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くたびれたおっさんが酒場に落ちていたのでひろったら王だった件  作者: 御厨 つかさ


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21 銀狼帝



銀狼帝――そう帝国内外に呼ばれる名を持つ、今代の帝。

その美しい銀の眉が顰められ、その名をくちにしていた。

「―――王、か。…」

クリエイターとして知られるその人物の名は、秘されている。

部外秘として、けして明かされることはない。

それを代々帝として伝えられてきた知識の中に知って、だからこそのつぶやきともなる。

「クリエイター殿が、…来ておられると」

そうして、少しばかり氷のと形容詞の付く常に感情を乗せぬ美しい容貌に僅かに微笑みが刷かれたかと思われるのは、気のせいではないだろう。

 柔らかく微笑みを微かにのせて、銀狼帝は再度、知らされた今の呼び名をくちにする。

「『王』か、…おもしろいものだ、いまはそう呼ばれておられるのか?」

問いかけるのは、その呼び名を伝えた存在へ。

 淡い虹色とも銀の光ともとれる美しいオーロラが、銀狼帝の前、宙に浮かぶ円柱とも思える透明な柱の中に揺らいでいる。

 人払いをされ、帝宮殿の奥深くに静かな帝の宮で、その光の揺らぎは美しい夢のようにもみえる。

「ええ、いまはそう――王、と呼ばれておりますよ?」

その声は、いま話題となっている「王」がいる摂政宮に少年の姿をしている存在――摂政少年とあわせたのか、わかくやわらかな声だ。

「―――そうか。それで、私に報せたのは、――お逢いすることが叶うということか?」

少しばかり悪戯に楽しげに問う銀狼帝に、揺らめく光と共に声が応える。

「叶いましょう。お望みになれば。如何致しましょうか?」

銀狼帝本人よりも長く永く――そう、永遠にも近く帝国を真実差配してきたともいえる存在である摂政の声に、帝が微笑う。

 皮肉に、微笑みとともに実に愉しそうに。

「では、差配してもらおうか。―――彼女がいたら、逢いたがったと思うが」

「彼女はいま辺境で戦闘中ですからね、…。戦況は既にほぼ決しております。―――…勝利の報せも後二、三日すれば届くことでしょう」

銀狼帝の言葉に、少しの間を置いて、何かをみているかのようにして声が応えるのに微笑む。

 当然、摂政はその身と繋がるシステムを通じて、遠く帝国の支配する銀河の果てまでをも視ることが可能だ。

 いまの応えは、単純にいま実際に展開している戦場での出来事を視ての応えにすぎない。

 銀ノ帝、とも銀狼帝とも呼ばれるかれが、いとおしむようにして、その遠くにある一人のひとを想う。

 彼女は、帝国の女神であり、常勝将軍であり。

 ―――唯一人のいとおしい、帝の唯一愛する婚約者でもある。

尤も、その身を隣に安らかでいてもらうことはとうに諦めて、後はせめて結婚だけでも何とかしてもらおう、という諦観とともにある帝だが。

 何にしても、彼女が戦場に、或いは帝国の女神として戦場に在り、何より愛する戦艦と共にあることを妨げることはできない。

 それが出来るなら、戦場など放置して、帝国領域がどうなろうと本当なら知ったことではないのだが、と考えて。

 それはともかく、―――クリエイター殿だな。

 惑星クリエイターである「王」といま呼ばれているらしき存在は伝説でもある。

 いま人が居住する惑星のほぼ八割を創造した――そして、改造して人居住に適した惑星に造り変えたといわれる伝説の存在だ。

 そもそも、人の寿命では本来、惑星改造など出来はしない。

改造している間に、著に付いたほどの処で寿命が尽きるのが落ちだ。

 だが、かのクリエイターは、違うという。

 本当に自身でその改造を成し遂げ、いまも存在を続けている。地球創世記――或いは混乱期と呼ばれる混沌の頃から存在しているともいわれる伝説の存在。

 そのクリエイター殿にお逢いできるというのなら、かつてのことがなくとも、これは逃すことの出来ない機会だろうね。

帝として地位を継承して知ったことは色々ある。だが、その中で語られる知識と伝説に、その一生の中で実際に遭遇することのできる機会など、狙っても無理だろうというくらいには薄いものだ。

 それを承知している。

 帝国の帝というのは、単にそのとき、その時代を代表する人としての存在であり。

 本来、帝国のシステムというものは、摂政を代表とする人ではない者達が差配するものであり。

 人としての帝は、権限を持ちはするが。

 それは、儚い人としてのそれでしかないのだから。

「さて、では、―――逢わせてもらえるかな?」

摂政の纏う光が微笑むように揺れる。

それが、人の表情でいうなら、楽しそうに何かを企むようでもあると、銀狼帝は承知するようになったのだが。

「勿論。それでは、帝。摂政宮まで来てくれる?」

「ふむ、わかった」

表向きには宮殿を支配して当然である帝に、一言の断りもなく客人を招いているという事実。

 摂政宮は当然ながら機密情報の塊でもある為に、本来ならばそう簡単に客を招いていいものではないのだが。

 それ、を帝が知らなくとも。

 摂政として帝国を真実支配しているともいえる存在の差配であれば。

 人として、この地位に就くにも道は平らではなかった。

 だが、帝の地位を継承して真実知ったのは、人の争いなど無意味ともいえる本来の主――

摂政というシステムコンピュータが、総てを支配していたということ。

 摂政は総て人の争いも承知した上で、淡々と帝国を運営していたのだから。

 それを想って少しばかり愉しそうに微笑み、銀狼帝は摂政の指示に従い、

その宮を訪れることにしていた。




女神の帰還に登場してきた

銀ノ帝です

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