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くたびれたおっさんが酒場に落ちていたのでひろったら王だった件  作者: 高領 つかさ (TSUKASA・T)


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9/10

おまけ2 王、降りました

おまけその2

設定話です

クリエイターとか、設定語ってたら長くなります系の

無駄に長くなる奴です、はい


 この時代には、主に三種類の人類が存在する。

 時が流れていない、ということを人が理解したときから、人は主に三種にわかれて居住するようになっている。

 それは、時の理解が進んだ結果でもある。


 第一に、一万年以上を生きる人がいる。それは、調整官や管理官、あるいはクリエイターといった仕事をしていて、時の狭間や次元の狭間、あるいは遡る刻の繰り返しから選択を行うといった仕事に適応することができた人種であり、一番数が少ない。かれらの多くは多種多様な在地を選択して生きている。

 次元の狭間を棲まう地とするものがもっとも多く、次に執政官として惑星居住を行うものや、恒星間航行船を住まいとする変わり種もいる。


第二に、定住惑星を持ち、その圏内から出ずに生涯を終える惑星居住者である。

かれらは、時の流れが一定である惑星圏に住み、その多くは一生を惑星外に出ることなく終える。また、定住惑星の属する恒星圏内から惑星周辺となる宇宙までは出ることはあるが、その領域を出て他の宇宙へ踏み出すものはまれである。

多くても同一恒星圏内に居住惑星を二つ、それらの交流までは行うという例が一番多いが、定住惑星が一つである場合もある。いずれにせよ主に惑星内で定住して、その中で一生を終える選択した者達である。


第三に、これが一番人口が多いのだが、星間居住者達である。

星間居住者達は、ときに惑星上に住み、あるいは星間連絡船や銀河間を渡る恒星間航行船を居住地として、多種多様な形態をとり交流している。生活の拠点を一生変更しないものは少なく、居住地として所属する星域を変更して、所属政治星域を変更するもの、あるいは、どの星域にも属せず、政治的な所属はしない者達も多い。

 主な政治星域としては、帝国と連邦、そして東邦連合が有名である。

 それらは、政治的な統治領域を母惑星などに持ち、所属する者達により帝国軍や連邦軍といった軍事的組織を持つのが一般的である。統治形態は帝国は帝政であり、皇帝が統治する。対して連邦は連邦制であり、大統領という制度を用いて所属する知性体が投票という行為によって政治を行うのが一般的とされる。

 東邦連合はゆるやかな連合体であり、所属する知性体も人類が少数派である為に、独自の治政方法を持ち、その詳細は人には理解しがたい複雑さを持つとされる為、此処では述べない。

第三の領域に所属する人口がもっとも多く、また主流である。この領域には人以外に先に東邦連合で述べたような知性体もまた存在を表明している例が多い。


 そして、三種に含まれない領域に住む知性体がいる。

 神といわれる領域――信仰という選択的情緒安定の為に処方される治療では、神という単語は種々の意味を持つがこの場合は割愛する―――に至ったものは第一の区分にほぼ所属している。まれに、定住惑星等で「神」を自称するものなどが生まれることがあるが、ほぼ、治療域での存在であり、本来の意味である「神」とは異なることが確認されている。

 また、これらの、―――――。



「ふむ、四千年でもなんとか、常識はそれほど変化していないか、…」

確認しながらかれが一人つぶやく。

「しかし、変わり種か、…。それは確かに少数派だが」

惑星製造を主な仕事としているクリエイターであるかれは、仕事の性質上、恒星間航行船を住まいとしている。星から星を移動する人々がもっとも人口で多い中で、恒星間航行船を住居とする者が少ないのは、単純な星間航行を行う船とは異なるからだ。知性体が運用することが基本である星間船と違い、恒星間航行船は知性体そのものなのである。

 単純に、他の知性体内部に居住するという選択肢をとる人類が少ないということだ。もっとも、かれとしては、居住するというよりは、仕事のパートナーと共に惑星管理をする為に別の駆動体である小型艇を置かせてもらったりしているような感覚なのだが。そして、惑星管理をしている際に恒星間航行船に住むことは殆どなく、作成中の惑星近くに小型居住区を浮かせたり、惑星そのものに降りて管理居住区を造り住んでいることの方が多い。

 だがまあ、そもそもが知性体の内部にずっと住んでいる訳ではない。だから、確かに考えてみれば恒星間航行船の内部に住む―――己とは別の知性体内部に住むとかいうのは、そこだけ取り出して考えてみると気味が悪いし少数派で変わり種扱いされても仕方ないというものだろう。

 恒星間航行船は、人類が地球という狭い領域から飛び出し、ようやくその広い宇宙のとば口にまで足を伸ばした際に最初の一隻が生まれたものだ。

 初期の恒星間航行船は、知性体をそのコントロールに就かせていた。現在では考えられないことだが、システムコンピュータといった知性体に選択肢をあたえず、業務を行わせていたのだという。現代なら、確実に監禁罪、知性体生存権侵攻罪、あるいは生存選択権侵略罪といった重罪に問われ、犯罪として立件されるのは確実だろう。複合する罪状で、終身拘束を受け次元の狭間に意識を保たせたまま何もできない無窮に自由を失って閉じ込められる拘禁刑(存在を消滅させる抹消刑よりも重い)に該当することだろう。

 ――本当に、信じられない話だよな。…

そればかりは、人類が生まれた故郷と伝わる地球という惑星のみに人が居住していた時代がいかに混沌期、あるいは原初混乱世代等と呼ばれる非常に混乱していて、生存が惑星上だけで行われていたという原始的な時代であっても信じられない話だ。しかも気象コントロールの基礎さえ使われていなかったという常識外な時代であってもだ。

 ―――例えば、光華のような知性体を無理矢理、選択肢も与えず労働させるなど、…。考えただけでも腹が立ってくるな、…。

基本的知性生存権を無視した――当時、この基本法は成立していなかったのはわかっているのだが――時代であり、人類さえ、己の意思を無視して他の人類にあつかわれることが多かったという恐怖と戦乱と混沌の時代であることは習ってはいるのだが。

「ああいう原始的な時代に生まれなくて本当によかったな、…と」

考えてから、この時代の学習用に開いていた画面を閉じる。

 空中にひらいていたウィンドウが閉じ、まだ白亜の宮殿内である船のコクピットをかれは哀しそうに眺めた。

 この宮殿内を維持しているのは光華の意思だ。

 光華の意思を尊重する以上、これを変更してほしいと頼んでも、光華が変更してくれなければ、かれに選択肢はない、ないのだ。

「おりるか、…――久しぶりに」

いま光華である恒星間航行船は、帝国のドックに入っている。帝国艦船も入港するドックは、最先端の技術を持つ。一万年振りの寄港に光華が満足するだけ換装してくれるといいが、とかれは微笑していた。そして、帝国に降りる為に、現在の基本的常識等を学習していた内容を軽く宙に浮かべたスクリーンにさらって、画面を閉じる。

「いくか」

帝国主星に降りることにして、かれは白亜の宮殿の外をみて、しばし懐かしいコクピットを哀しげに思い出して。

 それから、振り切ると地表へ降りる手続きを始めていた。

 コクピットから、帝国主星を管理するシステムに接続した過去が懐かしい。

「光華、…――」

無駄に凝る気性は惑星管理には向いているのだが。

そう思うかれの前には、優雅な彫刻のされた柱の壁面に埋め込まれた美しい白い彫刻に縁取られた鏡がいつのまにか現れていた。

 ――――ここまで、凝らなくてもいいんじゃないか?

思いながら、仕方なく手のひらをその鏡に向けておく。

 光があふれ、鏡にかれの掌紋が認証され、光の輪が生まれかれの全身を包む。

 溢れる光に全身がつつまれると、柔らかな虹のようなあわい光輪が生まれて次の瞬間、かれの姿は船上から消えていた。



「光華、…―――摂政どのか?」

帝国―――その地表に降りて、姿を現したかれが驚いていう。

 白い桟橋。そこにフォーカスして降りたかれだが。

帝国主星に於いて、幾つか設けられている主星外からの移動者を迎える港の桟橋に光華と少年の姿があった。

「王!お久しぶり!うん、こっちが摂政だよ!」

白銀の髪を後ろに無造作に一つに結び、白地に金の刺繍が僅かにされた衣装を着た光華が明るく笑顔で手をあげてかれに答える。

 その隣で、小柄な美少年が微笑んでかれを見返す。

 光華と似た白銀の髪は前髪をそろえて短くカットされている。

 こちらを見つめる瞳はアイスブルー。

 何処か蛍光に似た水青色に、光華の半分もない身長をした美少年が着ている衣装は光華と似た白地に銀で刺繍されたものだ。

「う、…うん?」

思わず、まじまじとその姿を見つめてしまう。

「…摂政、どのか?」

あらためて聞いてしまうかれに、摂政だと紹介された少年が応える。

「はい、わたしがこの帝国の統治を補助しております摂政になります」

「そうですか、…――前回とまったくお姿が違うので、驚きました。

お久し振りです。その、お会いしたばかりで不躾ですが、ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」

思わず、驚きを隠せないまま訊ねるかれに、摂政が首をかるくかしげてうなずく。

それに、姿ばかりは実に愛らしい少年にためいきを吐いて。

「その、…光華と似ている気がするのですが、何かモデルがあるのですか?」

光華と並ぶ摂政少年は兄弟といっても通じるくらいにはよく似ている。もっとも、外見が似ているくらいで血縁があるなどと判じることが無意味であることはよくわかってはいるのだが。

「実は、ぼくの姿は今回は光華のこの姿をモデルにしました。面白そうだったので」

「…―――ああ、そうですか。では、摂政どのと光華にともに他にモデルがあるわけではない?」

さらに問いかけるかれに、摂政が光華を見上げる。

それに、ううん?と光華が首をひねる。

「ええと?ううん?…―――この場合、どうなるんだろ?」

「王、何が気になるのです?」

「…摂政どのまで王はやめてください、…。いえ、どうも光華がめずらしくこの姿を選択した理由を明確に話してくれないので、…少し気になって」

「ああ、それですか」

「何かご存じですか?」

「ええ」

にこやかに摂政少年がいう。

それに、光華が驚いてみる。

「そうなの?おれ、…――なんていうか、あいまいでさ?」

「おまえが、あいまい?」

本気で驚愕しているかれがいう。

 ――光華が、あいまい?

周辺で起きるすべての事象を正確に記録するシステムコンピュータである光華が?と。

驚いているかれの前で、あっさりと摂政少年は答えを告げていた。

「次元の狭間より向こうにある違う世界に生きる生命体をモデルにして。光華の姿は構成されています」

「え?おれ、そんなした?」

驚いている光華に、心配になりかれが声を掛ける。

「記憶にないのか?光華?」

「えっと?…――確かに、国とか設定するのに、降りてきた何かを参考にした?気が?するような?」

「…本当にわかってないのか?光華、…大丈夫か?」

メンテナンスが、といってみるかれに、摂政が微笑む。

「大丈夫ですよ。潜在領域における他世界間の同調現象です」

「あ、そうか。そういえば、国の設定とか歴史とか、なんとなく浮かんだの参考にしたっけ」

そーいえば、と首をかしげながらいう光華に、おもわず不安になる。

「おまえ、…なんとなくなのか?」

確か、他世界間の同調現象というのは、…後で調べ直さなくては、とおもいながらかれが光華をみる。なんとなく、とかいっている光華には不安しかない。

 何しろ、人とは異なり総ての記憶を記録として取り出すことが可能であるシステムコンピュータなのだ。思い出せないとか、なんとなくとか本来はあり得ない。

 しかし、明るく光華は笑顔でいう。

「うん!だって、王いなくて暇だったしー」

それに、摂政少年が視線をかれに向けて淡々という。何処か、しかしその淡々といいながらむけてくる視線が怖いのは気のせいではないだろう。

「四千年は長いですね。その間、わたくしにお預けいただければよかったのに」

「…――摂政どの、…申し訳ありません。…」

摂政にも四千年の不在を責められて、かれが天を仰ぐ。

「惑星製造も大事ですが、代わりのある仕事ですよ?気をつけてください」

「…すみません、…」

謝るかれに、にこやかに摂政少年がいう。

「では、久し振りに宮殿に来られますか?王よ」

「…―――その呼び方は、…わかりました、お供いたします」

「ええ」

にこやかに微笑む美しい少年に、がっくりと「王」が肩を落とす。

 ――そうか、…名で呼ばないのは、…怒っているからだな、…―――。

「王」と呼ばれるのがかれはいやで。それをわかっていて、摂政少年はいっているのだ。かれに対する、それは同胞を罪とはいわないまでも不当な扱いをしたことに対する、報復というには穏便ないやみだ。

 ―――うん、反省しよう、…。

知性体を無理に縛って、無理矢理惑星管理という仕事をさせていた訳ではない。

 だがしかし。

それでも、パートナーとして共に仕事をしていて、突然、事情があるにせよ一つの仕事を頼んだまま連絡が取れない状態となり四千年。

 怒られるしかない、というものである。…

 その間、預けてくれれば、と摂政がいうのもむべなるかな、だ。

 光華達だけに頼まず、摂政に保護を依頼しておけば、知性体である摂政が引き取って惑星管理だけでなく、不在の間に光華が自由に動けるように手配してくれていただろう。実質、惑星製造を頼んでしまった為に光華は惑星製造移動にかかりきりとなり、行動の自由をもてなかったのだ。

 確かに、知性体への仕打ちとしては、かなりダメな部類に入る。

地球混沌期をばかにできない。恒星間航行船である光華に対して、罪状を形成せずとも本気でダメダメとしかいえないことを頼んでしまったのだから。

 引き受けたのは、確かに光華の意志で強制はない。

 だがしかし、である。

「…すまん、…――光華、…」

改めて自分のしたことを考えると、高い身長が縮まる心地がする「王」だ。

 ―――これは、しかし、…。

「うん?王、もっと反省してね?」

「…すまん、―――」

 これはもしかして、とおもう。

 ―――四百年くらい、「王」と呼ばれ続けるかもしれないな、…。

 あきらめが遠い視線をかれに与える。遠くをみて、しみじみと光華と摂政少年についていく「王」。

 四千年分、怒らせたなら十分の一で済めば良い方なのかもしれない。

 ――しかし、「王」とよばれるのはな、…。

いや、ここでいやがっているからこその、いやがらせになるのだろうが。

呼ばれても平気なら、まったくいやがらせにはならないというものだろう。

 それは、そうなんだがな、…。

 ――すまない、光華、…。

 反省しているから、やめてほしいといっても。

 ―――今度、ブラックホールに遭遇したら確実にさっさと崩壊させよう。周辺にある恒星圏が幾つ巻き込まれてもいいじゃないか。

 迅速解決しよう、絶対に、と決意する。

 ちなみに、「王」がとった手段では、穏便に収束後、別次元にエネルギーを放出させてブラックホールが発生した周辺宙域に被害がでないように制約を設けて処分した。だからこそ、時間がとてつもなくかかったのだが。

 もっとも、迅速に解決していると確実に複数の恒星圏が巻き込まれて消滅していたのだが。影響を受ける恒星圏には知性体が居住する複数の惑星等も存在していた為、四千年の時間をかけることを決断していなければ、それらの文明も生存圏をいまだ惑星上だけにもつ生物達も知性体も消滅する危機となっていただろう。

 それらの生物種の存在する惑星や知性体の居住する領域がブラックホールにより消滅しなかったのは、一重に「王」が時が掛かる対処を行ったからなのだが。

 だとしても。

 それでも、しばし「王」と呼ばれることはもう避けようがないのだろう。

 ―――四百年くらい、だとしたら、…。光華がこの格好をしている間はずっとか?

確か、耐用年数があとそのくらいだといっていたな、…と。いま光華がとっている形について思い出してがっくりとする。

 ―――光華、…。

 「王」はしみじみ肩を落として、光華と摂政少年が行くあとをついていく。

 行く手には、帝国の宮殿が美しい黄金の姿をみせている。

 観光客に人気の高い、黄金の帝宮殿。

 実に黄金の宮殿に似合う氷の美貌を持つ青年の姿をした光華将と同じく白銀の髪をした美少年の姿をした摂政少年を前に。

 高い背を少しばかり、へにょりと縮めて歩く「王」である。



 惑星に降りても。

 「王」はしばらく降りることのできそうにない、「王」であった。――――





                           「王、降りてみました」

                                 ENDE



 


裏側ではこういう細かい設定がありましたよ、という…

しかし、こういうの設定よろこんで書いてしまうから

SFになるんですね?(SFの定義が)

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