舞子と呪縛
痒...っ。
蚊に刺されたようだ。確かこの前蛙が来た時も、蚊に刺されてたっけ。胃の痛みでそれどころじゃなかったけど。…そういえば、「カエル」って虫編に圭だよなぁ。僕の名前が圭な事と何か関係があるのかな?
【⠀ソノトオリッ! 】
ん?何処かから聞こえるこの声は?
【⠀タスケテ、ケイ 】
蛙の声?胃に手を当てる。
…すると辺りが光に包まれて、僕は、気を失った。
「起きて、起きて圭」
ん?聞き覚えのある声。鳴き声?
「圭!圭!」
うっすら目を開けると、目の前にはどデカいカエルが!
「うーん…」
もう一度気を失いそうな僕に蛙が言った。
「助けて圭」
「どうしたんだ?」
2秒後にはこのファンタジーを受け入れてる自分。嫌いじゃないぜ。
「話すのは初めてだね圭。僕はKL。君の胃の中に避難させてもらってた。」
「kLってデカいんだな。僕の胃の中では小さかったのに」
今や僕の1.5倍はある。
「圭が一時的に縮んでるんだよ。っと、世間話はこのくらいにして」
うーん、惜しい。
「実は僕の婚約者…K美がお義父さんに軟禁されてて」
ええっ?!
「と言うのも、何かしらの魔力で洗脳されているらしいんだ。原因を探っているうちに弱り果てた僕は、依り代である圭に吸い込まれてたって訳。」
漢字の「蛙」ができた瞬間。2人は繋がった。
「魔力の正体は…」
ゴクリ
「チュウニビョウ」
中二病?!
「しかも圭の周りに無意識に発生しているのを、お義父さんが受信しちゃったらしい。」
なんでも。娘を取られたくない気持ちに付け込まれたとか。お父さんと密接な関係にある人物…僕にはすぐに合点がいった。
「伊藤舞子」
僕の想い人だ。
彼女は、お母さんを亡くして、お父さんと二人暮し。学校から帰る道すがら、買い物帰りの舞子を何度も見かけた。僕の通う中学校は部活の規制はない。舞子は1年の時から帰宅部で、僕は美術部の幽霊部員。買い物帰りの舞子は何処か張り詰めた顔をしていて、気が気じゃなかった。
この前そっと話してくれたのは、お父さんに対する反発心と放っておけない気持ちに揺れてること。少し涙を浮かべながら話してたっけ。
「舞子を呼ぼう」
呼んでも変わらないかもしれないが、この呪縛の意味を理解してくれるのは舞子しかいないように思えた。
また僕の身体が光に包まれる。今度ははっきりした意識の中、教室に飛ぶ!