第三幕 何だかんだ、生命力
今回は二人の出逢いとなる序章の中での、クライマックスですよ!
ネイラッハの放った祓いの炎が消失する。彼女が自分の意思でそうさせたのだ。
イミュイグは総じてそうだが、ブレイマーのような大型タイプは特に、その身に秘める生命力が高い。如何に高威力の霊威であっても、一撃が死へと直結する類の攻撃でない限りは、トドメとしては足りないのである。
ネイラッハがここまでに披露した霊威の中でいうならば、秘密の鋭牙で奴の喉を食い破るのが理想的。
「ねえ魅是琉くん、まだ策は有るかしら?」
しかしネイラッハはあくまで、魅是琉にトドメを任せる気でいる。祓いの炎はブレイマーの体力を削ぐ目的で放っていたし、そしてその効果は十分に発揮している。
魅是琉は「……有るよ」と、憮然とした表情で答えた。
「なら、お願い」
ネイラッハは、魅是琉の態度を理解しつつ、その上で堂々と、彼の背中を押す。
彼に対し既に謝罪はしている。もし彼がまだ自分を許していなくても、その絡まった感情を解いて貰う為に行動するのは、この戦いの後で良い。
「……いいさ、やってみせてやる!」
魅是琉が力強く言葉を発して、ネイラッハもまた、力強く「はい!」と応えた。
ネイラッハは自立した女である。だから、まだ魅是琉がどういう性格の男かを掴まないままでも、それ自体は気に掛けない。
今は彼との関係性より、この戦いに、二人でどう勝利するかに主眼を置くのだ。それでこそ、彼との『次』が来るというもの。
炎から解放されたブレイマーは、しかし、炎に抵抗しようと生命力を振り絞っていた事の高揚感が、続いている。
四本の鞭腕を激しく振り乱し、更に全ての指を鋭く、長く枝別れさせて、二人を襲う。
この戦闘の舞台に熱気が立ち込める。
ネイラッハと、魅是琉が、ブレイマーの猛攻を躱す。二人の気迫が、それぞれの身体と、心を、熱くする。
……魅是琉の中に、ふと起こった思い。
――あの女。前にAAで見た通り、バカみたいに場の空気を掴むのが上手いな。
そして次に、彼自身がこれまで数える程しかしてこなかった他の伽羅人との絡みの記憶を、思い出す。
――俺が本気で自分を出したら、皆、結構嫌がったんだけどな。
微かに生じる、物哀しさ。それを振り払うかのように、魅是琉はその少年のような瞳を、この場の熱気に乗せて、激しく燃やした。
「銃を、捨てた?」
ネイラッハは顔を目掛けて襲い来るブレイマーの炎の鞭腕の尖指を、寸での所まで接近を許してでも、魅是琉のやる事に注視していた。
紙一重で尖指を回避したその頬を、空気の摩擦が切り裂いても、構う素振りは見せずに、彼を視る。
魅是琉は右腕を高らかに掲げ、虚空から、その手に長く大きな木製の棍棒を出現させた。
白みを浴びた色彩の棍棒の、包帯状に巻かれた握り部分を手に持ち、其処に彼の、ありったけの霊力を注ぎ込んでいく。
一瞬、ネイラッハの方を見遣る。
少年のそれに似た瞳が、激しく射抜く光で輝いて。
「これを見た後で、嫌な顔するなよなァッ!」
勢い任せじゃない、本気の言葉でそう告げたのだった。
「……!」
――そんな声、出せるんだ……。
これは心の底から出してる声だ、とネイラッハはそう思う。
伽羅人は公開するAA内での、自身の語り方というものについて、視聴者に極力ストレスを感じさせずに聴かせる配慮を意識する。声の出し方さえ、時には工夫を凝らすのだ。
ネイラッハは、今の魅是琉の声を……
―― 類稀なる天性の素材ね。
自身の感性で、そう評したのである。
魅是琉が霊白の棍棒を上段に構える。霊力の光は更に強く、巨大に膨れ上がる。
ブレイマーはその光に、脅威を感じた。奴の体内に秘められた生命力が、魅是琉の霊力に、根源的な近さ、を見出したのだ。
ネイラッハに向けていた鞭腕をも、魅是琉の攻撃を阻止する為に方向を変えさせる。
だが一本の腕だけは、彼女の秘密の鋭牙が深く噛みつく事で、その動きを封じられた。
「大人しく、彼の攻撃を受けなさいッ!」
息む口調でネイラッハが叫ぶ。もう一方の手を手首に添えて、鞭腕を抑え込めようと、奴が振り絞る力に対抗しているのである。
霊威の獣を複数体も宿せる程の、彼女の中の生命力の恵み。それはこの局面で、ブレイマーの力に耐え抜く強さをも与えていた。
魅是琉に迫る、三本の鞭腕。敵意としてのブレイマーの本能が、(どんな攻撃が来ようと撃ち貫く!)と、各腕の指の、無数の枝別れを可能とさせる。
「ガオバァアアアア――――ッ!」
その全てで、魅是琉の前方全てを覆う軌道の、攻防一体というべき結界を作り出したのだ。
魅是琉はブレイマーの顔面を見下ろしながら、この一撃に付けた名を、声という力で轟かせる。
「大地覚醒の一撃ァアアア――――――ッ!!」
振り下ろされた白霊の極大棍棒が、ブレイマーの鞭腕の悉くを、粉砕していく。
そして頭部、全身と。
……風圧に、銀色の長い髪が掻き乱される。奴の巨体が砕ける圧巻のその様に、ネイラッハは。
身体の外にまで飛び出してしまいそうな、自身の心の高揚に、驚いていた。
魅是琉は……。
――まったく。もっと常識的で、他人にとってとっつき易く共感し易い戦い方を、したかったのにな。
勝利を自覚する自身の身体の高揚とは、裏腹に。
その心は、やや物哀しげであったのだ。
――第三幕 完――
ここでいう生命力とは、どちらかといえば身体の丈夫さよりも、精一杯『自分をやり抜く』という、思いのタフネス(頑強)さを示しています。
イミュイグは行動原理が簡潔故にその思いが強い。
伽羅人の場合は逆に、複雑な自分を、しかし楽しんで表現していこうとする自身の思いの強さです。
魅是琉とネイラッハはそこが特にずば抜けているんですが、ただ魅是琉は何か思う所がある様子。
……すぐ近くに、イイ顔してる良い女が居てるんですけどね。
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