第1話 魔王の娘、現代へ
私はオルティア。なんと魔王の娘。昔から魔法とか武器の扱いとかは叩き込まれてきたわ。勉強だって沢山したわ。私の魔導力学の評価はとても良くて評判なのよ。まさに最強って感じ。
そんな私のいる魔王様の国、ヴァルディアに攻め入るなんて輩が居るんですって。ユーシャ?とかいう強いひとが来るらしいけどたった3人で攻めてくるなんて命知らずよね。
「オルティア様!お逃げ下さい!」
え?ちょっと待って。魔王城まで来てるですって?そんなに強いの?だってだってたった3人よ?こっち3000体よ?いや、私はそんなでまかせは信じません。窓から確認し…。
パリイィィィンッッ…トスッ
「きゃあああっ!」
窓から矢が飛んできたわ!やっぱり本当なのね。でも私たちが逃げたらヴァルディアは滅びてしまうじゃない!せっかく税金下げることができて国民の信頼を取り戻したところなのに!
「私が倒してやるわ!」
「え?オルティア様が!?危険ですよ!」
「私の実力を知らないのかしら?負けるわけが無いわ。」
そうだ。たかが3人になにをうろたえているの。まだ雑魚たちがやられただけじゃない。大丈夫、勝てるはず。だって私はあの魔王の娘なのよ?絶対に負けない。よし!私の魔法をくらえ!
「アエリア!」
勇者は少し浮いた!
勇者の攻撃!
「アエリア・テンペスタ」
先程とは比べ物にならない竜巻が襲う!
オルティアは死んでしまった!
強すぎる!なんか上位互換みたいなの使ってこなかったかしら。え、今の人間ってこんなにレベル高いの?てゆうか魔族なのにその魔法知らないんだけど。めっちゃ痛かったわ。てゆうか、え、死んだ!?私、死んだ!?一撃で?嘘でしょ?えぇー。まだ読みたい魔導書あったのに…。
「…なんかふわふわする。ここどこ?」
「ここは天国ですよ。」
「魔族ですけど!?」
そういえば悪いことは何もしてないわ。じゃあアタシなんで討伐されたのかしら。
ここが天国?白くて地面がふわふわしてる。空はクリーム色で甘い匂いがする。
純白の羽を持つこの女の子はだれかしら。
「あなたは?」
「天使です。カリスタと申します。」
カリスタは何枚かの紙を持ってきた。風景の写真と色々な説明が着いている。
カリスタは書類を取りだし、にこやかに淡々と転生の手続きを始める。
「早速、転生の準備をさせて頂きますね。ゴブリンになって突撃するのはいかがでしょう。」
「よりにもよってそれかよ!」
憧れるわけがないわ!いや憧れた奴が転生するからゴブリンがいるのよね。きっと何も考えたくなかったのでしょう。
「それか、こちらの人間の多い、自然豊かな巨大な球はいかがでしょう。」
人間…。仕返しのチャンスね。決めた。その世界を征服して私がその世界の魔王になるわ!それに、ユーシャ以外の人間だったら私の魔法で簡単に倒せるはず。
「じゃあ、それで。」
「それと、あなたは前世でかなり学びを得られておりますので学生時代をスキップできますがどうしましょうか。」
一応その世界のことを知る必要はあるわよね。でもせっかくスキップできるし…。最後の方の学校だけ受けとこうかしら。
まあ前世で勉強はトップクラスだったから多少内容が違くてもまあ余裕ね。
「この大学生ってやつから。」
「かしこまりました。それではよい転生ライフを!」
地球…とか書いてあったかしら。日本という国に生まれるらしいけどどんな場所なのかしら。少なくとも前世みたいに偏見で殺されたりはしたくないわね。
「おっと、着いたようね。ここがアタシの家かしら。」
見渡してみる。なんなのよこの狭い部屋は!魔王城の半分、いや4分の1、いやもっと小さい!
あの魔王城が恋しくなる時が来るなんて、思ってもみなかったわ。
「はーあ。もしかしてお金が無いのかしら。」
「そうだ。せっかくだし色々見て回ろうかしら。」
外へ出てみると、ヴァルディアのような緑豊かな風景はなく、1面灰色の石で覆われており、縦に細長い形をした建物が並んでいる。
「この世界の建物は縦に長いのね。倒れないのかしら。」
ヴァルディアとは大きく違った光景に呆気を取られる。しばらく歩いていると、店らしきものが見えた。
「ここは食べ物を売っているみたいね。でも見たことない野菜がちらほらあるわ。」
逆に元の世界にはあったがこっちの世界には無いものもあり、もう食べられないものもあることに気づいて少し寂しく思った。
「でも色んなものがあるわ。一つの店に統一するのはヴァルディアではなかったわ。」
スーパーをしばらく見て回り、夕飯を買って帰った。
家に着いて机の上に白いスマホを置いた瞬間、スマホが鳴る。画面には「黒田 拓真」と表示されている。
「誰よ。知らない人ね。というかまだこの世界に来てからレジの人としか話してないし。」
この世界の私の手下とかかしら。それにしてはガラの悪そうな男ね。まあ、さっさと要件だけ聞いてしまいましょう。
「おい!オルティア!金持ってこねえとボコボコにしてやるからな!今回はお前に決めたからな!」
はい?なんなのこのクズ。私をボコボコにですって?
「ふざけるんじゃないわよ!」
どんなやつに絡まれてんのよ私!
私だってお金欲しいんですけど!なんで知らない奴にお金あげなきゃいけないのよ!
「今回はってことは他の誰かが前にやられたってことよね。」
酷いやつ。許せない。私魔王の娘だけどそんな理不尽な暴力はしないわ。魔王様より悪い奴がいるなんて、意外と侮れないわね。
とりあえず会わないことにはボコボコにできないので会ってみることにする。
翌日、指定された路地裏に入る。ゴミが散乱しており、落書きも酷い。
そこに身長が高く、体格のいい大男が立っていた。
「おい、オルティア。ちゃんと持ってきたか?」
「お金なんか渡すわけないじゃない。」
突然パンチが飛んできた。顔面にヒットし、思わず尻もちをつき、鼻血が溢れる。ショックでぼーっとする。
「いったぁ…っ!。」
「お前が悪いんだぞ!ちゃんと言ったよな。じゃあな。金は貰ってくぜ。」
もしかしたら本当にお金に困ってるのかもって思ったけど、同情の余地なんてないわ。
背中を睨みつけながらこぶしを握って震わせる。
「私を殴ったこと、後悔させてやるんだから。」
それにしても最初に会った人からまさか殴られるとは思っていなかったわ。
魔導書をペラペラとめくって仕返しに使えそうな魔法を探す。
えーと、拘束する魔法、爆発させる魔法、背中が痒くなる魔法…この辺は使えそうね。でも、いまいちインパクトに残るような、トラウマにできそうな魔法がいいわ。だってどうせ許したらまたやるでしょう?
「やるからには徹底的に…ね。ふふふっ。」
翌日。今日も黒田 拓真に会いにいくわ。でも今回は違う。様子見じゃなくて仕返し開始よ!心も体もちゃんと痛めつけてやるわ。
「おい、今日はちゃんと金持ってきたんだろうな。」
「あら、そっちこそ、あんたに渡す金はないって聞こえなかったかしら。」
顔面にパンチが飛んでくる。オルティアは間一髪パンチを避けて反撃の魔法を放った。
同じ攻撃なんて当たるわけないじゃない。私を誰だと思ってんのよ。
「シャドウ・チェイン!」
「なっ!なんだ、ぐわっ!」
黒田の影が突然うごめき、黒色の鎖が黒田の四肢や胴体、首などの身体中に絡みついた。
この魔法は相手の影から鎖を出して相手を拘束する。しかも、もがけばもがくほど締め付けがきつくなる。殴ることしか考えていない黒田 拓真は暴れ回り、締め付けられる。
「ぎゃああああっ!」
「あら、暴れるからよ。悪いことをしたら悪いことが返ってくるものよ。」
黒田 拓真は相当苦しそうだ。鎖がくい込み、ギチギチと音を立てる。だがここで手を止めるつもりはない。さらに魔法を唱える。
「ブレイン・スクイーズ!」
「ぐわああああっ!」
黒田に頭痛が起こる。魔物相手だとあまり聞かないけど、人間には効果てきめんね。これで二度と暴れようなんて思わないでしょう。
「反省したかしら。」
「お前…!こんなことしといてタダで済むと思うなよ!」
まだ吠えるのね。仕方ない、とどめを刺す。
「グラビティ・クラッシュ」
「ぐあああ!」
黒田の体が地面に押し付けられる。空気が鉄のように重い。
地面に叩きつけられた彼の姿を後目に立ち去る。
「二度と手を出すんじゃないわ。次はないわよ。」
こうして、彼の暴力は今日で終わりを告げたのだった。
アパートに帰り、ご飯を食べながら今回のことを思い返す。
「それにしても、転生してようやく魔王の娘らしいことが出来たわ。」
このままこの世界も私の手に入れちゃうわよ!
しかし財布の中身は空っぽ。
「あー!あいつからお金取り返すの忘れてたあああ!」
お金がなければ生きていけない。世界征服どころじゃないわ。
「よーし!まずは資金を貯めるわ!」
「ところでこの世界はお金はどうやって稼ぐのかしら。」
魔王の娘、オルティア。第2の人生の波乱万丈の幕開けだ。
カリスタは天国からオルティアの様子を見守っていた。
実は地球は数ある転生先の中でも特に難易度の高い部類だったのだが。
「大丈夫かな。先が思いやられる…。」
カリスタはオルティアに話しかける。
「あのー、もしもし。カリスタです。」
「ん?天使が何か用?私忙しいのだけれど。」
丁度いいわ。色々聞きたいことがあったのよ。
「そうだ、ちょっと、今から他の世界に転生し直しとか出来ないの?」
「すみません。それは出来ない事になってまして。もししたいのでしたらもう一度死んでいただけると出来ます。」
そんなにしょっちゅう死んでられるか!
「じゃあこの世界でお金を稼ぐ方法を知らない?」
「それでしたら大学生だとバイトをするといいと思います。」
バイト。聞いたことがない単語だ。
「ばいと?ってのは何をするの?」
「働けってことです。バイトだと時間も都合がつくところがあると思うので。」
なるほどねぇ。働くか。よし!魔王の娘、バイトに行きます!
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