第11話 恥
群像劇だからヨシっ!
今この瞬間、福垣自身が感じていたのは今まで見てこなかった、底知れぬ力であった。
そもそも魔食という存在と虫と同じ様なものだと思っていたということもあるが、まさか狩られ側に立つともはなから考えていなかった。ただ、水が水であるように息を吸う、吐くという動作の様に常に自ずとそこそこに立っていると思い込んでいたのだ。そして、その状況が今、着々と変わり始めていることに本人も自覚せざるを得なかった。
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「魔食ごときにこの能力を使うことになるとはな…」
少し震えた声で発せられた言葉には恐怖と興奮が混じっていた。
「なんだ………貴様から出る殺気が今までにないほどの生を感じる。生きるという意思が…」
「お前に名前をつけてやるよ、認める。お前はワシより数十年いや数百年先を見ている。自分がやるべきこと…獣に本来あるはずの剥き出しの本能…」
「何を言っているのだ貴様は…我はそんなことは……いや、思っているのかも知れない。だが、それがどうしたというのだ貴様は我には勝てない、今までの攻防で貴様自身が感じたはずだ。いや、分かっているのだろう……?服従するか死か。どちらかしか選択肢はない。」
「服従とはすなわち、そこで意思が死ぬことを意味する。死も同様、考えることができなくなった時点で死を意味する。要するにワシは死ぬ、どちらにしてもな。だがな、意思はやがて、生きるのだよ、ぺスディア。」
か、か、かと笑いを挟みながら喋る彼の表情をペスディアは見た。そこに今にも剥がれ落ちそうな笑顔と剥がれ落ちた先に見えた純粋な殺意。まだ、この男は抵抗をするのかと呆れた。そう、呆れたのだ。
「全くわからんな。人間とは何故もこう意味のわからんことを平然と喋るのだ…そして、それが我の名前だと…?笑わせるてくれるな。貴様が我に対し、名を与える?自分の立場を考えて言った方が良いぞ?」
「警告は油断、呆れは興味をなくすこと、それ以下でもそれ以上でもない…」
彼はそう言い切った。
そして、脚力と腕に全身の力を使い、極限まで圧縮された筋肉は人間が目で捉えらる動きよりも早く、鋭く、かつ正確にライフルの銃剣をペスディアの懐に、彼の体を潜り込ますことを容易にした。しかし、その攻撃さえもペスディアは手のひらで受け止めた。さらには銃剣部分を破壊すると同時に彼の体のみぞおちに拳を三発、打ち込んだ。
「死ぬが良い!」
ペスディアの攻撃が届くまでの数万分の一秒、その攻撃がどこを狙っていたかを知っていたかのように、彼の体はひらりとそれを避けた。そのままの勢いで腰に据えてあった短刀を抜き、ペスディアの目を斬りつけた。
「何…ッ!?」
驚きを隠せないまま、体勢を崩したペスディアに短刀で心臓部に打ち込む、先程とは違いその攻撃はペスディアの核と思わしき部分を貫いた。
「手応えあり…!殺れるかッ?」
希望の顔を見せ、彼は頭にもう一撃入れようとした。だが……
「「取った。」」
その言葉は彼の右腕をもぎ取ると同時にペスディアが初めて話した勝利の言葉であった。
血液が吹き出す間もなく、奪い取られた右腕が宙にゆっくりと投げ出されている様子をただ見つめる彼を見て、ペスディアは情け深い声で「まだやるか?」と問いかけた。
すると、彼はゆっくり立ち上がりにやりと笑った。
「そうか、お前にはワシを倒したように見えとるやな?まさか、これまで使うことになるとはな…」
立ち上がった彼の像がゆらりと消えると、全く別の方向から声が聞こえた。
「馬鹿な…」
ペスディアが見た光景は死んだはずの男が無数にいることに加えて、自分が粉々に粉砕したはずのライフルや全く知らない武装をしているという信じ難い事実であった。
「ラウンド2開幕や。」
これ大丈夫か…?(主人公不在。)
前書きに続く。