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第9話 パセリの墓標

ふう…

現在時刻4時25分

「長いですね。」

かもめがそれを言った時、階段はまだ半分も降りていなかった。入り口からの光がだんだん小さくなっていくのを横目に見ながら、日見風先生はスマホのライトを立ちあげた。

「うっ、眩しいな。これやから電子機器は嫌いなんや…」

愚痴とも取れるそれはこの緊張した空気を濁すためにあったとも言える。


階段は足を踏み入れれば、踏み入れるほど沼に入り込むかのように、足を引き込むかのように船島かもめの一団を

奥へ奥へと引き込んでいく。それは恐怖とも言える行動であり、決して無駄死にするためのものではなかった。

そして、一団が階段を下り降りた時、そこにいたのは魔食の大群とそれに囲まれ、信奉されているかのような

異質の存在。魔食の中ではかもめを除いて日見風、福垣ともに一度も見たことがない最も人間に近く、圧倒的な雰囲気を纏っていた。それを階段の隅で見ていたかもめ以外の2人は、すでにライフル銃を構えていた。


「あれはこの世もんやないで………そ、存在そのものが許されへん、まさに人類の天敵そのものやぞ…」

それに呼応するかのように日見風さんは応えた。

「いいものが見れた。とは言えないが、私もそう思う。だが、ネタにはなる…」 

引き金に指をかけて言いながら放ったその一言は狂気に満ち溢れていたが、いつもとは違い自信がないように見えた。そんな言葉に福垣さんはライフルに特製の銀の弾丸を薬室に詰め込み、喋り出した。

「相も変わらずお前は狂気に満ちとる。やけどな今はその狂気こそ武器になる。かもめはどうするかやが…」

「今、出しますか俺の分身?」

今日かもめに残されたいたのは1日で使える回数の上限であるかもしれない3回目。今使ってしまうと最悪の場合、

4回目の死を迎えた時、それが確実に朽ちたものとして確定してしまう可能性があるからである。

その覚悟を読み取ったのかそれともかもめ自身から溢れ出るものを感じたのかはわからないが福垣さんの言葉には今際の念が込められていたように感じられた。


「今からや、いまから言うことは既に決定していること思って聞いてくれ。ワシにはな5歳ぐらいの孫がおる。これがえらい可愛くてしゃあないんやが、どうにも優しくできる気がしんくてな。家族とは絶縁状態になってしもたんや。その時は不細工で不器用な自分を鏡で見た時、思わず笑ってしもたんや。それと同時に何か1つ手にいれんたんような気がしたんや。それがワシの、この左眼や。この眼はいまから起こる出来事を5手先まで見ることができるすぐもんやが一度見た未来は確定してまうんや。今俺に見えとるんはな、敗北や両手両足が千切れ壁に打ち付けられ朽ち果てる己の姿。でもなお前と日見風の姿は見当たらんかった。つまり、お前ら2人には可能性があるんやわずかな可能性がな。」

長く重く紡がれた言葉はかもめと日見風の両方の頭に叩き込まれた。

「分かりました。」

「勝手に死ね…だが、一発で死ぬことは許さないからな…」

珍しく顔を上にあげ表情を見していないのを見てかもめは泣くことさえできなかった、いや既に2度味わった死のせいで感情が麻痺していたのかもしれない。まだ、あるとここで終わりではないと…

「頼んだで、総。」

その一言は彼女の行動を一時停止させるほど大切な言葉であった。

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