第16話 基礎と知覚
崩れたよ、膝がッ!
テレビが切れてから数秒後また意識が途切れるのが分かった。体が麻痺して動けなくなり顎を地面につけたまま眠り落ちた。それから数分が経ったのだろう。ゴオンという機械音がなった後、聞き覚えあのある声がした。
「久しぶりだな。」
そこにいたのは日見風先生であった。
「ッ……何しに来たんです?」
よろめきながらもなんとか立ち上がった。頭に何かされたのような気がするが今は自分の状況を確かめることが最優先でありそれ以上の行動は無意味なのだと実感した。
「ここはどこなんですか?俺たちは仲間でしたよね。俺は、俺はまだ信用できないって訳ってことですか?」
「君のことは信用している。しかし組織の連中は君の力は危険であり、無限に等しい攻撃パターンを有することから、君と怪物になっている君の親友を隔離しているというわけだ。しかもそれだけでなく、組織は今、混乱状態にある。」
「混乱?」
「死して尚、面倒をかける男だ。福垣という男を覚えているか?奴が組織からいなくなったことで組織内部の変革者たち間で一般人に魔とそれを食らう魔食について公開すべきという意見とそうでない派の二つに別れてしまってな。奴がいた時は奴が内部統制をうまくやっていたのだが…そうもいかなくなった。それに加え、東谷高校の近くで上崎 渉と同じような半分魔食半分人間の人間形魔食が大量発生している。まさに異常事態。これによりお前ら含む、全員を隔離しているという訳だ。」
「それは理解しました。でも、なんで俺に会いに来たんですか?そんな事が起こっているのに…」
「言っただろう、私は君のことは信頼していると、だから君に魔食の相手をしてもらうために稽古をつけにきた。前を見ろ。」
一見すると何の変哲もない、金属製の壁がズズズッと上へと持ち上がり、白い空間が現れた。その空間の中央には
熊の形をした魔食らしきものが1匹、それを囲むように複雑なガラスの壁があった。
「お前はテレビを見て、魔について学んだな。魔の基礎を学ぶためにコイツを利用する。」
「基礎を学ぶ?」
「そうだ、お前は魔の力をコントロールできていない。常に魔を垂れ流し続けているからすぐに体力がなくなる。そこを直すため、まず最初に基本の動作、三つを習得してもらう。」
一瞬ディスられたような気もするが今は置いておく。大切なのは魔を扱う力だ、と納得した。
「どんなことをするんです?」
「司、立、方を会得してもらうことになるだろうな。司は力を司るための力、立は魔を1段階上に上げるための力、方は状況に応じて魔を使い分ける力だ。この三つさえできればあとは応用のみとなる。」
「俺が一番最初にやるべきなのは何ですか?」
「まぁ、見ていろ。」
そういうと日見風先生は右手の甲を俺の方に向けて、人差し指を立てた。
「見えるか?」
うっすらとモヤのようなものが人さ指に集中しているのが分かる。
今度は人差し指を立たせながら、中指を立て俺に再度同じ質問をした。
「見えるか?」
すると、先ほどとは違って、人差し指にあったもやが中指に移動した。
「あっ、動きました。」
「なるほど、君は才能があるようだ。私でもこの魔の移動を見るのには三年も掛かったが君はわずか数秒で視認する事ができるのか。ではこれはどうだ?」
今度は右手の手のひらを広げ、こう言った。
「今から私が魔を移動させる。それに応じて、今どこに魔があるか指の名前を言って答えてみろ。いくぞ…」
「薬指、親指、人差し指、中指、人差し指、親指、薬指…左手の薬指。」
「正解だ。まさか左手の方まで見破られるとはな…お前が初めてだよ。」
「そうなんですね。で、これはどのように使うんですか?」
「もう分かってると思うが自分で今やってみせた、魔のオーラ移動をやってみろ。」
「えっ、でも俺は見るだけしかできませんよ。」
見えるには見えるがそれ以上に自分の一部分に魔を纏わせるのはとても繊細さが求められる。家庭科の授業で糸通しを使わずに糸を針に通すぐらいには難しい。そう、感じている。
「できるはずだ。まず目を閉じて自分の体温が感じろ。その後、味覚、嗅覚、聴覚を遮断。そして、感じろ。そこに魔があると近くすることが一番大切だ。」
知覚、そのと言葉は聞いた事がある。担任の教師がよく言っていた言葉だ。
「「何かを視るとき、必ずそこにあると思うことが大切です。」」
この、言葉はなぜか印象に残っている。だからこそ、今の自分のどこが悪いのか感じる事ができる。
知覚、知覚する事が最重要。
知覚、知覚、知覚、知覚、知覚…
自分の中で何かが底上げされていく気がする…これだ。この感覚、
「来た!」
目を開けるとブワッと何かが自分から発せられるのを視認できた。そして、自分の両手に薄い膜が張られているのを感じる、これがこれこそが魔!そう、理解した。
「どうですか、先生。俺できてますよね?」
「そうだな、しかも司だけでなく、立もできている。そのままの状態で今度は右手の人差し指と中指に魔を集中させてみろ。」
「できました。」
「よし、そのままガラスの壁に指を突き刺してみろ。」
「えっ?そんなことしたら突き指するんじゃ…」
「大丈夫だ…」
「そう、いうなら……フンッ!」
刺した地点からヒビが広がり、やがて一枚のガラスの壁が壊れた。その時、崩れる音はガシャーンではなく、カシャと小さな音を立てるだけだった。
「本来、魔はどんな物質にもごく僅かに宿っている。魔は血液のように均等に宿っているため、一部分の魔が普段よりも多くなると制御できないものは過魔力状態となり、水風船のように均一に破裂する。そして過魔力状態になった物質は普段とは性質も全く違う、未知の物体になるという訳だな。」
「なるほど。だから、ガラスが崩れる時の音が違ったんですね。」
そんなことを言っているとガラスの壁が崩れたことにより、中にいた魔食がのそのそとこちらに向かって動き出した。明らかな敵意と口を開けて、ニンマリと微笑む姿は正に魔を食らうものに相応しかった。
「最後は実戦で説明するとしよう。」
そう言って、俺と日見風先生は魔を体に纏わせるのであった…
かもめ父、康二の魔解説コーナーぁァァァ!
「ということでね始まりましたよ…康二さん、魔についてどう言うものなのか話す企画ですけども…」
「…ったくめんどくせぇことに巻き込みやがって、つうかお前誰だよ…」
「強いてゆうなら、あっち側の人間ってことですかね…」
「そうかい、まぁいいか…一度しか言わねからな?魔の三原則とも言える司、立、方。この三つは実は俺が適当に作った言葉というか単語でな。たまたま司法立法行政が頭の中に浮かんで、これ良いんじゃねって思って組織の幹部に打診したらなんか採用されたって訳だ。」
「そうなんですね。てっきり、ちゃんとした理由があるんだと思ってました。」
「そういうわけでじゃあな。」
「ええ!ちょっと待ってくださいよ>」
「………」
「行ってしまいましたね…次回もこのコーナーお楽しみに!」