最初で最後のラブレター
「最初で最後のラブレター」
初めてラブレターを書きます。
まあ今時ラブレターなんて書いている人なんて、僕くらいかもしれませんが。
というわけでどういう書き出しが良いのかとか、どういう流れで告白に持って行けば良いのかとか、全く分からないし、冒頭にラブレター宣言してしまっているので、単刀直入に申し上げさせてもらいます。
ずっとあなたのことが好きでした。
いつからそう思い始めたのかとかはもう記憶にありません。気づいたときにはそういう風に思っていました。
僕が初めてあなたと出会ったのは、幼稚園のときでした。お互いのお気に入りのおもちゃを取り合って大喧嘩したのを覚えています。当時は二人とも先に自分のが取られたと言って譲りませんでしたね。
もう時効かもしれませんがあれは先に僕が取りました。十数年越しくらいに謝ります。ごめんなさい。
何とかそこから仲直りして、よく遊ぶようになりましたね。家が近いこともあってか、幼少の頃はずっと同じ時間を共有していたような気がします。起きている間はずっと一緒だったんじゃないですか?
僕たちの家の近くにある公園なんて何回遊んだことか。明るくて活発なあなたはブランコや滑り台で遊びたかっただろうに、運動があまり得意でない僕のために、よく砂場でのお城建設に付き合ってくれましたね。この場を借りてお礼を言わせてください。
まあ不器用なあなたが完成間近で壊してしまうことは多々ありましたが、それは忘れておいてあげましょう。
そんな無邪気な幼少期を終え、僕たちは思春期に入りました。
あなたを異性として意識し始めた僕はこの頃、あなたと話すのが恥ずかしいというか照れくさいというか、そんな風に思うようになり、あなたのことを避けるようになりました。
あなたの視界に入らないように意識したり、積極的に男友達と遊ぶようにしたりしました。心の中ではあなたとお話したくて仕方なかったんですけどね。
そこから僕たちは疎遠になっていく……と思いきや全然そんなことはありませんでした。
だってあなたは、僕がどこにいても付いてくるし、誰と話していても我知らずで話に割り込んでくるんですから。
同級生にからかわれたりする僕の身にもなってください。当時は本気で恥ずかしかったんですよ。
まあその無神経さのおかげで、僕とあなたの腐れ縁は中高大と続いていきました。
正直、大学まで同じになるとは思っていませんでした。あなたの志望大学を聞いたとき、なんとかリアクションを抑えましたが、家に帰ってから小躍りするように喜んだのを覚えています。
受験の日は珍しくあなたの方が緊張していましたね。そういうのとは無縁の人だと思っていたので驚きました。
あの日はあなたのメンタルを保つのが大変でしたよ。
一科目テストが終わるたびに僕のところに、アレが分からなかったとか、周りの人はすごい速さで解いていたとか言いに来るのはやめてほしかったです。こっちまでナイーブになってしまいます。おかげで僕もちょっと集中できなかったんですから。
そんな試験を乗り越え、迎えた合格発表の日、なぜかあなたは自信満々でした。まあ、顔が思いっきり引きつっていたので、無理をしているのはバレバレでしたが。
お互いに自分の受験番号ではなく、僕はあなたの、あなたは僕の受験番号を真っ先に探して、二人同時に受かってると叫んだときは、さすがに笑いました。二人とも勘違いして、良かったねと言ったあとに、頭上に?マークを浮かべたまま沈黙したところまで含めて爆笑ものです。
そのあと事態を理解したあなたが泣きながら抱きついてきたときは、ドキッとしました。抱き返して良いのか分からず、両手をあなたの背中辺りでふらふらさせていたのは秘密です。
付き合ってもいない男性に抱きつくのはルール違反なので、今後は自重してください。簡単に勘違いしてしまいますから。男はそういう生き物です。
なんだか長々と思い出話を書いてしまいました。最近は状況が状況だったので、昔の思い出を懐かしむくらいしかすることがなかったものですから、この体たらくを許していただけると幸いです。
まあ個人的にはまだまだ書き足りないのですが。それくらいあなたは僕に忘れられない思い出を残してくれました。おかげで今日までずっと退屈しなかったです。ありがとうございます。
そんな昔話は一旦あなたに預けておいて、話を本題に戻しましょうか。
そのために改めて言わせてください。
僕はあなたが好きです。
明るくて元気なところや他人に優しくできるところ、失敗してもくよくよしないところや実は綺麗好きなところ。
書き出してしまうときりがありません。
相手の気持ちに気づいてすぐ寄り添えるところや自分には厳しいところ、苦手なことでも自分なりに全力で楽しむところやちょっと天然なところ。
油断しないでください。まだまだありますよ。
僕が出せない分まで元気に今日あったことを話してくれるところが好きです。
僕がもうダメだってくじけそうになっても、まだまだ大丈夫だって、絶対に良くなるって、諦めずに励ましてくれるところが好きです。
どんどん痩せ細っていって、醜い姿になった僕にも、変わらず笑顔を向けてくれるところが好きです。
そんなあなたが大好きです。
あなたに会えて本当に良かった。
あなたを好きになれて良かったです。
僕の細腕では抱えきれないほどのかけがえのないものをあなたから貰いました。
そこの窓に掛かった千羽鶴だってそう。
この手編みのニットだってそう。
今までの数え切れない思い出だってそうです。
それなのに何一つ返せなさそうでごめんなさい。
一緒に見に行こうって言っていた花火大会も行けなくてごめんなさい。
あんなに一生懸命看病してくれていたのに、一年ももたなくてごめんなさい。
いっぱいいっぱいごめんなさい。
あんまり謝りすぎるとあなたに怒られてしまいそうなので、謝罪はこれくらいにしておきます。
最後に、僕の希望の話をさせてください。
あなたみたいな人は絶対に幸せになるべきです。
僕の縛りが無くなったのですから、これからは思う存分自分のやりたいことをやってください。
好きな職に就いて、趣味にも打ち込んで、愛する人と結婚して。
別に結婚はしなくても大丈夫ですよ? 嫉妬じゃありません。本当です。
冗談はここまでにして、もし子供が生まれたら名前は何が良いでしょうか。女の子なら香織なんてどうですか? 音の響きが綺麗だと思うんです。
え? 僕の好きな漫画に出てくるヒロインと同じ名前だって? 気づきませんでした。そんな偶然があるものなんですね。
これも冗談なので気にしなくて大丈夫ですよ。二人でちゃんと考えて付けてあげてください。
そんな感じで家族と平和な時間を過ごしながらも、時々僕のことも思い出していただければ幸いです。
本当は僕のことなんか忘れてって言えれば良かったんですが、そんな寂しいことは僕には口にできません。
ただあなたの家族の時間を邪魔するつもりはありませんから、頭の中で適当にあんな奴いたなあくらいに思い出してもらえれば結構です。あなたの家族に嫌われたくはありませんから。
図々しいお願いもこれくらいにして、この手紙も終わりにしましょう。
なんだかラブレターのはずが遺書みたいになってしまいましたね。まあ僕も初心者なんで、ご愛敬ということで。
終始ぐだぐだではありましたが、僕の最初で最後のラブレター。どうか受け取ってあげてください。
最後の最後にもう一言だけ。
これを読んでいるとき、既に僕はどこかに旅立ってしまっているかもしれまえせん。
それでも、これからもあなたのことをずっと、好きでいさせてください。