第21話 真実
問題!秋の魚といえば…?
「やったか、かもめ?」
「ああ、だいぶ凄いの入ったはずだ。死んでても、おかしくはないと思うが…」
剣城に一撃を与えた俺たちは今までの疲労を癒すかのように落ち着いた様子でその場に座り込んだ。
「君たちはとても良いね…僕が……鼻血を出したのなんて、三年、いや…五年ぶりかなぁ…」
土煙の中から、やつの声がした。
知っていたさ、この男はこのぐらいじゃ死なない事ぐらい…でも硬すぎんだろ…
「これで引いてもらえるとありがたいんだが、アンタは俺らに…俺らに何を望む…?」
「とりあえず、死んでくれ。というのはおそらくダメだろうと思うから、君たちの要件を聞こうか。」
サングラスをカチャカチャさせながら、剣を地面に突き刺した。
「やっと話しを聞く気になったかよ、サングラスのオッサン。」
「そういう君は、魔食であることをやめることができるんだね。初めて見るよ、君みたいなやつはさ。」
二人は先程までの緊張感は無く、落ち着いた様子で話す。
「なんていうのさ、名前は。」
「上崎渉。好きなことは動くこと、嫌いな事は考えることだ。」
「なるほどねぇ、だから君は僕の斬撃の中に飛び込めたわけだ。馬鹿だねぇ…」
「テメェ、俺とかもめのコンビネーションに負けたんじゃ…」
「それはそうとそっちはの君は名前なんて言うんだい?かもめって呼ばれていたけど随分、まぁ…」
渉との会話を避けるように俺に対し、話しかけてきた。
「船島かもめっていう…」
「船島?あの子の子か…」
何か知っている口調で話す剣城という男は不思議だった。いつかは忘れたがその雰囲気は覚えている。血の匂いを嗅がせながら俺に対し、「大丈夫かい?」と優しく声をかけてくれたその人だ。
「どっかで会いました?」
「さあね、僕は覚えるのが苦手なんだ。どこかで会っていたとしても、面倒な事以外は全て忘れる。それが僕という人間なのさ。」
「船島って名前に心当たりがあるんですよね。船島康二について何か知っていることはありませんか?」
少し、間が空いた。
「彼について知りたいのかい?」
「はい。」
「そうか、そうなんだね。君は彼の呪い…を解いたわけだ。だから、ここにいる。」
「僕についてきなよ。君が嘘をついていないか確かめてあげる…」
そう言われて…俺たちは元居たお堂を過ぎて、もっと深い山奥に足を進めて行った。
「ついたよ。」
そこには何もなく、岩が周囲を全てを囲っているだけだった。
「さぁ、君が僕に放ったあの一撃を今度はそこにある岩にやって見せてくれ。」
そう言われた俺は言われた通り、拳に全ての魔を込め、殴った。
しかし、岩は砕ける事はなく、ただそこにあるだけだった。
「どうやら、本当みたいだね。君の話は。」
何を言っているのか分からなかった。だって俺は何も嘘はついていない。呪いがどうたらこうたら言って
いたが俺はただ真実を述べたまでだ。
「今、君が殴った岩は「真実の岩」ありとあらゆる攻撃はこの岩の前では無力だ。魔による攻撃でも一切、傷つかない。ただし、色が変わる。」
もう一度岩を見た。岩は白色だった。
「白は真実の証、逆に黒は大嘘つきってことさ。」
「それがどうしたんですか。」
「おい、渉君…?だっけ。かもめ君に親はいるかい?」
ごくごく普通な質問、誰でも答えられる。
「縁さんだろ。何言ってんだ、お前。」
「それは預かり人だろ。親だよ親、君を産んでくれた親という存在さ。」
「俺に親はいるだろ、でもかもめに父親いないぜ。」
ここで俺は一つ、違和感に気づいた。渉の「父親いないぜ」という発言。
僕は確かに両親は昔、どちらもいなくなったと渉に伝えたことがある。しかし、渉の喋り方はまるで俺には、船島かもめには最初から父親は居なかったと言わざるを得ないような喋り方をしたのだ。
「これが呪いさ。魔ってのはね、君がものをつくることができるように、人に誰かを忘れさせることだってできる。」
「それを親父がかけた…っていうのかよ。でも、施設の内部テレビには…」
それをいう前に剣城は渉に質問していた。
「君は変革者の施設で見たテレビの内容を覚えているかい?」
「ああテレビは見たな。そこでよう、中川ってやつが…」
期待した。見た、テレビの内容が見せられるな言いようが人によって違うことを。
「あれは全て、同じ内容だよ。中川なんてやつ存在しない。」
「みんな、忘れてるのか俺の親父のこと。」
「みんなじゃない、僕がいる。君と同じさ、そう君とね。」
動揺を鎮めるために剣城はそう言った。
「アンタは何で覚えているんだ、親父のこと。」
「僕はねぇ、五感がいいんだ。特に、気配を感じ取るのが得意でね。君の父親の気配は覚えている。あくまで気配だけどね。僕の予想じゃ、おそらくこの呪い、いや能力か。これは対象を見た者を忘れさせるといった感じかな。」
そういうと剣城はサングラスを取った。左目の上から右目の下にかけて、大きな傷があった。刃物で切り付けられたような、跡だった。
「僕はね、見えないんだ。でも人の本質は「視る」ことができるはできる。」
この状態で俺たちと戦っていたと思うとやはりこの人は最強に近いのかもしれない。
「でも、君たいなやつは見たことがない。同僚に聞いてもある時から、彼の事は忘れてしまっていたというのに、」
続けて言う。
「君がなぜ、彼のことを覚えているのか推測ではあるけど言ってあげるよ。それは、おそらく魔の量だね。」
魔の量…言われてみれば確かにそうだ…家族愛だからとかじゃない、俺はあいつのことを嫌っていたし、特別違うことと言えば、魔が日に日に増えていることだけだ…
「そして、これもおそらくではあるが、魔の総量に応じて忘れ具合が変わるんじゃないかと思うね…例えば、魔が多いほど、忘れ…少ないほど覚えているとかね。何しろ、僕は山にずっと籠っていたわけだから、検証はしてないけど。で、君はその魔の設定値を超えたんだよ。」
「でも何で、そんなことする必要があったんですか。」
「僕は神様じゃない。それをこの世界の中から「見つける」ことができるのは君しかいないんだから。」
「…」
「長話はここまでだ。ご飯にしよう、何か食べたいものはあるかい?」
「ラーメン、ハンバーグ、パスタ、寿司ぃぃぃいい。全部食わせてくれんのかぁ?」
向こうに行っていた渉が戻ってきて、テンション爆上げでそう言った。
「いいよ、代金は僕の財布から支払おう。馬鹿はいっぱい食べないと。」
そうして、俺たちは一旦山を降りるのであった。
ハイ!
トビアラッ!
海老じゃねえか…




