輔に


「気を張っていたんですか? 普段よりも調子が良いように感じましたが」

「まあ、そりゃあ……ん?」


 渦中の人物の涼やかな声が聞こえてくる。

 同時に感知網にいきなり現れる人の気配。

 錆びついた部分を動かすかのようにゆっくりと振り返る。


「ゆ、優香?」

「はい、私ですよ。お疲れ様です」


 微笑む美人。

 大輔辺りはは朝から美人の笑顔が見れるとか死んでもいいと言いそうなシチュエーション。健輔も眼福だとは思っていたが今日だけは事情が異なる。

 完璧なはずの警戒網が突破された。

 言語を絶するほどの衝撃が彼を襲う。


「ば、バカな……」

「健輔さん、どうかしました? 幽霊でも見たような顔ですけど」


 警戒に警戒を重ねていたからか今日は薄さをハッキリと感じ取っていた。

 常態でも優香が発しているある種の魔力圧を微塵も感じない。

 むしろ、逆の部類のものを感じ取っている自分を自覚していた。

 空気のような、自分の傍にあるのが当然のような奇妙な感覚。

 

「け、健輔さん、ぷるぷる震えてますけど……?」

「優香」

「ひゃ、ひゃい!?」


 顔を伏せて震えていた健輔はいきなり優香の肩を掴むと、ぐいっと顔を近づける。

 唐突すぎる行動に今度は優香の声が震えた。


「ちょっと、顔を洗ってもう1セットやるから、さっきのをもう1度頼む。じゃ、そういうことなんで」

「へ? さっきの?」

「行ってくる。陽炎は預かっておいてくれ!!」


 優香の返事も聞かずに猛ダッシュで去っていく。

 目まぐるしく変わる状況に優香も付いていけず、小さくなる背中に声をかけるぐらいしかやれることがなかった。


「お、お気をつけて? ……健輔さん、どうしたんだろう」

『マスターはマスター特有の病を発症しているだけなので気にしなくて大丈夫ですよ。優香はそのまま待っていてくださればいいです』

「そ、そうなの? 病気には見えないけど」

『マスター、あいつはいつも頭が幸せな奴よ。気にしない、気にしない』

「ゆ、雪風! そんな言い方はダメだからね」

『はーい。一応、気を付けまーす』

「も、もう……」


 絶対に守るつもりがないであろう返事に困ったように眉を顰める。

 どれだけの言っても治らないのだ。

 普段は聞き分けが良いだけ優香も何とも言い辛い。


『優香』

「ん? 何、陽炎」


 どうすればいいのかと悩んでいる優香へ声を掛ける存在。

 預かった陽炎からの問いかけに笑顔で応じる。

 

『マスターのためにご協力ありがとうございます。私も主のお役に立てている実感を持ててとても有意義な取引でした』

「ああ、この身体のことですか。ふふ、私の世界大会へ向けての切り札なんですけど、かなり良い出来でしょう?」

『ええ、マスターでも確信を抱けない。素晴らしい出来栄えです』

「えっ、健輔さん、気付いてなかったんですか?」


 予想外の言葉に思わず問いかける。

 

『……いえ、気付いてはいます。ですから、マスターが満足するまでお付き合いを』

「え、ええ、好きでやっていることだし、隠している訳でもないから別に構わないけど……あの、もしかして健輔さんがもう1回やって、と言っていたのって」

『はい。優香の分体が生まれる瞬間を見破りたいみたいですね』

「そ、そうなんだ。……そっか、ようやく私も健輔さんが想像できないような技を生み出せたんだ……」


 掌を見つめて、強く握り締める。

 健輔の裏を掻くどころか、あの優香は本物なのか、幽霊なのか、と微妙にずれた思考をし始めているのだがそうとも知らずに優香は嬉しそうに笑う。


「じゃ、じゃあ、期待には応えないとダメだよね! 私、準備をするから陽炎は此処で待っていて」

『はい、優香。マスターのためにもお願いします』

『ふーんだ。あいつにマスターの能力は見破れないわよ。お姉様も無駄なことに力を割かない方がいいと思うわよ』

『過程はどうでもいいです。あの方はどんなことであれ、挑戦は楽しまれますので。主が少しでも上にいけるように道具として全力を尽くすだけですから』

「雪風、いきますよ!! 健輔さんが気付いてないなら、もっと頑張らないと!」


 魔導機同士の会話をスルーしてテンションの上がった優香は姿を消す。

 最初から誰もいなかったかのような消失。

 彼女が確かに魔導の技で生み出された証左であるが、不思議なことに魔力の反応は健輔のもの以外は存在しなかった。

 

『……真実を言わない。これもマスターのためを思えばこそ。メアリー様との戦いだけでは実感が湧かないでしょうから、必要なことだと愚考します』


 残された陽炎の独白。

 主を欺いて主に尽くす忠臣は静かに佇む。

 成長したのは健輔だけではない。誰もが、あらゆる存在が、次の世界大会へ向けて準備を進めている。

 身近にいるからこそ気付けないこともある――主のために陽炎は気付くことが出来るだけの準備を整えていた。

 世界大会への日常の一コマ。

 主と同じく小さな積み重ねを武器とする魔導機はただただ勝利の道筋を見つめるのだった。

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