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後ほど 3

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すまして答えた私に、公爵様の表情は険しさを増す。一瞬、私が何と言ったのか理解できなかったようだった。



「それが何だ?何が言いたい!」


『お座りくださいませ』


「っ、いいから答えろ!」


『…私も、そしてお姉さまも同様に伯爵令嬢だと申し上げているのです。私たちはただ、お父さまの意向に従っているだけに過ぎません』


「だからと言って、ルチアナが酷い待遇を受けているのを放って置くのとは別問題だ。其方は伯爵家で大事にされていたのだろう。其方が一言言えば、状況は変わったのではないか?」


『大変恐れながら、私にそのような力はございませんわ』


「やろうとしてもいないだろう」


『ふふ、左様でございますね』



青い瞳がきらりと光を反射する。暫く私を見ていたかと思うと、ふっと公爵様は気が抜けたように腰を下ろした。それから、自分の濃紺の髪をかきあげる。ばっちりセットされていた髪が乱れていく。



溢れ出る色気に、先程まで怯えていた使用人たちも目を奪われているようだ。


いくら、自分たちの使用人と言えど、こんな身内話を聞かせ続けることもよろしくない。何故力にならないのか、なんて解決できない話を堂々巡りさせるよりも、考えられる解決策のヒントを与える方が建設的だ。




『…伯爵家での待遇をどうにかしたいとおっしゃるのなら、それはお姉さま自身が努力せねばならないことです』


「なっ…!私だって何もしてこなかった訳じゃないわ…!」



私の言葉に反応を見せたのは、意外にも姉の方だった。



「私がどれだけ頑張っても、お父さまも、お母さまも、リディやステイルにつきっきりだったじゃない」



姉は小さく震えながら、自身の考えを言葉にしていく。ステイル。姉から出てきたその名前に、内心ガッカリしてしまう。



『ステイルは、長年待ち続けたバークレイの嫡男ですから、優先されるのも当たり前でしょう。伯爵家の後継者になるのですから、家全体が気にかけるのもおかしなことではありません。いずれ、家を出ていく私たちとは違うのです』


「そうだけど…、」


『それに私たちとは、13も歳が離れているのですよ?むしろ、私たちだって気にかけてあげねばなりません』


「でもリディ、あなたは違うわ」


『わたく、』



口を開きかけたところで、部屋の扉がノックされた。すかさず使用人の1人がドアの外に様子を確認しに向かう。ここに用事のある人間なんて、かなり限られている。



姉は突然の来客よりも、話の続きが気になっているようだったけれど、一度止まってしまった話を再開させる気にはならなかった。



公爵様は公爵様で、腰を浮かせてソファに座り直すと、あからさまなため息をつく。どうやら公爵様にも訪問人物に対する心当たりがあるらしい。そんな公爵様の様子を見た姉も、不服そうではあるものの同じように姿勢を正した。動物の子どもが母親を真似ている姿にそっくりだ。



「他にも、誰か呼んでいるの…?」


『いいえ。私がお招きしたのは、お姉さまと公爵様だけですわ』



使用人はドアの外から戻ってくると、真っ直ぐに私の元へとやってきた。私のそばで膝をつき、ドアの外に現れた人物について、こそこそと伝える。



『わかったわ。ご案内して頂戴』



予想通りの登場人物に、頷かざるを得ない。たった1人検討のついていない姉は誰がくるのかと不安そうにこちらを見ている。自身の顔にかかる髪を撫でると、手首からほのかに香水の香りがした。



気持ちを落ち着かせるためにも、その香りを吸い込む。

中毒になるほど、嗅ぎ慣れた匂いだった。



『公爵様、残念ながらお時間のようですわ』


「…残念だと思っているようには見えないが?」


『ふふ、左様でございますか』



微笑みながらも、ゆっくりと立ち上がる。と、公爵様も同じように立ち上がるとこれまで背を向けていた扉に向かって向き直る。初めて見るその背中は、思っていたよりも幾分か、華奢に見えた。



『ああ、公爵様』


「…なんだ、」


『お父さまは、今週末エンダイムの夜会に行かれるそうですわ』



公爵様から返事は返ってこなかった。



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