少年サッカー 第2話 短編版
エンリコでのランチに何度か誘われ、そのたびに山下コーチに口説かれ、結局、金曜夜のコーチ会に顔を出すことになった。店の奥のテーブルでは、六年担当の高橋コーチ、四年担当の村上コーチ、そして店長の山下コーチが、料理の手が空くたびに席に戻ってきては、真剣な顔で話し込んでいた。
どうやら「システム」の話らしい。4-2-3-1 と 4-3-3。数字の羅列に見えるが、彼らは当然のように理解している。聞いてみると、フォーメーション、つまり選手の配置のことだという。
言われてようやく、4人がバックスで、真ん中がミッド、前がフォワードの人数だと気づいた。そんな基本すら知らなかった自分が、ここに座っていることが急に恥ずかしくなる。
「4-2-3-1 は中央が固くて守備が安定するんです。トップ下が司令塔になるので、ゲームメイクがしやすい」
高橋コーチが説明すると、山下コーチが頷く。
「Jリーグでも多いですしね。理解しやすいけど、高学年向きかな」
村上コーチも「なるほど」と相槌を打つ。
「低学年は 4-3-3 がいいですよ。役割が分かりやすいし、サイド攻撃がしやすい。四年はこれが合ってます」
彼らの会話を聞きながら、胸の奥がざわついた。
――自分はサッカーのことを知らなすぎる。
――こんな場所にいていいのだろうか。
話題は次に「審判」に移った。大会では主審一人、副審二人が必要で、試合のないチームから一人ずつ出す決まりらしい。しかし四年はコーチが二人しかいない。負担が大きいから、もう一人ほしい――その視線が、自然と自分に向けられてくる。
「四級免許が必要なんですけどね」と山下コーチ。
副審ならまだしも、主審なんてとても無理だ。サッカー経験ゼロの自分にできるはずがない。
「石川さん、ラグビーやってたんですよね? 副審の経験あるでしょ?」
村上コーチが言う。
「まあ、ありますけど……ラグビーとサッカーじゃ違いますよね?」
「同じ、同じ。ボール出たら旗上げればいいんですよ」
いや、そんなはずはない。サッカーにはオフサイドがある。
「オフサイドって、副審が見るんですよね?」
「慣れれば簡単ですよ」
今度は山下コーチまで加勢してくる。
「試合を生で見ると分かります。テレビじゃダメ。子どもの試合でも、Jリーグでも、生で見ると審判の動きが見えてきますよ」
Jリーグを生で見たのは一度だけ。子どもの試合も数えるほど。そのとき審判の動きなんて意識したこともなかった。
――サッカーの審判なんて、できるだろうか。
帰り際、何度も「コーチやりませんか」と声をかけられたが、正直に「無理だと思います」と答えた。
店を出た夜風が、妙に冷たかった。
本編はこちらから読めます。
https://ncode.syosetu.com/n0828ls/2




