第六幕 二人でアカシャ・アーカイブを見る
いよいよ出るよアカシャ・アーカイブ!
作者神代もホッと一息!
食事を終えた後、街の宿場の一区画を借りた魅是琉とネイラッハ。
二人は各自の荷物から、手の平サイズをした円柱型の道具を取り出す。それは外周に数種類の呪い文字が配置された、アカシャ・アーカイブ――AA再生用の触媒具であった。
ネイラッハの「勾玉の霊力は足りてる?」という問い掛けに――
「俺だって赤を扱う事は出来るさ」
――と、魅是琉は言葉通りの赤の勾玉を取り出して見せる。
「流石」
ネイラッハは微笑みながら、自身も赤のそれを取り出した。
二人ほぼ同時に、勾玉を円柱の上部にセットさせる。すると勾玉と、外周の呪い字が淡く光を灯らせた。
これでAAを見る準備の完了である。
「最低限、伽羅人なら誰しもが共同寺院から貰える青の勾玉。それは大気に混じった霊力を自動で蓄える性質を持ってる。乱用すれば尽きるけど、その後時間を置く事でまた力を取り戻せるわ。……一方この赤はワンランク上の代物で、己のチャクラをより正確に制御出来る熟達の伽羅人が、自分の霊力を直接注ぎ込む事も可能」
「別にわざわざ言わなくても、俺は知ってるよ?」
「貴方は凄い伽羅人なんだって、少しでも自覚して欲しいから言葉にしたのよ」
素の感じで自然に言ってのけた彼女に、魅是琉は肩を竦めるのだった。
「一般信徒用の緑の勾玉は、赤青に比べるとちょっと面倒くさいんだよな。定量しか霊力を溜められない上に、それが出来るのは寺院の巫師だけ。だからAAを見たい奴は、それ目当てとしても参拝に足を運ぶようになる」
「触媒具と勾玉を貰うの自体は無料で、まあ対価が有るとしても、せいぜい伽羅人という存在についての軽い説法を聞けば良いだけなんだから、それ位の労力は払うのが道理よ。――寺院の中だって、絵画師によって描かれた伽羅人のビジュアル画とかの展示で親しみ易さを演出してるんだから、良い信徒ならそりゃ参拝する内に、自発的にお布施払おうって気になってくれる」
ほんの少しだけの負担、それは返って『俺達私達がこの伽羅人を盛り立ててるんだ』という充足感を、信徒の心に呼び起こさせるのである。
共同寺院とは伽羅人、そしてそれを影から支える巫師や神官達をも含めた、まさしく広義の意味での伽羅人活動の基盤となる場の事だ。
此処が街の一般人に対しての、窓口的な役割を担う。この中で実務に携わる者達は、伽羅人派閥の垣根を越え、その全体としての運営が円滑であるよう尽力している。
「この日本の土地に伽羅人の存在が起こった黎明期には、霊力に通じた巫師や神官の伽羅人運営陣に対し、稟汲の隠者と名乗る者達が、善意の協力を惜しまなかったんだよな」
「伽羅人のビジュアル性や、新たに名と生い立ちを授かるという独自の性質……それらについて彼らは、かつての文化に存在した或る概念に通ずるものがあると主張。そして『その概念に魅了された者の、これは責務だ』と言って、伽羅人が自身の活動を記録し、それを広く公開する事がかつてのそれのように人々の心を潤せるという、今のAAの基礎理念ともなるイメージを運営陣に伝達した」
「そこまでしたっていうのに、『未来の伽羅人やその信徒にとって、自分達の存在は邪魔だから』って言って、最後には表舞台から消えていったんだ」
「ええ。私も彼らの行いには敬意を持ってる。……私達は大地の霊脈だけでなく、かつてのこの国の歴史とも、浅からず繋がってるのよ」
「そのかつての概念達が顕現するのに必要としてた触媒具は、今の時代には復活出来ない。けどかつてに比べて活性化した霊脈が、それに似た力として活かせたってのは、なんていうか、大地と人の底力みたいなものを感じるよな。資源の恵みと、それを活用する知恵にさ」
「ふふっ、そういう風に他者や世界について言い表すのね。独りが好きな人じゃないんだって、安心したわ」
「人の事を思う気持ち位はあるさ……。調子狂うな、まったく」
……特に今必要という訳ではないこの会話をしたのは、これから二人でAAを見る事への、微かな緊張からだったのかもしれない。
「じゃあ始めるぞ。二人で一緒に見る形式で良いんだよな?」
「お願いするわ。私の方で魅是琉くんの霊波には合わせる」
魅是琉とネイラッハは、目を閉じて触媒具に手をかざす。精神を集中させて、外周の呪い文字に依ってリンクされる、霊脈の波動へと意識を潜らせていった。
――星が瞬く暗い夜に似た光景の中、二人の意識は自身の姿を形取って、現実のそれと変わらない仕草で目を開いた。
植物の蔓が四方の縁を彩る、霊力の映像盤。
二人の足元に小さな光の円が生じて、中からも蔓が、魅是琉の手前の位置まで伸びる。
先端に、球形の光。――これは映像盤を操作する装置の具現である。
それに手を乗せ、魅是琉はアザガミ博士のAAを画面に再生するのだった。
『見とるかぁっ! 地べたに這いつくばる哀れなぁ〜、愚か者達よっ!』
映像盤にでかでかと映る三白眼と、しわのある目周り。
「うきゃっ!?」
いきなりの翁の圧力に、ネイラッハは身じろぎをしてしまう。
カメラから顔を離し、適度な距離に立ち直したその翁は、今度は声こそ出さないが、しかし有頂天という言葉が大変よく似合う笑い顔と、更に両手にピースの仕草をしてみせるのだった。
長い、ややウェーブがかったザンバラの白髪が揺れる。
そのコミカルさと憎たらしさを兼ね備えた一連の動きに、魅是琉は落ち着いた顔で一つ頷く。
「うん。博士の奴、平常運転だな」
「つ、掴みって事? この人なりの?」
動画開始時に於ける、視聴者の心に印象付けさせる行動の事だ。恥じる心を知らない伽羅人程、優れた掴みが出来るという。
それからも約五秒間無言でダブルピースし続ける翁――アザガミ博士の姿に、確かに胆力の塊のようであると、ネイラッハは額に一筋の汗を垂らしながら思った。
「……なんで上下小刻みに体を震わせてるのよ。てか早く喋りなさいよぉっ!」
この場合、視聴者のネイラッハにツッコミを入れさせた時点で、アザガミ博士側の勝ちである。
――第六幕 完――
見方までを含めた、アカシャ・アーカイブ――略称AAの表現。
ガチガチに固め過ぎず、良い塩梅で自由が利くポテンシャルに納められたなと、自画自賛してる所ですよ。ええ、そりゃあもう。
ホントに悪くない仕上がりに出来たなと思っております。
裏話ですが、物語開始当初はAAをどんな風に描くか、まったく決めてなかったのです!!(ドドドドーン!!)
神代としては取り敢えず各話で少しずつ物語世界観を創っていき、魅是琉とネイラッハを始めとする伽羅人という存在の説得力を増していき、
そうしていく内に良い表現の形が思い付くやろうと、マジでそういう気持ちで執筆してました! てへへっ!
……ここからは悪ノリは控えますが、しかし上記の考えで居てた事は本当です。これはウェブ小説として、小刻みに公開していく仕組みだからこそやれる、ライブ感と言って良いでしょう。
そう、神代自身はこのタイプのやり方を肯定しています。てか、ぶっちゃけ書籍化出来るかとかが未知数である以上は、構想だけで数ヶ月も、書き手としての時を消費するワケにはいかないのですん。
ただでさえこのストラグル・スターは、挑戦的な物語。守りの姿勢ばかりでは、絶対に書き進める事は出来ません。
何らかの形で世に放ってこそ、それを自作品だと言えるっ!!
多少乱暴でも、熱々の情熱が籠ってる内に世にお届けしないとね。逆に長続きしないとも思いますし。
とはいえちょっとずつ、安定感持ってこの作品と向き合えるようにもなってきてます。早く出したいと思っていたアザガミ博士も出せましたしね!
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