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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム ~Next Generation~  作者: 天川守
第4章後編『ドキドキが止まらない』
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第136話『後始末、そして――』

 健輔対優香の戦いを見守る者たちは各々の感慨を抱いた。

 ある最強は2人の強さに歓喜し、ある王者は新しい仲間を歓迎する。

 在り方により受けた印象は変われど、2人が最強クラスの魔導師に名を連ねたと多くの者が判断していた。

 その中で、彼女たちは少し視点が異なる。

 彼女たちも強者であるがゆえに寿いではいるが、思っているのは別のことだった。

 藤田葵とフィーネ・アルムスター。

 現在、チームを指導する立場にあるからこそ、見据えるのは未来の景色である。


「いい仕上がりみたいね。2人とも楽しそうだったわ」

「そうですね。世界大会を戦う上で、十分な力ではないでしょうか。それにしても、上手く煽りましたね。アマテラスを突いていたのもこれが理由ですか?」

「まさか。私はそこまで策士じゃないわよ。ただ……」

「ただ?」

「あの組み合わせじゃないと2人は冒険をしない。そう思ったから、後押ししただけ」


 健輔と優香ならばそう遠くない未来に同じ領域には来ていたであろう。

 葵もフィーネもそれは理解しているが、残りの時間が重要だとも思っていた。

 彼女たちが警戒しているのは、桜香ではなく、彼女に匹敵するであろう過去の伝説たちとまだ見ぬ新星である。


「これで最低限の準備は整ったわね」

「ルール上で考慮しないといけないこともありますけどね」

「まあ、そこは柔軟に行くしかないでしょう。元々、ルールのギリギリを突くような戦い方はしてないし大丈夫だと思うわ」


 まだ確定した新しいルールは発表されていない。

 以前に通達が来たのは事前の通達であり、本決定ではなかった。

 大きく変わるようなことはないが、細かい部分での変更は見逃せないだろう。

 コーチに関係するルールなどは増える可能性があることも考えればあまり泰然と構えてもられなかった。


「後は、あなたの調整ですが、大丈夫なのですか?」


 フィーネの意味深な笑みを葵はスルーする。

 後輩の急激なパワーアップに思うところはないのか、と問いかけているのはわかっているが素直に乗るほど葵は純粋ではなかった。


「ま、程ほどにはね。試す相手は決めてるから安心してくれていいわよ。あの人が何処に配属されているのかはしらないけど、何処かにはいるでしょう」

「レジェンドか、ウィザードですか。まあ、いい相手でしょうね」

「健輔みたいな特殊なテクニカルじゃないからね、私はさ。地道にやるしかないでしょう?」


 健輔の系統はもはや桜香と同レベル、部分的には凌駕している部分すらも存在している固有能力に匹敵する異能である。

 それを基準としたテクニカル型と葵では毛色が異なっていた。

 同じ技巧派でも大本の信念に違いがあるのだ。

 葵は優秀であるが、特別さは存在しないし、おそらく得ることはない。


「私に同意を求められても困りますね。私は向こう側ですよ」

「よく言うわよ。結局は努力をしたからこそのその強さでしょうに。フィーネさんも、今後はしっかりとお願いしますよ。敵は中々に厄介なのばかりですからね」

「承知してます。ええ、私も一廉の魔導師ですからね」

 

 やってくるであろうチームたちを思い浮かべて、2人は明日のお祭りを思いを馳せる。

 最後にして最大の戦い。

 最強と組める数少ない機会でもあるのだ。

 存分に楽しまないと嘘であろう。


「今はとりあえず」

「健輔さんたちの前途を祝いましょうか。次代を代表する魔導師たちの奮闘。実に胸を打ってくれましたからね」


 表に出なくとも鍛え上げた技は嘘を吐かない。

 合宿の中で成長を見せなかった2人は静かに闘志を燃やしているのだった。






 微睡む意識の中、彼女は声を聞いた。

 誰かと誰かが話している。

 片方は男性、片方は女性であろう。どちらの声も彼女にとっては心地よい。

 大切なものが少ないからこそ、情が深いのが彼女の特徴であるが、ほとんど気を失っているような状態でも聞き分けることが出来るのはもはや本能に根差した感情だからであろうか。


「健輔さん……姉さん……」


 意識を覚醒させて、ゆっくりと身体を起す。

 白い天井に薬品の匂い。

 彼女はあまりお世話になったことはないが、隣の人間は常習者である。

 付き添いでやってきた経験から此処がどこなのかは直ぐにわかった。


「ん、あら……」


 カーテンの向こうにシルエットがあり、優香が起きたことに気付いたのであろう。

 女性と思われる存在がこちらに振り向き、カーテンを開く。


「おはよう、寝坊助さん」

「姉さん……あの、その……」


 半身だけを入れ込み微笑み桜香に優香は顔を伏せる。

 少し浮ついた雰囲気の姉は懐かしく小さな頃に返ったような気分にさせてくれた。

 昔のように言葉に詰まってしまい、顔を伏せると姉も懐かしそうに笑う。


「お疲れ様。いい戦いだったわよ。ただあまり自爆はしないようにしなさい。健輔さんと違って、その辺りは頑丈じゃないでしょう?」

「あっ、はい……ごめん、なさい」

「私に謝ってどうするのよ。隣の人に言っておきなさい。ダメージが残らないようにあなたに干渉して、自分で負荷を受け止めてくれたのよ?」

「えっ……」

「健輔さんを間近で見てるから勘違いしてるみたいだけど、普通は自爆は危険な行為よ。あなたの出力でそのまましてしまえば命に関わる危険性もあるわ」


 自爆マスターである健輔は平然と自爆するが、暴走から暴発しているのだからリスクはあるのだ。

 完璧に制御できる健輔に対して、優香ではまだまだ危うい部分が多かった。

 

「そ……その、知らなくて……」

「だって。健輔さん、どうしますか?」

「っ!?」

 

 ニヤニヤとしている桜香は本当に昔のままで優香は赤面するしかない。

 普段は良い子なのだが、何故か稀に大きな問題を起こすのが優香である。

 平常時は完璧だからこそ、この辺りはギャップは大きかった。

 姉である桜香からすると妹の可愛くて仕方ない面でもある。


「……まあ、あれだ。いいんじゃないかな」

「うぅ~~~~!?」


 桜香に開け放たれたカーテンの向こうには健輔がおり、なんとも言い難い表情で視線を逸らしていた。

 優香が赤面して顔を伏せるのも無理からぬことであろう。


「ふふっ、いいわね。とっても楽しいわよ?」

「イイ性格のお姉さんですね……」


 楽しそうな桜香に健輔は大きな溜息を吐いて、優香へと笑いかけた。


「自爆は用法と用量にお気をつけてってことだな」

「いいアドバイスですね。自爆なんてする必要、今後はないと思うんですけどね」

「わかりませんよ。何が必要になるのは本当にわからないですからね」

「わ、わかりましたから……そっとしておいてください」


 笑い声で満ちる部屋は戦いが終わったことを示している。

 お祭りの前の小さな一時。

 健輔は世界最強の姉妹と友好を深めるのだった。






 集うは時代を担う魔導師たち。

 最後の最後たる大きな祭りに参加者たちが集まってくる。

 以前よりも皆が皆、自信に満ちているのは勘違いではないだろう。

 颯爽と前を歩く金の髪を持つ女帝を先頭にして、彼らはやってきた。


「あー、懐かしいわね。私たちがいた時と変わらないわ!」

「そうね。ええ、帰ってきた。そんな感じがするのは否定できないわね」

「おうおう、女帝が郷愁かの? なんとも珍しいことよな。お主にそんな感情があるとは思わなかったわ」

「あら、失礼な話だわ。こう見えて、私も乙女のつもりよ?」


 唇に指を当てて薄く微笑む女性は非常に美しい。

 先代の『女帝』にして、アリスの姉たる存在――ハンナ・キャンベルは場を支配する。

 圧倒的な存在感は次代の者たちから主演を奪ってしまうだけの力があった。

 彼女にちょっかいを掛ける男――霧島武雄も一筋縄ではいかない曲者だと考えると健輔たちの先代がどれだけ面倒の臭い連中だったがよくわかる。

 今回は味方なのに瞳でやり合う2人を制止しようと、ハンナの右腕たるサラが制止しようとしたが、


「お2人とも、あまりはしゃぐのもどうかと思いますよ」


 1人の少女が割って入ることで、行動を止められる。

 ハンナは確かに場を支配するが、支配に抗う者がいない訳ではない。

 かつては『女帝』を超える『女神』にすらも逆らった彼女が安穏としているはずがないのだ。コーチは所詮、コーチである。

 言外の意思の表示にハンナは笑みを漏らす。この少女は本当に化けた。

 

「そうよ、そうよ! クラウの言う通りだわ。あなたたちなんかお呼びじゃないの!」

「クレア、ハッキリと言えば、出しゃばりは見苦しい、ってね」


 クラウディアに釣られるように魔女たちからも抗議の声が上がる。

 ハンナの下に甘んじるなどクレアのプライドが許さない。

 ましてや、今回の集まりの暫定的なリーダーは他の者なのだ。

 彼には従うが、女帝に従うつもりなど皆無であった。


「うるさい連中だ……。心底どうでもよい」

「そうやって横から見てるのは恰好よいとは言わないよ? 王者は孤高、っていうのは我が親友の言い分だからね?」

「……ふん、わかってはいるさ。わかってはな」

「はいはい。僕に反抗期されても意味がないんだけど。君ってホントに器が小さいよね。才能と人格は比例しないけど酷くないかい?」

「お前に言われたくない!」


 仲が良いのか、悪いのかなんとも言えないやり取り。

 非常に賑やかな一団と化した彼らだが、この場に集うのは彼らだけで終わらない。

 

「賑やかな方々ですね。立夏、彼らは?」

「私も海外のチームはそこまで詳しい訳ではないですから。まあ、わかる人たちもいますけど」

「そんなものですか。……しかし、なんとも厳しいものですね。あそこにいる集団も相当に強い。あなたたちにも驚いたものですが、自分が歳をとったのがよくわかります」


 ハンナたちの集まりを見守る団体。

 アルメダ・クディールが率いる第3集団もクォークオブフェイトが合宿を行うこの地にやってきた。

 精悍な表情となった彼女の後ろに魔導師たち。

 昨年度は世界大会に出れなかったチームも確かな自信を窺わせている。

 後ろにいる彼らのやる気と情熱にアルメダは心の中で溜息を吐いた。

 立夏などは気付いているが、この集団は1番弱いのだ。

 多少の自信でどうにかなる程度の差ではないと彼女たちが1番よくわかっていた。


「向こうですらも実力的には2番手の集団、ですか。アホな先輩たちもいるというのに、中々に厄介な問題が多いものです」

「桜香たちがどれだけ強くなっているのかを世界大会が始まることに知れるのは意味があると思いますよ」

「そうですね。なるべく前向きに考えましょう。……ええ、あの女には教育をしないといけないですからね」


 暗い表情でニヤリと笑うアルメダに立夏が何とも言えない曖昧な笑みで応じた。

 合宿中もそうだったが桜香への女の情念を伴う怒りは対応に困る。

 健二たちが女性同士で、と対応を丸投げしてきたこともあり立夏は悲しい戦いに身を置いていた。


「ふ、ふふふ、ふふふふ」

「あ、アルメダさん、先に行きましょうよ、ね?」


 必死に宥めながら戦いの場へと彼らが移動を開始する。

 合宿の最後を彩る大きなお祭り。

 夏を彩る最後の舞台がついにやってきたのだった。


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