第3話 残機と勝機
花粉ほど死んで欲しいものはない。
死という概念はいったいどこで確定するだろうか?それは今まで考えたこともなかった。
身近に潜む危険は常に安全で管理された世の中。人生百年時代と言われているのだから寿命や病気意外で死ぬはずがない、そう思っていた。
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…………………俺は死んだのか?やけに身体が熱いし、至る所が痛い。だんだん視界もぼやけてくる。
これがおそらく死ぬってやつなんやろうな。いや、そんなことは考えたらダメだ。俺は誰よりも合理的に生きる。自分の利益のためそのためならなんでもしてやる。人を手段として、踏台としてみろ。そう、俺は両親のようにはならない。不倫で離婚した母も、勝手に家を飛び出して、翌朝河川敷で焼死体として見つかった父親も、俺はそいつらを通り越して幸せになってやる。なってやる、なってやる、なってやる、なってやる!なってやる!なってやる!なってやる!なってやる!
「なってやる!」
その言葉で俺は自分がさっきまでと違う場所にいることに気がついた。
「あれ、俺は確か、死んだはずだ。でも、ちゃんと身体は動いている。」
手足を動かしながら、疑問に思った。
「とりあえず、今は冷静でいることだ…」
よく考えろ…なぜ俺は生きている?自分の行動を整理するんだ。まず、俺は渉と一緒に山に来た。そして怪物みたいなやつに襲われて...渉をおいて必死で逃げた。そして、足を滑らせて崖に落ちた。落ちた?そう俺は落ちたんだ。しかし、今の俺を見ろ。怪我どころか全く違う場所にいる。なぜだ?なぜこうなった?今ままでの発言と行動を踏まえて導き出せれる答え…それは「「アダプト」」だ。
今まで試すことのなかった、使えないと思っていた能力だ。
分身を作り出すそういう能力だと思っていたが、そうでないらしい。今ある状況を整理し、まとめるとこうだ。
アダプトは自分の複製体を作ることができる。この時複製体はその場に留まることなく、自分とは違う行動を取るらしい。複製体には「「アダプト」」と能力を発動した時点の複製元の記憶、正確、身体などの情報が書き込まれる。そして、複製元(本体)が死に至ることによって複製された体に記憶が書き込まれ、それが本体となる。
これが今、分かってる情報だ。つまり、俺が死ねる回数、複製体の出せる、3回が限界だってことだ。
しかし、どうする?今、警察に連絡したとしても救助にくるのは1番近くの交番でも30分はかかる。いや、信じてもらえないかもしれない。科学技術が発展し、非現実的なことが完全に否定されようとしている今の世の中だ、よっぽどのオカルトマニアでなければあんな怪物を信じることもないだろう。
「どうするかだな…まずは旧軍施設の入り口、渉と別れた場所…そこに行けば、渉がいるかもしれない…だが可能性は低い…」
その時俺は渉に言われたことを思い出した。「「どんなに可能性が低いことでも俺はそれに欠けてみる、せやないと俺は人生で一度のチャンス逃してしまう子もしれへんからな。」」という言葉を。
俺は渉と別れた場所に向かった。
「確かここら辺だったはず…」
身を潜めながら、周辺を見た。
『キシイイイ!』
荒々しい声を立てながら、足に根を持ち、腕に歯少し苔が生えた人型の生物が2、3体うろうろしている。
「なんなんだこいつら?渉を襲ったやつと全員姿が違うし、何か言葉のようなものを喋っている。どこかに行く気配もないし、俺を待ち伏せしているのか?」
そう言葉を言った瞬間だった。
足元に落ちてあった小枝を踏んでしまい、パキッと音が鳴る。
それに即座に反応し、奴らはこちらに向けて歩み寄ろうと頭を深く下げ、足に力を溜めるように太もものようなものを大きく肥大化させジャンプした。
「しまっ…」
公開の瞬間も言えないまま、ただこけた自分を見て、渉に申し訳ないと思う一方だった…
しかし、突如声がした。「「う…くな」」とまるで川の流れる音、完全に透き通ったそんな声、女の声だった。
そして、ターンと銃声がした後、怪物の1人の頭が木っ端微塵に吹き飛んでいた。
『キシャアアアア!』
激しい断末魔の声が山中に響き渡る。
そして、そいつは俺に襲い掛かろうと頭を右手で押さえながら、左手をナイフのように鋭くし、俺の右肩を切り裂いた。肩からはかすり傷ができると同時に血が少し吹き出す、そのままの勢いで俺の身体は後ろにのけ反る。
「うおっ」と声を出しながらも能力を発動できる僅かな隙間を探す。
だが、怪物は俺に対し顔めがけて左手を振りかざす。俺は顔を左に少し傾け、右足で怪物の胴体に蹴りを入れようとした、すると、また女の声で「「動くな」」と命令してきた。
俺はその指示を従うようにその場に身体を固定した。
次の瞬間、またもやターンとさっきより近くで銃声が鳴り、瞬きすると、怪物の胴に大きな穴が空いて、中から緑色の液体が飛び散った。それに加え、いつの間にか20代ぐらいの女が小型のライフル銃のような物を持って目の前に立っていた。
「終わるまでそばを離れるな。」そう言って引き金を2回、3回引くと瞬く間に怪物達の頭や身体を破壊していく、最後の一匹にトドメを刺そうと女は引き金を引いたが、後ろから来た4体目の怪物に襲われそうになる。しかし、そんなことはものともせず、冷静にライフル銃の引き金を素早く6回押すと銃口が引っ込み、中から鋭く光る透明なガラスのような剣が出てきて、身体を斜めに回転させながら二匹同時に首を切り裂いた。切り裂いた勢いでそのまま、胴体に剣を刺すと1匹目は森の奥へ、2匹目は崖の下へと放り投げた。怪物の生体反応を確認した後、ゆっくりとこちらを向き、「君が船島 かもめか?」と尋ねた。
俺は頷き、その人はその辺にあった岩の上に座り込んだ。
「あ、あなたの名前は…?」
俺がそう尋ねるとこう一言、「通りすがりの小説家だ。」と言った。
ギリギリだったぜ。