第25話 始動
酒のフライ…いや、鮭のフライ…晩御飯にしよう。
かもめたちが社巫女と遭遇した同刻
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旧軍事施設内部、そこは長年使われていなかった。
最後使用されたのが終戦直後であり、機材は全て放棄されたままでそこらへんにネズミやら昆虫やらが棲みついている広さとしては地下壕を含めるとサッカーコート五つ分に相当する。
以前、福垣が戦ったその場所は今や王が世界を統治するに相応しい玉座と化していた。
「で、何の御用ですか?」
一匹の魔食は魔食の王であるペスディアに言った。
「…王に向かってなんと…!?」
周りのいた魔食一同は動揺を隠せない様子でいたが、それをいつも通りと捉えている一部の魔食はその魔食に向かって、アドバイスをした。形式上、王であるペスディアに逆らえないからそうしているだけである。
「新島…とか言ったか、確か。貴様は人間とのハーフであるが故にそのような発言ができる。我々と違うからといって、そのような発言は己の身を滅ぼすことになる。謝罪しろ。」
周りの魔食がその新島を見つめる。
「はい、はい。仲間はずれ、なりたくないんでね。すいませんでした…」
「よい、別に貴様のことなど気にしていない…」
怒気が含まれたその発言には、その場にいた全員が体を震わせた。
「怒ってますやん、すいませんって。でもね、アンタ相応しくないで王に。」
「ほう、何故そう言える?」
「こんな、ところでコソコソと。恐れてるやろ、人間を。王の器というかもっと堂々としたらどうですか?別に死なないじゃないですかあんた、それとも戦うことにビビってるとか言わはらへんやろうね?」
新島は冗談のつもりで言ったがそれを真剣に受け止めた。
「今から、一ヶ月後だ。我はこの国を落とす、だがそれにはお前たちの力が必要だ。暴れろ、好きに殺せ、今より全員単独行動をすることを許す。情報を集め、仲間を増やし、人を殺せ。我は今から、王として、人間社会に対して、侵攻を開始する。」
「ほんまにええですかぁ?人を殺して、しかも公の場で。」
「ああ、好きにしろ。私に今、天命が届いたからな。」
ペスディアは迷うことなく新島に言った。
「ありがとございます…」
新島は王に頭を下げながら少し笑った。
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「で、アンタの契約内容は?」
尋問というのだろうか、社巫女の喋り方はそれに近かった。
生年月日、住所、親の名前、好きな人、嫌いな食べ物、趣味、経験人数。これら全ての情報が渉の口から発せられた際、俺は男として、ましてや、親友として聞かないよう耳を塞いだ。
「契約の内容だけが分からない、ということね。」
「そうだよッ!これでいいだろ。もう…」
渉は精神的に参っている様子だった。
「しょうがないわね。でも、これだけしか情報がないから、私が失敗しても文句言わないでよ。」
「これだけだと?俺の情報の9割9部開示しただろうがぁッ!」
「落ち着きなさい、アツい男は嫌われるわよ。いい?結解術はいくつか発動に条件があるのよ。」
「条件?」
「一、結界術と結解術は同時には使えない。どちらかを使用する際、先に発動した方の効果が切れる。あくまで効果が切れるのであって、一度発動した結界が消えることはない。二、結解術には対象の細かい情報が必要。対象の情報が他の誰かと似かよっていた場合、対象には効果が起こらない。三、発動には契約の内容または、契約した本人に契約が本当に結ばれているかどうかを確認しなければならない。」
「なるほど…でも、細かい情報は全部言ったし、契約したことだって本当だ。何が問題なんだよ?」
「細かい情報の中には契約内容も含まれているの。だから、内容を憶測でやるとなると結解術が正しく機能しない場合があるの。だから、失敗しても恨まないでよ。」
そういうと彼女は念仏のようなものを唱え始めて、渉の周囲を魔で作った結界で覆った。
「出てきなさい魔食、【外・圧】!」
すさまじい音、渉から出るエネルギーは天高く舞い上がった。
パチっと音がした。薄黒い、緑の光。それが当たりを照らした。
「何、コイツ魔食じゃ…ない!?」
時間にして一秒だったと思う、結界は崩れ去った…
それにより、魔食が俺たちに気がついた。
「あちゃ、社ちゃんでもダメか。知ってたけど…」
剣城さんはそう言いながらも社ちゃんを抱えて、一っ飛び…俺らを置き去りするかのようにどこかへ行ってしまった…
「あの人俺らのことおいていきやがった…」
俺たちと反対方向に逃げた剣城さんを見ながらも、魔食からの追撃を交わす…
どうにかなりそうだった時、突如そいつは現れた。
「おはよう、いや今はこんにちわ、か。やっぱ魔食の生活にはなれんね。朝昼晩関係なく活動できるから。」
見た目は人間、だが中身は…
「初対面やけど、自己紹介なしで死んでくれ。」
そいつの拳が今、俺の額に当たろうといていた…




