第26話 見下ろす気持ち
パラオがいっちゃん好きです…はい。
生まれた時、そこには二つの道があった。
明るい路地の方、それと真逆と言える薄暗いスラム街。
迷わず、明るい方を選んだ。しかし、そこで見たのは暗闇よりももっと薄気味悪い「何か」だった。
どんなに努力しても、人として見られることはなかった。どんなに足掻いても、その道を極めてものには構わない。どんなにコケにされても耐え続けた。耐え続けて、たった一回反撃にでた。そいつらに対して、思いっきり殴った。怯えた、恐怖した。その顔が、見下ろすという行為が気持ちよく感じた。圧倒的な力でねじ伏せる。それが自分にできる最大限の幸福だった…
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壁の冷たい感触…背中から感じるヒリヒリとした痛み。
「何や、一発でやれんかったか。」
男はそう喋った。
思い出した。確か俺は急に現れたコイツに殴られたんだ、額を。
咄嗟に魔を頭に纏わせたから良かったが、それでも五メートルほど吹き飛ばされ、路地の壁に打ち付けられたのだ。そして、今意識を鳥戻した俺は状況を確認しつつあった。
「お前、何者だ?」
俺の問いにそいつはそっぽを向いたが、答えるのがめんどくさのではなく、まるで答えるのが自らの敗北と取っているよう振る舞いだった。
「自己紹介せいへん言ってもうたから、名のるはそっちや。」
初対面なのにこの振る舞いは一体何なのだろうか。
「船島かもめ。」
「上崎渉。」
しかし、一応なので自己紹介はしておこう。
「船島…今、船島って言ったか?」
男は驚いた様子でこちらを見た。
「何だ、かもめ知り合いか?」
渉が俺に聞く。
もちろん初対面なので心当たりは全くない。
「アンタ、どこかで会ったか?」
「いや、聞き覚えのある名前やと思ってな。でも、多分勘違いやね。」
男はそう言葉を区切った。
「なぜ、俺たちを襲う?アンタ、人間じゃない…」
その男は俺たちの目の前から姿を消した。気づくと後ろから声がした。
「人間、その言葉嫌いやねん。何でかわかるか?」
「「!?」」
音もなく、戦闘体制を取っていた渉が反応する暇なく、背後に現れたその男に俺たちは驚きを隠せない。
「速い…だけじゃなさそうだな。」
渉がそういうと魔食の姿に早変わりした。
「あれ、君仲間やったんか?ごめん、ごめん魔のオーラが雑魚すぎて……いや、仲間やったら名前ぐらい言わなあかんね。自分、新島諭っていう。」
「仲間?お前、俺と同じキメラか。」
「キメラ?あんなきしょい奴らと一緒にせんといて。自分は選ばれた側の人間、無造作に選ばれたそこらの野良犬やないからさ。あ、でも君その野良か。冗談、やで気にせんといて君、怒らせたら怖そうやから…」
ぺらぺらとコイツ何なんだ…
「俺は確かに野良だ、だがそっちの方がカッコいいだろ?俺から見たら、お前は雑種だぜ。」
「いま、なんてッ言うた!?雑種やと?見たらやと?お前ら、コロスしたる…」
どうも地雷を踏んだらしい…やつの能力が分からない以上、こちらから仕掛けるのは不利になる可能性がある…
「渉、カッコよく行こうぜ…」
「了解!」
カッコよく行こうぜとは俺が渉と遊ぶときに使う隠語…意味は「全力で逃げる」だ。
足に魔をため、一気に解放する。
空気抵抗や速度で体が崩れないよう全身を魔で覆う。
「できた!」
剣城さんとの戦闘中に彼が使っていた技を試しでパクってみたが意外と使える…
そして、渉と同じ速度を維持しながら、全力で新島から離れたはずだった…
「どこ行く気なん…殺す言うたやろ?」
新島は俺たちの目の前にすでにいた…
「アホな、コイツワープして…」
渉の胴に新島の拳がめり込んだ。それを渉はガードした。ガードしたはずなのに渉は後方十メートルほど吹き飛ばされた。そして、俺はやむなく能力を発動した。
「「アダプト!」」
手のひらを広げワ、新島に向かってワイヤーを射出する。ワイヤーはぐるぐると新島に絡まり動きを拘束した。
そして、身動きが取れない新島に渾身の一撃を放った。しかし、彼にあたることはなかった。
そこにあるのはワイヤーだけだったのだ。
「危ない、危ない。君、そんなことできるんか…」
瞬時に後方に下がったようには見えなかったのに、新島はそこにいた…
「アンタ、使ったな…能力を。」
「あら、バレてもうた?魔食の先輩相手やったら気づかれへんねんけどな…そう、使ったで。でも、お互い様や…」
普通何かが通りすぎる時、残像が出るはずだ…しかも、音がなかった。
「自分、遅いやつ嫌いやねん。でも、見破った君にだけ教えたる。自分の能力は「時間保存」。その名の通り、保存した時間に戻れる。ただそれだけの能力や。」
時間保存…予想はしていたがそんなやつがいるとはな…
以前、みた福垣さんとは違うタイプの時間に干渉してくる系か。だが、おそらく戻るのは位置だけ…その証拠に服にワイヤーの跡が残っている。
「アンタ、戻せるのは位置だけか?なら、一撃で倒してやるよ。」
「ぷっ、強気やね。一人で自分を倒せるわけないやろが。」
俺の能力はでかい技、例えばビームを放とうとすればデカい溜めがいる。だが、それは一つのにした場合だ。
複数個にしたビームをやつの全方向から同時に発射すれば、タメはゼロに近い。
「「アダプト!」」
全方位から新島に向かって小型のビームが放たれた…
秋は秋刀魚なんだよね。




