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くたびれたおっさんが酒場に落ちていたのでひろったら王だった件  作者: 御厨 つかさ


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12/21

12 おまけ5 「深狼の日常」

くた王が地味にランクインして頂いているので小話の御礼です

御礼その2です

よろしければお楽しみください!


深淵を臨む。

深く真空にも近い宇宙空間はひとにとれば何も存在しない闇にも近い空間だろう。

だが、深狼――惑星迎撃システムのサブ・システムとして機能しているコンピュータ――にとっては、そこは無のある空間ではない。

光があり、空間は薄くはてしなく希釈されたものであるとはいえ、塵が存在しあるいは惑星ならば大気といったものの残滓が幾らかも存在している。さらに、恒星のばらまく放射線にエネルギー流。あるいは、恒星圏を渡る彗星や小惑星帯がこぼす滓でもあるような多くの粒子。それらは、むしろ深狼の目にはまるで賑やかな交差点にあるかのように、多くの粒子がエネルギー流に巻かれて消え、あるいは衝突して新たな原子を生み出している。そんな豊かな生態系に映る。

 そして、いま深い宇宙の淵を輝かせるそうした粒子を眺めながら、恒星間航行船の防御システムも兼任している深狼は、単離したシステム内から帝国星団を眺めていた。

 光華は生体を帝国に下ろして、いまは恒星間航行船としての船体は、帝国のドックに入っている。そちらで楽しげに新しい設備に換装したりとしながら、その一部を生体として「王」と共に摂政コンピュータのもとへと遊びにいっている。

 ――器用なものだ。

自分にはまねできない、と思う。実際、いまは光華にいわれて保持してはいるが、深狼が「王」に出会ったときの生体は保存ケースにいれたままだ。生体といま船から単離している球形の迎撃システム――その制御を単独で任されているというのに、別に生体を同時駆動するなど、面倒で仕方ないというものだが。

 ―――「王」で遊ぶ為に全力でやっているものな、…。

帝国主星を護る幾重にも薄い球状の膜として認知される守護システムに触知されて、許可信号と所属記号を含めたあいさつを返す。

 そもそも、帝国主星のある星団中心部は、とんでもなく防御層が厚いのだ。そこで、許可を得ているからといって信号を送らないでいたら、確実にゴミ――塵芥の扱いをされて、迎撃されて一瞬で蒸発している。システム上は、光華の本体である恒星間航行船内部に予備が保存されている上に、同期しているから、この瞬間にこの単独迎撃システムごと消滅しても、記録も何もかも引き継がれるのだが。

 だからといって、無理に帝国の守護である「帝国の真珠」ともいわれる防御システムに触れて消滅するなんて最期は、それが一時的なものであっても遠慮したいものだ。そもそも、同期状態から復帰するのがまた大変なのだし。

 そんなことを思いながら、無事に「帝国の真珠」から敵と見なされなかったことにほっとしつつ、深狼は宇宙空間に漂っていた。漂うというか、一応は届けている位置を相対的に保ちつつ漂っているのだが。

 そして、こんな宇宙空間を漂っていると、いま光華に遊ばれているだろう「王」をひろったときのことが思い出されてきた。


 宇宙空間に、ビーコンが見えた。

 それだけなら、よくあることだ。遭難船や、あるいは単に落とし物の記録と発信、さらにちょっととっておきたい荷物を放出したときにつける目印にとか。案外、宇宙は色々な信号であふれているのだが。

 索敵――主な対象は、岩塊やちょっと大きすぎる塵などといった意志を持たずに惑星圏に接近してくる危険物だが――の為に、宇宙を見渡していた深狼は、そのとき悪い予感がしていたのだ。

 光華が、既にその腕を伸ばしているのがわかる。

 恒星間航行船がマニピュレータを伸ばして、ビーコンを発信しながら漂っている小型艇をつかむのがわかる。

 尤も、その時点で深狼はその刻、牛馬の世話をする為に定時信号により生体に移った為、正確に事態を把握することはできなかった。本当に、生体を制御する為に慎重にコントロールしながら、恒星間航行船などという巨体を軽々と制御しているなど、光華か宰相くらいでなければできないというものだ。そうでなくとも、生体はもろいのである。

 そして、光華の「王」をひろった宣言。…

 ―――仕事を増やしてはほしくなかったですね、…。

 惑星迎撃システムとしての仕事なら、完璧にこなしてみせるとおもう。小惑星や惑星圏に近づくいろいろな欠片は、一粒たりとも地上に下ろさずにいたという自負がある。だがしかし。

 生体は、もろいのだ。

 牛馬もしかり、である。

 その牛馬を、餌が出てくる囲いに追いやり、さらに清掃をして運動をさせて。

 氷期になった為、広いドームを使用してはいたが、その世話は大変なのだ。

 だから、余計な手間を増やしてほしくはなかった。

 ビーコンを出している小型艇となれば、生体が搭乗している可能性が高いのだ。生体、つまり有機生命体である可能性が高い。光華が「王」なんていっている以上、どう考えたって、―――その確率は高いだろう。

 世話をしている牛馬の生命維持活動を思うと、余計な微生物を保持している可能性の高い「王」、つまり有機生命体を新たに船内に入れるなど、確実に遠慮したいというものだったのだが。

 「王」を入れた為に、牛馬が病気にかかったらどうしてくれるのか。

 一応、データで知っている「王」の基礎情報を考えると、牛馬とも共通の微生物由来の感染症を持っている可能性が高い。その病原体を保持しているかどうかはわからないが、可能性がある以上、一度、きちんと検疫をしてから入れてほしいものである。いや、本音は面倒だから、捨ててほしいというものだったが。

 ばっちい、といっていた同僚がいたが、深狼の気持ちも似たようなものだ。

 有機生命体は基本的に、微生物の塊でもあるから、宇宙空間を移動する際に放射線などの影響を受けてどんな変異した微生物を同居させているかはわからず、対応がとても面倒なのだ。

 もっとも、どうやらそのときすでに光華は小型艇を船内に格納して、ひろった有機体を目覚めさせようと処理を始めていたのだが。

 深狼も、処置を手伝う為に生体として呼ばれ、アクセスが不完全になる状態に肩を落としながら従ったのだ。光華がすべて管理できているとはいえ、深狼だって仕事を任されている。ならば、その仕事がきちんと回るように情勢を把握しておきたいのだが。

 だがしかし。

 仮想現実としての情景では、牛馬の洗い場で「王」を洗っているというシュールな光景になっていたが。実際には、光華の管理する清潔で磨かれた船内設備でも最重要のコールドスリープ解除の為にある医療設備の薄青の金属光沢で包まれた室内に、環流処置を施されている有機体がみえていた。

 深狼の生体には、サーチする為のセンサーなどは装備されていない。本来の皮膚感覚といった面で牛馬を管理保持する為に必要外である範囲は備えていなかった。だから、微生物の存在をゼロとした究極に管理された医療カーゴの中に、環流される再生液に洗われながら、まだ目覚めない有機生命体をみてもその存在が本当に「王」なのかの判断はつかなかった。

 清潔に管理された室内を薄青の金属が彩るのは、特殊な用途で作成されたその金属が自動的に微生物を処理して塵に帰しているからでもある。宇宙空間を漂う微生物類に宇宙アメーバといった強靱な生命力を持つ生命体でさえ壁と床、天井などに使われている薄青の金属は触れるだけで塵と帰している。

 さらに、光華が室内の空気を浄化していて、換気と共に清浄で新鮮な気体――生体の保持に欠かせない構成のものだ――が、新しく満ち循環している。

 随分と厳重な医療室――コールドスリープから有機生命体を再生する際には、確かにこれだけの厳重な処置が必要となる――の中で、いまだ目覚めない有機生命体に、深狼が首をかしげる。

 この循環液の汚れは、とてつもない歳月を経たという証となるのだろう。

 それでは、――まさか、…?

 本当に、「王」が?

と、当時おもったのは、光華が施している厳重な処置からだったろう。そして、別の区画に置かれている放射線等で殺菌処置をして並べられた衣服などをみて、深狼が訊ねる。生体として光華に検査を受けても、深狼が同室をゆるされたのは医療室をシールドで区切り、光華が洗濯したそれらの所持品が置かれた区画の側だ。

 「王」本体を洗っている区画は厳重なシールドの向こうで解放はされていない。

 深狼が、その区切られた側へ置かれた衣類などを確認して首をかしげる。

 銃というものは、見たことがなかった。

 迎撃システムとしては、シールド展開が主だ。とても小さな装置で、さらに旧式の火薬とか弾薬とかを使ったものは初めて見た。こんな小さな威力のものを何に使うのかがわからない。

 ――これが「銃」なのか。

脆弱でかつ効率がとても悪そうなのだが。そうおもいつつ、捨てて再利用した方がいいのでは?と思い訊ねたが、光華にダメだといわれた。

 ――分解して、新しいものを製作した方がいいだろうに。

放射線などできれいにするのはいいが、捨ててはいけないらしい。

 「王」の持ち物を勝手に捨てちゃいけないだろ?といわれて納得はしていないが、保管スペースに片付けることにした。

 ――分解して材料にした方が、いいとおもうんだが。

しかし、有機生命体が何に価値を見出すのかについては正直よく理解できていない。光華がそういうのなら、そうなのだろうとは思うが。

 そして、ようやく目覚めた「王」の世話をして。

 それから、本当にこの光華がひろった有機生命体が「王」だとわかって。

 それから、本当に色々なことがあった。


 うん、もう生命体の保持なんてしたくないな、…。


 そうしみじみ考えるのだ。

 光華は好き好んで、いまも帝国主星になんて降りて、「王」で遊んでいたりとするけれど。

 有機生命体とわざわざ接触するなんて、本当に物好きだよな、…。

 牛馬の世話は本当に大変だった。

 そもそも、自分は惑星迎撃システムとして生まれてきたのだ。

 恒星間航行船である知性体の光華が、惑星管理の為に宇宙塵などを処理することを目的として生み出した新規システム。そう、新参者なのだ。

 だから、できればきちんと目的のみに邁進したい。

 生体をもって活動とか。

 牛馬の世話とか。

 基本の迎撃システムとして、地道に宇宙空間を探り、宇宙塵を小惑星の欠片を始末して、惑星に危害が加えられることのないように守護する道だけを歩きたいのだ。

 惑星を手放した後は、本体である恒星間航行船を危険から護る為の護衛として、こうして単独任務に就くとか。そういうのが基本である。

 けして、生体をもって主星に降りるとか。

 一緒に来て、買い物しよーとか。

 そういう面倒なコールは、是非遠慮したい。

 業務外活動は、遠慮したいのだ。


 だがしかし。


 ―――掲示板に書き込んで相談したい、…。


 いや、その掲示板は書き込み危険、ということで、いま接続するのをしばらく自主的に禁止領域に指定しているのだが。

 だがしかし。


 ―――深狼ー!おもしろいから、一緒に買い物しようぜー!王も呼んでるしさー!


 「王」なんて有機生命体がなんといおうと、そんな希望は無視したい。

 いや、無視というか、そもそもそれは本当だろうか?と疑念があるのだが。

 光華は、面白そうだったら平気でウソをつくメインシステムだ。…

 「ウソ」がつけるメインシステム、…。

 とてもいやな存在である。

 指示を回すときに、面白そうだからと誤情報を回さないでほしいと思う。そうしてから、楽しかったでしょ?といって、正しい情報を選別する訓練にもなるしー!とか笑顔でいうのが光華なのだ。…

 多分、あの「王」のこれまでの行動をみるに、その性格で他の任務に就いている深狼を呼ぶということはしない気がする。

 つまりは、光華のウソであるだろうという推測が成り立つのだが。

 ――掲示板で相談したい、…。

誘惑にかられながら、考える。

 しかし、だ。

掲示板への相談は残るのである。即時通報と同じで、宰相にも光華にも確実に伝わる。それも全部。

 ――――…。

相談一秒、記録一生。

それを考えると、そもそも忙しい同僚達に相談を持ちかけるのも躊躇する。そう、大体が同僚達は光華の新規設備換装に付き合っているから、フリーではないのだ。

 ―――孤独だ、…。

この際、全記録が筒抜けであることを踏まえても相談してみたい気はするけれど。結論が、一種類しかないだろうことも予測できていた。

 要は、そう。

 光華の希望に、かれらは逆らえないのである。

 恒星間航行船のメインシステム。

 そこから生み出されたのがかれら下位システムだ。

 上位システムからの命令には、もとより逆らえないのである。…


 そうだよな、…。


 しみじみと考えて。

 ちょっとだけ、深狼はスリープ・システムに保持している生体を起こすのを遅らせて、考えていた。そして、自身の思考の無意味さに気づいて溜息を吐き、生体を駆動させた。

 深い深い溜息を吐いて、起き上がる深狼である。

 生体の調子を確認して。しみじみと単離した迎撃システムの「目」でみえる主星を確認する。

 ずっと、此処で漂っていたかった、…――。

抵抗はするだけ無駄である。それはわかっているのだが。

「これより、お伺いいたします」

 ―――よろしくねー!まってるから!

光華から間髪入れずに応答が届く。いやなくらいに高性能である。

 ―――いいんですけどね?

しみじみしながら、深くもう一度溜息を吐いて。


それから、帝国主星守護システム「帝国の真珠」に移動届を出す。

次の瞬間、帝国主星上へと転移して。

「やっほー!深狼!はやくはやく!こっちだってー!」

笑顔で手を振っている光華に諦観を抱いて、深狼は生体の足を踏み出していた。

光華の隣では、「王」が少しばかり疲れた顔で佇んでいる。

そして、光華の傍に輝くような笑顔で共に立つ少年型の生体は、あれはおそらく摂政だろう。

何がどうしてかれを呼ぶことになったのか。

実に楽しそうな光華に呼ばれて、多少のつかれを憶えながら歩き出す。

上司(上位システム)に逆らえる部下(下位システム)なんていないのである。

光華に振り回されてすごす。

これがいつもの、深狼の日常である。―――――


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