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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム ~Next Generation~  作者: 天川守
第4章後編『ドキドキが止まらない』
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第155話『連鎖』

「置換、なんて生易しいものですかっ」


 紗希にあまり似合わない悪態。

 御淑やかで優しいお姉さんの彼女をして、健輔の戦い方には文句をつけるしかなかった。

 置換と言っているが、早い話が相手の力を100%利用する方法がこの戦い方なのだ。

 シャドーモード、及びそれを発展させた能力を共有もしくは強化に用いてきた今までの術式はどうしても出力にロスがあった。

 使うのが本人でない以上、健輔でさえもどうしようも出来ない限界があったのだ。

 それを解決するために健輔が考えたのは自分を介さないという方法である。

 距離がある状態での能力の共有自体は前から出来ていたのだ。

 1番手っ取り早い能力の活用方法は自分を取り払うことであろう。

 リソースの集中、つまりは特定部位を空にする戦法との相性も抜群である。

 抵抗するべき自分の魔力がないからこそ、出口の設定も容易かった。

 

「能力的な脅威もありますが――」


 ここまでならば紗希も驚きはしても脅威には思わない。

 最大の問題は相手の能力を自由に利用することによる脅威度の変遷である。

 相手の攻撃を防御するには見極めが重要な要因となるが、この能力は其処を攪乱してくるのだ。

 健輔の最大出力を受けるつもりなのと桜香の最大出力を受けるのとでは意味が違う。

 桜香の出力を宿した拳を健輔の攻撃用の障壁で受けきれるはずがなかった。


「――戦法的な脅威は、より大きい!! 性根が窺えますよ、健輔くん!」

「品行方正な優等生に向かって失礼な人だな!」

「よく回る口ですね」


 苦い表情と言葉は紗希が追い詰められている証だった。

 あれほど優勢だったのに一瞬で状況は逆転してしまった。

 桜香を想定して必要以上に出力を高めれば魔力のロスも大きくなる。

 大きくなったロスを健輔の力は見逃さないだろう。

 柔と剛を組み合わせて穴を埋めていく。

 真っ当な対抗法方法にもはや感心するしなかった。


「ぐぅぅ!?」


 紗希の糸の結界が入り乱れる力に押し負ける。

 健輔の器用さだけは彼女でもなんとか出来るが、ここに桜香の力が加わると話が変わってしまう。

 力の緩急。常時の発動ではないからこそ、一時的に増大する圧力に抗しえない。

 力み過ぎると今度は穴を作られる。

 本当に厄介な組み合わせであった。更に言えば、悪い情報はまだまだある。


「結果的に私の固有能力も封じている……!」


 普段は健輔としての力しかないのに攻撃のタイミングだけ桜香が顔を出す。

 刹那の間であるからこそ、相手の力を逆用する『秩序反転』は効果を発揮できない。

 おまけに聖素も同様である。

 最強クラスの妨害能力である『聖素』も相手と接触できないと意味がない。

 紗希の空間展開の範囲は狭くないが、聖素を満たせる範囲はそこまで広くはなかった。

 現状の桜香のように見えはするが距離のある相手には影響力が落ちる。

 つまりそこまで能力の低下していない桜香の攻撃力を変幻自在の男が繰り出す結果となるのだ。

 固有能力を無効化は難しいが結果として意味を失わさせる。

 万能系らしい戦い方であった。


「私の能力にも、きちんと対抗してくる。やっぱり、強くなったね」

「当然。紗希さんの能力は強い。ハッキリと言うと極めてやり辛い類の力だったかな。でも、弱点がないとは言えない」

「こんな方法で突破できるのはあなたぐらいです!」


 相手を基準にしている類の能力は基本的に発動が後追いである。

 つまりは能力の発動の基準を握られている、ということでもあった。

 本来は弱点になるような要素ではないのだが、この男は数少ない例外であろう。

 試合中に大きく能力値が変化するような存在は魔導師の中でも健輔ぐらいである。

 事前の情報とは全くの別人になれる特性。

 ただでさえ効き難い面もあったのに完全に無力化を図られると紗希でもどうしようもなかった。

 下がった効果でなんとかするしかないが、技量の直接対決になると紗希にも厳しい部分は多々存在している。


「まあ、どんな能力でも魔導が使えるのならばいくらでも遣り様はありますよ。万能系っていうのは、そういうものです」

「妨害程度で屈する器用さではない?」

「一応、俺は最強の万能系だと自負してますから」

「カテゴリーの頂点は伊達じゃない、か」

「愚問です。浸透系の王者」


 1つの系統の頂点。

 舐めていた訳ではなくとも、過小評価していた。

 彼女の知る男の子ではなく、既に相手は一廉の魔導師である。


「器用さを活かす機転。1歩進んだ思考……これが、健輔くんの強さ。なるほど――」


 紗希の思考は能力、及びバトルスタイルでも相性が良いという段階で停止していた。

 対する健輔はもう1歩進んだ思考で紗希と対峙している。

 仮にパートナーが桜香でなくとも同じやり方は可能なのだ。それこそ1年生の能力であっても健輔が使えば脅威となる。

 初見というアドバンテージを失っても、対応できなければ結果は同じなのだ。

 自分というものを確立した上で、既に先へ進もうとしている。


「――ランカーになる訳です!!」

「褒めても何も出ませんよ!」

「いいえ、その成長こそが私にとってはご褒美です。まさか弟のような子と全力でやるようになるとは思いもしませんでした!」


 後出しであるから有効にならない時がある。

 自分の能力にこのような弱点があるとは紗希は考えたこともなかった。

 既存のセオリーを現在進行形で塗り替える男。

 この発展速度に付いていけなくなると押し負ける。

 紗希の直感が囁く。

 素早く倒さないと今のままではどうにも出来なくなってしまう。


「早く、早くッ!」


 桜香の能力をそっくりそのまま受け取って、自らの技量で活かす。

 単純であるからこそ効果は劇的だった。

 基礎能力の向上はそのまま絶望的な差となって紗希を追い詰める。

 技で押さえる、ということは何処かが崩れた瞬間に通じなくなる危ういバランスの上にあるということなのだ。

 健輔の能力が厄介だという自覚があるからこそ焦りは大きくなる。


「っ……!!」

「不敗、崩れたり! やっぱり思った通りだ。桜香さんや皇帝と違って、あなたは能力を強さの軸に置きすぎているッ!」


 いくら桜香を庇うためとはいえ、2人掛かりで皇帝に挑み敗れた事に疑問を禁じ得なかったが答えは此処にあった。

 紗希の基礎能力が低い訳でもバトルスタイルが弱い訳でもないが、一言で言うのならば脆いのだ。

 桜香や皇帝が自らの圧倒的な基礎の上に強さがあるのに対して、紗希は能力を軸にして強さを組み立てている。

 組み方の違いであるが、健輔を相手にするには中々に致命的な違いであった。

 基礎能力、ようはステータスは積み上げるのが難しいが簡単には崩せない。

 だからこそ、健輔も正面から挑むしかなかったのだ。

 対して紗希は突き方次第で組み上げた強さを崩せる余地がある。

 この差は大きい。

 相性で優勢ながらも一瞬で逆転した現実が予測の正しさを示していた。


「貰うッ!」

「しまっ――!?」


 糸を粉砕する前進行動。

 本来は紗希の干渉力で防がれるだが、桜香の防御力を局所的とはいえ発揮する万能の前では焼け石に水である。

 端的に言って出力が足りない。

 鳩尾に突き刺さる拳。

 ここまでクリティカルは避けてきた紗希に確かな一撃が刻まれる。


「ガッ!?」

「良し――!」


 健輔は勝利を確信して、追撃を放とうとする。

 非常に珍しいことであるが、このタイミングは健輔の気が緩んだ瞬間であった。

 ピンチはチャンス。

 これは別に健輔だけの特権ではない。

 潜む脅威に気付かないまま進撃する男は知らずに沼に嵌ろうとしているのだった。






 健輔が能力を発動させて、アルメダの苦境は深くなる一方だった。

 パワーとテクニックが合わさるのは何も健輔だけではない。

 単純な脅威としてならば桜香の方が遥かに厄介である。

 圧倒的な優勢に立つ『不滅の太陽』。

 自分たちの勝利が近いことに喜びを禁じ得ないのだが、何とも言えないモヤモヤが彼女を襲っていた。

 小骨が喉に刺さったような感覚。

 桜香にとってはとても覚えのある感覚だった。

 かつて、初めて健輔と戦った時に感じた違和感を眼前の存在から強く感じる。


「一体、何が……」


 不安を消そうと攻めは苛烈になる。

 健輔から魔力を引っ張り込み、押し続けるのは心の中の不安の表れであった。

 自分らしくないと自覚しつつも攻撃は止められない。

 人間大の嵐となった桜香の剣戟。

 アルメダはランカーでも一瞬で蒸発しような暴虐を無言で受け止め続ける。


「新しいことに挑戦する。ふーん、やっぱりあの子は面白いわね」

「――この状況で、余裕でも見せるつもりですか!」

「あら、そう見える? だったら、そうなんじゃないかしら。だって、今のあなたはそんなに怖くないわ」


 アルメダの言葉に桜香も不思議と頷けた。

 健輔の切り札。

 この能力は確かに凄いのだが、ハッキリと言うと桜香と相性が良くない。

 桜香は素の状態が完成されているのだ。

 余計な手を加えるの方が能力の低下は免れない。

 健輔の強さは健輔が持ってこそ意味がある。

 桜香では活かしきれない万能性。

 素の強さを引き換えにするには些か高い買い物であった。

 もっとも、それでも桜香は強い。

 時間を掛ければ勝つのは桜香であり、健輔であった。

 紗希が欠ければどうしようとも勝ち目は消える。

 

「悪いけど、あなたに確実に優っているものが私にもあるわ」

「っ……! 何、ですか!」

「簡単よ、年齢。非常に癪だけど、若さを失って見えるものもあるのよ。まあ、後はあれよね。年下が成長する機会があったら見逃せないのも、なんといか性かしら」

「だから、何を――」

「――いいのよ。私がわかって納得してることなんだから。あーあ、なんだかんだで、私も女神の系譜か。才能があると、育てちゃうなぁ」


 アルメダは悩んでいた。

 彼女は今、選択することが出来る立場にある。

 この場は見逃して、健輔の筋書通りに負けるという道。

 何せ、負けるのは簡単なのだ。

 このまま桜香に足止めされておけばいいだけである。

 見事に嵌められたことを思えば素直に納得できるし、相手の弱点を残したままに出来るというメリットもあった。

 賢いのはこちらなのだろう。

 対して、もう1つの道がある。

 それは――


「あなたの相方の能力には欠点があるわ。ここで教えてあげる」

「やれるものなら!」

「言われなくても直ぐに結果は出るわよ」


 アルメダの妙な自信を桜香は否定できなかった。

 どう見ても健輔の方が流れに乗っている。

 なのに、消えない不安の影。

 女神と言う名が不気味にチラつく。


「このまま、一気呵成に決めてみせる」


 静かにされど、必勝の意思で進む。

 1度倒した相手に気圧されるなど、桜香の矜持が許さない。

 精神を立て直し、凛々しく向かう様はまさに最強の体現者であった。

 立派な王者の勇姿にアルメダは苦笑する。

 

「流石よね。完成度はピカ一だわ。でも、それが仇になることもあるのよ」


 狙い通りに事が運んだことに安堵する。

 ピースは揃った。

 残り必要なのはタイミングだけである。

 健輔の意識が攻勢に集中するタイミング、すなわち桜香から魔力を引き出すタイミングを絶対に引けない場面に引き寄せるのだ。


「勝たせてもらうわ!」

「させるはずがない!」


 桜香の攻撃を必死に捌きつつ、意識を集中させていく。

 能力の型としてアルメダは健輔と似た傾向がある。

 本質的な万能さでは足元にも及ばないが、齎す結果ではアルメダも劣ってはいなかった。

 固有能力のコピーまでやってのけるアルメダの力は十分に有用なものなのだ。

 使い方次第――健輔が体現したものを今度はアルメダが使わせて貰う。


「魔力、バーストッ!」

「まだ上がるの!? 本当に、底なしね!」


 不気味な沈黙は逆転への道筋をつけた健輔も発していたモノである。

 桜香がその兆候を見逃すことだけはあり得ない。

 わかっているゆえの猛攻。

 アルメダも笑ってはいるが、内心では汗だくである。

 もはや維持だけで笑顔を保っているようなものだった。

 

「もっと、もっとッ!」

「少し、年上に加減しなさいよね!!」


 このタイミングで攻めないと相手は万全の状態で何かをする。

 『何か』の正体はわからずとも、あまり良いモノではないことは悟れた。

 そして、わかっているのならば力で粉砕するのが九条桜香である。

 いつも通りの選択に正しい行動。

 桜香の直感は見事にアルメダの行動を見抜いていた。

 ――残念なことに見抜かれることのがアルメダの狙い、ということまでは読めていなかったのが、彼女には珍しいミスであったのだろう。

 レジェンドを甘くみる。

 警戒に警戒を重ねても桜香には勝てない――健輔はある意味では信頼を桜香に抱いていた。相手を正当に評価しても、それでも最強が上だ。

 しかし、忘れてはいけない。

 こういった緩みから状況を逆転させる者たちをランカーといい、アルメダ・クディールは疑いようもないランカーなのだと言うことを。






「っああああああああああああ!!」

「ここで!?」

 

 糸を捨てて、肉弾戦に紗希が走る。

 健輔の拳が最大速度に到達するまえに己の身を投げ出す所業。

 予想外の行動は健輔の隙を突いていた。


「ぶち抜くッ!!」


 怯みながらも即断で攻勢を決意する。

 より多くの魔力を桜香から引っ張り込んで、『力技』で状況を崩しにかかった。

 紗希の行動は予想外であるが、破れかぶれであるのも事実である。

 その程度の想定外では佐藤健輔は崩れない。

 もし仮に崩れるとしたら、


『貰ったわよ、この悪戯っ子!!』

「……へ?」


 予想もしないタイミングでの、想定していなかった相手からの念話。

 勝利を確信した声に確かな空白が生まれて、発生する異常に対処が遅れたのは健輔のこの試合における最大のミスであった。


『あなたの能力、相手の魔力を制御している訳じゃない! ただ、引っ張っているだけ。だったら、こういうのには対応できないでしょう!』


 アルメダが桜香に向かって放つ切り札。

 大量にストックされている固有能力の中には戦闘向きではないとされてきたものも多々ある。

 この能力もその1つだった。

 名を『魔力拡散』という。


「こ、これは……! 健輔さん、いけませんッ!」

「余所見、しないでよね!!」

「っ、健輔さんッ!!!」


 魔力拡散能力。

 在る系統に属する能力の総称であるが、読んで字の如く『魔力を散らす』能力である。

 最上位の能力になると相手の回路に干渉し、制御を混乱させることも可能な力であった。

 字面だけ見れば極めて強力な力なのだがある問題があり、競技の上ではあまり役に立たないとされてきた代物である。

 理由は単純明快。仮に紗希クラスのステータスがあっても、相手の制御力を超えられないのだ。

 完全に無効化される訳ではないが、よくて一瞬の隙を生み出す程度。

 相手の魔力の大本である回路の介入など本当に一瞬で効果が消えてしまう。

 労力に対して、リターンが少ない。

 あまり使えない類の力であるが、健輔曰く『無断拝借モード』には致命的な相性の悪さだった。


「これは、魔力が暴発する……!?」


 健輔がやっているのが『制御』ではない。

 相手の魔力が出る場所を弄っているだけであり、生成と制御は本人に任せている。

 新しく生み出したモードであるからこその陥穽。

 シャドーモードのように自分を噛ませていたら防げたが、一切関与していない状態で持ってきた爆弾に火が付いてしまったら一緒に爆発するしかない。

 自らの体内に自分から抱き込んだものが着火されたのだ。

 桜香という強大な魔力の持ち主だからこそ、この一手は必殺となって健輔に迫る。


「くはっ、そうか、そうか!! これは俺のミスだな。あなたような相手なら、こういうことも出来るのかッ!! ははは、これは想定外だよ」


 どんな能力であれ、存在している以上は必ず欠点がある。

 健輔は欠点を突くことが出来ないような状況を生みだし、また投入する状況を選ぶことでデメリットを殺してきた。

 立ち回りに問題はない。褒めるべきは女神である。

 たった1つの急所を最適なタイミングで突く。

 経験豊富な大人として見事な一撃だった。

 

『あなたたちは繋がっている。だったら、桜香に干渉すれば後は連鎖するわよね? いい勉強になったかしら?』


 茶目っ気を含んだ笑みは能力を共有することの弱点を示唆していた。

 放置すればよいものを導いてしまったのは女神たちが持つ業のようなものであろう。

 これで健輔は次はもっと強くなる。

 わかっていたが見事な相手だからこそ、ついついやってしまったのである。


『後は1人の敵に注目してたらダメよ。あなたもランカーなんだから、周囲の全てを押さえるくらいになりなさい』


 紗希に意識を集中したタイミングであるからこそ防ぐ手段は健輔にはない。

 何処から攻撃がくるかはわからないという指摘はもっともであろう。

 他ならぬ健輔自身もそういったものを武器にしていたのだ。

 彼に牙を剥くこともある。


「ご教授、痛みいる。はっ、俺らしいな。やったことが跳ね返ってくるとはな」


 大笑いしながら健輔は頷く。

 華麗な技でやられることに否はない。

 相手に最大限の賛辞を惜しまず与えよう。


「女神の名、確かに刻んだ。アルメダ・クディール。伝説の名に恥じない人だ。だが――」

 

 制御下を離れた桜香の魔力は健輔を起点として暴走を行う。

 健輔にとっては慣れた動作とよく似た結末。非常に身に覚えるがあるからこそ、次にやるべきこともわかっていた。


「――紗希さんは残さない!! 全体の勝利は貰っていくぞ」

「え、ええ、ちょっと!? いきなり抱き着かないで!!」

「悪いが生き残る余地は消させて貰いますよ」

「そ、そういう問題じゃないから!!」


 慌てる紗希と妙に満足気な健輔。

 好対照な2人は0距離で接したまま光に飲み込まれる。

 目まぐるしく入れ替わる状況。

 残ったアルメダは大きく溜息を吐いて、


「……まあ、あの子はそうするわよね。それよりも……」


 理想はここで紗希が残ることだが、健輔は甘くない。

 想定通りに別のルートに乗ったが勝てる訳ではないのだ。

 ほとんど自爆に等しい威力を受けて1つの戦いに終止符が打たれた。

 健輔、及び紗希の撃墜。

 試合を掻き乱したジョーカーの退場。

 この戦いの趨勢を決定する結末が確かに生まれた瞬間であった。

 同時に、


「――アルメダ・クディール。私も刻みました。ええ、ゆえにあなたはもう1度、知るべきで落ちるべきだ」


 健輔の撃墜はこの最強を制御する者がいなくなることを指す。

 複雑なことを考えずに爆走する最強。

 たった1人でこの暴虐を受け止められるはずもない。


「うわぁ……怒ってる?」

「ご自身で、確かめてみれば如何ですか?」

「ああ、うん……。これは、無理かなぁ」


 絶望的な戦いに顔を引き攣らせながらアルメダは挑む。

 怒れる太陽の猛攻をここから3分間耐えるが、限界は其処で来てしまう。

 ――解き放たれる最強。

 収まらぬ憤怒のままに灼熱の太陽は戦場を駆けまわるのだった。


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