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くたびれたおっさんが酒場に落ちていたのでひろったら王だった件  作者: 高領 つかさ (TSUKASA・T)


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6/10

6 王、帰りました 1


王、いましとき

その古の伝えによりて

遠き星の道に去りし王

吾等、幾年をすぎるとも、永遠の旅路を辿り果てるとも

われらの王を待ち刻の詩を詠い、去りし王をまつ

星の誓いを刻み、ともに待とう


永遠を待つ吾等

星の誓いとともに此の地にて

永遠の旅路に王を待たん







それは古い詩。

神殿に詣でたことのある総ての民が知る詩であり、

去りし王を待ち、伝えられてきたといわれる詩。








「ちょっと、まて、…――王?」

光華に、にっこり笑んで神殿までつれてこられてしまった黒髪に黒い眸の――――一応、洗ったらみられる状態にはなった「王」だと光華がいう存在。

波打つ黒髪を背から無造作に流し、白い上衣に灰色の胴衣と下履きに深靴に腰帯は黒。長身だが、少しばかり痩せている体躯。両手に乾かしていた元の衣服や小物類を抱えて少しばかり腰が引けていうかれに、光華がにっこりと再度笑顔になる。

 にっこり。

うさんくさいことこの上ない笑顔だ。

白銀の髪に明るい翠瞳で笑顔になる光華に「王」ができるだけ距離をとろうとしてはいるが。かるく肩を抱いているようにみえる光華に、その拘束から離れることができずにいるのは当然だろう。

 深狼が内心とても同情しながら「王」をみる。

 あれは、光華将はひどくばか力なのだから。

 細身にみえる長身の姿に、美しい容貌。華奢にみえかねない姿に、見誤るものも多い。だがしかし、これで深狼と腕相撲をしても負けたことなど一度もないのだ。多分、先の洗い場にいた牛馬など、かるくつかんで投げることもできるだろう。将軍としての立場は、けして名ばかりでなく。名家に生まれたというだけで地位を得たものではけしてないのだから。

 神殿の中央まで連れてこられた「王」に光華が進めているのは透明な球にその手をおくこと。

「大丈夫!この神殿でまず登録してから、話をはじめようか!」

「…――普通、説明が先じゃないか?…できれば、何がどうなっているかを説明してからにしてもらいたいんだが?」

有無をいわさずことを進めようとしている光華に「王」が引きながらも抗議している。その王に、光華がにっこりと麗しい笑顔で肩に置く力を込める。

「だいじょーぶだって!おれ、ちゃんと「王」だって認識してるしー!ね、宰相!」

「…――あ、宰相殿!」

深狼が光華が振り向いてみた先に、思わず情けない顔になっていう。

神殿の奥、白い柱の並ぶ奥から、ゆったりと裾の長い衣を纏う宰相が歩いてくるのに、力が抜ける思いで深狼が見つめる。

 思わず泣きそうになっている深狼の隣を無表情に抜け、光華と「王」の前に立つ。

「あんたは、…――ともかく、これをとめてくれ、…一体何なんだ?これは?」

水色の髪を背に流し、無表情にかれらをみつめる美貌の宰相に「王」が訴える。

 光華は神殿に着いた途端に、中央の台座に置かれた透明な球の前まで「王」を連れていって。その球にその手のひらを置くようにいっていたのだが。

 荷物をもっていて、両手が塞がっていなければとっくに「王」の手は透明な球におかれていただろう。

 そして、それは、――――。

「…神殿に登録しようというのですか?」

眉をひそめて問う宰相に、光華が明るい翠で見返す。

「えー、だって、「王」だし!登録しなくちゃじゃん!」

「…この方のいう通り、説明はしたのですか?」

「してない。だって、「王」なんだから、はやいとこ登録しないと」

あっけらかんという光華に、宰相が無言で見返す。

そこに、なんとかくちをはさむのは。

「…――その、王というのが意味不明なんだが?おれは王とやらじゃないぞ?」

「…―――――」

「なにいってんの?」

宰相が沈黙したまま「王」をみつめ、光華が無邪気にあかるく瞬いてみる。

そのかれらに、できればもう少し距離をとりたい、と思いながらかれが続ける。

「…――だから、…王、とかいうやつは何なんだ?おれは、―――絶対にその王とかいうものじゃない、…―――おい?」

腰が引けながら間近にある光華の翠瞳を見返す。

 その翠瞳が、しげしげとかれを覗き込んでくる。

「…お、おい?」

「ううん、…深狼」

「はい」

呼ばれて、深狼が傍へとくると。

「荷物もってあげて?」

「…――はい、失礼します」

「おい?」

そっと、「王」が抱えている衣類一式を腕に引き取る。

「―――おい、まて、」

あくまでやわらかく無理矢理ではなく衣などを引き取った深狼に、思わず荷物を渡してしまってから、しまったという顔をするかれに。

「うん、それじゃ」

にっこり、特大にあかるい笑顔で光華がその手をかるくつまんで、透明な球に押し当てた。

「…お、おい!勝手に、――――…!」

途端に、球体が白熱した光を発する。驚いて手を離そうとしたかれの手首をかるく押さているようにみえる光華につかまれたままあらがうことができず。

そして、爆発的な白光が神殿に満ちすべてが光に呑まれるのを、深狼は光に焼け付くことを避ける為に、目を閉じて顔をかばうように片手をあげて、―――――。

 神殿が激しい光に包まれる中で。

 何故か、王の伝説を思い出していた。

 その詩は、神殿で詠われる。


 詠唱は去りし王に捧げられ、――――。


 そう、われらは唯、王を待つ。…――――


 神殿に響く歌声を、深狼は記憶の中にきいたとおもった、…―――。




 遠き星の道に去りし王

 吾等、幾年をすぎるとも、永遠の旅路を辿り果てるとも

 われらの王を待ち刻の詩を詠い、去りし王をまつ

 星の誓いを刻み、ともに待とう


 永遠を待つ吾等

 星の誓いとともに此の地にて

 永遠の旅路に王を待たん












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