黒装束は無口
主人公が喋らないから、ラク~~~~~~♪
こちら、主人公サイド。
「・・・・・。」
主人公こと黒装束を着たソレは、黙々と砂漠海を歩いていた。
「・・・・・・・。」
ジリジリと焼け付くような暑い日ざしを砂漠海の砂の一粒一粒が照り返して、熱気が立ち込めて、一つしかない影がユラユラと揺れ、蠢く陽炎がその暑さを痛感させる。
「・・・・・・・・・・。」
今、ソレはズルズルとサンドシャークの解体パーツの詰まった血生臭い袋を引っ張って、アーク国を目指していた。
[・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
行けども行けども蠢く砂ばかりだが、ゆっくりと、しかし確実に近づいてきているのは分かる。
なぜなら、砂の山の奥の奥にうっすらと巨大な影が見えるからだ。
[・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
そう、まさにあの影こそがアーク国の周りを囲む城壁の影である。
[・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
・・・おい、主人公。
お前いまだに喋ってねーけど、いいのか。オイ。
「・・・・ついた。」
目の前にそびえるのはアーク国ならではの城壁。
高さはゆうに50メートルは越すだろう。
初代アーク国国王が何年もかけて築いた壁は、町の中に入ろうとする魔物の一切を寄せ付けない。
万が一に魔物に攻撃されても、魔法で付与された壁には1ミリも傷つかない。
まさに城塞都市ともいえる。
「・・・入国手続きしないと。」
その城塞都市に入ることのできる唯一の方法は、城壁の中間地点に当たるところの、「門」から入ることである。しかし、この門を通るには国へ寄付金を払わなければならない。
その額は100G。
だいたいこの世界の人が給料として貰っているのが平均20Gなので、五ヶ月分の給料となる大金だ。
なので、旅をするにはそれ相応の蓄えが必要なのだ。
「・・・ひー、ふー、みー、・・・うん。足りる。」
どうやら足りるようだ。
金は門の前にいる衛生兵に渡さなければならない。
この兵はとても規律に厳しく、巷では「守銭奴」と言われている。(本人非公認)
「・・・・すみません。」
「ん?」
ソレがその兵に声をかける。
兵はソレの黒装束を見て、少々顔を歪めたが、すぐに取り繕って大人の対応をする。
「入国希望者ですか?」
「・・・・はい。」
「入国に必要なGをもっていますか?」
「・・・・コレ。」
ジャラジャラと音をならして、ソレは100G支払った。
「10、20、30、40・・・・・100! ちゃんと100Gありますね。」
「では、あなたのお名前と入国希望理由をお聞かせください。」
いくら国の中がちょっとした無法地帯に化しているとはいえ、怪しい者や他国のスパイなどが万が一にも入ってこられないように、こういう質問はよくされる。
「お名前は?」
「・・・・・・・・・「クウ」です。」
ソレは、いや「クウ」は自らの名を述べた。
「『クウ』様ですね。・・・珍しい名前です。」
「・・・よく、いわれる。」
「ハハハ、そうですか。お一人で来られたのですか?」
「・・・うん。」
「すごいですね。最近ではサンドシャークが暴れていて旅人はあまり来ないのに。クウ様はよほど腕に自信があるのですね。」
「・・・・そうでもないよ?」
「謙遜するものでもないですよ。ああ、話が脱線しましたね。失礼失礼。では、最後の質問です。
我がアーク国への入国理由を教えてください。」
「・・・・コロシアム。」
「ああ、コロシアムを見に来たのですね?でしたら運がありませんでしたね。先ほども言ったように、近頃サンドシャークが暴れていて、旅人や商人達があまり来なくなってしまったので、サンドシャークが討伐されるまで、コロシアムは延期になっているのですよ。」
「・・・・残念。」
「申し訳ありません。どうします?それでも入国なされますか?」
「・・・・ん。観光していく。」
「あまり、見るようなものもないのですが・・・まあ良いでしょう。」
「では、改めて。」
「ようこそ!アーク国へ!」
兵がそう叫ぶと、堅く閉ざされていた門がゆっくりと開きだした。
コロシアムを見に来たわけじゃないんですけど・・・・。
サンドシャーク倒されちゃってるんですけど・・・・・・。