第22話 頂
冬だろ、この寒さ。
「で、どうだい人のお金で食べる飯は…?」
剣城の言葉は大人に見えない言葉だった。
しかし無理もないだろう。まさか、渉がこんなに食べるとは思っていなかったのだから…
「やっぱここだよな、うまいもんたくさん食べる所といったらよ。」
「すみません、こいつ爆食いなんで予想よりお金かかると思います。」
困った顔で財布を漁る、剣城さんをちょっとかわいそうに見ながらも俺もドリンクバーやらスープバーやらを頼んでいる…
「…まぁ、いいか殺しそうになったのは事実だし、謝罪の念を込めて…ね。」
「そういえば、オッサン。聞きてぇことがあるんだけどよ。」
「オッサンというのはよしてもらいたいね、今年で29だよ。」
「十分、おっさんじゃねかぁ!」
「あ、今全国の二十代後半の人に対して宣戦布告したね?」
「本題は?」
俺が渉と剣城さんの間に入って、話を区切った。というか一応ここ、カフェだし…
「俺の体のことについて何だけどよ、どうやったら普通の人間に戻れるんだ?」
「魔食とのキメラ体についてだね…?」
「ああ…」
剣城さんはアイスコーヒーが入ったカップを机に置いた。
「おそらくだ。これは僕の推測だけどね、戻る方法は一つしかない。」
「何だよ。」
「契約を切る事だ。」
「契約を切る…?」
「そう、契約を切る事、あるいは契約内容を果たすこと…かな。」
契約、前に日見風先生が言っていたものだ。契約したものは絶大な力を得る代わりに一生懸命契約を振り解く事はできない。でも、それは人間側にとって都合が良すぎるんじゃないかと思っていた。何か代償があるんじゃないのかと思っていた。
「契約とはね。自分の全てを捧げることによって成立するものなんだよ。だから、解除することは不可能に等しい。だから、切るのさ、ズバッとね。契約そのものを破棄するのではなく、契約自体していなかったことにするという方が正しいかな。最も、魔食との契約をした人間は2回しか見た事がないし、それを切ったことのあるやつは見た事がない。」
「じゃあどうすれば俺は契約を切る事ができる?」
「結論から言わせてもらうけど、ムリ。」
「は?」
「契約を切るには、契約の内容がわからないとできない。覚えてないだろう、君?」
「ああ、そん時の記憶がないんだよな…」
「だろうね…」
「何だよ、知ってたのかよ…」
「いや、知っていたと言うよりは、覚えていたのさ。早く、忘れたいよ…」
「?」
「いや、いい…さておきだ。もう一つ君の契約をなくす事ができる方法がある。」
「何だよ?」
「君は何故、元の人間に戻りたいと思ったんだい?」
「実をいうと、俺はあと二十日程度しか生きられない。」
俺は渉の突然の告白に驚きを隠せない、何を言っているんだと…
「やはりか…」
「やはりってなんなんですかッ?渉が何で死ぬって…」
「まぁ、落ち着きなよ。魔ってのはね、言ってみればバッテリーなのさ。使えば、使うほど減る。そして、ゼロになったらそこで終了。なくなると死ぬ可能性がある。」
「でも…俺は使っても減らなかったじゃないですか…」
「それは「人」場合だ、魔食は使った魔は回復することはない、体の再生に使うからね。」
「でも何で、渉は二十日程度死ぬってわかるんですか?」
「契約内容をあえて覚えさせているんだ。恐怖で契約を果たさせるようにね。」
サングラスをカチャカチャさせながら剣城はそう言った。
「それを知らずというより、僕は警戒していたんだが、まぁ、僕にも非はある。だから、手伝ってあげようって話だ。魔食の頂点、管理者、統率者。「王」をやる。」
ニヤリと剣城は笑った。
腹が痛い…




