表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

3話

「たーのもー!!!」


 そうわたしが叫ぶと、ぎょっとしたようにみんながわたしを見た。そこに大人しく座っていた女が突然上を向いて叫んだのだから、当然の反応だとは思うけど。

 でもわたしは無視。兄様も「どうした、ベレニケ」と優しく聞いてくれるけど、それにも答えず、わたしは口元に手を当ててありったけの大声で叫び続けた。


「ちょっとー!!聞いてるんでしょ!!答えなさいよー!!!ねーーーえーーー!」

「べ、ベレニケ!?ちょっと、やめなよ!」


「わたし、知ってるのよ!『アナタ』がずっとわたしたちのこと見てるって!!!」

「ベレニケ?」

「『アナタ』はなんとかできるんでしょ!?」

「先輩……」

「ねえ!わたしたちを作ったのは『アナタ』なんでしょ!!!」

「……」



『まいったな』



 観念したような。楽しそうな。苦笑交じりの声が、少しの沈黙の後、何の変哲もない空間に響いた。驚いたように目を丸くする攻略対象たちと兄様。わたしはやっと現れたその声に、ふう、と息をついた。叫び続けたせいで喉がちょっと痛い。


「ベレニケ、この声は……?」

「テーセウス兄様。この声は、『神様』の声よ」

「神様?」


 神様はそう、と言って小さく笑った。

 そう、この声の正体は『神様』。つまり、このゲームの製作者だ。この学園モノの乙女ゲームを作りだした張本人。兄様を攻略対象にしなかった宿敵と言い換えてもいい。それから、このバグを知っていたのにずっと知らんぷりしていた極悪人!


『なんでベレニケはそういう余計な知識を持ってるんだろう。テーセウスに恋してみたり、逆ハーエンド断ってみたり、予想外のことばっかりするよね』

「そんなのわたしが聞きたいわよ。っていうかこのバグひどすぎるわよ。なんのフラグもたててないのに逆ハーエンドになってるし、そもそも兄様が攻略できない!」

『それはバグじゃないけど……まあ、好感度低いのにこんなことになっちゃったのは、バグかな。プログラムのミスみたい。ごめんね』


 謝られて少し溜飲が下がる……けど、ここで引き下がったら乙女ゲーム主人公の名折れ。ふふ、とわたしは薄暗い笑みを浮かべた。あ、ソロンが少し引いてる。そういえば彼結構純情系だった。ごめんね。


「悪いと思うなら、わたしのお願い聞いて、神様」

『うーん、そんな義理もないけど、まあ面白そうだから聞くだけ聞いてみよう。なにかな、ベレニケ』


 わたしは言った。

「みんなを自由にしてほしいの。つまり、好感度があろうとなかろうと、攻略対象であろうとなかろうと、恋愛は自由にするもの。そうでしょ?」

『うーん』

 神様がうなる。そしてまわりのみんなも渋い顔をする。兄様が眉をしかめた。

「お前、それはもう乙女ゲームじゃないぞ」

「だって、わたしは乙女ゲームの主人公である前に一人の女の子なんだもの!」


 そしてみんなは攻略対象である前に一人の男性だ。わたしが主人公だからと言って私に恋する必要はないはず!

 わたしの言い分に、神様は『わかった』とようやく声を発した。

『どうなるかわからないけど、やってみよう』

 わ、割とあっさりね。言い出したわたしもびっくりよ。

『面白そうだからね』

 声には出していないのに、神様はそういって笑った。本当にこの声は神様なのね。変なところで実感する。 


『じゃあ、今から修正するよ。少しの間、おやすみ』

 神様が言ったとたん、突然周囲がガタガタと揺れ始めた。目の前にノイズが走る。レノがしゃがみこみ、クリスト先生も机に手を預けて体を保っている。小柄なライサンダーは机の下に隠れて、ソロンも椅子から落ちないように踏ん張っていた。そういうわたしは足元がふらつき、バランスを崩した。

「きゃ、あ」

「ベレニケ!」

 兄様がわたしを抱き寄せた。たくましい胸に頬があたる。兄様の香りがする。ああ、それになんてあったかい。

 幸せに包まれているうちに、わたしの目の前は真っ暗になった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ