ファンタジーワールドⅡ
静寂の森の中に金属音が鳴り響いた。
「ロンヒル!囲まれてる!7…いや8体!」
「おぉ~!いいぜ、背中はまかせろブラスト!ナインも攻撃魔法頼むぜ!」
「もう、勝手ねロンヒル!あなたがこんなトラップにひっかかるから!」
「いくぜ!」と走り出すロンヒル。
「ナイン、後方2体頼む!こっちは俺とロンヒルで片づける!」
「ロンヒル一人にやらせたら?もう、“貸し”だからね」
半月刀を持った銀毛のキャットピープルと黒剣を構えたヒューマンが敵に向かって走り出した。向かう敵はデーモンウルフ…この森で最高位のモンスターだ。
ナインの放った数本の炎の筋が着弾すると大きく爆発した。同時に風魔法も発動して、避けたデーモンウルフを切りつけた。
「ひゃっほう!オラオラオラァ!」
素早いデーモンウルフを上回る速さで左右に飛び、半月刀を振り下ろすたびにデーモンウルフが血しぶきを上げ倒れていく。
「さすがロンヒル…」
俺は仲間の華麗な剣技に微笑みながら、飛びかかってくる敵を確実に倒していったが、敵感知スキルが再び反応した。
「…また8体接近!!」
ロンヒルがひっかかったトラップはアラートセンサーだ。これによってデーモンウルフが集まってきたが、その奥に2重…3重とモンスターが集まっていた。
次々と現れるモンスターを相手に派手な戦闘を繰り返すロンヒル。周囲を警戒しながらも的確な魔法発動で距離を保ちながらも相手の数を削っていくナイン。俺はロンヒルの打ち逃したモンスターを確実に駆除していった。
数十分に及んだ戦闘が終わると俺は大きく深呼吸をした。
「いや~戦ったな~。ブラストはこんだけ敵に囲まれても余裕なんだな、さすが上位プレイヤー」
「そんなことないよ。パーティでの自分の役割を実行しただけだよ」
「もう、ロンヒル!いくらレベル上げたいって言ってもこんな無理な闘いしてたらデスペナ食らっちゃうよ!」
「いいじゃねえか!誰も死んでねえし、経験値だって結構溜まったし…ドロップアイテムもあったんじゃね?」
狩りがひと段落すると町に戻ってドロップ品の売却や反省会がいつもの流れだが、俺は時計を見て口論を繰り返すロンヒルとナインに向かって手をあげた。
「ゴメン、俺そろそろ落ちないと…明日学校なんだ」
時間は深夜2時を回っていた。
「あぁ、ブラストって学生だったっけ?ちゃんと学校言ってるんだ。真面目だな」
「ブラストはあんたと違うのよ、ロンヒル」
「あぁ!ひでぇ~俺だって…」
「“俺だって”…?」
「いや、なんでもねぇ。さっさと転移魔法で町戻ってログアウトしようぜ。たのむよナイン」
俺たちはナインの魔法で近くの町まで転移して、軽く挨拶するとそれぞれがログアウトした。
MMORPG『ファンタジーワールドⅡ』。発売から7年経過しても今なおユーザー数世界ナンバーワンの人気ゲーム。
俺(黒石明)はそのゲームの上位プレイヤーだ。レベル99の上限に達している。小学生の時に始め、ずっとゲームばかりしている…いわば“オタク”だ。この春入学した高校でも友達がろくにできず、帰宅したらゲームばかりしている。ファンタジーワールドの中では仲間がいて…俺の居場所がそこにはあった。
翌日は寝不足で睡魔と戦いながら授業を受けていた。
2時間目の授業が終わった時、クラスの女子が騒ぎ出した。
「あぁ~一美ぃ。やっと来た~、何?眠そうな顔して~。もしかして朝帰りぃ?」
「いや~カズミのえっち~!」
金髪の派手なメイクで画に描いたようなギャルの長岡一美だ。クラスの中心的なグループの一人。こんな時間に遅刻して登校?“朝帰り”なんて言われてるくらいだから相当遊んでるんだろうな。俺とはまったく接点のない『陽キャ』だ。もちろん話したことは一度もない…。
「え~、朝帰り?違うよ~。寝るのが遅かったから寝坊しちゃっただけだよ~」
「あやしぃ~」と3人の女子に言われながら自分の席に座った。その後も陽キャ男子たちも混ざり雑談が始まったが…、うるさい。陰キャの俺からすればあいつらのアホみたいな盛り上がりは、内容の薄い会話と嘘っぽい笑い声が耳障りでしかなかった。あれが青春なのか?それならそんな青春はいらない。…俺とは無縁の人種だ。
俺は学校内でもファンタジーワールドのことを考えていた。
今夜の狩りはどこへ行こう?ナインがそろそろレベル上がるからあの難関ダンジョンに潜ろうか…。近々実装されると噂されてる新機能も気になる…。
そんなことばかり考えてると学校の一日なんてあっという間だ。校内に友達なんていなくてもそれなりにやっていける。
授業が終われば帰宅してまたゲームをやるだけ…と思ってたら、「おーぃ、黒石!日直だろ?ちょっと手伝ってほしいから職員室きて」担任から呼び止められた。行ってみればただの雑用だ。コピーをとってホチキス留め…云々。やっと解放されてカバンと取りに教室に向かった時には夕方になっていた。
誰もいないと思ってた教室に入った瞬間、誰かとぶつかってしまった。
「キャ…ッ」とぶつかった人は柔らかく…金色の長い髪を揺らしながら倒れた。
「ご、ごめん…」
俺の足元に倒れていたのは長岡一美だった。
「な…ながおかさん⁉」
な…長岡さん!俺が超苦手とするギャル!陽キャの人種!ほかに仲間がいたら何をされるかわからない…。周りを見渡すと誰もいない、長岡さん一人みたいだ。
「だ…大丈夫?」
いたたた…と呟く長岡さんに手を差し出した。咄嗟にとった紳士的な行動(?)に一番驚いたのは俺自身だ。
そんな心情を知るわけもない長岡さん…俺の顔を見上げる彼女の瞳は大きく、肌がきれいで、いい匂いがした。
「あ、ありがと」
俺の手を握って立ち上がった長岡さんは自分のカバンを拾い上げると、「ありがとね、黒石君」と言って行ってしまった。
黒石君って言った…⁉俺の名前知ってたんだ。
話したこともないクラスメイトに名前を呼ばれ、心臓がドキドキと全身を強く打ち動揺してしまった。ハッと我に返った俺は自分の机にかかってたカバンを持って教室をあとにしようとした時、さっき長岡さんが倒れてた場所に落ちてるモノに気が付いた。
「…ぬいぐるみ?」
拾ったそれは銀毛の猫…?あ、ファンタジーワールドのキャットピープルをデフォルメしたようなデザインだった。
これどうしよう…。
落とし物に気が付かなかったことにしてココに置いていけば…?
いや、それはちょっと。
じゃ、長岡さんの机に置いとけば…?
もし、これが長岡さんのモノじゃなければ、「何これ?いやがらせ?」なんて大事になってしまうかもしれない。
じゃ…じゃぁ、とりあえず持って帰って明日、長岡さんに聞いてみよう。
俺はそのぬいぐるみをカバンに入れて下校した。




