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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム ~Next Generation~  作者: 天川守
第4章後編『ドキドキが止まらない』
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第90話『喧嘩』

 史上最大の姉妹喧嘩の隣でこの模擬戦最大最後の全面攻勢が行われる。

 受け止めるのは、クォークオブフェイトリーダー『藤田葵』。

 脇を支えるのは、1年生の生き残り『桐嶋朔夜』。

 そして、隠密行動ゆえに桜香から逃げおおせた『伊藤真希』。

 シューティングスターズの総勢10名近い全面攻勢にたった3人で立ち向かっていた。


「まったく、このタイミングでやってくるなんて――嫌いじゃないわよ!」


 かつてのリーダーを凌駕する弾幕の雨に葵は愚痴を零しながらも葵は前進を続ける。

 敵の攻勢を受け止めるなど、彼女には似合わない。

 攻撃には更に苛烈な攻撃をぶつけて対抗する。

 それこそが藤田葵の在り方であった。

 終盤に入ったことで絶好調の葵はノリノリでアリスの弾幕を無理矢理に突破する。

 

「アリス! 聞こえてるんでしょう。このやり方じゃ、万年やっても――」


 葵の口上を遮るように攻撃の密度が上がる。

 視界を埋め尽くす砲撃。

 威力も申し分なく、火力面では間違いなく今年度で上位3チームに入るだろう。

 姉にも負けていない見事な技だった。

 それでも、オーソドックスなこのやり方では葵は落とせない。

 端的に言えば、見慣れているのだ。

 真由美を凌駕していても、圧倒はしていない。

 香奈子の攻撃すらも拳で凌いだ怪物を甘く見てはいけなかった。


「――私には、勝てないわよ!」


 シューティングスターズの前衛陣との接触。

 たった1人で血路を開いた彼女は間違いなくこの場においては最高クラスの前衛魔導師であった。

 自信満々の振る舞いに自慢げな笑みは己への自負に満ちている。

 迫る怪物を前にして、プリンセスに率いられる流星たちは――笑っていた。


「ふふ、葵お姉様、私たちでも、その程度のことは承知していますよ」

「ええ、葵お姉様。アリス様も私たちも理解しておりますよ? あなた様ならば必ず超えていただけると信じていました」


 返答と共に海から巨人が立ち上がる。

 振り下ろされる腕は葵を目標に定めており、外見からは想像出来ない機敏さで叩き付けられた。

 圧倒的な質量による物理攻撃。

 ゴーレム戦術の極みはここにある。


「理解して、これかしら!」


 しかし、それでも葵は倒れない。

 これは彼女の能力よりも経験と結びついた戦いに関する才能そのものが原因だった。

 健輔がセンスに長けているように葵もあらゆる分野、それこそ格闘戦を含めた『戦闘』というジャンルで優れたセンスを持っている。

 一言で言えば、異様に戦い方が上手い。

 拳がぶつかる瞬間に僅かに身体を動かして、衝撃の全てを受け流す。

 桜香から正面での対決で勝利をもぎ取る女は一味違う。


「次は、数でも増やす感じかしら?」

「はい、お姉様には不満もありますでしょうが」

「ヴィオラが一生懸命に考えて歓迎の方法なので、ご了承くださいませ」


 完璧なタイミングで攻撃が直撃したにも関わらず葵は無傷である。

 そうなるであろうと予想をしていたが、本当に無傷なのはヴィオラとしても納得し難い状況であった。

 彼女にもプライドはある。

 葵がそうだと理解していても自らの技をあっさりと超えられて気分が良いはずもなかった。

 表に出すようなことはないが、感じるものは確かにある。


「ヴィオラ」

「わかっています。まったく、戦闘魔導師たちは非常識な方ばかりで大変ですわ。趣向を凝らすのも限度があるというのに」


 葵は確かに強いが脅威度では優香や健輔に劣る。

 大規模破壊能力を持ち得ていないがゆえに、戦況を大きく変化させる力を持たないのだ。

 やり方次第ではどうとでもなる、というのがヴィオラの評価である。

 逆に単体戦闘能力では脅威としか言いようないのだが、立ち回り次第では葵に白兵戦をさせないのは可能だった。

 理論上に問題はない。

 では、ヴィオラが感じる不安の根本は葵から感じる存在感としか言いようがないだろう。

 何かをしでかすのではないか。

 健輔と同種の不安を感じさせる女傑こそが彼女なのだ。


「お姉様にはこのままお願いします」

「ええ、ヴィオラは?」

「アリス様に動いてもらいます。他のメンバーで牽制していますが、光の女神はやはり面倒くさいですね」


 シューティングスターズのチームメンバーとヴィエラで葵を釘付けにして、その間にヴァルキュリアを落とす。

 主力級の前衛が欠けているのがシューティングスターズの弱点であるが、ヴィオラは上手く露呈しないように立ち回っていた。

 育成は進めているし、目ぼしい人材もいるのだが、流石にこの模擬戦に投入できるほど仕上がってはいない。

 持ち得る手札でなんとかするしかない悲哀があった。


「不確定要素は1年生。……まあ、策など崩れるものですし、順当にやるしかないですね」


 掌の上で踊れ、などとかっこいいことが出来れば最善であろうが、ヴィオラはそこまで楽観的ではなかった。

 理屈の上では葵を倒せずともここに釘付けにするのは可能だが、何らかの手段で突破されるのは十分に考えられる。

 健輔の師匠、その1人を舐めるようなことはあり得ない。


「いくつも巡らせて、当たるのは1つか2つ。まあ、私の戦い方ですから、気にはしませんが」


 葵に背を向けてヴィオラは戦乙女を落としに掛かる。

 変換系のメンバーは姉妹喧嘩に巻き込まれているが、彼らにはまだ余剰が存在していた。

 ここいらで削いでおかないと面倒なことになる。

 レオナの性質も相まって、最大戦力であるアリスを動かさないといけないほどには面倒な相手だった。

 ほとんど壊滅しているクォークオブフェイトを放っておくのは怖いが、やれることをやるしかないのが彼女の立場であった。

 

「はぁ、いてもいなくても頭を痛めてくるのは代わりませんね」


 それでもヴィオラが悩むのは、イイ笑顔で戦場を暴れ回った健輔や現在進行形で暴れている葵がいるせいである。

 参謀である彼女にとって予想できないバカ、という存在が如何に厄介かは言うまでもないだろう。

 しかも困ったことにバカは感染する。

 

「アリス様も、同類ですし中々に困った問題ですが、楽しくはあるのですよね」


 傑物を嵌めた時ほど喜びは大きくなる。

 今回は世界最強という実に良い獲物がいるのだ。

 ヴィオラも柄ではないと理解しつつ狙ってみたくなる。


「これもお祭りです。楽しまないと損でしょう」


 嫋やかに、そして無邪気で無垢な笑みをヴィオラは浮かべる。

 主力を欠いた戦乙女たちに向かって流星を叩き付ける。

 引き抜かれた戦力は間違いなく葵たちにも影響を与えるだろう。

 桜香対優香に合わせて、美咲が動いているのも感知はしていた。


「ふむ、最後に立っているのが何処なのか。興味がありますね」


 最強も1人では限界があるのか。

 様々なものを見定めるのにこの試合は良い試金石だった。

 全力を尽くして、同時に未来を探る。

 ヴィオラ・ラッセルの戦いは人知れず繰り広げられるのだった。






 桜香対優香。

 幾度目の対決になるのか。

 両者ももはや数えていない対決。

 これまでは全ての対決で桜香が勝利を収めている。

 九条優香に九条桜香は1対1では負けない。

 桜香の認識であり、同時に世界の認識であった。

 格上は間違いなく桜香であり、一朝一夕で埋まる差では決してない。

 

「くぅっ!?」

「はああああああああああッ!」


 ――だからこそ、この光景は異常であった。

 桜香が力で押し負ける。

 見る者が見れば、優香の恐ろしいまでの魔力量がわかるだろう。

 あまりにも巨大すぎて、周囲の魔素濃度が強制的に引き上げられている。


「まさか……この子が!」

「お姉ちゃんの――――バカあああああああああああッ!」


 双剣に籠められた魔力を受け止めて、桜香の魔力が軋む。

 桁違いの魔力量をぶつけられたせいで統一系の構成が緩んでいるのだ。

 健輔は万能の可能性で対抗しようとした系統に、優香は非常にシンプルな方法で挑んでいる。

 分解されようが知ったことがない言わんばかりの圧倒的な量。

 これこそが限界を知らない優香の番外能力『過剰収束能力』。

 姉妹であるがゆえに、2人は似た番外能力を保持している。

 今まで優香はこの能力を完全に制御出来ていなかったため、桜香に大きな差を付けられた。

 しかし、今の完全にバーサーカーとなっている優香は違う。


「くぅぅ!」

「雪風!!」

『術式展開――『月下の涙』』

「は、早い!?」

 

 最高位の攻撃術式。

 複雑に描かれる式の様子を見抜いた桜香は戦慄を隠せない。

 小さく纏まっており、なおかつ異様に発動速度も速いが、これは魔導陣に似た規模の技であった。

 桜香でも何もせずに受け止めて良い攻撃ではない。


「怒りで、理屈を投げ捨てる。――そういうことですか!」


 『夢幻の蒼』。

 『魔導世界』とほぼ同系統の力だが、違いが1点ある。

 皇帝の強靭な精神力が支えとなっている『魔導世界』と違い、優香のものは仮に優香の発想が貧弱でも力を発揮できるのだ。

 理想を世に顕現する力。

 精度を上げるには具体的なイメージが必須だが、『理想』のイメージさえあれば力量次第では『魔導世界』よりも汎用性で優る。

 今までは非常に常識的な使い方しかされていなかったが、怒りで最適の戦闘方法を選ぶ今の優香ならば可能な戦術があった。

 理想を、つまりは完成系を思い描いて術式をほぼノータイムで発動させているのだ。

 無限に膨れ上がる術式を、間が存在しないほどの間隔で大量に展開する。

 これによって出力過多による暴発を防いでいた。


「じゃあ、次にくるのは」

「いくよ、私たち!」

「やっぱり――!」


 分身した優香が各々で術式を展開していく。

 普通は魔力が枯れてしかるべきだが、噴き上がる力はより大きくなるだけで小さくなる気配は欠片もなかった。

 駄々っ子の如く、暴れ回る優香。


「っ――!」

「やあああああああッ!」


 魔力が嵐のように吹き荒れる。

 優香の攻撃を桜香が消し飛ばし、それでも殺し切れなかった攻撃が弾け飛ぶ。

 伴う暴力は余波でヴァルキュリアに甚大な被害を与えていた。

 戦場に巻き込まれただけでカルラとリタが撃墜されているのだから、激しさは容易に想像できるだろう。


「姉さんは、もうっ!」

「――あのね」


 優香は止まらない。 

 明らかに姉から怒気が発せられていても、止まるつもりがなかった。

 空気を読むような機能は現状の優香からはすっぽりと抜け落ちている。


「いつまでも、意味のわからないことを――言ってるんじゃないわよッ!」


 妹に続いて姉がキレる。

 嫋やかに見えるが沸点の低い最強は年長者なのに逆ギレをかました。

 混沌に陥る戦場。

 必死に身を守りながらも、イリーネだけが観客として激闘を見つめる。


「言いたいことがあるのなら、素面で言いなさい! 怒りの手を借りないと言えもしない程度で、図に乗るなッ!」

「うるさいッ!」


 広げた双剣を翼のようにして、物凄い速度で優香は桜香に迫る。


「その戦い方、妹だから――いえ、妹だからこそ、腹が立つわね!」

「姉さんに、文句を付けられる筋合いはありませんね!」


 桜香の笑顔が危険な色を帯びる。

 嗜虐性を感じさせるのは、彼女の隠れた性質だろうか。

 対する優香も普段からは考えられないほどに吠える。

 積み重なったモノの爆発。

 溢れん思いを剣にのせて、2人は存分に語らう。


「そもそも、そのエースの在り方はなんですか! 気に入りませんッ!」

「あなたに気に入られるために、戦ってるんじゃないわよ!」

「最強のエースが、チームを捨て駒にして――どうするんですか!」


 エースに拘る男の隣に立って、一緒にここまで頑張って来た。

 そんな努力を嘲笑うかのように、姉はチームを捨てたのだ。

 どんな理由があっても、1つの事実であるのは違いない。


「私もこのチームのエースです! だから、如何なる状況でも勝利を持ち帰る。仮に自らが不利になっても、仲間を気にしない人が、最強のエースのはずがない!」

「言ったわね。だったら、エースとして――私という脅威を倒してみせなさいよ!」


 チームのために如何なる苦境も覆すのもエースならば、どんな状況でもチームを支えるのもエースである。

 健輔が前者を目指すのだから、優香は必然として後者を目指した。

 後ろにいるのは美咲の役割であり、隣にいるのが優香の役割である。

 隣とは同じ存在ではなく、対等の存在に与えられるものだろう。

 優香は優香の理想に沿ったエースになるために努力をしている。

 桜香に劣っているのは事実だが、その程度で諦められるほど今の優香はお行儀は良くなかった。


「敵が自らよりも強大だからと諦めるような者がエースのはずがない!」

「……!」


 優香に火が付く。

 桜香は失言に気付くがもう遅い。

 ただでさえ今日も優香は機嫌が悪いのだ。

 非常に珍しいことだが、だからこそ怒りという燃料は優香を燃え上がらせる。

 元凶が目の前にいるのだ。

 猛るのも当然だった。


「姉さんは、どうして出来ることをやらない!」

「あなたに言われることではないわ! 無意味に不器用な様を晒して!」

「私が不器用なのは知っています! しかし、姉さんは出来るでしょう!! やれることをやらないのは怠慢だ!」

「私を勝手に判断するな!」


 売り言葉に買い言葉。

 お互いに発する言葉が気に入らないとボルテージを上げていく。

 意地でぶつかり合うのはまさに喧嘩であった。

 子どもように、いや、正しく子どもとしてお互いの主張をぶつけ合う。

 

「姉の苦労を、微塵も知らないのに!」

「妹の苦労なんて、微塵も理解しないくせに!」


 同じタイミングで、2人は怒りの頂点に至る。

 傍から見れば、実に姉妹であろう。

 怒る最後の切っ掛けが完全に同じだった。


「この、分からず屋ッ!」

「言いましたね! そちらこそ――!」


 理屈も筋も破綻して、とにかく相手が気に入らないとなっていく。

 こんな喧嘩もこの年になるまでやっていないから2人の関係は拗れたのだ。

 やり残したことを昇華するかのように、2人は激しく意思と力をぶつけ合う。


「頭きたわ!!」

「こちらのセリフです!」

「そうやって――」


 黒い魔力が刃の形で空を駆ける。

 迎撃のために蒼い刃が同じように放たれて相殺し合う。

 

「私の真似ばかり、しないのッ!」

「どこが――」


 夥しい数の剣の形をした魔力弾が生まれる。

 全方位から桜香を襲う剣群。

 そんなものでやられる桜香ではなかったが、わざわざ全てを同じように生み出した剣で叩き落す。


「――真似をしていると言うんですか!」

「全てが、よ!」


 剣戟は激しくなり、少しずつ優香が押され出す。

 怒りという燃料があっても基礎の差は存在しているのだ。

 現状は互角だが、怒りという燃料を燃やしている優香には限界点がある。

 このままではどちらが先に息切れするかは明らかだった。

 

「あなたがっ、私に――そんなことを、言いますか!!」

「だったら、そろそろ――私から、卒業しなさいよ!」


 決着を付けようと桜香が魔力を高めて、優香もそれに応じる。

 しかし、怒りで冷静さを欠いた優香は気付いていない。

 魔力はまだ噴き出しているが、身体の方がそろそろ限界に至ろうとしていた。

 放出される魔力を次から次へと使用しても、身体に溜め込むリスクを回避できるだけであり、痛めない訳ではなかった。

 決定的なタイミングで起こる身体への負荷。

 最大規模の攻撃に耐えられるほどの余力は優香の身体にはなかった。


「天照、蹴散ら――」


 言葉を続けようとして、桜香は小さな小さな違和感を感じた。

 優香に向ける術式選択に迷いはない。

 最大級の攻撃で応戦すべきであろう。

 しかし、勘が警告を発するのだ。

 今はマズイ、と。

 本能が導き出した答えに、桜香は身を委ねた。

 

「姉さん、逃げるんですか!」

「――誰! 見ているんでしょう」

「えっ……」

 

 大分正気に戻ってきたのだろう。

 涙目のままだが、優香は周囲の索敵を行った。

 感じるのは余波で瀕死に近い水の乙女だけ。

 他に脅威となりそうな者はいない。

 しかし、それを裏切るかのように声が響いた。


「私、ですよ。そう言えば、直接話をしたことはほとんどなかったですか」


 大量の魔力弾が返事の如く叩き付けられる。

 視界の脇で優香が驚いた表情をしているのを確認してから、桜香は攻撃があった方向に視線を向けた。


「あなたは……」

「丸山美咲。あなたにとっては、敵でいいと思いますよ。九条桜香さん」


 小柄な体格は可愛らしいと称されるべきものであり、他人の美醜など興味がない桜香から見ても十分に可愛らしい少女だ。

 纏うオーラと冷たい視線が無ければ、桜香が気に止めることなどない。


「私、あなたに何かをしましたかね? 親の仇のように見られるほどのことをした記憶はないのですが」

「特段、何も。勝手に私が怒っているだけなので、気にしないで結構ですよ」

「なるほど。……では、質問を変えます。私、あなたが非常に癪に障るのですが、心当たりはありますか?」


 桜香は他人に悪印象を持つことはほとんどない。

 正確には悪印象どころか記憶に残らないだけなのだが、美咲に関しては間違いなく気に入らないと判断していた。

 状況としてはアルメダを見た時と似ている。

 つまり、桜香の感情を示す言葉は1つであろう。


「嫉妬、でしょう? 健輔さんの背を支える私への。お利口な様子でも目から願望が漏れてますよ。面倒臭い人ですね。それで気取っているつもりですか」

「的確な言葉です。ええ――気に入らない、ですね。私と健輔さんの戦いに割って入ったことが、ですよ」


 お前が思っている事とは違う、と桜香はハッキリと告げる。

 どちらにせよ既に理解して納得した上で2人はお互いを敵だと判断していた。

 心情的に似通った部分があるからこそ、同類を認められない。

 

「今は試合中です。わかりやすく決着を付けましょうか」

「お好きにどうぞ。優香とならば、あなたを倒せると思ってますよ」

「ほう、面白い」


 健輔と成し遂げられなかったものが優香とならばやれる。

 世迷言にしか聞こえないが、桜香は受けて立つことを決めた。

 相手は健輔が自らの相棒と認めた相手なのだ。

 怒りはあろうとも侮りは持ってはならない。

 彼が望む最強とは、きっとそういうものであるはずだろう。


「……結局、あなたは見たいものしか見ていない。何も変わってないですよ」

「……口は達者ですね。本当に、ええ――気に入らないッ!」


 これ以上は問答をするつもりがない。

 桜香は勢いよく美咲に迫る。

 冷たく桜香を見つめて、美咲が静かに言葉を漏らす。


「あなたに勝てる人がこの場にはいる。そのことから目を逸らして、こんな無茶をする。これが、最強とは無様に過ぎるでしょう」


 最終的な勝者が自分であれば良い。

 美咲は自らのライフすらも割り切って戦場へと赴く。

 優香と手を重ねて、最強を迎え撃つ。

 終幕への一戦。

 煌びやかな戦いの最後の残光の1つが小さく、小さく灯るのだった。


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