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drifters

浮浪者でありたいと

作者: カンコ

 かつて私が“drifter”であった頃に、常に身に着けていたメガネがある。

それは、この現実とは、かくも汚く、理不尽で、生き辛い場所であるというラベリングをしてくれるメガネだ。さながらサングラスか、それ以上に光を遮るそのメガネは、かつての私には切っても切り離せぬ必需なモノであった。果てなく浮浪する私には、この世間を罵り、蔑む必要があったから。

 だが、それ程までに現実を悲観すれども、光を遮れども、一瞬たりとて目を閉じたことは無かった。どうにか、腐りかけたその道を、再び切り開こうと。それがいわゆる反発心であったのか、或いはわずかながら抱え持っていた希望であるかは、知りもしないが。



 やがてメガネは必要を成さなくなり、私の身から離れ、消えた。

一瞬にして世界はその色を取り戻した。しかし、長くメガネに頼り歩んで来た故に、どうも景色が霞んで見える。そしてかつての、もはや遺骸となった激情を、澄んだ空に投じ、また、道端にも垂れ流し。如何にも意味の無いその行動が、霞んだ歩道を澄ませて行く。

 どう言う訳か。


 時のおかげか、自身の才能か、私はいつしか“drifter”で無くなった。それと同時に、感情が揺れることも無くなった。心が石のように固まった。これを知人は、『純粋だね』と言った。

 自己の感情に干渉など出来ず、何も理解をしなくなった。人間を好きになった。此れまでに出会った、計561人、それらの存在を、尊いと思うようになった。

 何を考えるでもなく、生きるようになった。


 そして、何もかも忘れた。


 ただ一心に回避を果たそうと走り続け、やがて迷子になりゆく様を、笑う。それは嘲りとは違う。歓喜を沈め、自己の不遜さを覆い隠そうとする、恐ろしく慈愛満ちる笑顔で。 

 一度澄みきった歩道が、再び淀んでいく。

『まだまだ終わらせはしない』

と、何かが囁く。

 私は、メガネを手に取った。それは、現実を広く見渡すことの出来るメガネ。


 かつての“drifter”であった私と、いつしか“drifter”で無くなった私が、わずかに感じる呼吸を合わせ、歩き出した。



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