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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム ~Next Generation~  作者: 天川守
第4章後編『ドキドキが止まらない』
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第122話『悪巧み』

「えーと、私はどうしてここにいるんでしょうか?」


 場違い感が凄い。

 何やら妙な気迫を漂わせている先輩と、多少は縁があるとも言えなくはない光の女神。

 遥かな格上に囲まれて、ササラは困った顔で四方を見渡す。


「俺が連れてきたからだな」

「この人が引っ張りこんだからですね」

「いや、その……知ってます」


 どうしてそこで息が合う、と心の中でツッコミを入れる。

 聞きたいのはそういうことではないと表情に出ていたのだろう。

 健輔はあっさりと事情を吐いた。


「あーなんだ、その、あれだよ。お前のためにもなると思ってな」

「は、はぁ? 何をするつもりなんですか」

「おさらい、かな。戦闘時に必要な事についての」

「おさらい、ですか」


 今一よくわからなかったが、要点だけは掴めた。

 この2人は協力して何かをするつもりなのである。

 そのために協力者としてササラを引っ張りこんだのだ。


「私、必要ですか?」


 当然といえば当然の疑問。

 レオナと健輔はトップクラスの魔導師だが、ササラは駆け出しも良いところの新入生である。

 役に立つとは思えなかった。

 

「ああ、必要だ。正確にはお前の技能が、だけどな」

「私の技能。……変換系ですか?」

「おう、ああ、フィーネさんじゃダメな理由は簡単だ。あの人は凡人の参考にはならない」


 いつものように飄々とした表情で言い切る。

 健輔が言う時にはスッパリと物を言う人物なのはよく知っているが、ここまで切れ味は鋭かっただろうか。

 身内であっても魔導では妥協しない。

 言動の端々から強い意思を感じた。

 先輩のあまり見ない一面に少しだけドキドキするも、押し殺してササラは疑問を重ねた。

 唯々諾々と従うだけでは魔導師は務まらない。

 健輔がプラスだと思ってもササラが納得できないのならば協力するつもりはなかった。


「いいね。簡単には服従しない。自分のことは自分が考える。大事だぞ、その姿勢」

「ありがとうございます。先輩たちのご指導の賜物です」


 満面の笑みで礼を述べる。

 本当にイイ性格に育った後輩に健輔も嬉しくなっていた。

 これぐらいでないと巻き込むに値しない。


「そこで良い空気を吸っている人は放っておいて、趣旨を説明しましょうか」

「はい。よろしくお願いします」

「えっ、別に普通じゃないか、これぐらいはさ……」

「後輩を導く先輩はいても地獄に招待するのは普通じゃないです。まずは自覚しましょう。っと、すいません。こんなどうでもいいことで時間を使うのは勿体ないですね」


 いつまで経っても進まなさそうなのでレオナがスッパリを話を切り上げる。

 約1名の抗議の声をスルーして本題を語った。


「この人は少々特殊……いや、かなり異常な部類ですが、万能系以外にもバトルスタイルで万能性を持つ魔導師は多くいます」

「はい、レオナさんも、私も……他にもたくさんいますね」

「その通りです。まあ、これは自然なことでしょう。尖っているのも弱くはないですが、戦場という未知に溢れる場所では1つしか出来ません、で済む話ではないので」


 多少の得手不得手は仕方がないにしても余程優れていないと特化型は総合型に勝てない。

 1つしか能力がなくても結果的に万能に近くなる者がいるように、強くなるということの1つの側面として応用力があるのは事実であった。

 あらゆる戦場で活躍する。

 エースたる魔導師になるための1つの条件ではあるだろう。


「私とあなたは手段が近しい、戦闘の万能型。対する健輔さんは本当の意味での万能型。多少ニュアンスの違いがあります」

「なるほど、だから私なんですね」

「一般論で当て嵌まらない人との比較だけだと偏りが出来ますからね。客観的視点、第3者としてあなたをお呼びしました」


 言外に推薦したのは少し煤けた背中を見せている男だと言っている。

 意外と評価されていた事実に少しだけササラは誇らしい気持ちを感じた。

 何も考えていない、本能で生きているようにも感じられる先輩だが、見ているところは見ていたのだ。


「おい、なんか妙に生暖かい視線になってないか。おい」

「それで、如何でしょう。ご協力いただけますか?」

「……はい、私でよければ。ただ1つ条件を付けさせてください」

「あら、なんでしょう」


 取引ということは立場は対等である。

 健輔たちが作り上げるものに追従するだけではダメだろう。

 彼女なりに足りないと意見することが求められる。


「人数が足りないと思います。ケース的にも、他チームからも巻き込むべきです。標準的なサンプルだと言うのなら、猶のことそうすべきだと愚行します」

「……なるほど、クォークオブフェイトが強くなる訳です」

「だろう? いや、良く出来た後輩だわ」

「えっ、あの……もしかして」

「ドヤ顔で済まんけど、想定済みだ。ま、今後で頑張ってくれたまえ」


 結果的には無駄な意見だったが、本当の意味で無駄だった訳では断じてない。

 ササラが自発的に意見を述べたのは彼女たちが歩む道のりにおいて重要なことであった。

 後輩の成長を確かめられて上機嫌なままに健輔は会話を締める。


「楽しくなりそうですね」

「ああ、間違いない。嘉人も地獄を超えたらマシになる。我が後輩たちは優秀だねぇ」


 後ろから追いかけられる感覚。

 追いかけるのとは違う感覚に背筋を振るわせる。

 プレッシャーや恐怖よりもまず感じるのは歓喜。

 易々と追い付かせるほど健輔は甘くない。

 突き放してやろう、と健輔は意地の悪い笑みを浮かべて未来に想いを馳せるのだった。






 バックスとはある意味でチームの特色が1番現れる部分である。

 シューティングスターズならば、アリスの意思を遂行する職人集団。

 突出した特別さはないが確かな普遍性に支えられた安定感のある構成となっていた。

 クォークオブフェイトはそれとは逆に個性を調和させることで、高い能力を発揮させている。

 アマテラスに関しては他のメンバーと同様に桜香の能力を前に集団としての意義が見いだせていない。

 チームの良い部分と悪い部分がもろに出る場所、つまり最後の1チームたるヴァルキュリアの問題もバックスを見ればわかるということだった。


「ふむふむ、そういうことなのか。納得、納得」

「ええ、獅山さん、でしたっけ。私たちの問題点はわかってくれると思うけど」

「チーム全体で迷子になってることでしょう?」

「その通りです。辛うじて、レオナが道を見出しているぐらいで全員が全員確たるスタイルがあるとは言い難いのが問題かな」


 リタの説明を聞きながら香奈は視線を2人のバックスに移す。

 基本ルールにおける人数の柔軟さは今年度でも変わっておらず、ヴァルキュリアはバックスを1人減らして正面戦闘能力を充実させていた。

 これにはバックスにまで力を割く余裕がないという名門とは思えない問題が関わってもいる。

 フィーネという傑物が齎したモノの後遺症。

 現在進行形でアマテラスが苦しんでいるのとよく似た問題がそこにあった。


「真由美さんから話は聞いていたけど、全員が全員、小さなのから大きなのまでいろいろな問題を抱えているねぇ~」

「フィーネさんありきのバトルスタイルでしたからね。成功は問題点を隠してしまいますから」

「上手くいってるのに問題点を探れる人は少数派か。うん、その点、こっちのチームメンバーは優秀で良かったよ」

「羨ましい限りです」


 リタの声には本心の響きが籠っている。

 健輔が筆頭となるが、クォークオブフェイトには現状に安住しない連中が揃っていた。

 和哉に至ってはバトルスタイルの完全転換に、健輔は前代未聞の方向へと疾走中。

 圭吾も何やら動き出しているし、と大人しくしている者がいない。

 葵は葵で何やら企んでいるのは間違いなく、安定感というものをゴミ箱にシュートした在り方は何処からみても危険集団であった。


「あんまり真似するものじゃないと思うけどね」

「真似できませんよ。流石は真由美さんの、と言ってもよろしいですか?」

「ま、事実だから問題ないよ。葵はちょっと感じるものがあるみたいだから注意した方がいいと思うけどね。健輔は何も考えてないから無問題」

「フィーネさんを打倒した魔導師なのに、扱いが軽いですね」

 

 外から見れば健輔は怪物魔導師の尽くを打ち破ったエースキラーである。

 戦力として重宝されるであろうし、侮られる要素は皆無であった。

 しかし、香奈からするとそのような大層な人間ではない。

 むしろ女心などに関しては完全にアウトである。

 所詮は人間だと割り切る香奈からすれば、騒ぎ過ぎなのだ。

 健輔がやっていることなど好きなことに全力を投入しているに過ぎない。

 凄くはあるが、別段特別でもなんでもなかった。


「うーん、なんていうかさ。ヴァルキュリアはそんな感じのことを言う人が多いね。これはアマテラスもだけどさ」

「えっ……」

「フィーネさんに勝ったから、とか、桜香さんに勝ったのに、とかさ。それって、何か凄いことなの?」


 不思議そうに問いかける香奈にリタは言い返す言葉を持たない。

 

「いえ、あの……凄いと思いますけど」

「あー、聞き方が不味かったかな。じゃ、あれって絶対に不可能な難問?」

「そこまでは……いかないと思うけど」

「そういうことだよ。心の中に柵を創るのはやめた方がいいよ」


 過剰に健輔を持ち上げる者たちに共通するのは、健輔が倒した相手と関係が深い時である。

 健輔を何かしらの特別として奉ることで心に棚を作るのだ。

 あれは、別の領域のものだから、自分たちには関係ない、と。


「真っ直ぐに言いますね。……まだ抜けていませんか?」

「おろろ? ああ、真由美さんか」

「はい、同じようにやってきて初日で言われました。上限を自分で定めるな、でしたけど」

「言い方が真っ直ぐだし、穏当だね。流石、コミュ力高いなぁ」


 香奈と言っていることは同じでも真由美の方が受け入れやすい。

 己の闇を指摘されるよりも、未来を指し示される方が気持ちは楽である。

 こういった細かな気遣いが香奈には欠けていた。

 参謀は出来てもリーダーは絶対に不可能であるだろう。


「ま、やるべきことはわかったし、何をするかも決まったから、安心しておいてよ。取りあえずは、イリーネちゃんからだね」

「ええ、あの子こそが今後の要です。どうしても強力な前衛が必要になる」


 後衛は強いが前衛に難があるのが現在のヴァルキュリアである。

 チームの弱点を鑑みて、イリーネやカルラの強化は急務だった。

 

「オッケー、カルラちゃんの方は健輔が何やら巻き込むみたいだし、イリーネちゃんは贔引き受けるよ。あの2人と一緒にね」

「ありがとうございます。何か必要なことがあったら、なんでも言ってください」

「ま、まずはデータだよね。それがないと始まらないかな」

「それもそうですね。では……」

 

 魔導機に転送されたデータに目を通す。

 事前にある程度のプロフィールは貰っていたが、より詳細なデータを見ることで香奈はなんとも言い難い感覚を抱いた。

 才能の無駄使い、とでも言うべきだろうか。

 輝かんばかりのバックスの才能が何も活かされていない酷い事例を見てしまった。


「これは気合を入れないとダメかも」


 変換系というなんとも扱いの難しい系統でバックスを活かす。

 未知の難業にどうしようかと悩むも、顔は笑顔であった。

 戦闘魔導師にとっての壁が強敵であるのならば、バックスにとっての敵は難問である。

 こういった課題を解決していく智の作業こそが香奈が望むものでもあった。

 自覚なく満面の笑みを浮かべる香奈を見て、リタは苦笑する。

 ああ、やっぱりこの人もクォークオブフェイトなんだ、と誤解のようで誤解ではない認識は外に広まっていくのだった。


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