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2話

小人の小指の爪の先ほど程度ですが、BL的な言及ありますので、不快な思いをさせてしまったらすみません。


「とりあえず二人のルートじゃないから!関係ないから!帰って!」

 攻略本をふところにしまったあと、わたしはレノとクリスト先生に向かって再度告げた。二人は不満そうな顔をする、けど不満なのはこっちよ。大好きなテーセウス兄様とふたりきりの邪魔もされたし、なにより告白の途中だというのに!(フラれたけど!)

 と言いたかったのに。


「そういうわけにはいかないですよ、先輩!」

「……うん……ベレニケの告白なんて、見たくない……」


 追加で聞こえてきた二人分の男の声に、わたしは頭痛を覚えてこめかみを押さえた。


「ライサンダーと、ソロンじゃん」

「おやおや……あなたたちもですか」

 レノとクリスト先生の言葉に、やっぱり、と彼らの方を見る。レノとクリスト先生に並ぶようにして、くるくるした明るい色の髪の少年・ライサンダー(攻略対象3)と、黒い髪の長身の青年・ソロン(攻略対象4)が出現していた。


「なんであなたたちまでいるのよ……なんなのよ……あなたたちのルートでもないのよ……」

 わんこ系後輩ライサンダーは、わたしの言葉にぷくりと頬をふくらませた。可愛すぎるその仕草はショタ好きの方は一発KOものだけど、残念ながらわたしの愛情は兄様一直線なのよ。

 そして、2年生のはじめに転校してきたミステリアスなソロンはいつも口数が少なく声も小さいんだけど、「だって、ベレニケ、僕以外に告白してる……」といつもより大きな声で自分の存在を主張した。


「当たり前でしょ。わたしが好きなのは兄様なの」

「いや、俺は」

「兄様は黙ってて!」

 わたしが言うとテーセウス兄様は口をつぐんだ。


「というか、なんなの。みんなわたしが好きなの?」

 なんて傲慢で自意識過剰な言葉かしらと思わないでもないけど、どうも攻略対象どもの態度や言葉はそうとしか思えない。疑問に感じてはっきり聞くと、4人はそれぞれ「うん!」「ええ」「そうだよ!」「うん……」と肯定してくれた。なんてことだ。


「なんで。おかしいわ。これノーマルルートよね?わたし誰とも好感度MAXにしてないわよね」

 右手を動かし彼らの好感度を表示させる。彼らのハートマークは1、2個ずつピンク色に染まってはいたけれど、それは噂に名高い「逆ハーエンド」の条件も、個別エンドの条件も満たしてはいないはず。

「そんなこと言われても、好きなものは好きなんだから仕方ないよ。オレ、きみが好きなんだ」

「ああっ、レノ先輩ずるい!ボクも先輩に告白するタイミング見計らってたのに!」

「僕……も、お前らには負けないくらい、きみのこと、好き……」

「ふふ。私もあなたのことを、心から愛していますよ?」

 それぞれがとろけるような麗しい笑みで、甘く魅惑的な声でわたしにそう告げる。ひいいい、とわたしは思わずすぐ横に突っ立っていたテーセウス兄様にしがみついた。兄様は相変わらず困ったような表情のままだったことは無視だ。


「なあ、やっぱりお前はこいつらのどれかと一緒になったほうがいいと思う。お前のこと、真剣に好いてくれてるみたいだし」

「だからって、はいそうですかっていくわけないじゃない!」

 兄様の言葉に、わたしは噛みついた。正直、顔とかスペックでいったら兄様よりこの人たちのが断然上よ。だって攻略対象だもの。当たり前よ。でもそんなことで気持ちって変わる?好きって想いをなくすことができる?答えは否だ。少なくともわたしが好きなのは、フツメンで、頭もそこそこで、普通の大学生をしてるけど、ただ優しくて、わたしと一緒にずっと過ごしてきてくれた、テーセウス兄様ただひとりなのよ。


***


 ずっと体育館裏の桜の木の下っていうのもどうなの、という意見が出たことで、わたしたちは空き教室に移動した。別に兄様以外は帰ってくれてよかったのに、その意見は却下された。そして再度試みたわたしの告白も兄様は却下した。くそう。

 ちなみに、空き教室に部外者(兄様)が入っていいのかとか、都合よく学校に入れるのかとかは気にしてはいけない。ここはゲームの世界なんだから。ご都合主義万歳。


「っていうかそもそも兄様を攻略できない時点でおかしいわよ。バグよバグ。こんなのおかしい。メーカーにクレームいれるレベルよ。感想メール出してやるわ」

 おのおの椅子に腰掛け、一段落。そこでわたしは再びふところから虎の巻を取り出し、ぱらぱらとまくりながら言った。


 だって絶対世の女子は兄様に恋心を抱くはずだもの。そこまでいかなくとも、一度はむねきゅんするはずだもの。兄様はサブキャラだけど、世にある多くの乙女ゲームのサブキャラがそうであるように、顔とかは攻略対象よりはるかによくないのに、なんだか心をぐっとつかんでくるのだ。そういう彼らを攻略できないことに嘆く女子は多いはず。

 そして今わたしはそういう立場にいるのだ。そしてわたしの場合はもっと切実。だって正真正銘、このゲームの主人公なのだから。わたしはこの世界で生きているのだから。


 ヘラのくれた虎の巻には、逆さに読んでもひっくり返しても兄様が隠しキャラであることなんて書いていない。当然だけれど。一縷の望みもたたれた。


 余談になるけれど、この虎の巻の攻略対象紹介ページ、クリスト先生の欄にはハートマークが書いてある。なんでかというと、彼がヘラの最萌キャラだからだ。「腹黒ドSが攻めでもいいけど、逆に受けでもいいわよね!!!アリよね!!!」と何度か熱く語っている場面に遭遇したことがある。ヘラ(腐)の脳内妄想劇場で、いったい誰が先生のお相手に選ばれているのか、聞いたことはない。


 閑話休題。


「まあまあ、この人も無理って言ってるし、もうあきらめてさ、オレらの中から選んじゃえば?」

 レノが朗らかに笑う。無邪気に人の傷口えぐってくれるわね。しかし攻略対象どもも、兄様まで、その意見に賛成であるかのようにかすかに頷いた。

「あきらめないわよ!わたしあきらめ悪いの!」

「それで言ったら、私たちもあきらめは悪いですよ、ベレニケ?」

 穏やかに、口元だけをゆがめてクリスト先生が言う。それにライサンダーとソロンも続いた。

「そうだよ。先輩のこと思う気持ちは変わらないもんね」

「ベレニケ……好きだよ……」


 しかし、わたしは知っている。

 好感度をあげてもいない、これはノーマルエンドのはず。共通ルート以外もこなさず、イベントも経験していない。逆ハーエンドにたどりつくはずもない。つまり、これは異常事態だ。バグだ。バグ。


 そう。これを正常に戻さなくてはいけない。

 (そしてあわよくば、兄様の仕様を変えなくては)


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