第七幕 アザガミ博士、舞う
炸裂するアザガミ博士節!
※前回の第六幕で登場した名称の一つを、以下のように変更しました。ちょっと露骨過ぎたなと気になっていましたので……
【禰津斗の隠者】
↓
【稟汲の隠者】
映像盤の中のアザガミ博士が口を開く。
『ワシの視聴者ならば大体の奴は知っとると思うがぁ……イミュイグは実はこの世界とは別のっ! そう次元の狭間と呼べる場所から〜、沸いて出てお〜るぅ〜』
間延びした口調と早口のイントネーションを使い分ける博士。その語りの内容に、ネイラッハはほんの少しばかり、感嘆の表情を浮かべた。
「彼、異世界概念の肯定派なの?」
魅是琉の頷き方は、自身もそうだという意思が込められていた。
彼女はそんな彼に親近感を深め、そして博士に対しての興味も高めていた。
『――グが現れ始めた頃ぉ、物事何にぃでも意味を持たせたがる一部のヴァカ者共がぁ、アレは荒廃した大地が生み出した大地そのものにとってのぉ〜……免・疫・抗・体だっ! などと言うて回りおったがのぅ〜ぅ〜』
左右を行ったり来たりしながら語る博士を、ネイラッハは更に褒める。
「彼、中々凄いわね。口調では笑いを取る気が無さそうなのが、本当に凄いと思うわ」
「流石ネイラッハさんだな。分かってない奴は逆に、博士のあれを『ネタでやってスベってる』と勘違いするのにさ」
AAの動画である為に、二人が話をしていても映像盤の博士は構わず語り続けるのが道理なのだが、しかし良いタイミングで、博士は水筒の液体を口に含み給水していたのだった。
『ふぅー。今日も元気じゃ、緑茶が美味いっ! ……人間まで襲ってしまう所為でイミュニティ・イグノーブルなんて名付けられたが、そんなもんはヴァカ者共が手前勝手にイミュイグ達に意味付けをして、それで自分達の理解の支配下に置いた気になっとるというだけの、浅ましさ爆発の行動だというに過ぎんのじゃわい』
語りに熱が入っている様子のアザガミ博士は、更にこう続けていく。
『しかし事実はそうではなく、かつてこの大地を極大の破壊エネルギーが襲った時にぃっ! 単純にっ! この大地と異世界との境界がガバガバになってしまったというだけなのじゃあっ!! ……イミュイグ達は、その次元の狭間を流れる膨大な力が地上に漏れ出る際、何故かは知らんがああいった暴威の怪物の姿を取るのじゃよぅ〜ぅ〜』
……魅是琉がネイラッハに問い掛ける。
「ネイラッハさんはイミュイグについて、ここまで知ってた?」
ネイラッハは手で『少し待って』のジェスチャーをしてみせた。
『ここでぇまた新たにぃ〜、ワシがイミュイグとの意思疎通を〜図るべくぅ〜、文字通りの体当たりアタックで突撃した時のミニ動画を挟むかのぉ〜ぉ〜』
ネイラッハの手が下ろされる。
「或る程度、予測は付いてたわ。けど雷冥衆の統一意思として、世間には公表しない考えだったのよ」
『ちょえ〜〜〜っ!! このワシと、レッツ対話じゃ〜!!』
切り替わったミニ動画の中で、アザガミ博士が、動物の豹に似た姿の小型イミュイグへと全力走りしている。
「そっか。まあ確かに、ただの怪物だって以上の得体の知れない力がこの国を襲ってる奴の正体だなんて、伝え方を間違えたら大事になるもんな」
「ええ」
『がっふぁあああああ――――――!?』
博士が豹型イミュイグから、どてっ腹への猛頭突きを食らったのだ。
「…… 『イミュイグはこの国の大地からの、争いを続ける愚かな人間への警鐘』だって、そんな最もらしい妄想、いや想像で勝手に納得してくれてる方が、却って人々の精神は落ち着くからね」
博士が身に纏う白衣をズタボロにしながら、それでもゆっくりと立ち上がる。
「彼が如何にも頭のイカれてそうな語り口調と風貌なお陰で、この事実が一気に拡散したりしてなかったのは、人々にとっては色々とラッキーだったかもしれないわ。バズると話が歪んで伝わったり、話題の盛り上がりに乗っかろうとする思想屋が出てきがちだから」
ネイラッハは冷静にその様を見届けながら、ほんのちょっぴりだけ、遠い目をしてそう言った。
魅是琉の方は、ほんのちょっぴりの晴れやか顔で、博士の事を見ている。
「でも、俺は博士には報われて欲しいと思ってるよ。確かに奴のチャンネルを登録してる人は少ないけど、奴の行動には光るものを感じてるから」
「貴方……一般人達がパニックになっても構わないの? この大地が間接的にでも異世界と繋がってるなんて、並の人間じゃ想像しようも無いのよ?」
彼女の怪訝な顔に、魅是琉はそれでも微笑みを返す。
『ま、まだまだじ――』
「そうは言ってないよ。無駄に世間が荒れちゃったら、伽羅人にとっても良い事なんて無さそうだからな。けど――」
『ごっふぁあああっ!!!?』
猛烈に地面を転がる博士を横目で見るだけ見て、
「――俺達も奴も伽羅人だけどさ、でもこの大地からしたらあくまで一般人と横並びの、地上に生きてるそれぞれ一人の人間だろ? だったら、少なくとも大地に関係する事に関しては、それを誰かから隠す側には回りたくないなってそう思う。奴と同じようにね」
あくまで一人の人間として、胸を張ってそう言ってみせたのだった。
「……魅是琉くん」
ネイラッハが左手を彼の顔へとかざして、数秒だけ見つめる。
そして人差し指だけをピンと伸ばす仕草へと切り替えて、優しげに笑った。
「ふふっ。貴方ってやっぱり、新時代の到来を告げる伽羅人かもねっ」
「……一瞬、手から獣の口出されるのかと思ったよ」
魅是琉は少し声を震わせていたが、けれどその頬が微かに赤みを帯びていたから、ネイラッハは機嫌を良くするのだ。
『ぜえ、ぜえ……。げ、元気の良い奴じゃのぅ〜ぅ〜。あ、頭を撫でてやりたくなるぐわああああああ――――――!!!!!!』
本当に豹型イミュイグを撫でようと伸ばした手を、当の相手が完璧に噛んだのである。
『ぐわぁあああ、あっ? ――へぎゃぁああああああ!!!!!!』
猛々しい力で博士の身体をバッタンバッタン振り回した豹型イミュイグが、最後には空へと振り上げていた。
きっと、飽きたのだろう。
博士を襲う事に飽きたのか、博士と遊ぶ事へのそれなのかは、知るよしも無かったが。
魅是琉とネイラッハは、宙を舞うぼろ雑巾と如きアザガミ博士を目で追った。
しかし彼の身体が最高地点まで昇った辺りでミニ動画は終了、アザガミ博士のメインの動画の方へと切り替わるのだった。
『どうじゃあ愚か者達よっ、今回は前よりも長〜くイミュイグと触れ合っておったじゃろうがぁ〜?』
「いや激突する所を見せなさいよ。けど動画の編集という意味では、寧ろ上手くて感心したわ」
「この動画を見る奴全員がそこを見たがるのは確実だもんな。それを敢えて想像に任せる事で、視聴後の余韻を高めるって戦法なんだ」
伽羅人には霊威を繰り出す力だけで無く、このようにAA動画で自身の立ち回りを見せつけ、視聴した者の心にその存在を印象付ける工夫も必要なのだ。
「私も彼のチャンネルは登録しておくわね」
「ホントに? それなら俺も嬉しいなって、えっ?」
操作装置である光の玉に乗せてる魅是琉の右手の更にその上に、ネイラッハが自分の左手を重ねていた。
「ん――これで完了」
(うおっ……手、冷たいのに、何でか熱い……)
魅是琉一人で張り詰めた空気を感じている中、アザガミ博士が今後の自身の活動予定を語り始める。
『さて、愚か者達よ。ワシはいよいよ、坩堝へと挑もうと思う。……些か時期尚早だとは思うがぁ、オブリークライトなどという伽羅人のチームが、恐れ多くも坩堝の調査を行う気じゃから〜のぅぅっ!』
「えっ!?」
オブリークライトという名前に、ネイラッハが強く反応する。
そして魅是琉も、
「ええっ!?」
彼女と同じく、その名に驚きの声を上げるのだった。
――第七幕 完――
今回イミュイグについても少し語られましたね。
この物語で一番に目指しているのは、とにかくワクワク出来る拡がり感。
ワクワクしながら読んでくださっていたなら、幸いです。笑
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