第28話 畏敬と執念
──額から一筋の生流が生まれる
それは生暖かく、ほんのり鉄の匂いがする。
自らが生んだ数々の衝撃。それが自分自身を追い詰めるなど、ましてや命に関わるなど思いもしなかった…
「抜衝!」
船島かもめが放ったその一撃は、新島を死の淵に追いやる。
初めての出来事に新島は今までのことを思い出す。
─なぜ、自分はこんなにも弱いのか、と。
弱さは「罪」。強さは「権利」
生まれがどこだろうが強ささえあれば、どんなことでも出来る。人殺しでも、世界征服でも、戦争でもたった一人で片付けることができるたった一つの圧倒的な力さえ…力さえあればどんなことでも出来る…
他に執着せず、自己のみを考える…
自分、いや俺の…
俺の強さ…誇り、生きているという実感。人を見下してこそ、得れる生のエネルギー…
「やったかッ!?」
かもめは勝利を確信した…瞬間だった。
「しぇえええええ!!!!!!!!!」
新島は突如、雄叫びをあげた。
「人=間がァあ気持ち悪いねん!」
受け止めた衝撃をその場で吐き出すように、あるいは体から放出するようにその場を歪ませる強大な圧を生んだ。
その圧は新島から半径二メートル内の全ての物質を地面へと引力を生み、叩きつけた。
「ひれ伏せ、雑魚ども。」
かもめは地面に勢いよく叩き蹴られその場で気絶した。
「これが俺の新しい力…どんなもんも俺の前では跪く…」
かもめは気絶直前に新島を苦しめた元凶である【巣窟】をすでに上空へと投げていた…
それを察した上崎渉はその行為の意味を即座に理解し、飛び上がる。
新島がそれを理解した時、すでに渉は刃先を下にし、自分の全体重を全てかけ渾身の一撃を新島に繰り出した。
【圧力】。通常、魔を扱うものは自らの魔を具現化し、能力とする。魔が多いものはその周辺に多大な影響を与えるように、未来の時間を視たり、操ったりすることができる。その最たる例が以前、魔食の王、ペスディアと戦った福垣元二郎がその最たる例である。
しかし、新島諭が使うこの業は自らの魔を使用しない。相手から受けたダメージを魔に変換し、圧力へと変化するのである。つまり、相手の攻撃を一度でも喰らわなければならない業。だが、それを新たな力を手に入れたと興奮する新島にとって理解をする時間はなかった。
渉の一撃は新島の頭を、額を貫いた。
「痛ッ!つつ痛痛痛!!!?」
痛みを連呼するように新島は必死にもがく、が。
ここで意識を取り戻した、かもめは状況を素早く理解。
全身の魔がなくなった渉は先程同様、かもめに【巣窟】を手渡す。
「終わりだ、誰か知らねけど。」
その刀身は魔食である新島の核を貫いた。
─思い出した─
船島っていう名字。あの男や、俺を置いてった、俺が救ってやるといって置き去りにした…
────────────────────あん男───────────────────
「自己紹介は無しって言っちまったから、そっちから名乗れ。」
「新島諭。アンタは?」
「船島かもめ。あ、言っちまったか。」
魔を一切使わず俺に素手で勝った男、俺の憧れ、俺の…………
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「やった…終わった、もう体、再生していない。勝った…」
その場所、その時、かもめと渉は長い眠りについた。
次回はかもめ視点です。




