そしてその後
「舞子…ちゃん」
下の名前で呼ぶのは初めてかもしれない。彼女は驚いた顔をしてこっちを見た。
「僕と一緒に異世界に来て欲しい」
更に驚いた顔を見せる舞子の手を取り、自分の胃に当てた。
「ちょ!まっ!」
辺りが光に包まれる。KLの元へ急ぐ。
「…ちょっと待ってよ!事態が飲み込めてないんだけど?!何処ここ!」
…多分今まででいちばん喋ってる。
僕は事のあらましをざっと話した。…途端に曇る表情。
「そ、んなこと、言ったって、私だってお父さんがなんで束縛するかなんて!分かんないっ!」
「分かんない!分かんない!」
パァァァァ…!
「KL…聞こえる?」
どこからとも無く、優しい声が聞こえる。
「っ!K美!」
「あのね、お父さんと一緒に、あなたたちを見てたよ。舞子ちゃんの叫びで、父が、一瞬力を弱めたの。」
僕はKLと顔を見合せる。
舞子は泣きながら
「待ってて、お父さんと和解できるよう、私も考えるっ!」
シュウウウ
会話は途切れた。
「K美…」
kLが苦しそうに顔を歪める。
僕は話し始めた。
「そもそもさ、2人の結婚には反対じゃなかったんだろ?」
「ああ」
「突然、悪魔の誘惑に負けたのって、なんだろうな?」
と、舞子が
「…私、分かる気がする」
と言った。
「あのね、家の中で2人でね、必死で生きてると、どっちかが欠ける事になるのが、めちゃくちゃ怖いの。ただでさえ、お母さんを失ってるわけだし」
舞子は続けた。
「だけどね、私だって、自立したい歳じゃない?経済的にはまだお世話になるけど、お父さんの知らない私が増えてきて」
「お父さんは、前よりもっと余裕が無くなって、些細な事も問い詰めてくるようになったの」
ああ…
「心が離れていきそうで…怖いんだと思う。自分より大切な存在が出来たのかって」
…舞子にもそんな人が…。僕はふたつの心の痛みを感じながら、フーっと息を吐いた。
「圭くん、好きです」
へっ?ぼく?えっ?!
「でもお父さんの事も大切なの」
うん。
「ふたつの気持ちは、相反する?」
「いいや」
僕の代わりにkLが答えた。
「圭だって、舞子のお父さんが大切だろ?」
「あ、ああ、好きな子のお父さんなんだからな」
「えっ?」
「あなたを包む丸ごとが好きです。付き合ってください」
舞子に告白した。
「あの!ええと…」
言葉に詰まる舞子。そして
「はいっ!」
パアーーーーン!!
何かが割れた音がした。
「KLっ!」
誰かが走ってくる。
「K美っ!」
「お父さんがっ!元に戻ったの!」
泣きながらK美が駆け寄る。しばし抱き合う2人。
「…私も…お父さんと少し話そうかな…」
舞子がボソッと言った。
「うん。僕も応援するから」
「うん!」
…時が流れて。圭35歳。妻舞子との間に8歳の娘と5歳の息子がいる。
KLとはその後も仲良しで、お互い行き来している。
「お父さん…お腹痛い…」
息子、圭吾が言い出した。
「えっ!どこだ!」
「この辺」
ピカーン!
わあ!
見ると胃の辺りに蛙のシルエットが。
物語は続いていくようだ。