第6話 左眼の浮浪者
渉:俺の出番まだ?
7月30日午後2時6分
───────────────────────
アダプトを使い、俺は未来に起こる出来事をこの目、この体で体験した。そう、俺は2度目の死を味わったのだ。これで今日、残りの残基は1となったがそれに見合うだけの情報を得た。
「戻って来ました。」
「早かったな。君が体験している時間と、今流れている時間の流れは随分と違うようだ。」
日見風さんはそう言った。
「それで、私はどうなった?死んだか?」
「はい…」と気まずそうに俺が答えると日見風さんは高笑いして、ライフルを手に取り、左手から右手へと交互に持ちかえながらいじり始めた。
「そうか、私はその程度の実力しかまだないということだ。」
「日見風さん、いや日見風先生は十分強いと思います。でも、あいつが特殊だったんだと思うんです…」
「特殊?私はどんな奴にやられたのだ?」
好奇心旺盛な声で俺に問いかける。
「言葉を、人間の言葉を喋っていました。獣のような言葉ではなく、ちゃんとした人間の言葉をです。しかも流暢に…」
「なんだと!?それは実に興味深い…見た目は、どんな形をしていた?体はどんな材質をしていたか覚えているか、どうなんだ?」
怒号とも取れるそれはまるでとり調べを受けているような感覚だった。
「えっとあのですね、」
そう俺が戸惑っていると後ろから渋い声が聞こえた。
「お前が総の愛弟子か?」
そこに立っていたのは白髪の老人。身長は170前後、左眼が銀色に光っている。猟師というよりは浮浪者に近い見た目をしている。薄汚いジャケットは少し血生臭い匂いがする。腰には日見風先生と同種のライフルと古くさい短刀を据えてある。
「先生、誰ですかこの人?指名手配犯かなんかですか。」
「なんやえらい驚いて。お前まさかワシのこと話してないんか?」
銀色の瞳はまるで獲物を常に見つめている狩人そのもだった。その眼で先生の方を見ながら首をかしげた。
「そういえばそうだったな。」と落ち着いた口調で話す先生を見て、その老人はため息をついた。
「6年前から変わっとらんなお前は…」
「そうか?私はあのような場所からでて新しい社会に移り住んだと思っていたのだが…」
思い出に浸る2人に思わず声が出た。
「あの、お二人方は知り合いなんですか?」
「私とこいつ、ああ名前はまだ言ってなかったな。こいつは福垣 元二郎、私を戦場へと駆り立てた張本人だ。」
「人聞きの悪いこと言うなや。お前が奴らに襲われ取ったから助けてやったんやないか。それでお前が奴らを根絶やしにしたい、この世から存在を抹消したいいうから鍛えてやったやんないか。」
「あと少し、もう少し早ければ、私の友人は助かった…助かったのだ。」
重い空気を打ち壊すかのようにおびただしい数の殺気を感じた。奴らだ。
「こんな時に…」
俺はすぐに臨戦体制を取る近くにあった木の枝を折離、鋭いナイフのような形にして体の前で構えた。
「来るなら来い!」と身構えた瞬間だった。
魔食の頭が一斉に吹き飛んだ。瞬きする暇をなく、目に焼き付けられた光景はまるで映画のようにコマ送りをされたようだった。
福垣さんの右手にたった一本の短刀が握られていて、血液一滴さえもついていなかった。
「雑魚相手にしとったら腕が鈍る。その総を殺した言葉話す奴はどこにおる?」
その台詞は俺の闘志を奮い立たせた。
次回
渉死す。デュエルスタンバイ