第2話 小説家 北嶋 総
我慢が大切だと親知らずの時に知りました。
蒸し暑い夏の夜空、それはとても美しい。
人生最後に見るのにはちょうど良いかもしれない。今までで何回目になるのだろうか。そんなことはどうでも良いが、私にとっては船島かもめ、彼に会えたのが唯一の救いだったのかもしれない。
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7月29日午前1時6分 場所 〇〇県神市北区上室台 ショッピングモール3階
赤い帽子を被り、沖縄柄の半袖を着ている背の高い男が少し小走りでこちらに向かってくる。腕についてある時計は数百万とする高級腕時計で、私が普段からつけているビジネス時計よりもはるかに高い代物だ。小説家として少し名が売れてきた私であったとしても、到底この男には財力に関しては及ばないだろう。
「北ちゃん、やっと帰って来てくれたんか。うれしすぎて涙が止まらんわ。」
私の名前は北嶋 総。この北ちゃんというのは私の幼少期のあだ名である。
そして今、話しているこの男、北川 縁。幼少期に私の両親が仕事に行っている間、私の世話係であった実の叔父である。
「要件はなんだ?こんな所に呼び出しておいて、まさか会いたかっただけと言わせんぞ。端的に、50文字以内で話せ。」
北川は少し困った顔で私の方を10秒ほど見つめ、最終的には右手を顔に当て、話し始めた。
「かもめがな…昨日の朝から戻ってこうへんねん。警察に連絡しても、そんな人はこの世に存在せいへんとか訳のわからんこと言うし…」
「かもめ…聞いたことがあるな。確か、お前の弟の子供に船島かもめという珍妙な名前の人物がいたはずだ。」
「弟が病死してからは俺が引き取っとたんや。そっから俺が男一筋で育て上げた、息子みたいな存在やと思ってる。」
北川はため息を吐きながら、ポケットに手を突っ込んでタバコを取り出した。
「おい、クソ野郎何を取り出している?受動喫煙という言葉を知っているか?」
「昨日から、寝ずにカモメを探してるんや。一本ぐらい吸わせてくれんか?」
まるで3歳時のような顔をする北川に少し吐き気が、いや吐く寸前だったがそれをおさえて吸わせてやることにした。
「しかし、妙だな。警察が動かないとなると国家規模の事件に巻き込まれている可能性がある。本当に携帯電話などは通じないのか?」
タバコを吸っている北川の横顔を見ながら、近くにあったベンチに座った。
「それがな、昨日朝に電話がかかってきたんや。でその後、消息不明になってもうたんや。」
この話を聞いて、私は正直嫌気が差してきた。単なる家出に決まっている。そう思えたからである。ただし、異様に電話の内容に興味が湧いた。
「会話の内容は?」
「それがな、えらい雑音が入っとて聞き取れへんかったんや。」
予想通り。やはり好奇心は私を謎へと導いてくれる。
「その音声、何分ぐらいつ続いていた?」
「6分ぐらいやな。でもかもめの声が聞こえんくなったのは30秒ぐらいや。それがどないかしたんか?」
「いや、6分…ふっ、フハハ、フハハハハハ。」
神はどうやら私にまた試練を与えたらしい。
「良いだろう。私がそのかもめとやらを見つけてやろう。」
「ホンマか!」
さっきまで中年の堕落した男声だった北川の声に抑揚がついた。
「好奇心は猫をも殺すか…魔食ども、覚悟していろ。私の奪われた6ヶ月を取り戻してやる。」
私はその場を立ち去り、自宅の古びた倉庫に向かうのであった。
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東谷高校から南に2キロ 東谷峠
そこは渓谷というには浅く、かといってそれなりの深さがある、そんな場所である。そして、そこには上崎 渉、彼がいた。
かもめは、かもめは大丈夫なんか?腕から大量の血が出とるし、太もももかすり傷じゃ済まないほどに重症やし。
これは死んだかもなあ…
子供の頃、ジャングルジムの上から勢いよく落ちて、歯が何本か折れたけど体の法はなぜか無事やったんやけど。
身体が妙に蒸し暑いし、視界もさっきと違って暗く、狭くなってきてる…人生最後がこんな誰も見つけられえへん
ジャングルみたいな場所でお前みたいなやつと心中とはな…
「なあ?聞いとるかバケモン?まあ、言葉が通じてるかどうかも怪し所やけど…」
『キシイイイイ!』
この世の声ではないような、どこか嫌味を引き出すようなそんな声がして、酷く耳の奥を掻き回すような感覚だ…
身長は俺より少し低めだから165ぐらい、人型のような見た目をしているがまるで装甲のように皮膚?のようなものが剥がれ落ちて、内部の骨などが吐出している。しかも、口のようなものが付いていて俺の右腕をガブリと加えて、こちらを静視している。
「お前、もう動けへんやろ?俺に噛み付いた時、俺が鉄パイプ頭にぶち込んでやったからな…でもなんでまだ生きてるんやお前…」
しかも、この怪物の血の色、黄色って…そこは青緑とかそこら辺やないんか?
『けい.…あ、く、契約ダ…』
「お前、喋れるんか!?」
若干の恐怖を覚えながらも、顔を近づけて話を聞いてみることにした。
『私に、ワタシに…そのか、カラダを…わたせ、そうすればキョウゾンデキル』
機械音声のような、掠れ消えかかるような声で言った。
「いいぜ、どうせこのままいても、俺もお前もくたばるだけだからな。」
『………テを、ノバセ』
「俺の命、お前に預けるぜ、怪物。」
そうして俺は深く眠りにつくのであった。
次回はかもめ視点だよ。