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王妃も聖女もごめんです!  作者: 横手零
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入学前の一騒ぎ その2

 無抵抗の私は衛兵たちに拘束されると近くの衛兵の詰め所に連れて行かれた。そこでは、尋問らしい尋問もないまま、すぐに王都衛兵隊本部に身柄を移された。


 ここではしっかり尋問を受けた。

 素直に自分が見聞きしたことと行動を話した。信じてもらえているようには見えなかったが。


 ここで私は、自分が助けたのがこの国の第一王子レオンツィオ・デラ・ヴェセンティーニであること、同乗していたのが財務卿の次男プブリオ・ディ・コルレアーニだということを知った。

 どこかの貴族の令息だとは思っていたが、よりによって王子だったとは。



 で、冒頭の場面につながるわけで。


「王子様がらみの事件、というか王位継承者の争いよね、たぶん。王都にいたら、巻き込まれるかも。退学にでもなってアリウス領に逃げたい。……その前に不敬罪で死刑とかありそうなのが嫌だなあ。」


 遠目には、あの時の私の行動が王子に害を加え、その上で拘束したように見えていてもおかしくない。王子やその同行者の証言が頼りだが、あまり当てにしない方がよさそうだ。

 そういえばレオンツィオ王子の同行者、いっしょにいたのがプブリオ・ディ・コルレアーニか。同い年だと聞いたけど、”生意気な弟”という感じだった。彼は思いっきり私のこと睨んでたし、むしろ不利になるような証言をしそうだ。


 今の状況を考えるに学園は退学、いや入学式前だから入学取り消し?になる可能性が高い気がする。

 ま、それならそれでいい。予定よりは早いが、自領で悠々自適というか、狩り三昧の日々でも送ればいいのだ。

 王位継承問題に巻き込まれなくて済むし。


 現国王であるジルベルト・デラ・ヴェセンティーニ陛下が即位して18年。即位するまでの経緯は、この国の歴史を学ぶときに真っ先に習うことだ。

 即位については当時も賛否両論あったらしい。前国王の王子の一人ではあったが、事実上王位継承権を放棄したはずの人物が王位に就いたのだから。

 しかし、最終的には前国王にもっとも近い血筋の一人であることや、他の候補にもいろいろ問題があり当時の諸問題に対応できないだろうということから、ジルベルト陛下が即位したのだ。即位前も即位後も何回か襲撃されたり、毒を盛られたりしたことがあったらしいけど。

 そして、今。次期国王候補も成人し始め、継承権争いも表に出てくるようになっていた。

 次期国王の有力候補は継承権順にレオンツィオ王子とその弟の第二王子。前王太子の一人娘。公爵家夫人の娘だ。

 前王太子はジルベルト陛下の異母兄で20年前の事件で亡くなった人だ。侯爵家夫人はジルベルト陛下の姉にあたり、陛下の即位の際には反対派の急先鋒だったと聞く。


 つまり、レオンツィオ王子を襲ったのは他の3人の派閥に属する誰かだろう。


 うん。逃げたい。


 そう考えた時だった。


 鉄扉の鍵が開けられる音がして、わずかに扉が開かれた。

「リリア嬢。入ってもいいかな?」

「どうぞ」

聞こえたのは若い男性の声。特に断る理由もないから諾と答えたが、衛兵があんな訊き方するだろうか。まだ慣れてない新人とかか。

 そう思ったのだが、ゆっくりと扉を開けて入ってきたのはレオンツィオ王子とプブリオ君だった。プブリオ君って呼び方もどうかと思うんだけど、心の中だけだからセーフ。なんか童顔だし、背も私と同じか少し低いくらいで年下っぽくて君付けで呼びたくなるんだよね。


 プブリオ君が扉を閉めている間に私は慌てて左膝をつき、右手は胸に左拳は床に当てて頭を下げた。これって本来は騎士が平時に王族に対してする礼で、貴族家の娘がするものじゃない。


「なんだ、その礼は!?殿下の騎士にでもなったつもりか!?」

 プブリオ君は私の礼がお気に召さなかったらしい。確かに騎士でもない人間がやる礼ではないんだけど、仕方ないじゃないか。

 今の私の格好は防具こそ着けていないものの冒険者風の動きやすい格好。今日はいろいろな用事を済ますために街に出たので、動きやすいようにパンツルックだったのだ。令嬢がやるようなカーテシーなんてやれる恰好じゃない。

 カーテシーができないわけではない、決して。上手では無いけれど。


「そう怒るなよ。僕を守ってくれた”騎士”に」

 どちらかといえばかん高い声のプブリオ君を窘める穏やかな声が聞こえた。

 さっき部屋に入ってくるときに聞こえた声だ。私は頭下げてるから見てないけど、王子の声だろう。

 他に人居ないし。


「殿下は人が良すぎます!」

 プブリオ君が苛立った声を上げる。そう怒ってばかりだと血圧上がるよー?


「まあまあ。それより、そうやって頭を下げてるということは僕のこと知ってるってことだよね?」

 王子にそう言われて下げていた頭をさらに低く下げた。もはや土下座寸前だ。王子と知っててあんなことしたのかと訊かれたら、頭を下げるしかできない。


「怒ってるわけじゃ無いんだ。むしろ感謝と謝罪をしに来たんだよ。頭を上げてくれないか。話しにくいからね」

 王子の言葉に私は無言でわずかに顔を上げた。一応ね、立場的に王族に直答とかしない方がいい気がしたから。


「リリア嬢だよね?ああ、直接答えてくれていいよ。いちいちプブリオ挿んで話すのも面倒だしね」

 いつの間にかしゃがんでくれていたらしい。上げた顔のすぐ前に朗らかに笑う王子の顔が。ゆるくウェーブがかかったダークブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳。はっきり言って美形である。さすが王族というべきか。目の毒だ。

 ちなみにプブリオ君はチリチリに巻いた赤毛である。王子がしゃがんでいるのに自分だけ立っているわけにはいかないと思ったのか、渋面で王子の脇にしゃがんでいる。

 

「アミルカレ・ディ・アリウスの長女、リリア・ディ・アリウスと申します。先ほどは失礼いたしました」

そう言って、私は再び深く頭を下げた。


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