第19話 守人
秋じゃん、もう…
「君たちにはこれから任務に出てもらう。」
その一言から俺たちの朝は始まった。
「任務…ですか?」
「そうだ、任務だ。おそらく君たちのとって初めての仕事になるだろう。任務内容はついてから分かるようになっている。」
「任務ってのはスパイ映画みたいなやつか、面白そうだな。」
渉が大きくあくびをしながら言った。
「残念ながらそう楽しいものではないと思うがな。最悪、死ぬ可能性すらある。」
「そう…何ですか?」
少し不安そうに日見風先生に聞く。
「冗談だ。運が悪かったら死ぬかもしれんが…まぁ、大抵の事は学べるだろう…」
そう言って、俺と渉はある山に向かうので合った。
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「ここか、先生の言っていた場所、剣山。」
「何か山に対しては嫌な思い出があったような、なかったような…?」
確かに少し既視感があるあの山と雰囲気も似ているし、何よりあの時見えなかった魔が山中に張り巡らされているのを感じる。それに人がいてはならない神聖さも漂っている気がして、不気味だ。
「ピィピィ、ピイー」
野鳥の鳴き声を聞きながら、足を進めていく。足を進めるというより、足が勝手に進むのだ。道路というか、道というか、獣道というか、ここ何十年も整備されていない荒れ果てた道路に、時より見える熊や小動物の足跡が残っている。随分昔、まだ母親が生きていた頃、俺はこの景色を見たことがある。生い茂った植物の間を父に担がれながら見た景色と非常に酷似している…なんて考えているうちに古いお堂のような場所に辿り着いた。
「おお!見ろよかもめ仏像さんがいっぱい並んでるぜ、しかも皆揃って顔が同じだ。」
お堂の中には三十は優に超えているだろう仏像が並んでいる。
「三十五限堂は軽く超えてるな…」
「オイオイオイ、なぁに勝手に人の家に入り込んじゃってんのさ…親に習わなかったかい?何事もちゃんと許可を取ってから行動するべきだと…」
その男は二十代後半でサングラスをかけていて、背中には男の背丈の三倍はある真っ直ぐな剣のようなものを担いでいる。明らかに魔の使い手であるが全身から魔が出ている様子はない。日見風先生でさえ、少し魔が出ていたのにこの男は少しも出ていない。
「君たちは味方かい?それとも敵かい?それともそれともどっちでも無い、ただの一般人かい?」
「俺たちは日見風先生に言われてここに来た。あなたは何か知っているのか?」
「日見風…誰だいその子は?やっぱり君たちは僕の敵かな?最近人型の魔食がいーっぱい出てきて見分けがつかないからさ…一度試させてもらうよ…君たちの「実力」。」
ゾクっと背筋が凍るような、臓物を誰かに握られているような気がした。
「僕の名前は剣城 晴一って言う。自己紹介はそれだけ、それ以上はいらない。」
剣城と名乗ったその男は剣をのっそりと構え戦闘体制に入った。
「待て、俺たちは日見風先生の…」
一瞬だった、それは閃光に等しい速度で、目に映すだけで限界だった。
「うぐっっっぅぁああああ!」
渉の左腕が切り落とされていた。切り落とされた部分を右手で押さえながら喚いている渉を見て、やっと状況を理解した、これは死ぬと。
「んんっ、君他の魔食とは少し違うようだね。さっきから君だけ妙な雰囲気していたけど…」
ここで俺は魔を手に纏わせ、戦闘体制に入った。
サングラスをかけた剣城は剣を持ってこちらに威圧的な態度を掛けるのとは違い、少し親近感があった。
「アンタが誰か知らないけど、俺は死にたく無いでな。最初から本気で行かせてもらう…」
「そうかい、それは助かるよ僕としても手加減なく戦えるってのはとても気持ちいいものだからさ…」
朝日が山の頂上に登りかけていた…
夏終わりじゃん、もう…